マクロスΔ 未知なるソラへ    作:矢野優斗

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デビュー・ライブ

 フレイア・ヴィオンのデビューライブとなる惑星ランドールでのワクチンライブ。トリガーとハヤテにとっても初のライブ飛行である。

 

 ワルキューレの歌声はヴァール化を抑制するだけではなく、予防する効果も秘めている。ここ最近、市民のヴァール化危険率が著しく上昇しているとのことで、予防のためランドール自治政府から要請を受けたのだ。

 

 ワクチンライブにおけるΔ小隊の役目はライブを盛り上げるエアショーだ。色とりどりのスモークを焚きながらの編隊飛行、曲芸飛行を実施するのが主な役目である。

 

 幾つもの死戦を潜り抜けてきたトリガーであるが、観客を楽しませるショーへの参加は初めてだ。本国では終戦記念式典時に戦闘機による編隊飛行の披露もあったようだが、トリガーは海上で核砲弾発射阻止に奔走していたので関わり合う余地はなかった。

 

 始めてのエアショーに緊張しているかといえばそんなことはない。事前の練習時にも問題なく、アラドからも太鼓判を貰っている。懸念があるとすれば外的要因だろう。

 

 間もなくライブが始まる。発艦の準備をするべく、トリガーは格納庫の己の機体の元へ向かった。

 

 トリガーに用意された機体はVF-31F型。空中戦に最適化された機体で、メッサーが搭乗する機体と同型の代物である。模擬戦で露わになったトリガーの実力を存分に発揮させるため、アラドやアーネストなどがケイオス上層部に交渉した結果だ。

 

 他隊員と区別するためカラーリングは白地に菫色。なぜ菫色なのか、改修を担当したマキナ含む整備士たちに尋ねるも、にやりとした笑みと共にはぐらかされ答えは明かされなかった。

 

 機体にはわざわざパーソナル・マークまで刻まれている。F-22に刻まれていたマークを参考に、三本の傷を背負いリボルバーを咥えた狼にアレンジされたニューマークだ。

 

 三本線の意味を知っている者はいない。マークをリニューアルする際にマキナとレイナから由来を聞かれたものの、トリガーは曖昧に笑って誤魔化した。

 

 元大統領殺しの罪の重さを示す罪線。いつからか、敵味方が怖れる印となった三本線。元大統領殺しが濡れ衣だと判明した後も残り続けたそのマークは、今となってはトリガーの心を戒める傷となっている。

 

「……行こうか」

 

 愛機に代わる機体を見上げ、トリガーは新たな空へと向かった。

 

 

 Δ

 

 

 惑星ランドールにおけるワクチンライブが始まった。

 

 銀河ネットワークにおいても有名なワルキューレの生ライブとあり、会場は無数のファンで溢れ返っている。

 

 加えて新メンバーであるフレイアのデビューライブでもあり話題性はかなり高い。集ったファンたちも、ニューフェイスであるフレイアの活躍に注目していた。

 

 初のライブにフレイアは非常に緊張していたようだが、いざ歌い出せば大きなポカをすることもなく順調に進んでいる。唯一の問題点はヴァール化抑制に必須である生体フォールド波が出ていないことくらいだろう。

 

 フォールド因子受容体(フォールドレセプター)を持つ者のみが発することができる生体フォールド波は、歌い手が危機的状況に置かれなければ活性化し辛いという特徴がある。フレイア以外の面々は戦場でなくともある程度コントロールできているが、新人のフレイアはそのあたりの技量が未熟なのだろう。

 

 とはいえライブ自体は滞りなく進んでおり、ランドール市民のヴァール発生危険率も順調に下がっている。初エアショーとなるトリガーとハヤテも問題なく飛行できていた。

 

 ハヤテに関して言えば、ワルキューレの歌に合わせてバトロイド形態で見事なダンスを披露し、観客の盛り上がりに一役買っている。

 

 ワルキューレの歌声に合わせて観客の盛り上がりが最高潮に達する。このまま何事もなく終わるかと思われた、その時だった。

 

『アイテールよりΔ小隊へ。所属勢力不明機(アンノウン)、インバウンド!』

 

 アイテールからΔ小隊へ、所属勢力不明機(アンノウン)が複数大気圏に突入しライブ会場へと向かっている報が齎された。

 

 敵襲来の一報にトリガーは即座に意識を切り替え、遥か高空から急襲してくる敵機を見据える。アル・シャハルで交戦した機体で、数も変わらない。

 

 アンノウンはライブ会場空域に突入すると両翼の無人機を展開。展開された無人機は強力なフォールドジャミングを発しながらライブ会場全体を飛び回る。

 

 強力なジャミングによりライブをアシストし、またバリアにもなるマルチドローンプレート“シグナス”が落ちる。戦場においてワルキューレの手足となるドローンの陥落は痛い。

 

 畳み掛けるようにアンノウンから大量のマイクロミサイルが発射され、市民もワルキューレも関係なく襲い掛かる。

 

『Δ小隊、市民とワルキューレを全力で守れ!』

 

 アラドの指示に従い、トリガー含むΔ小隊隊員が総力をもってミサイルを全てを撃ち落とす。撃ち漏らしはなし、市民とワルキューレへの被害は防がれた。

 

 だが戦端は開かれたばかりだ。トリガーは即座に反撃へ移ろうとして、後方から接近する複数の機体に気付く。

 

 接近する機体は惑星ランドールに駐在する新統合軍の機体であり援軍だ。味方が増えることにチャックが素直に喜びの声を上げる。

 

 援軍の素早い到着に少なからず隊員たちが肩の力を抜く中、トリガーだけは妙な胸騒ぎを覚え神経を研ぎ澄ませていた。

 

 次瞬──歌が響き渡った。

 

 コックピット内で響く聞き覚えのない歌声。発生源はラジオであると即座に理解するも、そんなことに構っている暇はすぐになくなった。

 

 援軍として訪れたはずの新統合軍が、あろうことかΔ小隊に牙を剥いたのだ。

 

『なっ、どうして新統合軍が攻撃を!?』

 

 通信越しにミラージュの狼狽した声が流れる。ミラージュ以外の隊員たちも少なからず動揺しており、攻撃してくる新統合軍への対処に手をこまねいていた。

 

 そんな中でも即座に対応したのはアラドだ。アラドはチャックへ新統合軍がヴァール化しているかどうかの確認を指示した。結果は黒、新統合軍はヴァール化してしまっていた。

 

 援軍かと思われた味方がヴァール化、それも暴徒になるはずが統制を取って襲ってくる。予想だにしない展開にミラージュやハヤテは対応が遅れてしまう。

 

 戸惑う二人へと容赦なく襲い掛かる新統合軍。あわや被弾するかと思われたその時、状況を飲み込んだトリガーとメッサーが間一髪でカバーに入った。

 

『ぼさっとするな、デルタ4! 躊躇えば堕とされるぞ!』

 

 メッサーがミラージュを激しく叱咤する。たとえ敵に操られているだけだとしても今は敵対してしまっているのだ。躊躇すれば殺されるのは自分で、そして罪なき市民やワルキューレである。

 

 だからといってすぐに切り替えられるはずもない。特にハヤテは明確に敵対している相手ではない新統合軍相手にはまともに戦えそうになかった。

 

 加えてこの場にはアンノウンもいる。今もΔ小隊の混乱に乗じてワルキューレへ突貫を仕掛ける機体が一機──

 

「──来ると思ったよ」

 

 エルジアに敵味方識別装置を逆手に取られた奇襲を受けた時も、戦場のどさくさ紛れに暗殺部隊に襲われた時も冷静に対処できたトリガー。突如として響き渡った歌にこそ気を取られたが、友軍の裏切り程度に動揺する心はもうない。

 

 Δ小隊において誰よりも冷静に戦況を俯瞰していたトリガーは、他隊員のフォローをしつつワルキューレへ接近する機体を見逃さなかった。

 

 ワルキューレへと一際執心する機体。間違いなく、アル・シャハルでトリガーを追い回したパイロットだ。

 

 直情的でワルキューレや市民への憎悪を隠そうともしない荒々しい操縦。他アンノウンのパイロットと比べても、精神面に関しては非常に不安定であると前回の時点で理解できていた。

 

 故にトリガーは狙っていた。

 

 ワルキューレを害することで頭が一杯であろう敵機の背後を一瞬で取る。背中を取られてようやくトリガーの存在に気付いたのだろう。アンノウンの機体が動揺したように揺れた。

 

 即座に振り切ろうと機体を操ろうとするがもう遅い。既にロックオン済みであとは引き鉄を引くだけだ。

 

 狙うは機体の翼。パイロットごと葬るのは簡単であるが、いつまでも敵機の所属が不明なのは都合が悪いだろう。故にトリガーは最も容易く捕虜にできるだろうパイロットを狙ったのだ。

 

 トリガーはビームガンポッドの引き鉄を引こうとして、横合いから介入してきた別のアンノウンに攻撃を取り止め回避機動に移った。

 

 あと数瞬で敵機を堕とせたところを邪魔され、トリガーはコックピット内で小さく舌打ち打つ。加えてフォローに入った敵機はトリガーの狙いを悟っているのだろう、独断専行しがちな味方機とエレメントを組み始めた。

 

 これではあのパイロットを捕虜として確保するのは、できないことはないが難しいだろう。エレメントを組んだ機体の練度が比較的高く、ベテランなのも厄介な所以だ。

 

 これ以上は固執するだけ無駄だと判断し、トリガーは他へのフォローを優先する。

 

 アラドとチャックに関しては既に立て直し、新統合軍は無力化に努めつつアンノウンの相手をしている。メッサーに至ってはアンノウンエースパイロットと激しく鎬を削っていた。

 

 問題はミラージュとハヤテだ。どうにか新統合軍を無力化で収めようとするも技量が足りず、その隙をアンノウンに付け狙われている。早いところフォローが必要だろう。

 

 二人のフォローだけでは足りない。地上の市民とワルキューレも守らなければならない。

 

 一度堕とされかけ、トリガーが目を光らせていることを察したのだろう。アンノウン機による強引な地上への攻撃は目に見えてなくなった。代わりに使い捨てとばかりに、新統合軍の機体が地上への強攻を仕掛け始めている。

 

 敵機を堕とすには手が足りない。味方を守るので精一杯だ。

 

 仕方ないと思いつつ、トリガーは戦場全体を俯瞰しつつ崩れそうな箇所へ急行とフォローを続ける。片手間に操られているだけの新統合軍(木偶の坊)を無力化しつつであるが。

 

 一種の膠着状態に陥るが、地上にいたフレイアと美雲が危険を省みずに歌い始めたことで戦況が揺らぐ。

 

 敵機ジャミングによってフォールド増幅装置が使えない中、フレイアを起点に歌声を戦場に響き渡らせたのだ。

 

 ワルキューレの歌声によって新統合軍が正気を取り戻す。邪魔でしかない友軍が落ち着いたことで、ようやく攻勢に移れるとトリガーが胸中で意気込む。

 

 しかしそんなトリガーの出鼻を挫くように、母艦アイテールより緊急入電が入った。

 

 

 ──敵軍によって惑星ヴォルドールの首都が陥落した。

 

 

 その一報が入るのと同時、アンノウン全機が交戦を止める。上空にスモークを焚いて擬似映像スクリーンを作り出し、光学ステルスを解いて機体の姿を露わにした。

 

『やはり、空中騎士団……!』

 

 機体を見て即座に敵勢力の正体を把握したのはアラドだ。

 

 空中騎士団? とトリガーが首を傾げている間に、スモークのスクリーンに映像が映し出された。

 

 現れたのは眼鏡を着用した長髪の男。自らをウィンダミア王国の宰相であると名乗った男、ロイド・ブレームは新統合政府へと宣戦布告をした。

 

 突然の宣戦布告にΔ小隊も、ワルキューレも、地上にいる人々も混乱する。トリガーも宣戦布告までとなると少なからず戸惑った。演説の邪魔をさせまいと待機している敵機にしれっと銃口を向けているが。

 

 演説が終わった瞬間に撃ち落とす。敵勢力が判明し宣戦布告までした以上、撃ち落としても問題ないだろうという考えだ。

 

 しかし敵機もトリガーの危険性を理解していたのだろう。演説が終わるや否や、トリガーへの警戒を最大限に全速で空域から離脱してしまった。

 

 惜しいなと思いつつ、トリガーは銃口を下ろす。そして胸中で一人うんざりと呟く。

 

 ──また、戦争か。

 

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