分岐点は理子ちゃん覚醒前に五条悟に未来を見せず事前準備をさせないこと。
神話生物の独自解釈を含みます。
BADEND if 全てを失った最強は独り──
虐殺を行った天内を止めるため帳の内で待つ彼女と会話を交わす。それでも説得はできなかった。
「私を止めるには殺すしかない。だから悟の選択に任せる」
突然投げられた選択肢に頭が真っ白になる。
「この選択はきっと間違いじゃない。それどころか正しいことだから…躊躇わないで悟」
「違うんだよ…違うんだよ…天内。俺はお前を殺したいわけじゃないんだ。ただ俺はお前を救いたかったんだ」
その主張をねじ曲げることは出来ないのだろう。
彼女は傑の理想を踏みにじらないために、俺に頼みに来たのだ。俺が傑の理想を継ぐ存在なのであれば終わりにしてくれると。
「それは無理だよ。悟が傑の理想を引き継いで進み始めた以上、こうなった私を殺すしかないから」
そんなことは分かっている。ただの雑魚だったら閉じ込めれば済む。だが天内の力があれば閉じ込められようとすぐに逃げ出すことが出来てしまう。
「さようなら…天内。俺のもう一人の親友」
俺は最後にあいつに笑顔を向けてやれているだろうか?
「さよなら…悟…大好きだよ。向こうでみんなと…私はみんなと一緒の場所にはいけないか」
天内の額に手を向ける。手印を構える。
天内は穏やかな顔でそれを受け入れる。
抵抗してくれれば気が楽になる。殺し合いなら仕方ないと割り切って殺すことが出来る。殺すためのその手を天内は慈しみを込めて握りしめる。目標が外れてしまわないように、確実に殺せるように。
ああ……死に際になんて笑みを浮かべているのだろう。死ねることがこの上ない幸せとでも言うように。
俺はこんな最後を迎えて欲しかった訳ではななかったのに。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ」
俺はその日、親友を殺した。
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力があればなんでも出来ると思ってた。
でも、そんなことはないことを今の俺は知ってる。
だけど傑の夢を引き継ぐと決めた。ならばできるだけ多くのものがこぼれ落ちないようにするしかないだろ。
俺は
でも世界は荒れ果てていく。この星を支配していた旧支配者達がこの星を取り戻すために台頭し始めた。
殺して、殺して、殺し続けた。人間に害をなす神話生物と呼ばれる生き物たちを片っ端から。それでも奴らが現れれば人は狂っていく。
硝子の最後を看取った。七海、灰原、学長とは共に戦い、最後のときを看取ることすら出来なかった。それだけの激戦が何度も何度も何度も繰り広げられた
その度に、俺は強くなった。戦って、失って、戦って戦って戦ったその果てで、地球の全てを領域として覆えるようになり、俺はこの宇宙の中では最強になった。誰も失わなくて済む力を手に入れた。
でも俺が守りたい存在はもの1人も存在しない。
虚しい。人口が1000人も居なくなったこの世界で残る呪術師は俺だけだ。俺がこの星を人類の手に取り戻すまでに人類70億が犠牲になった。
湿気たタバコに火をつける。今の俺がニコチンなんかで身体を崩すなんてことは万一もありえない。なんの影響もない。吸ってる姿が様になると遺したあいつの言葉を思い出し煙を吹かす。
「変な異名までつけられちまったよ……お前らに知られたら笑われてただろうな」
問いかけの返事は無い。そんなこと分かっている。最後に向けて少し、気を落ちつけたかっただけだ。最期に大切なヤツらを思い出して物思いにふけれた。本当は背中を叩いて送り出して欲しかったがそんなものはただのないものねだりでしかない。
俺がやることはあとひとつ。
宇宙の外からわざわざこの星に来たゴミ共の始末をするだけだ。
地面を軽く蹴り上げ宇宙へ向かって飛び上がる。
その速度は光と化し、光を超えてさらに加速して宇宙のその先へ。奴らが待つ宮殿へと。
ここからは私が、僕が、俺が、儂が、我が、私が対応します。
記録した神話の一幕のようなこの世界の記録をお見せしましょう。どうぞご照覧あれ。
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神話生物討伐記録
記録者 ナイアルラトホテップ
討伐者 五条悟
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偉大なるクトゥルフ討伐
天内理子の死後1年半後、星辰が完全に揃うことによりルルイエが浮上を開始。それにより深きものどもが太平洋から日本へ上陸し、街の住民を襲撃。体液を飲まされた者が深きものどもになるパンデミックが発生、高専をめざし進軍を開始。
その対処に当たっていた呪術師達がハイドラ、ダゴンにより全員死亡。その中には家入硝子の姿も存在。
その後、現場に到着した五条悟により上陸していたダゴン、ハイドラ含むクトゥルフの従者を鏖殺。
翌日、太平洋にルルイエ浮上。
偉大なるクトゥルフ顕現。日本に侵攻開始。
呪術界総出で対処を開始。
8時間の戦闘時間を得てクトゥルフを討伐。ルルイエを完全破壊され、死したクトゥルフは海底で眠る。その後全快した五条悟により死体は虚数空間に追放目覚める機会を永遠に失う。
戦闘に参加した呪術師の7割が死亡。世界人口の約1割が精神異常を起こし1年以内に死亡。という戦闘被害が出た。
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世界中に現れた化け物を撃退するために五条悟は世界各国へと飛び回ることになっている。ほぼボランティアのものだが、五条悟が行くと決めたのならほかの誰も口出すことが出来ない。
「硝子!」
間に合わなかった。嫌な予感がしたから領域を使って一掃し、日本に戻ってきたがそこにあったのは地獄絵図。
魚の顔をした化け物が人間の死体をなぶり殺しにしている現場。全員原形が残されていないほどぐちゃぐちゃにされている中、硝子1人だけが息をしているのが見える。視認した瞬間、硝子と魚共との間に割り込み振り下ろされていた一撃は全て防がれる。
硝子の体をそっと支える。下半身がもうどこにもない。全力で反転術式を回しているから、かろうじて生命活動が続けられているだけでもうその命は風前の灯火だ。
「ご…じょ…?」
弱々しく硝子の唇が震え、か細い声が聞こえてくる。
ゴポリと湿ったその声は血の匂いとともに自身の名前を読んでいるのだとかろうじて理解させる。
「くそッ!くそォッ!」
同じ傷を負ったのが自分だったのならば一瞬で治すことが出来る。だが反転術式のアウトプットを五条悟は使用することが出来ない。必要に駆られたことが今まで無かったからだ。
昔は天内がいた。あいつならどんな怪我であろうと生きている限り一瞬で巻き戻すことが出来た。
今は硝子がいる。反転術式を他人に使用出来る唯一と言っていい人材だ。
そうなる必然的に自身に回ってくる役目は敵を祓うことだった。
何も出来ない己に苛立ちを覚える。何が全てを救うだ。何が弱者のためにあるだ。大切な人間まで手にかけて、もう何も零れ落ちることないようにすると誓ったのに俺はまた救えない。
なんとまあ惨めで滑稽なのだろうか。
「たば……こ…とって…ゴホッ…」
硝子は全て分っっているかのような表情を浮かべながらいつも通りの雰囲気を出す。
「吸えねぇだろそんな状態じゃ……いや……1本吸えよ」
懐からタバコの箱を取り出して、血に染って赤く湿気ったタバコを咥えさせる。火をつけようとするが着くはずなどない。
そんなタバコを吸って硝子は満足気にしている。
「あり…がと…げほっ……! ごほ、ごほっ……」
吸った息と共に血が喉に流れ込み咳き込んでしまっている
「それとり上げ…」
硝子の加えたタバコを口元に押し込まれる。残り少ない命を削って何をしているのだろうか。
「は…は……あんがい……さま…になる……じゃん」
「何やってんだよ…お前」
何がしたいのだろうか、分からない。
「これが…最後なら、何か言ってくれよ」
「……そん…な……かお……して……わか……れる……つも……り?」
硝子の瞳に映る五条悟はぐちゃぐちゃに泣きじゃくって、まるでガキのようにみっともない顔をしている。
「……」
別れは何度か経験したが未だに慣れない。感情のコントロールができない。それでも精一杯笑みを浮かべる。なんともまあ不器用な笑顔だ。泣きながら笑っている。イケメンの顔に似合わないそんな不格好な笑顔でも満足できた彼女は口を開く。
「わた…し……が…いた……ろ」
「なに……が……ひと……り…………だ」
それだけ言うと満足そうな表情を浮かべ目を閉じる。
心残しをやっと解消できた。
「やっと……いえ…た」
反転術式が解かれる。自発的にといたのではない。呪力が底を尽き、反転術式が回せなくなったのだ。下半身が完全に潰されていた状態で生きながらえていたのが奇跡のようなものだ。
「硝子……しょうこ……」
何度、何度も揺すっても。
その名を呼びかけても。
声が帰ってこない。
「私が居たろって言うなら」
「俺を置いていかないでくれよ……」
大切な友人の亡骸を抱きしめる。
生気が抜け軽くなったその体を傷つけないように慎重な戦い方をしなければと思い立ち上がり…
「やっぱ無理だわ」
無限に阻まれていた奴らが流れ込む。そいつらは周囲に放たれた呪力に触れた瞬間、削るように抉られ次々と消失していく。欠片ひとつもこの世界に残されることは無い。
感情のままに、力を振るう。こいつらを根絶やしにするために
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星間宇宙の帝王ハスター討伐
星間より地球に襲来。
黄の印を大量にばらまかれたことにより多数の人間が狂気に飲み込まれる。
人類の4割がハスターの名を呼び死亡。呪術師全滅。
戦闘開始4時間後、五条悟覚醒によりハスター討伐。
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千匹の仔を孕みし森の黒山羊シュブ=ニグラス討伐
避難壕に籠っていた信者が儀式を敢行しそれにより避難壕にいた人類は全滅。
創造された数万の眷属との交戦を開始。
戦闘開始2時間30分後、シュブ=ニグラス及びその眷属を討伐。
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ニャルラトホテプ討伐
外宇宙にいる本体から送られる影だったとはいえ殺されてしまうとはね。
この戦いで彼への信仰が完全なものになり、五条悟は我々と同じ神格の位階に足を踏み入れた。
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万物の王、盲目にして白痴の神アザトース討伐
面白そうだからと影を送り出して見たがなんと討伐されてしまった。正確には虚数空間に封印されたという感じだったね。
この瞬間、彼は完成した。彼は我々と同じ領域に殴り込んだ。
目覚めてはいなかったとはいえ、力づくで対処しきったのだから。
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と、クトゥルフ以外に書く内容がなかったのと速攻で終わってたから駆け足みたいになってしまったね。これが五条悟の功績、この世界の末路さ。
彼は1000年近くの費やしこの星にいた全ての神話生物を討伐でし、封印し駆逐することに成功した。紛れも無い偉業だ。
でも彼も不憫だね。天内理子が呼び起こしたものにつられた神格が、世界を侵食することの出来る唯一の存在を排除するためにやってきた神々が彼の望みを踏みにじる。
彼の人生は、彼女と出会ったことで歪んでしまった。この世界の天内理子がいなければここまでに起きた出来事は何一つ起きていない。
夏油傑が死ぬこともない、神話生物たちが目覚めることも襲来することもない、それにより人類がほとんど死んでいくようなことも。
本来居ないはずの異物のせいで苦しんでる彼が
おや?
このアザトースの宮殿にお客さんがやってくるようだ。
ならば相手をしてあげなければいけないね。
神殿の外に1歩踏み出した瞬間、世界が揺らめく。
数十、数百、数千、数万、数億。数えるの馬鹿馬鹿しくなるほどの数の破壊の前兆が、無限に威力を増大させ紫色にこの宇宙を染め上がる。
空間がねじ切れるような衝撃が、紫紺の奔流が、宙を駆け抜ける。そこにある全てを虚無にするために。
白痴の王が目覚めぬ様にその全てを消し去り、前に出る。
「君からしたら必要ないだろうけど名乗っておこう」
「『這いよる混沌』『無貌の神』『盲目にして無貌のもの』」
「ナイアルラトホテップ」
宮殿のヘリに降り立った不敬なお客人は意外にも人間達に信仰されていた己の名前を告げる。
「
「五条悟」
その言葉と共に両者はぶつかり合い、そして───
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「「「めんそーれー!!!」」」
「は?」
唐突に真横から3人の声が聞こえる。切望していた懐かしい声が聞こえる。閉じていた瞼を開き世界を見る。
そこには夏油傑がいた。家入硝子がいた。天内理子がいた。
眩しい光につつまれた太陽が照りつける真夏の海……という訳でもなくただの空港だ。
「どういうこと?」
1000年という月日と共にこの世の全て…と言うには過言だが、この世の大半のことを理解してきた。そんな五条悟の脳が目の前の事象を理解することは出来ずに停止してしまっている。
「みんなで悟が来た時、どんなこと言ったら困惑させられるか考えていたんだよ。今の掛け声の時にいなかったメンバーもいるけれどね」
「しょうがないでしょ。あの任務はあんたら2人に命じられてたんだし。私も海で遊びたかったな」
「まあまあ、場合によっては妾、黒井、傑、硝子さんと4タテされてた可能性高そうじゃし……結果オーライ?」
「私は即死してしまったけど、犠牲が少なければ結果オーライかもね」
「私も下半身潰されて苦しんで死んだけど」
「う……結果オーライじゃないかもしれないのじゃ。でもあの時、全員死ぬを良いとは言えぬ」
からかってごめんな、と後輩いじりをしていた硝子は天内に優しくしている。まるで軽めのDVのようだ。
感慨深い。あの時には叶わなかった光景が目の前にある。それだけで感情の昂りが抑えられない。あと誰か現状何が起こってるか教えて欲しい。
「仲良いのは結構だけどさ…俺おいてけぼりにするのはやめろ」
「悪いね。君がいない時期が長くてさ」
「あ?どんくらいこの空間にいるんだよ」
「ほぼ1000年ってところだよ。私が死ぬ前からこいつら居たみたいだけど誤差みたいなもんだよ」
傑が死んでからずっとここにいたようだ。
「今みんな気を利かせてくれて、この場にはいないのじゃ。七海さんと灰原くん、学長に黒井みんなで悟の活躍を見ておった」
「その喋り方似合ってないぞ。やめろ」
「急に酷くない?」
「ほらそんな酷い男は放っておいてさ。こっちおいで」
茶番が目の前で繰り広げられている。
「お疲れ様…悟の頑張りずっと見てたよ」
その言葉と共に天内は悟の体を横から抱きしめる。
「おま…なにを……」
天内は対面にいる硝子にアイコンタクトを送ると彼女はものすごいしかめっ面になるが、ジト目で見つめられると諦めたように動き出す。
「頑張った…ごめんな呪い残して逝って」
多くは語らず天内の真似をして抱きしめる。頑張り続けた功労者を労ってやる気はあるようだ。何も言えなくなっている悟を放置して、二人で残っている男に視線を送る。
「えぇ……これ私もやらないといけないやつ?」
そう言って悟の顔を見る。ずっと耐えてきた何かが、決壊寸前だとひと目でわかる。これは泣かして本音を聞いた方がいいと思った傑は、残った正面から彼を抱きしめる。
「君がどれだけ強くなろうが私達は二人で最強だ」
その言葉がトドメとなった。
心の奥に押しとどめていた感情が堰を切ったように溢れ出す
「最強になれたのにさ……傑が死んだろ、どうすればいいか分からなくなって」
声がかすれ、最後の言葉は涙で震えた。声帯が詰まったみたいに、言葉がぽろぽろと零れ落ちる。
「だから、お前の理想を叶えようとしたのにさぁ……今度は天内がやらかして、失いたくなかったのに、殺さないといけなくなるし」
嗚咽が混じる。言葉と言葉の間に大きな溜めが入り、肩が小刻みに震える。
「今度はキモイ化け物に硝子襲われたのに、間に合わねぇしさ」
声が崩れる。目の前の景色がにじむ。涙が一筋また一筋、頰を伝って落ちる。
「俺、頑張ってんのに……どんどん仲間は死んでくし、キモイやつらがどんどん目覚めて、片っ端から殺していくしかなくて」
言葉を吐き出すたびに胸が締めつけられ、呼吸が浅くなる。
「領域があったから無理やり何とかできてたけど、俺も限界で、死にたいって思ったけど……俺がいないと残りの人類が滅びるから、やれるだけやったんだよ」
「全部見てたんだったら……ここに俺が来た時、ほめてくれよぉ」
最後の一言は、震えと涙とでほとんど囁きになる。言葉が途切れると同時に大きなすすり泣きが漏れ、自身を抱きしめてるいる全員を腕力で集め抱き返す。
「五条……力強いって」
「きつい…きつい」
「少しは我慢してね、ふたりとも」
みんな文句をたれながらも誰1人抵抗しようとはしない。彼はこの位の褒美を与えて然るべき活躍をしたのだ。
「しょうがないな」
皆で優しく背中をさする。絵面がかなりシュールになってしまっているが悟が気持ちよく泣けるように泣き終わるまで続けるのだった。
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。外の時間を参照することしか出来ないのでわざわざ数えることなどない。
そもそもこの空間で時間を気にすること自体が無意味なのだが。
「やっと泣き止んだね…」
「泣き疲れてたら寝かしつけてあげたのに、硝子が」
「おまえら…」
目を真っ赤に泣き腫らした悟がこちらを睨みつけてくるがあんな号泣した後にされても怖くなどない。
「扱いが赤ん坊じゃん。ん〜こんな感じ?」
硝子がパチンと指を鳴らす。すると全員の脳裏に赤ん坊の格好をした五条悟の姿が浮かぶ。駄々を捏ねて暴れ回り泣き疲れたら寝る。やったら本人からフルボッコにされそうだからやらないがすごく爆笑したいとその場にいる皆が思った。
「これなんだよ!消せ!」
「はいはい」
仕方がないというように脳裏のイメージを消す。
全員に浮かんでたイメージは頭の中から綺麗に消えて無くなる。未だにこの空間の謎現象に慣れていない悟は頭を悩ませている。情報量が多かったため混乱しているが、彼ならば慣れてくればすぐに使いこなすだろう。
「私達は長い間、ここにいたからこの空間で好き勝手できるようになっちゃってね。今のはイメージの送信、あとは記憶の再生だったりといろいろできるよ」
「訳が分からねぇ……」
「ここはそういう場所だからね。やれることは解明できてるが成り立ちや、この空間が存在する条件などはさっぱりさ」
さてと、とつぶやくと天内が口を開く。そんな分からない小難しいことはもういいだろうといいたげな様子だ。
「これからどうしようね」
天内は悟の顔を眺める。これからの方針を決めるためにどうしたいかを尋ねてくる。、
「そうだな」
やりたいことは山ほどある。それほどにまでこうやって全員で集まれることを切望していた。
「まずは空港から出ようぜ。遊ぶんだったら空港の中はあれだろ」
「外ね。五条が期待してるようなものはないかもよ」
「まあまあ、それでもいいじゃないか。私たちにとっては慣れ親しんだ場所だけど悟にとってはそうでも無いのだから」
「黒井や七海さんたちも呼んでくるね」
ああ、楽しい。ただの会話ですら楽しいのだ。
頑張ってきたかいがあったというものだ
「これが俺の妄想じゃないことを祈るよ」
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あの戦いがどうなったのかはこの空港にいる誰にも分からない。誰もがその戦いを観測していたが、認識できる領域にいる人間がこの空間には一人もいない。
戦っていた当人である五条悟ですらその結末を理解する前にあの空間にやってきた。
宮殿の外で起きていた激闘の勝者はアザトースの宮殿を闊歩する。服は所々破けているがその姿に傷一つない。
その道中にこの宮殿の主と同じく白痴となった異形達を片手間に消し飛ばす。その宮殿の最奥、そこにいるのだ、
すべての無限の中核で冒瀆の言辞を吐きちらして沸きかえる、最下の混沌の最後の無定形の暗影が。
その者は、魔王の前に現れ、命に手を伸ばす。
白痴の王が目を覚ます。この宇宙は王の夢とされている。この世界は白痴の思考とされている。
故に混沌で出鱈目でこの世界の全てを理解することが出来ない。だから目が覚めたらこの世界は滅びる。
はずだった
だがこの宇宙は滅びることは無い。
この世界を思考し続けるものがもう1人現れた。
五条悟の背後には無限の方陣が宙に浮かび、夜空に反転した星座のように回転し続けている。
それが領域展開されている間にしか使えない。虚数を関する本来無いものをあるものとする虚式。実数を関する本来あるものをなかったこととする実式。変数を関するあるものにも無いものにもなる常に定まらない結果を生み出す変式。
この3つを混ぜ合わせることで生み出される、実数と虚数、そして変数をあわせた複素数を関する最後の技、終式『白』。
術式効果は森羅万象あらゆる概念を取り込み、変換・模倣する。
領域内に入った全ての存在を解析、その要素を分解し自身に同特性を付与する。この術は本人の持つ呪力が切れるまで維持され続ける。その対象の強大さに応じて解析できる時間と使用される呪力量は格段に跳ね上がる。
その問題は約1000年間領域を展開し、無限とも言える呪力量と無限の処理能力を手に入れている。無限であり続けることで能力の向上はいつまでも繰り返される。
窮極の虚空の暗澹たる螺旋状の渦動が止まる。
五条悟はアザトースと同一存在となった。そんな彼でもアザトースを殺すことは出来なかった。同一存在になったとはいえこの宇宙を想像をし続ける程の情報を処理する能力はまだ足りていない。
だけどその思考に介入することは出来る。この世界からこれから新たな神格が生まれないようにこの世界をコントロールする。
「これでいいんだよな…傑」
これから地球に残った人類は復興をし続ける。
呪術は弱者を守るためにある。そう語った彼の理想を継いでから叶えるまでにこんなにも長い時間がかかってしまった。
それでも成し遂げたのだ。
この世界には五条悟が居る。
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