あの戦いから少し経った後、世界は一変した。
新宿で展開された領域はその場に残り続け、そこから異形の獣が好きに出入りできるようになっている。領域の解体は天元ですら行うことは出来ない。そんな中、ひと月で十数万単位で人が殺されるとなれば現場が映されたデータが必ず出回る状況。
目撃者が0であれるはずがなく発達していないインターネットに怪物の情報が出回り、そこを通じてテレビ局などが大々的に取り上げることになる。
呪術が隠匿されていた歴史に幕が落とされた。
だが人々の生活は変わっていない。否変わりようがないと言うべきだろう。街中だろうが建物の中だろうが核シェルターの中だろうと襲いでて人間を惨殺していく異形の化け物。
その対抗策がないのであれば人々は特殊なことをしても意味がない。一部の都市だけなら焼き払えばいいかもしれないが日本全土を始め少しずつ海外でも目撃例が散見されればどうしようもない。
そして、この事件を起こした元凶は━━
「美々子、菜々子…助けて」
まさかの家事に追われていた。五条悟との戦闘の後、混乱した世界で人が居なくなった家をそのまま乗っ取って暮らしている。もちろん複数の拠点を確保し、補足されないように常に移動もしている。できるだけ血溜まりができてない家を厳選するのに苦労した。
元々、黒井にお世話をしてもらっていた彼女は家事の経験などない。高専の寮では家事の出来る精神状態ではなかったため家事をしたことがなかった。
生憎、何度失敗したとしても時間を戻してやり直すことができるからいい。トライ&エラーで少しづつできるようになってはいる。しかし料理だけは作るものによって勝手が変わるため難しい。
レシピ本があるだけで作れる人達が凄すぎるのだ。断じて私が不器用なわけじゃない。
「お姉様頑張ってください!」
「私達は家事の経験もないので」
2人はソファーに二人で並んで座りながら適当に返事が飛んでくる。テレビという文明の利器を与えてしまってから彼女たちはテレビに夢中だ。
人間性を完全に失われないためにも人間的触れ合いはとても重要である。人間を虐殺しているが大切な人たちを傷つけたい訳でもないし、ティンダロスの本能に任せて人間を滅ぼしたいわけではない。犠牲を生み出して悟と傑の理想を踏み躙っていることへの罪悪感も、目的を達成すると言う意思も失ってはいけない。
「二人を甘やかしすぎたかもしれない」
なぜこんなことをしているのか。呪力を集める必要があるのではないかと思うだろう。
呪力を集めるのは猟犬にちゃんと一任している。毎日、数百人分の呪力が集まるレベルで集めている。本当は自分で街中を歩きながら襲っていくのが1番いい方法だが残念なことにそれはできない。
無から悟が現れて不意打ちで殺されるという可能性が常に付きまとう。
そう簡単に死ぬつもりは無いが領域を展開しなければ領域悟の対処はほぼ不可能に近い。
ならば毎度領域を展開すればいいと思うがそうもいかない。
領域を展開してからわかったことがある。あの空間に長く居れば居るほど人間としての在り方よりも、ティンダロスとしての本能、人間を殺せという意思の方が強くなっている。それは困る。
そんなことを誰に説明するでもなく考えつつ慣れない料理に苦戦する。
「調味料を適量ってなに?……黒井ぃ助けて欲しいのじゃぁ……」
今、無き黒井に助けを求めるが届くことは無い。
昔を懐かしんでいたせいか、昔の作っていた口調が飛び出してしまった。
悟を倒してもうあとに引けなくなってから明らかにテンションがおかしくなってる。みんなには見せたくない姿だが、まだ人としての感性が残っていることに嬉しさを覚える。
「何度やり直しても、最後に美味しい料理が作れてれば勝ち」
何度かの失敗を得て完璧な料理が完成した。時間の加速でリトライした際の時間を気にしなくていいから長い時間はかかっていない。
「2人とも食事できたから運べるもの運んで」
「わかりました姉様」
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食事が終わり2人は食器を台所まで運ぶとテレビを見に戻っていく。テレビはいいものだ。小学校に通っていないあの子たちでも耳から入ってくる情報と画面に映る情報で何しているか分かる。
問題は最近はテレビ局で放映する番組の量がかなり減ってしまったことだ。無差別に人間が消えている中でまともに放映しているだけ感謝すべき事態だがもっと地方で戦っていればと少し思っている。
「いつかはリスクを犯さなきゃ行けないんだけどね」
昼食に使った食器を片しながら、ひとりで呟く。
長い期間をかけて安全に進めていくつもりだが、そもそもの敵は減らした方がいい。術師が多いと返り討ちに会うことも多く、猟犬の持って帰ってくる呪力量が少しづつだが減っていく。
高専生は殺したくないとなると標的にする相手は必然的に絞られていく。
テレビを見ているふたりに呼びかける。
「異変があったら猟犬が知らせてくれるから、その子たちに乗って逃げてね」
「「はい」」
二人はしっかりと返事を返してくれる。
避難訓練という訳では無いが万が一が起きた場合の立ち回りは仕込んである。
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいお姉様」
「晩御飯待ってる」
美々子と菜々子に留守を任せて外に出る。
呪力を効率的に集めるには結局、呪術師や呪詛師を狩るのが1番ではある。
外に出ずに術師を見つけるのは不可能に近い。そして大きなリスクを犯して倒せるのが一人なのは旨みが少ない。
だが見つけ出すのが簡単でさらに数が確実にいる場所が何ヶ所かある。だから今からそこの1つ、しかも1番効率のいい場所に向かう。
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古い日本屋敷の扉を蹴破る。
「こんにちは。全員集合してますか?」
気軽に声をかけながら、堂々とその和風屋敷に侵入する。
「侵入者だ!!対処し…」
散歩するように気楽に建物への石畳を歩いていく。何人かこちらに害をなそうとしてくるが片手間の作業で皆殺しにできる。
殺す時に呪力をそのまま奪ってから殺しているから死体はそこらに放っておく。
するとそびえ立つ立派な屋敷の奥から1人の老人が歩いてくる。
「天内理子だな。禪院の屋敷に何の用だ?」
目の前の年寄りを見れば分かる。この男が禪院家の当主なのだろう。目の前にいるこの男にはそうだと理解できるようなオーラがある。
「鏖殺だよ」
返答は一言。それ以上の言葉は必要ではない。
なぜならここでこれから行われるのは戦闘行為ではない、虐殺だ。
背後から現れた触手が揺らめき、細分化されたそれはこの屋敷にいる全ての人間に放たれる。
適当に放たれた一撃はそれほど脅威ではない。ただそれは同格のものたちにとってはだが。
時間にして5秒もかからない時間で禪院家は壊滅。
今の一撃を生き残れたのは全部で5人。
うち2人は無傷でやり過ごし残りの3人は多少なりとも怪我をしているが五体満足でいる。
無傷の2人は同じ術式なのだろう。触手を回避するという結果に向かって50くらい分割した動きを行っていた。
残りの3人は連携を取り触手の軌道を変えたのだ。
正直驚いた。特別一級呪術師は一級呪術師と同格とされてはいるが、現場に出てないから七海さんよりは実力が劣っていると思っていた。今の一撃を避けれる呪術師はそうはいないだろう。ここにいる人達は七海さんよりも強いかもしれない。
触手をしまい構えを取る。
「扇。分かっているとは思うが、手を組むぞ!」
「分かっておる。術式解放『焦眉之赳』」
当主の一声を合図に扇の刀から爆炎が吹き上がり、それを開戦の狼煙となる。
直哉と直人が同時に動き出す。投射呪法の分割により加速された動きが縦横無尽の動きを見せその手が肉体に触れる。
一秒間の停止を受けたまま巨大な岩石でできた手が体を空中に投げ上げる。空からは幾つもの拳撃が降り注ぎ、地上からは爆炎を纏った無数の斬撃が放たれる。その攻撃の後隙を埋めるように投射呪法使い達は加速する。
無数の連携攻撃が放たれ、そして━━
最初に触手を回避することが出来た二人以外は全員死亡。
その2人も、若い方は脇腹がえぐり取られ、当主の方は若いのを守るために庇ったせいで手足がもげて動けずにいる。
結果はこんなものだ。術式を使わなくても戯れで終わる差がある。
「これでわかったでしょ?」
抵抗するのをやめなとつけ加え、とどめを刺すために構えをとる。
するとブツブツと何かを呟いているのが聞こえ近づく。最後の言葉くらいは聞いてあげてもいいだろう。
「俺もアッチ側に立つんや!」
「ん?」
掌印を構えるのが見える。その印相は伎芸天印。
領域展開ができるのならはあの場面で使っていたはずだ。
つまりこの土壇場で賭けに出たというわけだ。
「領域展開『時胞月宮殿』」
領域が世界を作り上げ、閉ざされた結界が広がる
「親父動くなや!」
その声と共に加速し出す。領域内疾走し加速を貯め続けている。
「お?」
迎撃のために構えを取ろうとして、動かした動作に合わせ体がズタズタに切り裂かれる。
この領域内では細胞の一つ一つに先程触れられた時の停止が全て適応されているのだろう。でも
「細胞がズタズタにされたくらいじゃ死なないんだけどね」
多少血が出てはいるが、欠損するような事態にはなっていない。というよりもこれくらいの攻撃なら欠損すらできない。
「このクソアマァ!!」
今の発言がカンに触った直哉は術式を使い加速し続ける。
領域効果により常に肉体が傷つき続けてる中、気にせず行われている格闘戦で少し遅れを取っている。
面白い。複数の動きを設定し、その中の一つを選択し、全ての行動に複数の選択肢が存在し続ける。分割されたアニメーションの動作を行ってる最中でもシームレスに動ける。この領域内だけだろうが作った動きがどれだけ無茶苦茶なものだろうが肉体の負荷以外で制限されることは無い。動作にかかる物理法則は後付けで行われているのだ。
悟は海外にいるらしいと言う話は聞いている。ならばすぐに飛んでくることは無い、飛んできたとしても補足される前に逃げる手段は用意している。極の番を使って速攻で沈めてもいいが、体がなまらないように適度な運動もたまにはいいだろう。
「軽く遊んであげるよ」
襲撃を行ってから初めて術式を使用し、彼の速度域に合わせて自身を加速させる。
禪院家に来て初めての戦闘を開始する。
親父に守られなければ死んでいたという屈辱な事実、女なんかに片手間にあしらわれてるムカつく現実、そして甚爾くん達のいるあちら側にいけてないまま死ねないという意地。
その複雑な感情を胸に抱えたまま一か八かで行った領域展開。
なのに、なのに!
届かない、距離が全く縮まっていない。
速度を上げ続ければ同じ加速度で速度を上げられる。
攻撃の手数を増やせばたった一撃で全てを弾かれる。
こんなことあっていいわけはない。あっち側へと足を踏み入れた自負はある。なのに相手の底が見えない。この化け物はあっち側なんて括りで収まる存在じゃない。
「なんなんや!お前は!」
まるで風に舞う羽根のように身体を傾け、わずか数センチの差で拳をすり抜ける。わざと見せるための動きをしているとひと目でわかる。
「知ってるでしょう?」
いつの間にか接近していたのだろうか。背後から耳元で囁かれる。そのまま裏拳を放ち、そこから攻撃を叩き込む動きを設定しようとするが、その初撃が空を切る。
彼女はすでに宙にあり、軽やかに舞う蝶のようにくるりと身を翻していた。
「天内理子」
そうして天内理子は領域の天井に逆さに着地する。
そのまま足を上げ天井を踏み抜いた。それだけで領域はいとも容易く崩壊した。
ふざけんなや。初めて領域展開の成功という成功体験に水を刺される。女なんかにいとも容易く蹂躙された。
色々な感情がせめぎ合い本心からの言葉が漏れる。
「綺麗やないか」
美しい。そう美しいのだ。
男だから、女だからなんて関係なかった。
目指していたあっち側。その更に向こうにいる存在。彼女はそういう存在なのだ。誰かに対して、ましてや女に対してそんなことを思う日が来るとは思わなかった。
「お別れの時間だよ」
「また会いに来るで理子ちゃん」
足音と共に声が目の前に迫っている。
これから殺されるのだろう。
ならば悪あがきの前に一言言葉をかけても許されるだろう。
「領域展開」
外郭を広げ自分だけが隠れるように領域展開する。これから行う行動は賭けと言うにもおこがましいほどの無謀な挑戦。これから殺されるのだから馬鹿げた行いも挑む価値がある。
懐からあるものを取りだし、そして───
領域が崩れさる。最後っ屁に何かをしようとしたか気になり経過を眺めていたが中から出てきたのは血に濡れたナイフと1人の死体。
「自殺された……呪力がもったいない」
色々よく分からないことを言ってからなんか死んだな。正直それ以上の気持ちはない。
「直哉……」
「すぐに会えるよ」
気を取り直して呆然としている当主を一撃で仕留める。今度は呪力を取りきるために確実に。もうこの家に用などない。踵を返して虚空に消えていく。
「ここ以上に手強い家はないだろうしさっさと残り二つもやっちゃおう」
たった一日で呪術界御三家と呼ばれる五条家、加茂家、禪院家、その全てが滅ぼされた。
この見せしめを持ってあらゆる呪術師、呪詛師の中に新たな共通認識が生まれる。
天内理子に敵対する行動を取ってはいけないと。
アンチヘイトタグをつけました。このタグがどこまでの範囲を指す変わらないため。
原作の味方陣営キャラ達を惨たらしく殺すようなヘイト創作をするつもりはないが、今回まきまいが出番なく裏で死んでるように作風的に高専以外の人間が裏でいっぱい死ぬ可能性があるためです。以上説明終了
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俺が喜ぶので