マクロスΔ 未知なるソラへ    作:矢野優斗

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ラグナ防衛戦

 惑星アル・シャハルへ駐留するウィンダミア軍並びに旗艦シグル=バレンスへ奇襲を仕掛ける作戦。その開始時刻が迫っていた。

 

 既にマクロス・エリシオンはラグナを発進し、フォールド航行の準備に入っている。基本人型形態しか知らなかったトリガーは、超巨大な戦艦に変形したマクロスに内心ではしゃいでいたりしたが。

 

 トリガー含むΔ小隊は既に機体へ搭乗し、いつでも出撃できるよう待機している。他部隊も準備は完了していた。

 

『これよりマクロス・エリシオンはフォールド航行に突入する。各員、デフォールド次第、作戦計画に従いウィンダミア軍へ攻撃を仕掛けるように。諸君らの健闘を期待する』

 

 アーネストの激励の言葉を契機にマクロス・エリシオンは超時空空間に突入した。

 

 眩い超時空空間を航行することしばし。間もなくデフォールドするタイミングで、艦橋にアラートが鳴り響く。

 

「何事だ!」

 

「デフォールド先に超高質量反応! これは、敵艦もフォールドをしようとしています!」

 

 オペレーターからの報告にアーネストは目を見開いて驚愕する。

 

「作戦を読まれていた? それにしては……」

 

 フォールドのタイミングが完璧過ぎる。まるで作戦内容を予め把握していたかのような動きだ。

 

 アーネストの脳裏を嫌な可能性が過ぎった。しかし今は敵艦への対処が先である。

 

「全砲門回塔! 敵艦にぶち込めェ!!」

 

 アーネストの号令に従い即座に砲撃が行われるが一歩届かない。放たれた砲撃は虚空を貫いて消え去った。

 

「間に合わなかったか……! ラグナの防衛部隊に状況を伝えろ!」

 

「了解です!」

 

 すぐさまオペレーターはラグナの防衛部隊へとウィンダミア軍襲来の報を飛ばした。

 

「α、β、γ、Δ小隊は順次ラグナへと向かえ! ワルキューレもすぐに送り出す! マクロスの再フォールドも急げ!」

 

 必要な指示を全て出し終えアーネストは一度状況の確認を行う。

 

 奇襲作戦は逆手に取られ、風の歌に対抗できるワルキューレ不在のラグナへと攻め込まれてしまった。Δ小隊を始めとする部隊を先に送り出しはするものの、状況は最悪に近いだろう。

 

 加えて奇襲作戦が失敗したことで遺跡の爆破も行われてしまう。敵も味方も警戒しなければいけないということだ。

 

 マクロス・エリシオンの再フォールドには四十分近く要する。それまでラグナが耐えられるかどうかは、ケイオス部隊の働き次第だ。

 

 各母艦から出撃しラグナへとフォールドする部隊を見送りながら、アーネストが考えるのはウィンダミア軍の動きについて。

 

 マクロス・エリシオンの奇襲計画に合わせるようなフォールドタイミング。作戦を読まれたにしてはフォールドタイミングが完璧過ぎた。まるで作戦が全て筒抜けだっかのような──

 

「まさかな……」

 

 嫌な想像にアーネストは険しい顔付きで黙り込んだ。

 

 

 Δ

 

 

 アイテールから出撃していったΔ小隊を不安げな表情で見送るフレイア。

 

 バルキリーは機体質量も小さいため比較的すぐにフォールド可能であったが、ワルキューレの搭乗するアイテールはフォールドまでまだ時間が掛かる。それでもマクロスよりかは遥かにマシだが。

 

 風の歌が響く戦場へとワルキューレの歌なしで突撃せざるを得ない部隊の面々、特にフレイアはハヤテのことが心配なのだろう。落ち着かない様子でそわそわとしていた。

 

「落ち着いて、フレイア。焦っても状況は良くならないわ」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 見兼ねたカナメに諌められ、フレイアはしょんぼりと肩を落とした。

 

 カナメもラグナにいるメッサーのことを案じてはいるが、それを表に出すことはない。ワルキューレのリーダーとして気丈に振る舞っている。

 

 アイテールがフォールド可能になるまでまだ時間がある。ワルキューレはいつでも歌声を響かせられるように準備を整えつつ、投影したディスプレイでラグナの戦況を確認する。

 

 ラグナの空はウィンダミア軍優勢の状況であった。古代戦艦によって強化された風の歌により新統合軍の大半が操られ、駆け付けたケイオス部隊もヴァール化こそしていないが精神を掻き乱されている。

 

 風の歌に対する抵抗力が高いΔ小隊ですら動きが鈍っており、普段の能力を発揮できていない。それでも敵艦の侵攻を食い止めるべく、どの部隊よりも奮闘していた。

 

「ハヤテ……」

 

「このままじゃ、私たちがフォールドするまで保たない」

 

 遠く離れた戦況をモニタリングしていたレイナが焦燥混じりに呟く。

 

 ワルキューレがアイテールと共にラグナへ駆け付ける頃には全てが手遅れになってしまう。せめてΔ小隊が万全に動くことができたのなら──

 

 何もできない歯痒さに拳を握るフレイアの肩に、ぽんと美雲の手が置かれた。

 

「美雲さん?」

 

「フレイア。あなたの歌は時空を超えられる?」

 

「え……」

 

 意味深な美雲の問い掛けにフレイアはぽかんと口を開き、すぐさま力強く頷きを返した。

 

 フレイアの返答に美雲は満足げに微笑み、ワルキューレの面々を振り返った。

 

「一番の新人ができるなら、私たちにもできて当然。そうよね?」

 

「無茶苦茶よ、美雲」

 

 風の歌い手のように遺跡や古代戦艦の力を利用するでもなく、遠く離れた星に歌声を届ける。常識的に考えて不可能だ。

 

「やってみなくちゃ分からない。いいえ、やらなければ手遅れになるだけ。違う?」

 

「そうだけど……」

 

「迷ってる暇はない。私たちの歌を待っている人たちがいるのなら、歌ってあげるのが役目。それとも、想い()を届ける自信がないのかしら、元エースさん」

 

 挑発的な美雲の物言いにヒクリとカナメの口端が引き攣る。アル・シャハル防衛戦でも同じ手口を使われたが、今回は明確に言葉と態度で煽られた。然しものカナメも黙ってはいられない。

 

「おぉう、くもくもキッレキレ」

 

「カナメ、プッツン。退散、退散」

 

 そそくさとバックコーラスの準備に入るマキナとレイナ。フレイアと美雲がやると言っている以上、マキナとレイナは全力でサポートするだけだ。

 

「……いいわ、教えてあげる。私だって、伊達にエース張ってなかったのよ」

 

 戦意を溢れさせカナメは美雲を見返す。ひりつくほどの戦意を向けられて美雲もいつになく興が乗っているのか、不敵な笑みを楽しそうに深めた。

 

 何やら仲間内で火花を散らし始めた美雲とカナメに、フレイアはあわあわしつつも遠く離れたハヤテを想う。

 

「待ってるんよ、ハヤテ──」

 

 

 Δ

 

 

 ラグナへフォールドしたΔ小隊を始めとするケイオス部隊を待ち構えていたのは、ウィンダミア軍の艦隊と操られた新統合軍の部隊だった。

 

 到着した時点で既にウィンダミア軍は最終防衛ライン間近まで迫っていた。ケイオス部隊はすぐさま敵艦隊の侵攻を止めるべく展開したが、余りにも戦況が不利すぎる。

 

 ラグナを守るために球状星団中から集まった部隊の大半が操られてしまっているのだ。小隊が四つ加勢に入った程度では焼け石に水でしかない。

 

 加えて厄介なのが風の歌の存在。古代戦艦の機構で強化された風の歌は、耐性を有するΔ小隊ですら激しく精神を掻き乱され、徐々に正気を削り落とされていく。長時間に渡って聞き続ければいずれはヴァール化してしまうだろう。

 

 圧倒的に不利な戦況下で、トリガーは白騎士含めた空中騎士団を複数機相手取って大立ち回りを演じていた。

 

 耳に障る風の歌に集中を掻き乱されながらも、敵航空戦力へと積極的な攻勢を仕掛け戦力を削っていく。

 

 風の歌の支配下では主力空中騎士団を撃墜するのは難しいが、比較的練度の低いパイロットであれば問題なく堕とせる。継続して被害を与え続ければ、損失を嫌って主力がトリガー一人に掛かり切りになる。必然的に味方機への被害が抑えられるという寸法だ。

 

 これが三本線(トリガー)の本来の飛び方。消極的な防衛よりも積極的な攻勢により敵を縛る戦い方は、奇しくもアル・シャハル防衛線で空中騎士団に取られた戦法と似ていた。

 

 だが、しかし──

 

「ダメだ、押し切られる……!」

 

 如何なトリガーとはいえ、外的要因によって操縦を妨害されている状態で敵主力を抑えつつ、次元断層バリアに護られた敵旗艦を食い止めることなど不可能だ。

 

 悠然と侵攻を続ける敵旗艦と悪化していく戦況に歯噛みしていると、不意にコックピット内部に歌声が響いた。

 

『──、────♪』

 

 正気を削る風の歌ではない、魂を鼓舞する歌声は非常に聞き覚えがある。聞き間違うはずもない。

 

「美雲? いや、ワルキューレの歌声か」

 

 懐に仕舞い込んでいたラジオを起点に響き渡るワルキューレの歌声。風の歌による侵食が抑制され、掻き乱されていた精神が回復していく。

 

『歌が聞こえる。フレイアの歌だ!』

 

 同時刻、ハヤテもトリガーと同様にワルキューレの歌が届いたらしく、通信回線越しに喜色に満ちた声が聞こえた。

 

『……私も聞こえます。ハヤテのそばを飛んでいる時だけ?』

 

『なに?』

 

 ミラージュの怪訝な報告にアラドが反応する。

 

 フォールドクォーツを所有するハヤテに歌が聞こえるのは理解できなくもない。しかしミラージュはフォールドクォーツを持っていないにも関わらず、ワルキューレの歌が聞こえるという。

 

「まさか……」

 

 一つの推測を立てたトリガーは作戦指揮のために一歩引いた立ち位置で交戦するアラドの元へ向かった。

 

『こいつは……トリガーか!?』

 

『隊長にも聞こえたみたいですね』

 

 トリガーが接近するとアラドにもワルキューレの歌声が聞こえ始めた。アラドもミラージュと同じくフォールドクォーツを所有していないにも関わらずだ。

 

 絡繰は単純明快。フォールドクォーツを所有するトリガーとハヤテの側であれば、ワルキューレの歌声を聞くことができる。風の歌の影響を少なからず軽減することができる。

 

 仕組みを理解したアラドの対応は早かった。

 

『そういうことなら──デルタ2、3、5はハヤテを中心に編隊を組め! そうすればワルキューレの歌声の恩恵を受けられるはずだ!』

 

『『了解!』』

 

『ウーラサー!』

 

『デルタ4は俺とエレメントを組む。お手柔らかに頼むぞ?』

 

『隊長ならついてこれますよね?』

 

 トリガーの冗談混じりの返しに、アラドの愉快そうな笑い声が響いた。

 

『たまには隊長の威厳を示すとするか。よし、ラグナは俺たちの力で守り抜くぞ、気合い入れていけ!』

 

 アラドの発破の声にΔ小隊全員が威勢よく返し、一斉に敵航空戦力へと攻勢を仕掛け始めた。

 

 ワルキューレの歌声によって風の歌の影響が薄れたΔ小隊は獅子奮迅の活躍を見せる。特に故郷を守るという固い意思を持つチャックの動きは凄まじく、誰よりも敵航空戦力を撃墜せしめていた。

 

 Δ小隊の奮闘により空域の一部においてウィンダミア軍が押され始める。たった一小隊の力で航空優勢が奪われつつあった。

 

 白騎士を始めとする主力空中騎士団が積極的に航空優勢を維持しようとしているが、そちらはトリガーとアラドが睨みを利かせている。

 

 三本線とΔ小隊隊長の実力は侮れるものではなく、主力の大半がたったの二機によって足止めされていた。ついていくアラドはトリガーの無茶苦茶な機動にひいこら言っていたが。

 

 圧倒的な不利を徐々に押し返しつつある状況で、満を持してワルキューレを乗せたアイテールが戦場へと馳せ参じた。

 

 戦場に到着するや否や、ワルキューレはアイテール甲板の特設ステージにて歌声を響かせる。強化されている風の歌を押し返すほどではないが、それでもヴァール化していた新統合軍の部隊が少しずつ正気を取り戻す。

 

 ヴァール化した全ての部隊を正気に戻すことは難しくとも、歌声の届く範囲の兵士のマインドコントロールは解除できる。戦闘空域の趨勢はウィンダミア軍の一方的なものから傾きつつあった。

 

 しかし肝心要の敵旗艦が止められない。航空戦力をどれだけ削り落としても、次元断層のバリアに護られた古代戦艦戦艦には手も足も出ない。

 

 遠からず敵旗艦はラグナ海底遺跡直上に到達する。そうなれば新統合軍の仕掛けた反応弾が炸裂し、ラグナに住む人々に甚大な被害が及ぶ。

 

 奇襲作戦前から市民の環境艦への避難は進められていたが、未だそちらも完全には終わっていない。風の歌による市民たちの混乱も見られている。

 

『ちくしょう、このままじゃ反応弾が……ラグナが!』

 

 チャックの悲痛な叫びが通信回線越しに響き渡った。

 

 刻一刻と迫るデッド・ライン。じりじりと募る焦燥にトリガーは歯噛みし、何か打開策はないかと思考を巡らせる。

 

「バリアさえ、次元断層さえどうにかできれば……!」

 

 コックピット内で一人呟いた時だった。

 

『──次元断層のバリアがなければ、あの戦艦を止められる?』

 

 まるで心を読んだかのようなタイミングで飛び込んできた美雲からの通信に、トリガーは思わず動揺してしまう。

 

 しかし通信映像に映る真剣な眼差しの美雲に触発され、即座に気を取り直して返答する。

 

『止めてみせる』

 

『分かった。バリアは私たちがなんとかする。少し時間を稼いで』

 

『ウィルコ!』

 

 美雲からの通信が途切れるや否や、トリガーはバリアが解除される時に向けて準備を始める。不可能とは考えていない。美雲なら、ワルキューレならばできると信じているのだ。

 

 ──いつかの空で相棒(カウント)詐欺(魔法)を見せてくれたように。

 

 バリアが解除されるその瞬間に向けて、トリガーは敵航空戦力を削りつつ古代戦艦の観察に注力するのだった。

 

 

 

 

 

 

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