デビルサマナー 転生召喚符術師の日常   作:塵塚怪翁

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続きです。
今回は、前後編の前編です。


第8話 伊月家の醜聞と災難(前編)

 

「ここを開けやがれ、糞餓鬼の化け物が! ここは俺の家だぞ!?」

 

「何をやってんだよ、クソ兄貴」

 

 

 錬鉄堂から防具を買った日の数日後、駅前まで色々と二人で買い物を楽しんで家に帰った真緒とない世であったが、留守を守っていたザシキワラシの有定が入り口を閉ざしていたのか、真緒の自宅の前で引き戸を蹴りつけて騒いでいる若い男に出会す事になった。

 その姿を見て不機嫌そうに真緒が声を掛けると、その兄貴と呼ばれた若い男はこちらを振り返った。

 真緒の父の郁夫によく似た細長の顔と刈り上げた頭に、作業着とニッカズボン姿のその男は相手が真緒だと判るとニヤニヤと笑い出し近寄って来た。

 後ずさるない世の前に出て、真緒はその男を睨みつけた。

 

 

「…よう、真緒。久しぶりだなぁ、かれこれ2年ぶりか?」

 

「そうだね、それ位かな。

 金目当てでうちに忍び込んで、警察に連れて行って貰ってからか。

 いつ出所したのか知らないけど、それで何の用かな?」

 

「ついこの間、出て来たばかりでなぁ。

 いや~、風の噂でくそオヤジが入院したらしいじゃないか。

 おまけに、お前も大金手に入れて新しい女の手伝いを雇ったって聞いてなぁ。

 金を貸して欲しいのとそこの女、紹介しろよ。な、真緒」

 

「冗談はあんたの頭だけにしなよ、クソ兄貴」

 

 

 真緒の辛辣な返答に苛ついたのか、ペッと唾を吐き捨てると真緒と視線を合わせるようにして睨みつけてきた。

 

 この男の名は、【伊月いかない夫】。

 真緒の5歳上の実の兄に当たる男で、霊能の才が無くその事で父の郁夫と喧嘩し高校を中退して3年前に家を飛び出していた。

 

 最後に真緒が彼を見たのは、2年前に父が留守にしている間にそれまで付き合っていた悪い友人たちと窃盗目的で家に忍び込んできた時だ。その当時は覚醒していなかったのもあり、性的な目的で襲ってきた仲間の男数人と共に有定やティコと連携して叩き伏せて通報し警察に連れて行って貰ったのが最後の姿だった。

 

 勘当されて刑務所に行き行方知れずになっていた間に彼も覚醒したらしく、真緒の目にはレベル3になっているのが判った。

 覚醒したことで常人を越える力を手に入れて、さらに自分に都合のいい噂を聞いてここまで帰って来たのだろう。

 不良がガン付けるかのような顔を横に向けて下から視線を合わせてくる行動で威嚇しているようだった。

 

 

「あ"?

 家に女だけだと不安だろうから、親切にもオヤジが戻るまで俺が家に居てやるってんだ。

 ちょっとばかり小遣いを出して、そこの彼女と遊ばしてくれればいいんだからさ。

 なあ、いいだろ?」

 

「だから、ここはもうあんたの家じゃないんだけど?

 符術師としても正式にボクが継いだんだ。出て行って、出ていけ」

 

「あ"ぁ"!? 色気もない妹の分際で生意気だなぁ!

 痛い目見ないと、分からないらしいなぁ!?」

 

「……えい!」

 

 

 それまで隠れてバッグからスマホを取り出していたない世が、仲魔の女幽霊を呼び出した。

 真緒もそれに合わせて符を出してルビーを召喚した。

 

 

『あはぁ』

 

『わたしのマスターに何かするなら相手になるけど?』

 

 

 指先を向ける女幽霊と手に持った両手持ちの大きな鎌を構えたルビーを見て、顔色を青くしたいかない夫は後ずさると足早に逃げ出した。

 

 

「ちっ、今日のところは勘弁してやる! 後悔するなよ!」

 

「今度来たらタダじゃおかないからな、クソ兄貴!」

 

 

 走り去るいかない夫を見て安堵のため息をついて女幽霊をCOMPに戻したない世と、真緒はどういうことなのかと視線で問うルビーに頭を下げた。

 

 

「…はああ。いなくなったぁ」

 

「変な事に巻き込んだみたいで、ごめんね。ない世さん、ルビー。

 あれだけ叩きのめして警察に逮捕して貰ったのに、全然反省とかしてないなんて思わなかった」

 

「……それで真緒さん、あの男の人は誰ですか?」

 

『うんうん、それはわたしも聞きたい』

 

「家に入ってからそれは説明するよ。

 あいつを家に入れなかった有定さんにもお礼を言わなくちゃ」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「色気もない妹の分際で俺に逆らいやがって! くそっ、くそ!」

 

 

 真緒に追い出されたいかない夫は、駅前の通りの外れにある風俗街の飲み屋で管を巻いていた。

 

 この町は神戸にもほど近く近隣に会員制のゴルフ場もいくつかある地域であり、また協会に管理されているそこそこ手頃な異界もあるため、金を持ったゴルフ客や異能者を目当てにした風俗店が地方の温泉町より揃っているので飲み屋もそれなりの数があった。

 もっともいかない夫が今飲んでいる店は、昔、いかない夫が刑務所に行く前から所属していたグループが根城にしてるバーであったが。

 

 荒れているいかない夫に、グループの男達が話しかけてきた。

 

 

「チョリッス。荒れてるなぁ、教えた妹の件はどうだったスか?」

 

「ウィッシュ。その様子だと失敗したみたいだなぁ、いかない夫」

 

「うるせえよ。何だよ、聞いていたのと違うじゃねえか。

 妹は札は使うけど仲魔は犬だけのはずが、なんか増えているし。

 もう一人の女の方は、COMPも使いこなせているしよ」

 

「いかない夫が先代のリーダー達をパクらせて消してくれたお礼に教えただけっス。

 てか、あの家、あの異界に近いしちょうど良かったんスよねぇ」

 

「ガチに考えても、いかない夫が行けば少し脅せばいけると思ったんだがなぁ」

 

「お前ら、本当に協会で聞き込んだのか?」

 

「中卒の美少女とそこそこキレイな素人っぽい若い女っスよ?

 女二人で派手なことをしたっスから、男ばかりのハンターじゃ話題になっているっスよ」

 

 

 荒れているいかない夫に茶髪の若い男の二人連れは、残念そうな口ぶりだがその顔は二人共ニヤついていた。

 

 二人の内、背の低いチャラいチンピラ風の服装の男は【木下ギャル夫】。

 ハンター協会にも出入りし、レベルも2桁になった現在のグループのリーダーである。

 女好きでもそこそこ有名だが、女性の扱いの悪さから地元の風俗店に出禁を受けている。

 もう一人の面長の背の高い同じ様な服装の方は、ギャル夫の従兄弟で【金本ギャラナイ夫】。

 同じくギャル夫とコンビを組んでハンターをしている覚醒者で、小狡く弱い相手から物を脅し取るのが上手い男だった。

 

 睨みつけるいかない夫に、ギャル夫は懐からスマホを取り出して彼の前に置きこう囁いた。

 

 

「それ、オレっちの伝手で手に入れたCOMPっス。

 使うッス。力がないから女にもナメられるっスよ。

 女なんてのは、力ずくで押し倒して従えれば上手くイクっスよ」

 

「ウィッシュ。作戦も色々とガチに考えておいたぞ。

 それとお前の妹、なんか特別な札を作れるらしいと聞いたけど本当かよ?」

 

「たしか、そうだぞ。

 何かは俺はよく理解らねえが、家に伝わる札を作って協会にも売っているのは本当だ。

 オヤジもなんか作って教えていたみたいだからな」

 

「じゃあ、上手くいったらお前の妹は俺たちの物にしていいか?

 その札の金と札も使えるなら欲しい」

 

「色気もないのがいいなら、好きにしろよ。

 俺はオヤジを消して、裏のルートであの家も金に変えるつもりだしよ。

 ついでに、悪魔共は俺らの経験値にでもしちまおう」

 

「決まりっス。

 パッとしない方はいかない夫のものでいいスけど、いかない夫の妹はオレっちのハーレム用に貰うっスけどね。

 あと、くれぐれもあの巫女の方は気をつけるっスよ?」

 

 

 いかない夫の答えを聞き、ニヤリと笑った二人は3人で嬉々として相談を始めた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 いかない夫が家に来た日から数日後。

 ハンター協会に作った護符を納めに来ていた真緒は、受付の織莉子に呼び止められた。

 難しい顔をした織莉子は受付に来た真緒に話しかけた。

 

 

「お札、ご苦労さま。ちょっといいかしら?」

 

「何ですか? 御国さん」

 

「貴女と生江さんに指名依頼が来ているの。心当たりある?」

 

「いえ、まったく。父か八幡神社の依頼ですか?」

 

「うちの局長なのよ。しかも、かなり強引にねじ込んで来てね。

 絶対に受けさせるように、だって」

 

「ええ?」

 

 

 疑問に感じた真緒は事務所の奥にある所長の席を見るが、いつものようにパチンコにでも行ったのか姿はない。

 ここの所長、【日ノ本進(ひのもとすすむ)】は八幡神社の宮司の血縁ということで所長にコネで就職し、日々の“視察”に勤しんでいるギャンブル好きの男である。

 顔見知りではあるが、真緒の父の郁夫に睨まれているあの男がこんな事をするのはおかしいと織莉子は真緒に語った。

 

 

「あの男がこんな事をするなんて嫌な予感しかしないのよ。

 最近、身の回りに変わったことはなかった?」

 

「あの先日、行方が知れなかったあのクソ兄貴が顔を出したんです。

 変わったことと言えばそれくらいしか」

 

「貴女のお兄さんて、伊月いかない夫でしたっけ。ちょっと待ってね」

 

 

 織莉子は受付の端末を操作して何事か調べ始めた。

 そして、10分ほど経つと目当ての情報を見つけたようだ。

 

 

「ああ、これね。

 実の家に窃盗目的で押し入ったのが容疑で、当時、未成年で未遂だからと少年院に送致。

 彼の仲間の実行犯たちはまだ塀の中だけど、弁護士のお陰で彼だけが保護観察付きの執行猶予。

 先月、裁判が終わって出た来たばかり、ね」

 

「ああ、そうなっていたんですね。

 連絡したら、父は表の病院に担ぎ込まれたんで退院までまだ掛かりそうです。

 父は、『あれは勘当した。お前は知らなくていい』の一点張りだったんで」

 

「それで、この依頼はどうするの?」

 

「御国さんはどう思います?」

 

「十中八九、何かあると思うわ」

 

 

 彼女がそういうのなら確実に何かあるのだろう。

 ただ、あのいかない夫の事をいつまでも気にする必要もなく、どうにか出来るならと真緒は考えた。

 

 

「受けます。あのクソ兄貴に煩わされたくないですから」

 

「そう。くれぐれも気をつけてね。

 それで内容なんだけど、取り壊される予定の廃ビルの除霊で……」




後書きと設定解説


・敵対者

名前:伊月いかない夫(いづきいかないお)
性別:男性
種別:異能者・20歳
職業:日雇い作業員
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効・恐怖耐性
スキル:蛇の道は蛇(後ろ暗い人脈から情報を得る技術)
    脅し・恐喝
装備:COMP(廉価品)
詳細:
 伊月家の長男でDQNな性格の主人公の実の兄
 家業の素質が無かっために父に反発して家を出た
 高校を中退した後に神戸で日雇作業員をしている
 その出自からか恐怖にかなり鈍く恐れ知らず
 容姿は2chやる夫派生の「いかない夫」


続きは早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。
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