特級呪詛師天内理子   作:宝生永夢ゥ

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少女の目覚め

天元様と同化する運命にある星漿体。そんな私の世界には黒井しかいなかった。

今思い返せばいなかったは正確じゃない。星漿体として天元様と同化して自分の世界に入れた人たちと会えなくなるのが怖かった。だって大切な人を増やしたらその分別れがつらくなるから

 

でもそんな世界に護衛に来た悟と傑が入り込んできた。

最初は余計なお世話だと思ったしなんだこいつらって印象が先行した。護衛対象がチンピラみたいな男と変な前髪をした男の二人組、体は引っ張られるし威厳あろうと意識したのじゃ口調は馬鹿にされるし。

黒井を助けに沖縄に行って私のわがままで予定よりも長くみんなと沖縄で遊んで今までの星漿体であろうとした私では想像もできないような楽しい時間を過ごした。

 

 

それでも傑は「一緒に帰ろう」と言ってくれた。「未来を保証」してくれた。

最強の二人が天元様と戦う覚悟を呪詛師認定されるかもしれないリスクをとってくれた。

私が私でいてもいい理由をくれた。

だから星漿体としてではなく天内理子として前に進もうと思った。だから彼が差し伸べてくれた手を掴もうとして…

 

「天内!!」

 

焦ったかのような傑に抱きしめられ直後

 

タン

 

そんな軽い音があたりにこだました。

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

私を抱きしめていた傑の体がこちらに倒れ込んでくる。私の頭があった位置であろう胸部からは血が流れており苦悶の表情を浮かべている。

 

「…傑?大丈夫か!しっかりしろ」

 

「なんで気づいたんだ?俺の気配を掴まれた様子もなかったはずだがな」

 

入り口の方向から先ほど悟を奇襲した男が現れた。考えたくはないがあの悟が負けたことを意味している

男は純粋な疑問を投げかけた。あの五条悟すらも感知できなかった不意打ちを防がれたことを不思議に思ったのだろうか

傑は傷ついた体で立ち上がり後手で私を庇うように男と対峙する。

 

「ただの勘さ。それよりもなんでお前がここにいる…悟は?ここにくるまでに女性がいたはずだ」

 

「運が良かったなお前は。それでなんでいるのかだって?五条悟は俺が殺した。もう一人の女の方は多分死んでる。運が良ければ生きてるかもな」

 

その一言を聞き傑の表情が一転し怒りに染まる。彼の怒りに共鳴するように背後から複数の呪霊が現れる。

 

「そうか……死ね!!」

 

「焦んなよ」

 

開戦の一撃は男が放った銃弾

その弾丸が肉体を穿つよりも早く低級呪霊でガードして虹龍の噛みつきで反撃する。

虹龍の一撃が相手に当たるよりも早く男は飛び退いた

 

回避した後、男は楽しげに自分の能力を語り出す。

男が自身の天与呪縛の情報開示を行い自身の能力の底上げをしようとしているのは理解する。

そんなことを気にできないほどに負の感情が溢れ出る。

それと同時に一周回って思考が冷静になる。

冷静になった脳で理子を守るための思考を巡らせながら男に疑問を投げかける

 

「なぜ薨星宮へ続く扉がわかった?」

 

「人間が残す痕跡は残穢だけじゃねぇ。臭跡、足跡、五感も呪縛で底上げされてるんだよ」

 

この情報から理子を連れてこの場から逃走することも命懸けの足止めをしても意味がない。

臭跡すら探知してしまうなら逃した後に捕まってしまい無意味になる。

なら結論は一つここでこの男を殺すしかない。

自身の体は重傷を負っていて回復手段がない。守っている少女は逃すことすら出来ずいつ狙われるかもわからない。

そして相手の男は悟を倒すほどの実力を持ち所有している呪具は未知数。この状態で男を殺さなければならない。

自身の後ろにいる理子に視線を向けてそんな弱気な自分の気持ちを一蹴する。

相手との実力差を加味して勝ち筋は一つ武器庫を潰し、物量で押し切る。

気合を入れて会話を終えて戦闘を開始する。

 

「お前はここで死ね」

 

虹龍を突進させる。夏油傑の手持ちの中で最高硬度の呪霊。

その虹龍が傷一つ与えることもできずに手に持った刀により無惨に切り裂かれる。

虹龍が払われたのは誤算だったがリカバリーできる範囲そう考え傑は次の手をうつ。

 

「ねぇ?」

 

声が聞こえた。

女の声にしては不快さがある声が耳に入ってくる。その瞬間、空間は一瞬にして暗くなる。

 

それは傑の持つ仮想怨霊の一つ、口裂け女。

質問に答えるまでお互いに不可侵を強制する簡易領域。

 

「わた、わタ、わたし、きれい?」

 

男が答える前に動き出す。

格納呪霊を呪霊操術で取り込もうとする。

夏油傑の呪霊操術は降伏した呪霊を自在に取り込める術式であり、二級以上の差があればほぼ無条件で取り込める。

能力は特殊だが呪霊自体の実力は大したことはなく取り込める。

…はずだった

確かに格納呪霊を捉えた。

しかし取り込むこともできずに弾かれる

 

「なっ……!!」

 

そして格納呪霊だけを残して男の姿を見失う。

 

夏油傑は知らなかった。

それは天与呪縛のフィジカルギフテットが呪力のないことにより領域に認識されないことを、そして口裂け女が認識していたのは男ではなく格納呪霊を経由していたことを。

 

男の姿が認識できなくなり必然的に彼の意識は守るべき少女に向く。

 

「…理子ちゃんッ!」

 

決定的な隙、その一瞬を男が見逃すわけがない。

男の持つ刀によって斬られ、夏油傑の体が地へと倒れ伏す。

その敗北の仕方は奇しくも五条悟と同じものだった。

男は夏油傑を気絶させる

 

「お前らは似てるな。恵まれた所も、甘い所も。だから負けるんだがな」

 

男はそう言い残し、天内理子にあゆみを進める。

 

 

ピクッ

 

 

 

 

 

 

二人の戦いが始まった。

力がない私にはただこの戦いを見ていることしかできない。

周囲には私を守るように呪霊が配置されている。

戦況は明らかに男の方が優勢、傷ついた状態で戦わなければいけない傑は私という足手纏いまでいる。

信じることしかできない

 

戦いの中で悟や黒井が殺されたことを知り、自身の中からドス黒い何かが溢れ出しそうになるのを抑える。

それが本能的に術式だと理解する。

これを発動したら後戻りができなくなる。

 

今までの私だったら犠牲を無駄にしないためにと天元様の元に向かうという選択が取れたかもしれないが、でも星漿体として天元様と同化せずに自分の人生を生きる選択をした以上もう選べない。

だから今は傑が勝つことを祈ることしかできない…無力の自分を呪いながら。

 

そしてその時は来た。

自身を守っていた呪霊が全員払われた。

これは夏油傑が敗北したことを意味し、同時に自分の命が終わる時だと理解する、

 

「傑はどうしたっ…!」

 

「傑ってのはさっきの男のことか?それだったら生きてるよ。式神使いなら殺したが呪霊操術だと取り込んだ呪霊がどうなるのか分からんからな」

 

その一言に安堵する。私のせいで悟も黒井も死んでしまったが、傑だけはなんとか生き残ることができそうだ。

溢れでた涙を手の甲で拭う。恐怖を振り払って男を正面から睨みつける

天元様の星漿体らしくしようと心がけていた時の壮大で偉そうだった自分を思い起こす。

 

「下衆め!!私を殺したくば貴様から死んでみせよ!!」

 

そんな理子の様子を見て男は苦笑いを浮かべる。

目の前の少女は足は震えていて自分いつ殺されるかわからないこの状況に恐怖している。

それでも少女の目は最後の時まで諦めないと雄弁に語っている。

 

「そう強がんな…抵抗しなければ苦しまずに逝ける」

 

そうして男の銃口が少女に突きつけられた。

無慈悲にその引き金が引かれる瞬間…

 

「…お?」

 

男の足元が崩れそこから蛇の呪霊が足に巻きつき体制を崩そうとする。

しかし男は持ち前のフィジカルで呪霊を引き寄せ、呪霊から取り出した刀で切り伏せる。

男は不意打ちにより意識がとられ自身の背後から迫り来る脅威への対応に遅れた。

 

「やっと隙を見せたな!!」

 

背後にいるのは先ほど意識を失っていたはずの夏油傑。

出血量から見て切りつけた刀の感触よりも明らかに傷が浅い。

夏油傑は自身の服の下に呪霊を巻きつけ被弾を抑え、気絶した振りによりチャンスの一撃を伺っていた。

 

「最初からこれが狙いか!!」

 

「そうだ」

 

傑の手に膨大な呪力が集まっていく。

男は初めて焦った様子を見せ呪霊から別の呪具にかえる。

それよりも早く放たれるは彼が持つ最強の一撃

 

 

「極ノ番うずまきっ!!!」

 

放たれるは領域展開を除いた術式の奥義、極ノ番『うずまき』

必要最低限の呪霊以外の使役している呪霊を一つに圧縮し超高密度の呪力を相手にぶつける。

圧縮された呪霊の数は数百を超えてその威力は五条悟の術式反転『赫』を凌駕する。

呪力砲撃があった場所は背後の壁までの全てを消し飛ばした。

男がどこにもいないことを確認し、安堵のため息を漏らす。

 

「傑!!」

 

座り込んだ夏油傑の元に全速力で駆け寄る

 

「もう大丈夫だよ。理子ちゃん」

 

「でも私のせいで黒井と悟が…」

 

「悟は無理だけど…黒井さんはまだ助かるかもしれない。私の同期に性格は最悪だが治療の腕は超一流なやつがいるからね」

 

思い出すのは家入硝子。反転術式のアウトプットで他者を治療することができる数少ない術師。

 

「帰ろう…傑」

 

「ああ」

 

座り込んでいる傑の手を掴み立ち上がらせる。ボロボロの体でふらついている彼に肩を貸す。

そんな傑を支えながら薨星宮の出口にあゆみを進める。

まだやらなければいけないことが沢山ある。

黒井を治療して悟を弔わなければいけない。

この先、逃亡生活も視野に入れなきゃいけない。

 

少し照れ臭さを感じながら。それでもこれは言わなければならない

 

「傑…守ってくれてありがとう」

 

傑は一瞬驚いた表情を浮かべたが笑みを浮かべ言葉を返す。

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

タン

 

 

 

 

 

 

「傑?」

 

目の前には頭から血を流し倒れ込んでくる傑の姿がある。

 

「傑!しっかりしろ」

 

いくら彼の体を揺すっても起きる様子はない。

夏油傑の額には穴があき死んでいるのは明白だ。それでも彼女の脳はこの現実を理解することを拒んでいる。

 

「今のは本当に危なかった。俺の反応が0.1秒でも遅れていたら消し炭になっていた」

 

声の聞こえた方向に振り向くとそこには先ほど傑に倒されたはずの男が立っている。片腕を失ってはいるがそれでも他に傷を追った様子はない。

また殺されたのだ大切なひとが私のせいで。

 

「なんで傑を殺したの?私の命が狙いなら…」

 

「お前を殺すのに邪魔だった。あいつらが死んだ理由なんてただそれだけだ」

 

男は口から溢れでた戯言をバッサリと切り捨てる

その通りだ。

私が言ったわがままのせいで悟が不意打ちを喰らい殺されて、私を守るために戦った黒井が生死不明の状態になり、私が足をひっぱたから傑が殺された。

これは最初から高専に保護されていたら起こらなかった出来事だ。

 

「全部私のせいじゃないか」

 

自分の情けなさに涙が溢れてくる。

それと同時に自身の中に今まで感じたことのないドス黒い負の感情が現れる。

明確な殺意が湧き上がる。

無力な自分に、大切な人たちを皆殺しにした目の前にいる男に、私を狙うように指示を出した盤星教に。

ぐちゃぐちゃにして切り刻んで何もかもを消し去ってしまいたい。

 

 

 

その負の感情のままに術式を起動する。

突如、男の視界に謎の映像が流れる。

異形の怪物を使役する天内理子とそれと戦う自分自身の姿を。

 

「…なんだ今の?」

 

男は今自身の目に映った不可思議な光景に疑問を浮かべた。

次の瞬間、建物の角、飛び散った破片の角、拳銃の角、呪具の角、辺りの角という角からもうもうと煙が吹き出し、異形の怪物が現れる。

 

それは四足歩行の獣の姿。しかし、そのフォルムは他のどの生き物ともかけ離れている。

肌はゴツゴツした表皮で覆われ、まばらに毛が生えている。

胴体は ヘビのようにうねり、横からは恐ろしいカギ爪のついた細い足が左右非対称に伸びている。

頭部は長く、耳元まで裂けた口の裏側には、汚らしい牙がずらりと並んでいる。

伸縮するヒルのような舌がじゅるじゅると音を立て、空中を駆け抜ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その怪物はティンダロスの猟犬

「とがった時間」*1が支配する空間に存在するという文明都市からやってくる。

天内理子の術式によって強制的に未来を見せられた伏黒甚爾は彼らの世界に触れてしまった。

 

「なんだこの化け物どもは!?」

 

人でも呪霊でもないまるで『痩せこけた体に宇宙の全ての邪悪を凝縮させていた』ような存在に男は戦慄している。

 

少女の周りを異形の化け物が飛び回っている。

少女はその感情のままに命令を下した。

 

「殺せ」

 

冷徹に無慈悲に残酷に

その命令を聞いた猟犬たちは男に向かい一斉に飛びかかった。

 

 

 

天内理子に刻まれていた術式はとがった時間(ティンダロス)

その術式効果は対象に対する時間操作

そして時間操作によるとがった時空への干渉によるとがった時間から招来される生物の使役

*1
とがった時間とはクトゥルフ神話における時間概念で、まがった時間と呼ばれる人間が存在する時間とは全くの別物。過去、現在、未来が一直線で繋がっておりパラレルワールドが存在しない単一の時間軸




理子ちゃんの術式をティンダロスにした理由は綺麗な星漿体が神話生物のような冒涜的存在を使役してるのなんかいいなって思ったから

理子ちゃんの戦闘スタイルどれがいい?

  • 刀剣
  • 打撃武器
  • 長柄武器
  • 連結武器
  • 射撃武器
  • 銃火器
  • ステゴロ
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