デビルサマナー 転生召喚符術師の日常   作:塵塚怪翁

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続きです。


第4話 COMPと仲魔

 

「失礼しまーす」

 

 

 BAR妙蓮寺の一番奥にあるVIPルームの高級そうな扉を、真緒はノックしてゆっくりと開いた。

 

 その部屋の中は、ここに住む彼女の趣味で占められていた。

 入り口の近くにPC用の作業台と高性能デスクトップ、反対側には申し訳程度の寝台とクローゼット、そしてそれ以外を占めているのは乙女ゲー関係のソフト、本、CD、ポスター、ファングッズの山であった。

 

 その部屋の中央に一目でオーダーメイドと判る高級ゲーミングチェアに座る10代前半の容姿の女性が、こちらを向いてふんぞり返って出迎えていた。

 

 

「いらっしゃい、伊月真緒。貴女が来るのは判っていたわ」

 

「いえ、ぺぺさんがボクの前で内線掛けていたんでさっきまで寝ていたのは知ってますよ。

 また徹夜で新作でもしていたの? 愛香さん」

 

「ああ、もう。

 最初の頃の畏怖していた態度はどこに消えたのよ、貴女!」

 

「またファンアートの依頼があるなら描きますけど?」

 

「お願い。……じゃなくて、今日は何の用かしら!?」

 

 

 そこでワタワタとしている女性の名は、【沙条愛香(さじょうまなか)】。

 

 肩で切り揃えた金髪に蒼眼、儚げな風貌の10代前半の姿の美少女であるが、その実、魔術師としては超一流に位置する実力を趣味のためにのみ使う合法ロリダメ人間喪女である。

 

『素敵な王子様って、現実には本当にいないわ……絵本が絵本である意味をいまさら知ったわ……』

 

 そう言ってペペロンチーノが調達した大作乙女ゲーにハマり、続編と周辺シリーズとそれを題材にしたソシャゲにハマり、そこから乙女ゲー関連の多様なヲタ趣味を経てPCを自作して乙女ゲー専用のゲームマシンを作るまでに耽溺している趣味人である。

 そして、趣味のついでにCOMPを弄って推し活資金を得ているCOMP技師兼情報屋でもある。

 

 ちなみに、真緒は前世で体を壊して会社を辞めた後は紳士向けコミケ絵師で食べていた為、ファンアートでご機嫌を取って以来それなりに気に入れられている。

 愛香からすれば、もし彼女が男だったら容姿も及第点だったのにとの評価だ。

 

 彼女に問われた真緒は、ない世のスマホを取り出して彼女に見せた。

 

 

「実はこれを調べて欲しくて」

 

「ああ、例のアプリが入ったスマホじゃない。どれ」

 

 

 PCとスマホを手早く操作してすぐに調べ終わったようだ。

 

 

「んー、アプリ内にあった追跡機能と情報収集機能は削除しておいたわ。

 もうこれで平気。

 ちなみに、連絡先も福祉施設と派遣会社以外は2人しか連絡先がないみたいだけど?」

 

「うわぁ、ない世さん不憫だ」

 

「それにしても、こんな廉価品でもばら撒けるのね。その組織」

 

「その組織、サーバーも複数あるんだろうからお金持っているんだなぁ」

 

「本当よね。

 こっちは全部魔法で何とかしたらつまらないから色々と制限しているのに」

 

「あまり派手な事はしないで下さい、愛香さん」

 

「判っているわよ。私だってあのヒーローたちとは直接顔を合わせたくないし。

 それはそうと、これ少し弄るわよ」

 

 

 言うが早いか、彼女はスマホを分解してバッテリーを入れ替えてPCに繋ぐとアプリの更新をしている。ものの10分も経つと、ない世のスマホは完璧なCOMPに生まれ変わっていた。

 

 

「はい、出来たわよ。

 バッテリーも純正のマグバッテリーに変えて、アプリもアップデートしておいたわ。

 仲魔が1つしか入れられないのを3体まで増やせるようにしたから。

 これを持たされた子、本当に使い捨てくらいに考えられていたみたいね」

 

「わぁ、ない世さん。本当に不憫だ」

 

「これからは貴女が面倒を見るんでしょ?

 これの料金は次でいいから、頑張りなさい」

 

「ありがとうございます。また何かあったら、相談させて下さい」

 

「いいわよ。ゲームが忙しい時以外だったらね」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ない世さん、夕食は食べ終わったからCOMPのスマホは返すね。

 いろいろとバージョンアップしたから、もう大丈夫だよ」

 

「数世代前の型落ちで鈍くなっていたこれがサクサク動きます。

 OSも古くて他のアプリも更新できなくなっていたのに出来ます。すごい」

 

「それじゃ、レベル上げと資金稼ぎに異界に行くよ」

 

「……はい? もう、夜ですよ?」

 

「うちの裏山、夜間は異界になるから一般の人は入山禁止なんだ。

 でも、ない世さんはもう一般人じゃないから大丈夫」

 

「……え?」

 

「だから、これから異界に一緒に行って資金稼ぎとマグ稼ぎをするから。

 これ、ボクの防具の予備のケブラーベストと背嚢。使ってね。

 あと、山道を登るから運動靴を出してね」

 

「……え?」

 

「デビオクとか出来るようになったけど、先立つものが無いでしょ?

 拾得品は換金後に成果次第の山分けで、時給も夜間割当を付けるけど?」

 

「行きます」

 

 

 それから、数時間後。

 日も暮れた山中の山道で、二人は襲ってくる悪魔たちを倒していた。

 

 

「ティコ!」

 

『ワン!』

 

「ポルt……舌が」

 

『ウフゥ、【九十九針】』

 

『ギャウ!』

 

「お前たちは火炎弱点か。火神符、急々如律令!」

 

『『『ギャアアア!』』』

 

 

 真緒の仲魔のティコが襲ってきた悪魔達の中で一番強い【悪霊モウリョウ】に噛み付き、ない世の仲魔であるポルターガイストがスキルを込めて投石してダメージを与えている内に、真緒自身はマハラギの札で【幽鬼ガキ】の群れを焼き払っていた。

 

 彼女らが今いるのは、真緒の自宅の裏山の『星見山』の異界の中である。

 

 何故、彼女らがここにいるのかというと、ここの異界になっている星見山が伊月家の登記上所有する山であるからだ。実際の管理は地元の八幡神社とハンター協会に委託はしているが、真緒自身ここでティコと二人して修行している異界でもあるからだ。

 

 真緒が祖父から聞いた武勇伝によると、曽祖父が秘伝書と家族を連れて雲隠れした際に一度この異界の本来の主は戦後のメシア教によって秘伝書以外の資料と共に燃やされたらしい。

 その後、彼らが引き上げてしばらくした後に戻った曽祖父は、祭神と再交渉の末に新しい主を派遣して貰ったのだそうだ。

 「とにかく、曽祖父はすごかった」と酔うと繰り返し初めての女孫だった真緒に語る姿が、幼い頃の真緒の祖父の一番の思い出である。

 

 

「ティコ、離れて! 火神符、急々如律令!」

 

『ワン!』

 

『ギュアアア!』

 

 

 真緒の放ったマハラギの札で、火炎弱点だったモウリョウやガキの群れにとどめを刺した。

 そして、真緒は両手をパンと打ち鳴らして唱えた。

 

 

「魔性封印」

 

『『ァァァァア』』

 

 

 今倒したばかりの悪魔たちがそれぞれ数枚の札に変わると、真緒の手元に飛んで行った。

 真緒は手に入れたそれらの札をカバンに入れて仕舞うだが、ヘッドライト付きのヘルメットを被ってポルターガイストと一緒に地面に落ちたマッカやらフォルマやらをガサガサと拾っていたない世が不思議そうにそれを見て尋ねた。

 

 

「……はぁはぁ。

 さっきから何度かしていますけど、それは何ですか真緒さん?」

 

「倒した悪魔をカードにして持ち帰るスキルがあるのだけど、これも家伝の同じものだよ。

 まあ、ほとんどはこういう悪霊とかガキばかりだけど、買い取ってくれる場所があるから」

 

「……今倒したので幾ら位になります?」

 

「えーと、モウリョウとガキ6匹で9000円くらいかな?

 今拾って貰っている諸々も含めると、平均的な1日分のバイト代位は越えるね」

 

「おおー、1回戦うだけでかなり儲かりますね」

 

「設備投資を考えると、そうでもないのだけどね。

 使い捨ての火神符だって買えば、300マッカ相当のマハラギストーンと一緒だし。

 護符だって作る手間暇なんかの技術料を抜いても安くはないんだよ?

 武器や防具も買うにしたって維持費もあってかなり高いしね。

 ない世さん、このピアス幾らしたと思う?」

 

 

 そう言うと、真緒は髪をかき上げて耳元の大きめの星型のピアスをない世に見せた。

 

 

「……【6桁】円くらいですか?」

 

「これ【鋭敏のピアス】と言って、睡眠・混乱・緊縛・魅了といった精神的に来る状態異常を無効化するものなんだ。

 同じような【頑丈のピアス】の方は、毒・麻痺・病気といった肉体的な方を防ぐものなんだ。

 お値段は、【8桁】円だよ」

 

「たかっ!?」

 

「うん、高いよね。

 これだって中古の放出品で安くなっているのをたまたま手に入れて、それまでの貯金の全部とローンで買えたんだ。

 こういう霊装って職人の工芸品の面もあるから文句も言えないよ?

 ボクだってその職人の端くれなんだし」

 

 

 うはー、という表情でピアスを見ているない世を放り、真緒は自分のガラケーを取り出し時間を確認した。

 時間はすでに日付が変わろうとしていた。

 

 

「もういい時間だし、そろそろ帰ろうか」

 

「……そうですね。帰りましょう」

 

「それじゃ、ティコは警戒しながら先頭で。後ろは、……そっちの幽霊に任せるよ」

 

『ワン!』『アハァ』

 

 

 2人と2体が隊列を組み直して山道を下り始めてしばらく進むと、入り口に近い場所で一行の前に悪魔が一体現れた。

 その姿は全身に火を纏った大きめの山ネズミで、しきりに異界の外を見ている様子であった。

 

 

『チュウ!』

 

「……襲ってきませんね?」

 

「【魔獣カソ】? ここの山では見たことがないけど。何か用?」

 

『チュウ、チュウ!』

 

「……異界の外に出たいみたいですね? どうしましょう?」

 

「ちょうどいいから、ない世さん。悪魔交渉して仲魔を増やそうか」

 

「はい?」

 

「フォローはするから。サマナーの第1歩だよ。ほら、頑張って」

 

『ワフ』

 

 

 周囲を警戒しているティコの横に押し出されたない世は、幽霊を引っ込めるとカソの前にしゃがんで話しかけた。

 

 

「……えーと、仲魔になってくれたら外に連れて行ってあげるよ?」

 

『チュウチュウ!』

 

「もう一声って感じかな?」

 

「……悪魔だけど、ジャンガリアンハムスターみたい。

 それじゃ、定期的にリンゴとかトマトとかひまわりの種を上げるから仲魔になる?』

 

『チュウ!!』

 

 

 ない世の提案に一際高く鳴くと、カソはない世のCOMPに入って行った。

 画面には、仲魔のストックの欄に【魔獣カソ】と記されている。

 

 

「……仲魔になるのに、そんなんでいいんだ」

 

「悪魔って、人の側の認識で色々変わるからそんなものだよ?

 同じピクシーでも、牛乳とお菓子で仲魔になる子やサマナーに恋をして仲魔になるのもいるんだから」

 

「…それはそれで夢があるお話ですねぇ」

 

「それじゃ、成果も充分だし家に帰ろう」

 

「はい」

 

『ワン!』

 

 

 こうしてない世の初めての異界挑戦は終わり、二人は家路につくのだった。




後書きと設定解説


・リザルト

ない世:約6時間の戦闘の末にレベル5→6、仲魔が増えた

・関係者

名前:沙条愛香(さじょうまなか)
性別:女性
識別:異能者?・13歳?
職業:自称・天才美少女技術者
詳細:
 BAR妙蓮寺の奥のVIPルームの1つに住む美少女
 自称・凄腕の魔術師兼コンピューター技師で情報屋
 主にここではCOMP関係の仕事と情報屋をしている
 髪を肩まで切り揃えた10代前半の美少女の姿
 家族を放り出して乙女ゲーのイケメンに耽溺している
 ルーマニアの趣味友とは文通している

・仲魔(ない世)

【悪霊ポルターガイスト】
レベル3→4 耐性:火炎弱点・破魔弱点・呪殺耐性
スキル:九十九針(敵単体・小威力の銃属性攻撃)
詳細:
 生江ない世のCOMP仲魔
 肉感的な女性の悪霊で男が絡まないと喋らない

【魔獣カソ】
レベル4 耐性:火炎耐性・氷結弱点
スキル:アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
詳細:
 生江ない世のCOMP仲魔
 火を体に纏ったハムスターのような姿の悪魔
 好物もハムスターと同じもの

※ない世の連絡先の残りの二人とは、居なくなった悪友と組織の使い捨て番号のことです。


次回は早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。
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