マクロスΔ 未知なるソラへ    作:矢野優斗

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潜入任務

 惑星ヴォルドール。ウィンダミア王国の宣戦布告とほぼ同時にウィンダミア軍によって制圧された星だ。

 

 惑星イオニデスにて辛くも勝利を掴んだものの、現状はウィンダミア王国に対して後手に回っている状況。何かしらの打開策を得るためにも、敵の内情を調査する必要がある。

 

 ケイオス上層部とレディ・Mの判断によりヴォルドールへの潜入任務が決まった。潜入するのはΔ小隊からトリガー含む四名、ワルキューレは全員だ。

 

 潜入工作員でもないパイロットやワルキューレにそんな真似ができるのかとトリガーは懐疑的であったが、ワルキューレは元々その手の訓練を施されているため問題ないらしい。

 

 パイロットに関しては、メッサーとミラージュは元新統合軍の軍人であり、生身でもある程度は動けるよう訓練している。トリガーも昔取った杵柄でそれなり以上に潜入技術に対する造詣は深い。

 

 唯一の心配はハヤテである。技術不足なこともそうだが、惑星ヴォルドールの先住民は猫型哺乳類を素とした異星人だ。猫アレルギーのハヤテにとっては厳しい環境だろう。

 

 何事も経験というアラドの鶴の一声で参加が決定されたものの、チャックの方が適任ではないかと思うトリガーだった。

 

 潜入方法は衛星軌道からの直接降下。敵艦隊と監視衛星が構築する監視網を逆手に取り、レイナのハッキング技術を利用して侵入。その後は機体を隠して生身での調査となる。

 

 惑星ヴォルドールへの潜入自体は問題なく成功。二手に別れて首都へ潜入して情報を集めるという話になったのだが──

 

「いいのか? 早速単独行動して」

 

「あら、単独ではないでしょ。あなたがいるもの」

 

「俺が気付かなかったから単独行動してたでしょうが」

 

 カナメが指揮を取って班分けしているのを尻目に、素知らぬ顔で単独行動を始めた美雲。目敏く美雲の動きを察知し、一人行動は流石に不味いとトリガーは同行することにしたのだ。

 

「仕方ないわ。あの子たちと一緒じゃ、潜入調査なんてろくにできないもの」

 

 あの子たちというのはフレイアとミラージュ、そしてハヤテのことだ。二手に分かれる組合せでその面子が提示された時点で、美雲は誰にも何一つ告げずに行動に移っていた。

 

「言わんとすることは分かるけど……」

 

 明らかに潜入慣れしていない面子である。足並みを揃えるくらいなら、最初から別行動で情報収集した方がいいと考える気持ちは理解できた。置いていかれた面々の心情は複雑だろうが。

 

「あなたは随分と場慣れしているのね」

 

 潜入調査任務を命じられた際に、トリガーはパイロットの中でも戸惑いが少ない人間だった。

 

 実際に惑星ヴォルドールへ降下してからもトリガーは落ち着いており、だからこそ美雲の単独行動にも気付けたのだ。

 

「急進派……いや、テロリストが占拠する基地に何度か潜入したことがあるんだよ」

 

 エルジア急進派の残党が占拠する基地への潜入。目的は軍上層部との繋がりを示す証拠を見つけ出すことだった。

 

 切っ掛けはトリガーの所属する部隊が駐留する基地への破壊工作が洒落にならなくなったことだ。

 

 敵勢力はエルジア急進派の残党と標榜するテロリスト。最初の頃は基地へ運び込まれる物資の強奪や地上での散発的な襲撃だった。

 

 しかしいつからか手段が激化していき、遂には基地に爆弾を仕掛けられるまでになった。幸い爆弾はトリガー含む仲間たちの尽力で解除されたが、一歩間違えれば甚大な被害が出ていたことは間違いない。

 

 敗戦国の残党でしかないテロリストにできる所業ではない。誰かしらがテロリストの後ろに付いている。具体的にはトリガーを亡き者にしたい軍上層部の誰かが。

 

 その証拠を掴むため、信頼できる部隊の仲間と極秘裏にテロリストが根城にする基地や拠点に何度か潜入した。苦労の甲斐あってオーシア軍上層部との遣り取りを示す証拠を入手できた。

 

 しかし提出した証拠は上で握り潰され、トリガーの命を狙う魔の手は周囲へと伸び始めたのだった。

 

「パイロットじゃなかったの?」

 

「パイロットだった……はずだ」

 

 遠い目で答えるトリガーだが、果たしてあれはパイロットの仕事の範疇だったのかは定かではない。ただその経験が役に立っていると思えば、無駄ではなかったのだろう。

 

 トリガーの反応に不穏なものを感じたのだろう。美雲はそれ以上突っ込むことはせず、トリガーも思い出したくない過去にそっと蓋をした。

 

「情報収集の当てはあるのか?」

 

「あるわ。今日、首都で極秘の政府間協議が行われる」

 

「なるほど。盗聴器でも仕掛けるのか?」

 

「惜しい。これを仕込むのよ」

 

 美雲が掌をトリガーに差し出す。掌の上には一見すると虫にしか見えない物体が載せられていた。

 

「ツノゼミ型マイクロドローン。ある程度は自律して動くから、無理に建物内部に侵入する必要はないわ」

 

「便利だなぁ」

 

 トリガーの故郷でも無人機の技術は台頭していたが、ここまで小型化したドローンはなかった。しかもセンサーカメラ付きである。

 

 技術力の差にしみじみと感じ入りながらも、トリガーはきちんとやるべきことを把握していた。

 

「協議が行われる会場に急ごう」

 

「ええ、行きましょう」

 

 目標が定まっている以上、二人の行動に迷いはなかった。

 

 潜入任務に慣れているトリガーは言わずもがな、しっかりと訓練をこなしていた美雲も動きに淀みがない。目的の会場まで迷うことなく辿り着き、手分けして通気口や窓から複数のドローンを忍び込ませる。

 

 あっという間に仕事を終えた二人は、協議が始まるまでにフレイアたちと合流しようということになった。

 

「一般市民は特に変わりがないな」

 

「ヴァール化して操られているのは軍関係者と警察機構の人間が殆ど。一般市民への影響はほぼないようね」

 

 人通りの多い大通りを歩くトリガーと美雲。二人とも素性がバレないように変装しているため、誰に見咎められることもなく普通に通りを歩いている。

 

「随分と限定的だな。ヴァール化する対象を選べるのか?」

 

「さあ。何かしらの要因はあるのだろうけれど、分からないわ」

 

 行き交う人々の様子や雑踏から聞こえてくる話に耳を傾けつつ、トリガーと美雲は意見を交わしながら見知った顔を探す。協議までまだ時間があり、二人とも慌てて合流する必要もないと考えているのでそこまで本気ではないが。

 

「この歌は……」

 

「歌?」

 

 人々の会話に耳を澄ませていた美雲は、か細く不安に震えるような歌声を聞き取った。

 

 誘われるように美雲は大通りから歩みを逸らす。トリガーも疑問符を浮かべながら後に続いた。

 

 少し歩くと緑が生い茂る住宅地らしきエリアに到達する。この段階でトリガーにも子供らしき歌声が聞き取れた。

 

 子供の歌声は樹上から聞こえていた。十に届くか届かないかといった年齢の男女が二人、樹上からワルキューレの歌と言葉で誰かに必死に呼び掛けている。

 

「父ちゃん! 帰ってきてくれよ、父ちゃん!」

 

 少年が呼び掛けている対象は川を挟んだ向こう岸に立つVF-171ナイトメアプラス。厳密には機体に搭乗しているパイロットだろう。

 

 必死に呼び掛ける子供とパイロット。調べずとも関係性は推し量れた。

 

「親子か……」

 

 子供たちの言葉から機体に搭乗しているのは父親だろう。ヴァール化してウィンダミア軍に操られているらしく、実の子供たちの呼び掛けにも無反応だ。

 

 やがて交代の時間になったのか、子供たちの呼び掛けも虚しく機体は何処かへと去っていく。父親を元に戻すことが叶わなかった子供たちは力無くその場で項垂れた。

 

 無理矢理に引き裂かれた親子の一幕を見て、トリガーの脳裏をかつての仲間の姿が過ぎった。

 

 自分や隊の誰かが戦果を上げる度、息子に自慢できると語っていた男。隊の中でもベテランのパイロットで、おおらかな性格から隊員同士の仲を取り持ってくれたムードメーカーでもあった。

 

 彼が居たからストライダー隊は何だかんだ纏まっていたと言っても過言ではない。

 

 そんな男も大事な息子を残して空に散ってしまった。

 

 かつての仲間のことを思い出してトリガーが一人沈んでいると、樹上からぽつりと力ない呟きが降ってくる。

 

「やっぱり、歌なんかで父ちゃんを助けられるわけないんだ……」

 

 歌声は届かず父親は遠く手の届かない場所へ去ってしまった。歌では救えないと嘆く気持ちも分からなくはないだろう。

 

「…………」

 

 無言のまま美雲は樹上の子供たちを見詰める。表情に変わりはないが、トリガーには強く握り締められる拳が見えていた。

 

「行きましょう。ここで私たちができることはないわ」

 

「そうだな」

 

 今ここで美雲が歌えばあの親子を救えたかもしれない。だがそれは潜入調査を水の泡にする愚行だ。忸怩たる思いがあったとしてもこの場は堪えるしかなかった。

 

 そろそろフレイアたちと合流したほうがいいだろうと考えた矢先、トリガーは視界の端に見覚えのある少女を捉えた。猫耳を付けて変装しているがフレイアだ。

 

 フレイアも親子の遣り取りを見ていたのだろう。黙ってはいられないと言わんばかりの表情で機体の去った方向へ走っている。

 

「不味いな……」

 

「ほんとにあの子は……」

 

 状況を理解したトリガーと美雲の動きは早かった。

 

 脇目も振らずに突き進むフレイアを、美雲が飛び出して口を抑えながら建物の陰に引き摺り込む。トリガーはフレイアが襲われたと勘違いして血相を変えているミラージュとハヤテの前に立ちはだかった。

 

「なっ、誰だよてめぇ!?」

 

「そこを退きなさい!」

 

「うん……?」

 

 やたらと敵意剥き出しの二人に首を傾げ、トリガーはフードで半ばまで顔を隠していたことを思い出した。

 

「落ち着いてください、トリガーです」

 

 フードを取っ払って顔を晒せば、ハヤテとミラージュは唖然とした顔で固まる。

 

「なにしてんだよ、トリガー」

 

「トリガー准尉。なら、さっきの方は」

 

 困惑するハヤテに対して、フレイアを連れ込んだ相手の正体に思い当たったミラージュは冷静さを取り戻した。

 

 トリガーの方が落ち着いたタイミングで建物影から美雲とフレイアが出てくる。美雲はフードを外してやや眉根を寄せた表情で、フレイアはお灸を据えられたのかやや落ち込んだ様子であった。

 

「そっちは丸く……収まったのか?」

 

「全く世話のかかる子ね」

 

「……ごめんなさい」

 

 しおしおと萎れた花みたいに凹んでいるフレイアを見るに、丸く収まったようには見えなかった。しかし軽率な行動を諌めることはできているようだ。

 

「とりあえず、合流はできましたね」

 

 当初の目的であったフレイアたちとの合流は達せられたのでトリガーは良しとするのだった。

 

 その後、一行はここに至るまでに収集した情報の擦り合わせを行うのだった。

 

 

 

 

 

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