どうも最強共の元友人です。   作:虎神

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なんとかなれー
リハビリ


プロローグ『最強の鬼共』

 

 

──あ、やっべやりすぎた。

 

 

空中、目の前で音を立て崩れる城壁。砂煙の中、そこから俺の跡を追うように飛び出す一つの人影。だが、その姿は普通の人のそれではなく、異形であった。

女物の着物の袖から腕が四本。顔には目が四つ、口が二つ。特に、顔の右半分は板のような肉が貼り付けられた姿。

 

 

「『解』」

 

「あぶなっ!?」

 

 

不可視の斬撃。万物を切り裂くソレを腰に備えた刀で迎撃する。見えないのにどう迎撃したのかなどは特に考えてはいけない。感じろ。

攻撃を防がれた男は気分が悪そうに顔をしかめた。

 

 

「ッチ、ウザッ」

 

「お前今首狙ったろ!髪掠ったじゃねぇか!」

 

「なれば黙って首になれ。領域──」

 

 

あ、それはマズイ。俺も無論やばいが、周りがもっとやばい。

下を見れば人々が商いを行う姿。ここでこの馬鹿の領域展開が発動された瞬間、下の人間は鏖殺される。

 

 

「させるか」

 

「ッ!」

 

 

術式(・・)により何処からともなく現れた二尺ほどの歪な形の小刀を投擲。音速にも等しい速度で飛んだソレは、その印を結ぼうとする男の肩に突き刺さった。

瞬間、異形の男の呪力が霧散し、隙が生じた。空を蹴り、目にも止まらぬ速さで接近。遠くに映る適当な更地へ蹴り飛ばした。

木々を薙ぎ倒し、岩を砕き、凄まじい爆音と共に地面を跳ねる男。

 

 

「...なんだこれは」

 

 

血を口から吐く蹴り飛ばされた男。空から降りて来た俺に対し恨めしそうな目を向けた。

 

 

「あ、それ最近手に入れた呪具。『天逆鉾』って名前らしくて、術式の強制解除が能力」

 

 

使えば呪術師を必殺出来る武器と言ってる事にこの阿呆は気づいていないのだろうなと、内心呆れる男。

 

 

「...貴様みたいな阿呆がもっとも持ってはならぬ代物だな」

 

 

肩に突き刺さったソレを抜き、少し観察するようにジッと見ると、ゆっくりと立ち上がり後ろを向く。

その瞬間、俺は嫌な予感がした。

 

 

「あれ、ちょっと宿儺(・・)さん?なぜ故に後ろをお向きに?そしてなぜ天逆鉾をお振りかぶりになって──」

 

「フッ」

 

 

刃が、空を飛んだ。星になった。

 

 

「あぁああああああああっ!?」

 

「どうした、何かあったのか」

 

 

膝を降り項垂れた俺の姿を見てニヤニヤする目の前の男。

だが、この喧嘩の発端は元は自分なのだ。どれだけ入手が困難で、やっとのことで手に入れたい呪具を一度使っただけで捨てられたからと言って、ここでやり返しては一生争いは無くならない。

 

 

そう、歩み合いこそが世界を平和にするのだから──

 

 

「ま、そんな世界知った事じゃねぇけど。くたばれ世界、俺の八つ当たりに巻き込まれろ」

 

「...貴様はやはり、呪いよりも呪いらしいな」

 

「うるせぇ。同類」

 

 

互いが同時にゆっくりと印を結んだ。

宿儺は両手を合わせ中指と薬指以外を折る形。

そして俺は両手を合わせ中指を立て、人差し指を折り、それら以外を交差させる形。

空間が軋み、常人であれば近寄るだけで死に至らしめる程の呪力の密度。

 

それは、同時に爆発した。

 

 

『領域展開』

 

 

──このあとめっちゃ呪い合った。

 

 

 

「それで、何故あんなことになっていたのですか」

 

「いやあの、裏梅ちゃん。なんで俺だけ正座?」

 

 

荒れた更地を綺麗な更地にして帰って来た俺達だったが、待っていたのは額に青筋を浮かべる一人の綺麗な女性だった。どうやら食料を狩りに行き帰って来ていた途中、目の前で城の一部が爆発。中から出て来た二つの人影で全てを察したとの事。

 

 

「理由を聞いても良いですが、どうせ鬼凱(きがい)さまが何かやらかしたのでしょう?」

 

「酷い!?そりゃ裏梅ちゃんが宿儺の従者だから、こいつの肩を持つのは分かるけど」

 

「では、鬼凱さまは何もしていないと?」

 

「......」

 

「何かしてるではないですか」

 

 

ため息ひとつ。一体なにをしていたのかと聞いてくると、上座に座る宿儺が口を開いた。

 

 

「酒に、汚物のような呪霊の腸をいれた」

 

「なにしてるんですか貴方様は」

 

「いや、試した事なかったなぁって」

 

 

そう、俺のここでの役目は酒造りだ。元々知り合ったのも趣味だった酒造りで作った酒をこいつに飲まれたのが発端である。

その飲まれた酒というのも十年掛けて作ったものであり、ある日いつものように山の頂上の家に帰り、蔵を開けたらこいつが全部飲んでてキレ散らかした。

その後始まる全力の殺し合い。結果、山が三つほどとそこに住む生命全てを鏖殺し、両者共倒れ寸前といったところで、こちらが詫びに酒を作る環境を寄越せと要求。するとあちらも、ではその作った酒を飲ませろと要求して来た。

 

いや、お前勝手に飲んだくせに何様だよ。

だがこれ以上殺し合った所で両方死ぬのが目に見えていたのでちょうど良かった。

こうして、世にも珍しい呪いの王との『酒』での縛りが完成した。

内容は『酒造りの場所を提供する代わりに、その酒の半分を宿儺に献上。また、初回の場合は味見役として宿儺が行う』

 

呪いの王と、それに並ぶイレギュラーが全力で作った縛り。もしも破れば間違いなく死ぬレベルの縛り。

すごい技術ですごい馬鹿な事をやっていると自覚をしてほしいところであった。

 

 

「でもそっかぁ、美味しいと思ったんだが」

 

「貴様は裏梅に呪霊の処理の仕方を習え。でなければ触るな」

 

「いやでも、匂い完璧じゃなかったあれ」

 

「...だからこそタチが悪いのだ阿呆」

 

「綺麗に霧吐いたもんなお前。まだ余ってるから裏梅ちゃんも飲む?」

 

 

遠慮しておきます。

裏梅はそう言って立ち上がり、夕食の準備をしてくるとその場を去った。

空にはすでに月が昇っており、今日はどうやら満月のようだった。

俺は廻縁に出ると上座に座る宿儺を呼んだ。

 

 

「おい宿儺、こっち来て飲もうぜ」

 

「.....」

 

 

宿儺は無言で立ち上がると、地べたに座る俺の隣に腰を落とした。

俺は懐から符を一枚取り出し呪力をこめると、そこから出現した一本の瓶が右手に握られた。そして、いつも持ち歩いている猪口を宿儺に一つ渡す。

 

 

「ほら、猪口出せ」

 

「...冷酒か」

 

「ああ。裏梅ちゃんの術式で作った簡易型冷凍酒だ」

 

「貴様は、あいもかわらず阿呆な事を考えるな」

 

「いや、宿儺だってあの子を連れてるのそういう理由もあるだろ」

 

 

カンッ猪口を合わせると、お互いにそれを一気に飲み干す。

 

 

「美味いな、流石俺だ」

 

「これだけは貴様が上だな」

 

「おいおい、今まで全部引き分けてる相手によく言うぜ。ほら、もう一杯」

 

 

お互い遅いペースで飲んでいたが、なにぶん二人で飲んでいる分、減るスピードも二倍だ。最後の一杯。俺は宿儺の猪口に注いだ。

静かな空間。外からは少しぬるい風と、虫の鳴く声だけが微かに聞こえる。

 

 

「......」

 

「なぁ宿儺、お前、俺と殺し合って楽しいか?」

 

「...なんだ突然。気持ちの悪い」

 

 

顔は合わせない。月を見上げ、うわごとのように会話をする。

 

 

「いや、急に気になってさ。今日みたく殺し合うのってよくあるけど、お前って俺以外と本気で殺し合ったことってあんのかなって」

 

「...認めたくはないが、俺が会った呪霊、術師、式神の中で最もマシだ」

 

「お、えらく高い評価の事で。...じゃあ、俺がいなくなったら寂しいか」

 

 

そう言った瞬間、嫌な気配がしてそこから飛び上がった。見ると、先ほどまで自分が座っていた場所を見ると、そこは何かが通ったように抉れていた。

 

 

「お前、急に『捌』はやめろよ」

 

「気持ちの悪い事を言うからだ阿呆。誰が貴様がいなくなって悲しむ。裏梅も喜ぶだろう」

 

「そんな事っ....ない、とは、言い切れないな」

 

「だろうな」

 

「ああ、だな」

 

 

虫の声も、もう聞こえない。完全な静寂に包まれた空間。宿儺はじっと月を見上げていた。

 

 

「宿儺、俺さ、今日で終わりにしようと思う」

 

「......そうか」

 

「ああ。自惚れじゃないが、俺はたぶん、この時代でも上位の強さにいると思う。でも、それが何になるってんだ。俺は人が好きだ。だが、人は俺を『凶星』だとか『鬼神』だとか呼んで、腕の立つ連中を送ってきやがる」

 

「ならば全て殺せばいいだろう。所詮、この世は強きが生き、弱きが死ぬ世界だ」

 

「そりゃ、お前みたいに割り切れるならいいさ。自分に向かって来るものは、全て縁のあるものと。だけど、あいにく俺は戦いには興味がなくてね。一人のんびり酒を作って、その日をダラダラ出来ればよかったんだよ」

 

 

いつからだろうか。人に恐れられ、呪術師を差し向けられるようになったのは。殺せばその者の子孫が。生かせば己が子と共に向かってくる。

お前の存在が悪いと、お前は強すぎるから駄目なのだと、血を吐きながら何度も言われた。

 

 

「だからもう、いいかなって」

 

「...羂索のあの話か」

 

「いや、違う違う。言ったろ、戦いに興味は無いって。あの屑の事だ。どうせめんどくさい事に巻き込まれるに決まっている」

 

 

そう言って、俺は懐から一つ桃のような果実を取り出した。

 

 

「これは呪物『仙桃』。効果は不老不死、もしくは──生命の転生、と言われてる」

 

「...何故、俺の前でそれを言う」

 

 

ゆっくりと立ち上がる宿儺。だが、変わらずこちらに顔を見せることはない。

 

 

「そりゃ、お前とは長い付き合いだし。お前がそう思ってなくても、俺はお前を勝手に友人だと思っているからな」

 

「...気持ちの悪い奴だな、貴様」

 

「今日だけで何度気持ち悪いって言われたんだ俺」

 

 

肩をしかめ、俺は一気に桃のようなそれを頬張った。味は無味。これ作ったやつは裏梅ちゃんを見習ってほしい。

 

 

「じゃあ、あとは頼んでいいか?」

 

「...残りの酒はどこに隠してある」

 

「城の南側城壁の中。あとは裏梅ちゃんに言ってるから」

 

「そうか」

 

 

そこで、宿儺は振り返った。

屈強な身体。異形の姿。冷たい目。どれも見慣れた、最強の姿。

 

 

「領域展開──『伏魔御廚子』」

 

 

現れる闇の空間。中央には大きな開いた口が付いた建物と、山のように積み重なる水牛のような骨。

その中央に、宿儺はただ無表情で立っていた。

 

 

「...わざわざ『領域展開』してまでやってくれとは頼んでないぞ」

 

「文句を言うな」

 

「うぇーい」

 

 

両手を上げ、来るべき斬撃に目を閉じた。こいつの事だ。最悪一発で殺してくれないかもしれない。そう思ったら頼んだのもしかして悪手じゃなかったんじゃないかと思えて来た。

にしても、なかなかに攻撃が来ない。うっすらと目を開けると、宿儺は変わらずそこに立っていた。

 

 

「あ、あのーすく──」

 

鬼凱(・・)

 

 

それは、宿儺の言葉で初めて聞いたものだった。

 

 

「お前は、強かったぞ」

 

「──なんだよそ」

 

 

首のない胴体が、視界に映った。

いや、最後の言葉くらい最後まで聞けよ。

 

 

こうして呪いの王と並ぶと言われた鬼人『鬼凱』は死んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は夏油傑。君は?」

 

「俺は──八雲清祥(やぐもせいしょう)。よろしく、傑」

 

 

物語は再び廻り始めた。

 

 




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