マクロスΔ 未知なるソラへ    作:矢野優斗

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プレゼント選び

 ラグナがウィンダミアの手に堕ちてしばらく。球状星団の外へ退却したアイランド船では様々な問題が起きた。

 

 試運転もなく三十年振りに宇宙へ飛び立ったことでアイランド船各所で異常が発生。ケイオス部隊が異常の対処に当たり、不安に怯える市民をワルキューレが宥めることで何とか解決した。

 

 他にも球状星団が制圧されてしまったことでスポンサーを失い、資金や資材の不足にも襲われた。幸い新たなスポンサーをケイオス本社とレディMが見つけたことで事なきを得たが。

 

 その他にも細々とした問題に見舞われながらもどうにか落ち着いたところで、ウィンダミアからとんでもない爆弾が落とされた。

 

『我々は統合政府を打倒し、大銀河文明を樹立することを此処に宣言する!』

 

 銀河ネットワークをジャックしたウィンダミア軍が、球状星団だけに飽き足らず全銀河へと宣戦布告をしたのだ。新統合軍が次元兵器をウィンダミアに投下した証拠映像付きで。

 

 球状星団に所属する一惑星の小国でしかないウィンダミア王国。天地が引っ繰り返ったとしても勝算などあるはずがないと、リアルタイム映像を見ていた誰もが思った。

 

 だが違った。ウィンダミアは球状星団に点在する遺跡にラグナと同様に出現した巨大システムを利用し、風の歌を全銀河に響かせようと目論んでいたのだ。

 

 今はまだヴァール化するほどの出力を出せてはいないようだが、いずれシステムの解析が進めば全銀河に強力な風の歌が響き渡ることになる。そうなれば、大銀河文明なるものの樹立も夢ではないだろう。

 

 ウィンダミア王国が全銀河へ宣戦布告したことで緊張が高まる中、球状星団の外を漂流するケイオスはウィンダミアに対して有効な手立てが浮かばないままだった。

 

 

 Δ

 

 

「──フレイアのサプライズパーティー?」

 

 暇さえあればΔ小隊の面々を誘ってシミュレーター訓練に打ち込むトリガーの元へ、そんな話をマキナとレイナが持ち掛けた。

 

「フレイアがどうかしたのか?」

 

 フレイアの名前が出たことでハヤテが寄ってくる。釣られてミラージュとチャックも集まってきた。

 

 集合するΔ小隊の面々にマキナは話の内容を切り出す。

 

「もうすぐフレフレの誕生日だから、ぱあっとお祝いしてあげたいなって。最近のフレフレはちょっと無理してるっぽいから……」

 

 故郷であるウィンダミアが球状星団を飛び越えて全銀河へと宣戦布告をしてしまったのだ。フレイアが受けた衝撃は筆舌に尽くし難いことだろう。

 

 普段こそ元気に振る舞い店ごと避難した裸喰娘娘で看板娘の真似事をしているが、ふと気を抜いた拍子に憂鬱な表情を覗かせている。フレイアのことをよく知り、よく見ているハヤテは誰よりもそれを察していた。

 

「その話、乗ったぜ」

 

 一も二もなくハヤテが参加を表明する。

 

「そういう話なら、裸喰娘娘(うち)を貸切にして盛大にお祝いしようぜ。ケーキもとびっきり美味しいのを用意しておくよ!」

 

 ノリの良いチャックが気前よく店の貸切を許可してくれる。

 

「ええっと、私は……」

 

「ミラミラはパーティー準備の指揮をお願いしてもいい?」

 

「も、勿論です。フレイアが楽しめるように全力で努めさせて頂きます」

 

 今にも敬礼しそうな勢いのミラージュに、マキナは苦笑を禁じ得ない。

 

 Δ小隊三名が参加を表明し、この場にいる残り一名であるトリガーに視線が集中する。

 

「お邪魔でなければ、参加するよ」

 

「トリトリを邪魔なんて思う人は一人もいないよ。それに、トリトリにはパーティーに向けて重要なミッションをこなして貰わないといけないからね」

 

「ミッション?」

 

 はて、とトリガーが疑問符を浮かべるとレイナがマキナの続きを引き継いで話始める。

 

「超重要ミッション。美雲にもパーティーに参加してもらうこと。責任重大」

 

「ミッション扱いするのはどうなんだ……?」

 

 美雲の扱いに呆れを禁じ得ないトリガーだが、同時に納得できてしまう心もあった。

 

 神出鬼没でこの手のイベントは遠慮しそうな美雲をサプライズパーティーに誘う。普通に難しい案件ではあった。

 

「俺が声を掛けるよりも、マキナとレイナが誘ったほうがいいんじゃないか?」

 

「それも考えたけど、のらりくらりと躱されそうな気もするんだよね〜。トリトリなら、そのあたり上手くやってくれそうだから」

 

 出所不明の信頼にトリガーは首を傾げざるを得ない。しかしトリガーに拒否権はないのか、既に美雲を如何にして誘うかという計画についてマキナとレイナが話し始めていた。

 

「ではでは、これよりくもくもをサプライズパーティーに誘う作戦のブリーフィングをはじめまーす」

 

「美雲を誘う算段はつけてある。あとはトリガー次第」

 

「……やっぱり二人が誘えばいいんじゃないか?」

 

 空中に投影された美雲を誘うための作戦計画なるものを見て、トリガーはしみじみと呟くのだった。

 

 

 Δ

 

 

 後日、アイランド船のショッピングモールにて──

 

「ほんとに来てくれたよ」

 

「呼んだのはトリガーでしょ」

 

 フレイアの誕生日プレゼント選びを手伝ってほしい、というトリガーの誘いに応えた美雲。二人は休暇の予定を合わせてアイランド船のショッピングモールで集合していた。

 

 美雲は騒ぎになるのを避けるため、髪色を変え伊達メガネをかけている。

 

 他者を圧倒する神秘的な雰囲気は鳴りを潜め、今は知的で落ち着いた空気を醸し出している。元の大人っぽさも相まって、常とはまた違う魅了が滲み出ていた。

 

 舞台(ステージ)で歌い踊る姿とは掛け離れており、よほど見知った相手でもない限り身バレすることはないだろう。

 

「それで、プレゼントの目星は付けているの?」

 

「それがさっぱり……海林檎一月分とか?」

 

「センスの欠片もない……」

 

 呆れたとばかりに美雲が辛辣な言葉を零す。

 

「悪かったな。プレゼント選びなんてしたことないんだよ」

 

 興味関心の大半を空に奪われているトリガーはプレゼントを送り合うような人間関係を構築したことがそもそもない。特に異性に対する贈り物など初めての試みである。

 

「しょうがないわね。好み程度なら教えてあげるから、プレゼントを選んでしまいましょう」

 

「助かる」

 

 フレイアへの誕生日プレゼントを選ぶべく、トリガーと美雲はモール内を回っていく。

 

「アクセサリーは重いんじゃない? あなたがフレイアと特別な関係になりたいのなら止めないけど」

 

「バスボムは悪くないけど、共用のお風呂じゃあの子は遠慮して使わないわよ」

 

「化粧品はカナメあたりと被りそうね。それに、男性から送るのはハードルが高いんじゃなくて?」

 

 美雲に指摘を受けながらプレゼント選びに苦心することしばし。林檎のアロマキャンドルをプレゼントに決めて購入した頃には、トリガーは心身ともに疲れ果てていた。

 

 モールの一角に設置されたベンチに腰を落ち着けるトリガーと美雲。慣れないプレゼント選びにトリガーはダウンしており、それに付き合った美雲も微かに疲労の色を滲ませていた。

 

「助かったよ。美雲のおかげでなんとかプレゼントが決まった」

 

「それはよかったわね」

 

「美雲はいいのか? フレイアへのプレゼント」

 

「私は……」

 

 トリガーのプレゼント選びに付き合ってモールを回った美雲であるが未だ手ぶらのままだ。サプライズパーティーに参加するつもりがないから用意をする気がないのか。

 

 誕生日プレゼントを買ってしまえば、然しもの美雲もサプライズパーティーに参加してくれるはず。マキナとレイナから授けられた作戦の一つだった。

 

 美雲は口元に手を当てて思い悩むように目を伏せる。しばらく思案したのち、迷いながらも小さく頷きを返した。

 

「そうね。目星は付けてあるから、後で買うわ」

 

「美雲が参加してくれるなら、それだけでフレイアは喜ぶと思うけどな」

 

 フレイアが美雲に強い憧れ意識を持っているのはトリガーから見ても分かる。美雲が自分の誕生日パーティーに参加してくれるとなれば、飛び上がらん勢いで歓喜する姿が簡単に想像できた。

 

「最初からそれが狙いだったんでしょ」

 

「やっぱりバレるよな」

 

「あなたが誘ってきた時点で不自然よ」

 

 今でこそ多少は改善されているが、空馬鹿のトリガーが休日に他人を誘うなど滅多にあることではない。誕生日プレゼントを選ぶという名目があってもだ。

 

「マキナとレイナの入れ知恵ね」

 

「ご明察。美雲にもサプライズパーティーに参加して欲しいんだってさ」

 

「回りくどいことを……でも、よかった。私が付き合ってなかったら、フレイアのプレゼントに林檎一ヶ月分が並ぶところだったもの」

 

「センスの欠片もなくて悪かったな……」

 

 ふふっと悪戯っぽく笑う美雲に、トリガーは不貞腐れたように顔を逸らした。

 

 一頻り笑うと美雲はモールを行き交う人々を見やる。友人と、恋人と、家族とごく普通に買い物を楽しむ風景。美雲は何処か遠い世界のことのように眺めていた。

 

「私、誕生日を祝ったことも、誰かに祝ってもらったこともないの。自分の親の顔も、何処で生まれ育ったのかすらも知らない」

 

「それは……」

 

 いつもの不思議エピソードで流すには不自然であまりにも重い話だった。

 

 誕生日を忘れるくらいなら有り得なくもない。物心つく前に親を失って顔を知らないということも考えられる。しかし生まれ育った場所すら知らないというのはあまりにも不自然だ。

 

 美雲に嘘をついている気配はない。本人も本当に知らないのだろう。

 

 以前の食事に纏わるエピソードも相まって一気にきな臭い話の流れになってきた。

 

 険しい顔付きになるトリガーに対して、美雲は自分のペースのまま話を続ける。

 

「過去なんてどうでもいい。歌さえ歌えるならそれでよかった……でも、どんなものなのか、少し気になった。それだけよ」

 

「……そうか。なら、きっと楽しいパーティーになると思うよ」

 

 浮上した美雲に対する疑問、ケイオスに対する不信感に蓋をしてトリガーはそう答えた。

 

 しばしの休憩を経て体力を回復したトリガーは立ち上がる。

 

「美雲の分のプレゼントも買いに行こうか。あと、帰りに甘いものでも奢るよ」

 

「いいわよ、気を遣わなくて」

 

「お礼くらいさせてくれ。でないと、マキナとレイナにどやされそうだしな」

 

 ブリーフィングで事細かに指摘されたことを思い出しトリガーは苦笑いになる。

 

 途中から美雲を誘う作戦ではなくデートの指導みたいになっていたが、マキナとレイナの指導が活かされた場面もなくはない。おかげでトリガーは割と充実した休日を過ごせたと思っている。

 

「そう。じゃあお言葉に甘えるわ」

 

 なんだかんだ言って美雲も一般的な女性である。人並み程度には甘いものへの興味はあるらしく、トリガーの提案を無理に断ることはなかった。

 

 その後、美雲の分のプレゼントも購入し、トリガーの奢りで冷たいアイスを食べて二人は解散するのだった。

 

 

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