今あらゆる呪詛師は暗闇の奥底で隠れることを余儀なくされている。それはひとえに天内理子の台頭が理由だ。
呪詛師の中で唯一等級をつけられた術師。それも単体で国家転覆が可能だと判断されるレベルの規格外。
あの現代最強五条悟が挑み敗北した。現代で間違いなく最強の化け物。
高専所属以外の呪術師は少なからず存在している。そしてそのかなりの数が天内理子に殺害されている。一般人や呪術師を容赦なく襲う人間ならば呪詛師などさらに生き残らせる理由が存在しないだろう。
一見壁にしか見えないようにカモフラージュされた洞窟の中には生活出来るスペースが作られている。複雑に入り組んだ道は脱出の際に敵をまく効果と複数の出口により脱出口を塞がれない役割をしている。まさしく呪詛師の拠点のお手本のような場所だろう。
そこにいる呪詛師は4人。老婆と特徴的な髭を生やした男と青年と少女だ。
本来は3人だった空間に4人目がやってきたという表現をするべきだろうか。
散歩してるかのような気軽さでその化け物は結界を破壊しやってきた。
「なんで……お前がここにいる……」
「もう死ぬのに教える必要ある?」
思考によぎる最悪の未来。
五条悟に自由を奪われてからずっと耐え忍んできた。なんと屈辱的な日々だっただろうか。
なのにそれ以上の化け物にさらに奪われる。今度は何もかも全てを。
「孫!!」
「できるだけ早く」
「分かっとる!」
髭を生やしたと男が同時に駆け出す。
髭を生やしたの術式はあべこべ威力の高い攻撃ほど効果が薄くなる。
「ぐぁぁぁ……!」
適当に振るわれた黒い火花で即死する。
あべこべには上限と下限が設定されている。一撃でその許容量を超えた一撃を喰らえば術式は機能しない。
「禪院甚爾」
老婆は自身の余命を縛りに、降霊の儀に必要な時間を短縮。
完全に呪力から脱却した存在である伏黒甚爾は呪力を全く持たない事と引き換えに常人離れした身体能力と五感を有し、呪いへの耐性も獲得していた。それが天与呪縛のフィジカルギフテッドと呼ばれるものたちの概要。
だが彼は天与の暴君はこの進化した世界には存在したことはなかった。呪力から完全に脱した存在は呪術というものの干渉を受けることがない。彼に呪術が影響を与えるという因果が存在していないからだ。
故にこの降霊の儀により肉体を乗っ取ったまま、術式の効果が解除される。これにより天世の暴君はこの世界に生身の人間として現界する。
「あやつを殺せ!」
「誰に命令してんだよババァ」
老婆に向かって目にも止まらぬ速さで振られた拳は空を切る。
「私以外に殺されると困るんだよね」
老婆の回避行動を極限まで加速したことにより本来避けれない攻撃を避けることが出来たのだ。
回避の先に私がいるから殺されることには変わりは無い。
一撃で仕留めそのまま男の方に腕を向ける。
「ストック5解放」
ストックしていた打撃を五つ解放する。
同時に黒い火花を散らした五つの一閃は肉体に触れた瞬間に霧散する。
そこらに落ちていた死体を男に向けてぶん投げる。
呪力によって強化された筋力から放たれた一撃。それは時間加速によって速度を増し青白いプラズマとなって駆け抜ける。
「随分な挨拶だな。嬢ちゃん」
投げた死体を男は片手で受け止める。その肉体に触れた瞬間、物体が持っていたエネルギーは術式によって加速していた効力分だけ霧散した。
「最近こんなのばっかでめんどくさいね」
呪術を弱める相手がでてきたと思ったら今度は呪術を完全に無効化する相手に出くわした。悟と違って効果を減らされた上でその全てを粉砕する火力は持ち合わせていない。正確には持ち合わせてもいるが制御が完全にできる訳ではなく失敗は
ミゼーアの影を呼び出せば事足りるが代償必要となりそういう訳には行かない。
「悩ましいね」
殺してもいいが呪術完全に無効化できるのなら万が一に備えて味方に欲しい、ナイアルラトホテップが呪術に手を出した以上ほかの神が使わないともいいきれない。もしも魔術までもを完全に無効化できるのだとしたら神に対する切り札になり得る。それに殺すとしても、術式が効かないというのは存外に厄介だ。フルパワーで殴れば殺せるだろうが時間を戻すのをしくじったらこの星がドカンだ。絶対勝てるが手間をかける必要が出てくる。
「私に協力して」
「ああ?協力だ?」
この男は引き際をわきまえているタイプの人間だ。余計なことはしない。下手なリスクを犯すこともしないのだろう。
あの場で肉体が崩壊を開始していた。それを見ていたか見ていないかは分からないが戦ってみようという気を起こさずすぐに逃亡という選択肢をとった。
ならこの男との交渉の余地はある。確かにこの男に対する憎しみは存在する。なぜあの時私ではなく傑を殺したんだと。だがそんなこと計画のリスクヘッジに比べたら些細なことだ。
未来視を行い交渉の材料になり得る素材を見つける。
「従わなければ伏黒恵を殺すよ」
「誰だ?そいつ」
しらばっくれようとしても無駄だ。
この男は未来視にも映ることは無い。だけど何も映らない人型にくり抜かれた空間が存在する。未来視の発生そのものが無効化されたのではなく、未来視に男が映らないのだろう。
だからその不自然な無を辿っていけばこの男がどこに向かったかがわかる。
そしてひとつの家そこにたどり着いた。話しかけられた少年は確かにこう名乗った伏黒恵と。
「あなたの息子」
「?」
「……」
この男は何言ってんだこいつみたいな目でこちらを見つめてくる。久々にドン引きした。
「あー……」
「……」
「思い出した。俺の息子か」
「……」
「……そんな顔するんじゃねぇよ。数年もあってねぇガキなんざ覚えてるわけねぇだろ」
「…………最低」
1回咳払いを挟んで話をもどす。ドン引きした感情なんてあとだあと。
「それで、どうするの?」
「金いくら出せる?」
「お金?お金ならそこら辺の家に入ればすぐに……ATMだってぶっ壊せばすぐに取り出せる」
「あ?……今世界どうなってんだ?」
彼は怪訝な表情を浮かべるがすぐに表情を戻した。
「いや、それはあとだな。金を払えるんだったら雇われてやる」
「それでいい何年か先に必要な時が来る。その時に呼ぶから」
「なら好きにさせてもらう」
かつて殺し殺されをしたその元凶。との奇妙でイカれた契約関係が始まった
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その男性は野原に寝っ転がりながら、青々とした空を眺めている。いい歳した人間でも晴れた日にはこうやって空を眺めたい気分になることもある。
周囲からは不審に思われるかもしれないが周りの視線など気にしない。男には大きな悩みがあるからだ。
「全く進捗が進まないね。神様が余計なことしたせいだよ」
男は困っていた。自身のやるべき事のために必要な素材は手に入れた。それを扱うために必要な魔術も教わった。他が肝心のやり方が分からないのだ。
素材と工具があっても物品な作れないように、完成まで進むために必要な設計図がないのだ。
本当は知識の譲渡もしてもらう予定だったのだが、天内理子に私が解析しやすいように宿儺に寄せた体でちょっかいをかけに行った挙句、完全に返り討ちにあい、この天体から端末が消滅してしまったのだという。
たまたま物品だけ渡してもらっていただけだったから私は助かったが知識を渡されていたら普通に即死していただろう。
神様の気まぐれな行動は予測なんて出来はしない。振り回される側は大変だ
「試行錯誤がなんの進展にもならないのが一番しんどい。宿儺の肉体解剖でもしとくんだったな」
これを素体に作成したと言われてら使用することになった無垢で無我な神様の肉体。
粘土細工のようなスライムのような得体のしれないそれは、なんとも手に合わない。その材質のものを加工するのには日本人の手は合わないよと言われているような根本的な部分でこれを弄るのに適していないというべきか。
「大変だね。我々用にチューンすることができればいいんだけどね」
真上から降り注がれていた太陽の光に陰りが見える。
上を見上げると男と同じ顔を持つ男がたっていた。兄弟と呼ぶにはあまりにもそっくりな男は隣に座り込む
「資源収集用の私か。その様子だと有用そうなものが見つけれてないみたいだね」
「そう。流石にあそこまで施設が徹底的に破壊されているとサルベージの仕様がないよ。一応天内理子の遺伝子データくらいなら取れたけどあんなの現代科学では複製することなんてできないしね」
「手詰まりだね」
「手詰まりだな」
このままなにもしなくても天内理子はこの世界を無茶苦茶にして混沌とさせることは確実だ。
この世界で未知の面白さを探すのならわざわざ介入する必要は無い。きっと彼女がやってくれるのだから。
でも、それじゃあ面白くない。確かに私から作ったものは私の想像の域を出ることはない。求めているものは混沌の中で黒く輝いている。
私のから離れた混沌であって、私とは無関係な混沌などではない。何よりも面白い混沌が私とは無関係であるのはムカつく。1000年に渡る準備と蓄えた叡智がぽっと出の化け物に否定されるのは面白くない。1枚噛まないと気が済まない。さらに無茶苦茶にしてやりたい。
頭を回して思考を巡らせる。
「そうだ、彼女を殺してみよう。彼女は天内理子と同じ星漿体だからね」
「共通点から漁っていく方針ね。了解、一人で行ける?」
「流石に1人では動かないよ。作戦はおいおい伝える。まずは裏梅を受肉させよう。彼も断らないはずだ」
見えていなかった道が少し見えてきた。この先が閉じているかもしれないがやってみないと分からない。トライアンドエラーの繰り返しで次へと進んでいくのだ。
体を起こし立ち上がる。公園は相変わらず平和で珍しく人々が楽しそうに遊んでいる。
比較的鋭角の少ないここは猟犬達が飛び出して来る確率が低いようだ。
「さて、頑張るか」
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俺が喜ぶので