「「ブライダル撮影?」」
6月のある日のこと。俺と愛里は、坂柳理事長に呼ばれて応接室に行くとそんなことを言われたのだ。
「うん、とあるカメラマンが雫を気に入って起用しようとどこからか得た情報を頼りにこちらに電話があってね。」
「ごめんね。雫ちゃん、私たちもいろいろと情報規制してたつもりだったんだけどね。」
事情を説明してくれた理事長の隣に座っているのは、雫の元マネージャーである。申し訳なさそうにしているので、ホントに情報を規制して雫である愛里を守ろうとしてくれたのだろう。ただ、人の口に戸は立てられないものだ。
「ブライダルってことは私はウエディングドレスを着ることになるんですよね?」
「…まあ、そうなるわね。」
「相手も用意されるのですよね?」
「…そりゃあ、そういう撮影だからね。」
「私は絢都以外の人とはやりたくありません!!」
愛里がそう言って圧を送るが、そればっかりどうしようもないだろうと俺は思ってしまう。
「君が彼氏君なんだよね?」
「えっはいそうですが…」
「随分と愛されているんだね。君は雫ちゃんが他の男と撮影してるのは嫌かな?」
「……出来上がった写真を燃やしてもいいなら、耐えられると思います。」
「あはは…君も過激だね。」
「冗談ですよ?」
「あははそっかあ(顔を見るに本当にやりそうだなこの子)。」
からかってきたマネージャーさんが俺の解答に若干顔が引き攣る。なんか俺やらかしたか?
「というかこういうのっていいんですか?」
「そうだね…今までなかったことではあるけど、誰かを惹きつける魅力も実力の一つだと思うよ。」
理事長的には、初の試みではあるけど、本人さえ了承すればオッケーという感じなのだろう。
「…カメラマンを説得出来ればいいのかな。」ボソッ
「それよ!!カメラマンを説得して雫ちゃんも彼氏君も納得できるものにしたらいいのよ!!」
愛里のつぶやきにマネージャーさんが即座に反応してどこかに電話する。おそらく件のカメラマンに電話しているのだろう。しかし、説得なんてできるのだろうか。芸能界には詳しくないし、闇がはびこっているなんて偏見を持ってる俺からしたら説得なんて不可能に近いと思っているが。
「雫ちゃん、彼氏君。カメラマンがもうすぐ来るからまずは、二人で説得してみてね。」
「はい!勝ちをもぎ取ります!!」
「この場合の勝利ってなんだろうな…」
愛里は、やる気十分だ。俺ができることはあるかはわからないが、やれることがあるならそれをしよう。というかマネージャーさんの俺に対しての呼び方は『彼氏君』固定なのな。
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「うーん…難しい話だな。」
カメラマンは難色を示していた。いや普通に断られると思っていただけに予想外ではあるが。
「私は絢都と撮りたいんです。」
「なんとかなりませんか中村さん。」
中村と呼ばれたカメラマンは、愛里とマネージャーさんの懇願にも首を縦に振らずにうなり続けている。やはり素人を起用するとなると、何かしらの問題があるのだろうか。
「いやさ、雫ちゃんの望みは、叶えてあげたいよ?でもさどこにも所属していない人を使うのは…」
「は?」
「落ち着いてくれ愛里…その…報酬というかお給金を出せないとかそういう問題ですか?」
「まあ…おおよそその問題が占めているのは事実だね。」
愛里を宥めながら疑問をぶつけたが、やはりそういう問題だったか…まあ、グラビアアイドルとかそれを抱える事務所は、それで生計をたてているわけだからな。
「であれば、俺はボランティアとかそういうので構いませんよ。愛里が納得してくれるのが俺にとっては一番ですし。」
「いやそれは俺様が納得できないの。俺様が撮影したからには、その写真という思い出とちゃんとした報酬を渡すという俺様の美学があるわけ!」
「さいですか…」
なかなかに拘りを持っている方だったわ。こういうキャラの濃い人ばかりなのかなカメラマンというのは…
「……雫ちゃんさあ、他の人で撮影は…」
「くたばれ。」
「冗談、冗談だよ…」
愛里の発言にたじろいでしまう中村さん。愛里よ、アイドルがくたばれなんて言ってはいけませんよ。
「…雫ちゃん…彼氏君とだったら『エモ』撮れる?」
「最上の『エモ』撮れます。」
「へぇ最上の『エモ』が撮れるんだね?」
「『エモ』も本物の愛も撮れます。」
「よしならば、彼氏君と撮ろう。報酬のことは俺様に任せておけ。」
「ありがとうございます。よーし、雫ちゃんこれから準備してくるね。」
「はい、マネージャーさん、カメラマンさんよろしくお願いします。」
…エモってなんだろうな。三人で盛り上がってなんか疎外感を感じてしまうな。なんだか俺が若者言葉についていけないオッサンになった気分だぜ。
「みんな若いなぁ…」
「黒凪君。君も最年少の枠組みにいるんですよ?」
「…理事長。帰ったんじゃなかったんですか?」
「…僕はさっきからずっとここに座っていたよ?」
すみません、完全に存在を忘れていましたよ。なんならみんなして気づいてないんじゃないでしょうかね。
そうしてあれよあれよと話が進み撮影の日が近づいて来るのであった。
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「遂にこの日がきたか。」
時が流れて撮影日当日。場所は学園の外にある教会にいる。そんななか俺は、黒いスーツを着て準備をしていた。まさか撮影のためとはいえ学生のうちにこういうのを着ることになるとはな。
「失礼します。彼氏君、準備はできてますか?」
「あっはい出来てます。」
ノックしてマネージャーさんが入ってきた。来るのはいいけど、この人確認と共に入ってきてものだから、その質問は意味ないでしょうよ。
「彼氏君も様になってますよ。これはいい画が撮れそうですね。」
「そうですか。ありがとうございます。」
マネージャーさんが指でフレームの構図を作り、俺の方を見ていた。本音なのか世辞なのかはわからないが。
「雫ちゃんも準備出来ていると思うから行きましょうか。」
「はい、今日って本番さながらの流れで撮影するんですよね?」
「そうね。入場してこちらが用意した指輪を付けあって貰って、神父さんの問いかけに誓って貰って、最後に口付けだね。」
「…なるほど、了解です。」
今日のやる事を改めて確認したわけだが、口付けまでするのか…少々気恥ずかしいというか、なんというか…
「あれあれー、彼氏君、もしかしてキスはまだだったかな?」
「…そうですね。デートは何回もやってはいますけど…」
マネージャーさんのからかいに何を真面目に答えているのだろうな俺は。
「…もしも初キスを撮られるのがいやなら言ってね?中村さんにはなんとかしてるような構図で撮ってもらうからさ。」
「いや、大丈夫です。愛里も嫌なら撮影が始まる前にキスをしますので。」
「君は大胆なのかよくわからないね…」
「そうですか?」
マネージャーさんから謎の配慮もされたがそこに関しては、愛里に聞いてみるしかないし、いざとなれば本当に先に済ませればいいからな。そう考えるとなんというか呆れられたような気がする。
「さてついてきて彼氏君。」
「どちらへ?」
「君のお姫様のところよ。」
「わかりました。」
そうして俺は、愛里のいるところに案内された。
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「雫ちゃん、彼氏君を連れてきたよ。」
「はーい、こっちも着換え終わってます。」
「了解、さあ彼氏君。撮影が始まるまでの間にいろいろと話たり、ドレス姿を堪能しておきなさい。」
「あっはい。」
マネージャーさんが愛里のところまで案内してくれて、いろいろと気をまわしてもらっている気がするが、今はそれに甘えるとしよう。
「入るぞ。愛里。」
「うん。」
ノックをし、一度確認をしてから入る。そこに純白のドレスを着た愛里が座っていた。伊達メガネはしておらず、その姿も知っているはずなのに知らない佐倉愛里に出会ったような気がした。
俺は、いろいろと言葉を紡ごうとしたが自分の口から出てきた言葉は…
「美しい。」
たった一つの言葉だった。
「…ありがとう絢都////」
その言葉に照れ笑いをしながらも反応する愛里に俺も顔が熱を帯びていく。
「ねえ、絢都。」
「どうした?愛里?」
「お願いがあるの?」
「なんだ?」
愛里が両手を組み何かねだってきた。何を言われるか想像がつかない、撮影のことなのかここで済ませられることなのか…
「ここでプロポーズをして欲しいの。」
「……プロポーズか…」
そう来たかと思案する。心臓が高鳴り上手く言葉が紡げないような気がする。
「昔言ったプロポーズでいいか?」
「ううん、新しい言葉で思いを伝えて欲しいの。」
「そうか…ちょっと待ってくれ。」
そう言って俺は愛里に背を向けて考えるあのまま愛里を見ていたら何も言葉が出ないまま撮影の時間にまで到達しそうだから。
しかし、新しい言葉かぁ。昔は勢い余って『僕のお嫁さんになってください。』とは言ったがそれを却下されてしまったからには、少しばかり捻りが必要だろうな。
…うん、全然思いつかない。どうしようか。
「ご、ごめんね。無理そうなら大丈夫だよ。」
「いや大丈夫、なんとしてでも思いつくようにする。」
とは言ったがどうするか、この世界に来てから一番に悩んでいるかもしれない。
…世界…かあ……そうだ!
俺は愛里の方に向き直り、膝をつき、愛里の手を優しく握って告げた。
「たくさんの色が溢れる世界で、あなたの隣を歩いて生きてもいいですか?」
「っ!?はい喜んで。」
この作品を知り、佐倉愛里を好きになり、転生して、黒凪絢都という生を受けて、ここが一つのパラレルワールドだと認識でいた時もあったが、今目の前にいる佐倉愛里にとってはこここそが現実であるのだ。
俺は、やはり心のどこかで、この世界を作品の延長線上に見ていたところがある。だからこそ先程の言葉は、愛里に向けた言葉でもあり、自分がここを現実だとして生きていくための決意表明でもある。
「雫ちゃん、彼氏君、撮影の準備出来たから行こうか。」
「「はい。」」
マネージャーさんに呼ばれて、プロポーズの余韻もないままに移動することになる俺たち。
「あっ絢都。」
「どうした?」
「数年後のプロポーズも期待しているからね♪」
「はは、わかったよ。」
この部屋を後にする前に言われた愛里の言葉に少々苦笑いしてしまいそうになるが、了承する。こんなことを言われても面倒だとは思わない。
あぁ、俺は、本当に佐倉愛里が
「好きなんだよな。」
そんな思いが声にだしていたことに気づかず、後ろにいた愛里がそれを聞いて、固まっていたことには気づかずにいた。
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こうして俺たちのブライダル撮影会が始まった。
入場から撮影が始まり俺は、なるべく自然な表情でいられるように努めた。一歩ずつゆっくりと歩く度にカメラマンは、何度もシャッターをきる。
次に行われたのは神父への問いかけというか誓いあいだ。
「新郎絢都さん、あなたは愛里さんを妻とし、健やかな時も病める時も愛することを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「新婦愛里さん、あなたは絢都さんと夫とし、健やかなる時も病める時も愛することを誓いますか?」
「はい、誓います。」
この間もカメラマンはいろんな角度からシャッターをきっている。すこしばかり視線で追いそうになるがなんとかこらえて前だけを見る。
「では誓いの口づけを。」
「「はい。」」
はいと返事したわいいけど、緊張はするものだ。愛里と向き合っている状況になったが心臓が大きくはねている。
「えへへ、き、緊張するね。」
「あぁ……愛里、いいか?」
「うん、いいよ。」
そして顔を近づけ口づけをする。カメラマンが物凄い勢いでシャッターを切っている、歓声をあげないかわりと言わんばかりにシャッターをきる音が聞こえる。
これが初めてのキスではあるが、愛里にとって良き思い出になっていたら幸いだ。
こうして俺たちの撮影会は、終わりをつげた。
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後日談その1
あれから数日が経過した。理事長伝いに学園内にも俺たちの写真を使ったブライダル雑誌が発売されたと聞いた。なんというかいざ誰かに見られるとなると、いささか恥ずかしくなる。だがまあ、うちのクラスは、真っ先に祝福しそうなやつがいるから、そう悪いことにはならないだろう。
「よし、行くか。」
そう言って俺は、自身の薬指につけていた指輪を外して寮から出る。あの日の撮影会で、参加報酬として、俺と愛里は指輪をもらったのだ。カメラマンが粋な計らいというものをしてくれた。
だが、流石に学校につけていくのは、ペナルティになりそうだからと二人とも行く前やデートのときにしかつけないようにしている。
「黒凪君!聞いたよ!!!」
「おう、平田。何を聞いたって?」
教室につくやいなや、平田がやってきた。何やらとても興奮している気がするな…
「佐倉さんと結婚したんだね!!今の黒凪君、とても愛が溢れているよ!!!」
「結婚式の撮影会をしただけであって本当に結婚したわけじゃないからな!」
平田の言葉に教室にいたみんなが驚きの表情で見てくるが、俺の言葉に納得して大半が向き直って先程からの雑談にもどる。
「ぼぐは、ぼぐはとでもがんどうじでいるよ。」
「それはいったい何の涙なんだよ!!」
感情がオーバーフローを起こしたのか平田がいきなり涙があふれだした。本当にどうした?
「いつ、発売されるんだい?」
「たしか今日発売だったぞ。」
「そうなんだね。じゃあ今日の放課後に恵と一冊ずつ買って一緒に見るとするよ。」
「そうか……それなら一冊でよくね?」
「一冊は読書用、そしてもう一つは……愛を広めるためだよ。」
「おい、俺たちの写真が載ってる雑誌をつかって愛を布教するんじゃねえええええ!!!!」
今日も今日とて混沌である、いやいつも以上に平田は暴走していたがな。
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後日談その2
例のブライダル雑誌が発売されてから、数日が経過した。売上が上々のようでありこの敷地内でも飛ぶように売れている。
人によっては元グラビアアイドルである雫の一時的な復活を一目見るためとして買った人もいるらしい。ただ、男女問わず購入した感想は、好評である。
曰く、こんな幸せな笑顔になれる結婚式をあげるようになりたいとか、こんな美しい嫁さんを手に入れるために今頑張る理由ができたとかいろいろである。
そして俺は少し気になった人たちがいる。それは、雫のストーカーもとい親衛隊の人たちである。
あの人たちは、いったいどんな反応をしたのだろうか…
「雫様の未来を祝ってカンパーイ。」
「「カンパーイ。」」
「雫様に祝福をー」
「ひょえーー。」
あの時出会った路地裏にたどり着くと、親衛隊の隊長と他二名は酒盛りをし、残り二名は、小さな祭壇を作り上げて、そこに雑誌を置き、祈りを捧げていた。
あまりにも混沌としたそんな状況に俺は…
「うわぁ…」
ドン引きしてしまった。
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後日談その3
「ふぅ…ふぅ。」
「お、落ち着け愛里。」
時間は遡って撮影会から帰って来た日の夜の出来事である。俺の部屋で共に休んでいたが、いきなり愛里が俺を押し倒そうとしてきた。
「私、落ち着いている、問題ない。」
「カタコトになっているからな。落ち着いてないからな。」
撮影が満足のいくものであったこと、報酬として指輪をもらったこと、いろんな要素が重なり、愛里は気持ちが高ぶってしまったのだろう。
さてどうやって愛里を落ち着けようかと考えていたら、俺の端末にメールが届いた。
差出人は隣人であるアルベルトだった。こんな夜になにかあったのかと確認をしたら。
『なにかよくわかりませんが何かがおこりそうなのであなたのお隣さんを連れてパーティにいってます。その後別の部屋でお泊りをするので、ワタシはいませんよ。』
……なんか空気をよんだかこいつ。というか俺の右隣はアルベルトとしっているが、左隣は誰だっけ?
「えいっ。」
「うお」
メールに思考を割いていたら俺は、端末を飛ばされ押し倒されていた。
「あ、愛里さん?」
「ふふふ、初夜まったなしだよ。」
「あーちょっと愛里さん困ります。そのいやというわけではないのですがこれは困ります。」
「ふふふ、絢都、大好き。」
「あっ。」
こうして大人の階段を上ったのであった。
あとがきの席なんてねえからぁ。
というわけで妄想とかがいろいろとでてきた作者です。書きたかったから書いた。後悔はしていない。
さて次回から原作3巻の内容に入ります。このギャグ世界での初めての特別試験…どうなるのか…
ぶっちゃけると無人島試験に関しては明確にポイントの結果を決めているのは龍園クラスだけで他はまだ未定です。
期待したりしなかったりしてお待ちください。
次回もお楽しみに。
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