どうか君だけは   作:まっちゃんのポテトMサイズ

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はじめまして。
最近最新話までアニメ見終えたんでその流れで書いてます。



第1話 依頼

日が昇ると同時に、枕元のスマホのアラームが喧しく鳴り響く。

手探りでそれを止め、体を起こす。

 

「…うん。今日もいい朝だ」

 

キッチンに向かい、コーヒーメイカーでマグカップにコーヒーを淹れる。

体を伸ばしながらリビングに向かい、カーテンを開ける。

薄明かりの空に見とれていると、枕元のスマホが振動し、同僚からメッセージが送られてきたことを報せる。

 

「もうそんな時間か。早く準備をしなくては」

 

洗面台の前に立ち、櫛で髪を梳かす。

腰まである髪は梳かすのに少し時間がかかる。

 

「髪を短くしたら少しは出勤前に時間を取れるのだろうが…。如何せん最近の髪型というのは良く分からない」

 

学生の話を聞いているとせっと?とやらにも時間がとられるようだ。

あくまでも女子目線の話だが、男子でも似た様なものだろう。

私にはこのシンプルかつ楽な髪型が合っている。

髪を梳き終え、ゴムで耳の高さで一つ結びにする。

コーヒーメイカーからマグカップを取り出し、一気に珈琲を飲み干す。

空になったそれをシンクに置く。時刻は午前六時。今から家を出ても余裕をもって勤務先に着けるだろうが…。

 

「春の朝はどうも時間が奪われてしまうようだ」

 

そう吐き捨て、クローゼットを開け、寝間着を脱ぐ。

黒のレギンスと無地の白いTシャツを取り出し、それらを着て、その上にフード無しパーカーを羽織り、ジッパーを首元まで上げる。

家の鍵と財布をポケットに突っ込み、スマホを手にしながら家を後にする。

スマホの画面で時刻を確認すると、午前7時をそれは写した。

大遅刻である。私は溜息を吐き、歩きながら同僚に電話をかける。

3コール目で彼はそれに出ると、呆れた声で「今どこにいる?」と問いかけてきた。

 

「家を出たばっかだ。…毎度のことすまないな」

「まぁ、お前が一番仕事をこなしている訳だし、先輩も俺も気にしちゃいないが…。時間にルーズなのは考え物だぞ」

 

彼は溜息交じりに言った。私は心の奥で反省しながら、少し駆け足で最寄り駅に向かう。

 

「…取り敢えず、電話、切るからな。タイムカードは自分で切っといてくれ」

「勿論だ。本当にすまないな」

 

私はそう言って電話を切り、スマホをポケットにしまう。

ものの数秒で最寄り駅に着き、速度を落とす。

ホームのベンチに座り、一息つくと、電車が音を鳴らしながらホームに入ってきた。

重い腰を上げ、薄灰色の髪をしたボブの小柄な羽丘の生徒の後ろに並ぶ。

ドアが開くと、彼女のあとに続いて中に入り、交通系ICで乗車賃を支払う。

電車に揺られながら外の景色を眺める。何の変哲も無い、ただの都会の景色。

私には酷く退屈で、空虚なものに見えて仕方がなかった。

だが、それと同時にノスタルジックな感情も芽生えてしまった。

時の流れというものはいつの時代もこうだ。

だから嫌いなのだ。

…朝からこんな憂鬱な気分で過ごすのは最悪だ。朝はなるべく明るい気持ちでいかねば。

電車が一駅隣の羽丘の最寄りで丁度停まったので、私は溜息に乗せて寂しさを吐き出し、そこで降りる。

羽丘まで歩いて向かっていると、見覚えのある警備員の制服を着た高身長の同僚の男が、校門前で生徒の視線を一身に集めながら壁に寄り掛かりながら腕を組んで立っていた。

スラッと伸びた高い鼻、キリッとした二重のターコイズの目、男とも女とも取れる顔立ちに加え、腰まで伸びた青と緑のグラデーションがかかった髪、長く伸びた滑らかな手足。

見た目だけで言えば綺麗、というやつだろう。だがまぁ、肝心の性格が男としての面が強すぎるのだ。黙っていればいいものを…。

彼は私を一瞥すると、溜息を吐き、校門をくぐって敷地内に入っていった。その後を走って追いかけると、「お疲れ様。無事に遅刻だ」と背を向けながら彼に言われた。

 

「すまないな。生憎と歳を取ると時間が早く感じてしまうんだ。…理解してくれるだろう?」

「お前は随分と長生きなんだな?」

「ああ。随分苦労してきたよ」

「うるせぇよ」

 

彼は溜息を吐き、さっさと校内にある警備室に戻った。

私もその後に続く。警備室に入ると、白髪のオールバックに、一際目立つ赤い目をした制服姿の先輩が、監視カメラの映像を写しているモニターから視線を外し、振り向いて手を振ってきた。

 

「おはよう。今日もいつも通りだな?」

「ええ。生憎と。時間が経つのが最近もっと早くなってまして」

「…大変だな」

 

先輩はそれだけ言うと、モニターに視線を戻した。私はタイムカードを切り、自分のデスクに座り、引き出しの中にある黒色に光るモノを一瞥する。

同僚は「やめとけ」とだけ言って、警備室を後にした。

 

「それもそうだな」

 

私は引き出しを戻し、椅子の背もたれに寄り掛かる。

そう、暇なのだ。日本は治安が良く、警備員といってもする事は無い。だからといって気を緩めるつもりも無いが、暇は暇である。

腰を上げ、警備室を後にして校内を歩き回る。名ばかりの建物の点検を散歩がてら行う。

生徒たちが授業を受けているのを横目に身体を伸ばす。日本の建築技術は素晴らしい。いくらすり減る事があろうと、簡単に壊れたりしないだろう。

 

「…といっても、いつかは壊れてしまう。私が気付けるぐらいでもメモに残しておこうか」

 

スマホを取り出し、メモアプリを開く。

最近この端末の使い方が分かってきた。だが、まだ最近の子達の様に素早く入力する事は出来ない。ふりっく入力?というのだろうか。

私はまだたっぷ入力?という方法でしか出来ない。時間がかかるが、いかんせん手元にある情報を残せるものがこれしかないのだから致し方ない。

 

「最近の子はよくこんなことできるものだ…」

 

そう呟きながら目に見える損傷をスマホに入力していく。

制服を着ずに歩きスマホをしている所為か、たまに授業中の生徒から奇妙な視線を送られる。

一見不審者にも思えるような服装をしているのだから仕方ないが、やはり少し心に来るものはある。

その思いとは裏腹にその視線を気にも留めずに点検をしながら歩いていると、いつのまにか既に校舎全体を回り終えていた。

メモに入力された行数を数えてみても、ほんの10行しか記録されていなかった。

 

「数年経ってその程度しか損傷がないのか…。ほんの少し前だったらこれぐらいの年月が経っていたら建て替えがとっくに行われていたというのに…」

 

今の建造物の頑丈さに驚いていると、同僚からメッセージが送られてきた。

今すぐに戻ってこいとあったが、歩いて戻る。

警備室に入ると、直ぐに同僚が封筒を押し付けてきた。

 

「これは?」

「…彼からの依頼の調査書だ。ついさっき依頼を受けて、すぐに昼飯がてら調査してきたが、まだあのDV野郎の被害は続いているようだぞ」

「相変わらず仕事が速いな。…まだ続いているのなら、そろそろ対処しないと。最悪の展開が起きそうだ。これまで通りに彼女だけでできる様な対処法を伝えるだけじゃどうにもならないな」

 

私が溜息を吐くと、先輩は鋭い眼光だけを私に送り、口を開く。

 

「俺もさっきそれを一通り見たけど、こりゃ酷いな。前回よりもエスカレートしてるじゃないか」

「ええ。だから彼は今回の依頼のときに()()を渡してきたんでしょう。もう彼は限界だということですよ。…幸い、この一件の全容は分かっているので今日中に話し合い、対処すると伝えてありますが…」

 

同僚は渡されたものを眺めながら、安堵か、あるいは呆れからか、溜息を吐いた。

 

「…これを持っていたのなら、早めにしとけばよかったものを」

「私に依頼するのはそんなに軽い気持ちでやることじゃないよ」

 

私はデスクに座り、封筒の中身を確認する。封筒を机に置き、左上をホッチキスで止められた5枚程度の調査書を一言一句、何の漏れも無く暗記していく。

にしても、何故幼馴染の親が自分の子供でもない子を心配するのだろうか。…いや、それも只の心配じゃない。これは度を越している。

ただの幼馴染だ。ただ、他の子どもより幾分か関係が深かっただけで、ただ、その子が人に恵まれなかっただけで、何故それだけの理由で私などを使う。

無論、依頼を断るつもりも、依頼主を諭すつもりも無い。…ただの疑問だ。

 

「…理解できないな」

 

息子を持っている身でも理解できない。何故そこまでするのか。

理解に苦しんでいると、同僚の男が私の肩に手を置き、うっすらと微笑んだ。

 

「…まぁ、それが幼馴染を持つ親、なんだろ。俺も良く分からないけどな」

 

同僚はそう言ってホローポイント弾が25弾入った箱と依頼主からの贈り物を机に置いて自分のデスクに戻っていった。

 

「そういうものか。血は繋がっていなくともそういう考えを持つのは大変興味深い」

 

調査書を封筒に仕舞い、引き出しの中にある黒く光るモノを机に置く。

トカレフである。かつて私が母国の軍隊に志望した際に配布されたものだ。

…あの時の事は今でも鮮明に覚えている。仲間の悲鳴も、死体の感触も、温度も、血の匂いに混じった銃弾の匂いも、自分の無力さも、全て。

 

「いや、もう良い。どうだっていい。私には最早関係ない」

 

その箱を開け、トカレフに8発装填し、引き出しにしまい直す。

椅子の背もたれに寄り掛かり、溜息を吐く。

 

「何度やっても疲れる。これはもう慣れだとかそういうもので片づけられないだろう…」

「まぁ何せ実弾銃だからな。仕方ない」

 

同僚はそう言うと、ピンクのラベルが貼ってあるエナジードリンクのプルタブを開ける。

すると、それ特有の甘ったるい香りが部屋に充満し、先輩が噎せ始めた。

 

先輩は涙目になりながら「よくそれで糖尿病にならないなお前は」と言うと、胸ポケットから白マスクを取り出す。

 

「ええ。伊達に運動してませんよ。…まぁ、彼女から少し抑えろと言われてるんで、そろそろ減らして行こうかとは考えてますが」

「あー、君の彼女、厳しそうだもんなぁ」

 

先輩は同僚に同情の視線を送ると、再びモニターに視線を移す。

一方同僚はというと、退屈そうに椅子の背もたれに寄り掛かりながら呆けていたので、私はスマホに残っている損傷個所をまとめたメモを同僚にメッセージで送り、席を立つ。

 

「あとは何とかしといてくれ。私はこれから依頼主と話し合いをしなくてはならない」

「はいはい。…俺が言うのも変だが、頼んだぞ」

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

私は微笑んでそう言い放ち、校舎を後にすると、校門を抜けて来たピンク色の髪を腰まで伸ばした私服姿の少女と目が合う。

会釈だけし、警戒しながら校門を抜け、依頼主の自宅に向かう。

幸いにも、羽丘からそう遠くないところにあるので徒歩で向かいながら、その道中のコンビニで猫のラベルが巻かれたプリンを1つ買う。

 

「確か、娘が猫好きだったはず…」

 

不安になりながらビニール袋の中身を確認をする。

大丈夫だと自分に言い聞かせ、再び依頼主の自宅への道を歩く。

数分もすると、それだと思われる一軒家に到着し、『湊』という表札を確認する。直ぐに銀髪の女性ボーカル、湊友希那の姿が脳裏に過る。彼女の母校が羽丘な上に、彼の娘が猫好きなのだから、この家はそれで間違いないだろう。彼の相談は文面で度々受けてきたが、自宅に訪れた事は無かった。

ようやくプロとしてデビューしたあのバンドのボーカルの家か…。まぁ、これから活躍していく上でDV彼氏、なんてメンバーのスキャンダルは流されない方がいいだろう。

面倒ごとに巻き込まれたと思いながらインターホンを押すと、直ぐに扉が開き、少し髭を生やした黒い短髪の美形の男、湊友希那の父がやつれた姿で出てきた。

どうしてこうも私の周りには美形しかいないのだ。

彼は私に頭を下げると、家の中に招き入れた。

私は玄関に入る際、コンビニで買ってきたプリンを押し付け、「お邪魔します」と言って家に上がる。

靴を揃え、リビングにお邪魔する。机の上に置いてある、白い花弁を付けた胡蝶蘭に目を奪われていると、彼も私の後にリビングに入ってきて、私を椅子に座るように勧める。

会釈して座ると、彼はキッチンに向かい、コップを2つ取り出し、ウォーターサーバーで水を注ぐ。

 

「…水で大丈夫でしたよね」

「ええ。ありがとうございます」

 

彼は私の前にコップを置き、自分の手元にあった水を一口飲む。

 

「では、早速本題に」

「…はい」

 

彼は同僚の男の言う通り、姿からして相当参っているようだった。

だからなんだ、という話ではあるが、このような姿の人を見るのは心地が良くない。

さっさと話し合いを済ませてしまおう。それ以上長居したくない。

 

「実行は今夜、21時。…準備についてはこちらが勝手に行います。計画は端から必要ありません。貴方達に出来る事は強いて言うならば、本来不要な、対象の恋愛関係にいる女性…今井リサのアフターケアです」

「…それについては、問題ありません」

「そうですか。…では、問題は無さそうですね。…代金は翌日に受け取りに参ります」

 

私はそれだけ伝えると、コップの水を飲み干し、席を立ち、そそくさと玄関に向かう。

靴を履くと、階段を降りてくる音が背中越しに聞こえた。

 

「…こんにちは」

 

私は振り返らずに、湊友希那だと思われる人物に挨拶をする。

彼女は「こんにちは」とだけ言ってリビングに入っていった。

 

「もうご存じでしょうが、うちの娘です」

「…ええ。Roseliaのボーカル。素晴らしい声を持った歌姫。彼女もきっと今井リサのDV被害については察しているのでしょう?」

「勿論です。…それどころか、メンバー全員が把握しているかと。現に今、バンド練習を休止しているのですから」

 

私は爪先で地面を2回叩き、扉に手をかける。振り向かずに、めったに自我を見せない『彼』の言葉を代弁する。

 

「貴方がたを心配する訳ではありませんし、肩入れする訳でもありませんが、少し休んだ方が良いかと。目のくまが酷い。…私が居るのですから、安心して、何も考えずに休んでください」

「…そうですね。少し、休みます」

 

私はその言葉を背中に受け、何も言わずに彼の家を後にする。

羽丘への帰り道を早めに歩いていると、下校途中の生徒たちと多々すれ違うが、彼女達はその度に一瞬振り返るのだから気まずいったらありゃしない。

羽丘に近づくに連れ、彼女たちとすれ違う事は少なくなり、幾分か気楽な気持ちで校門をくぐると、直ぐ近くの綺麗に直方体に整えられた草の塊が微かに揺れた。

私は不審に思いながらそれの裏を覗き込むと、薄灰色の髪のボブの生徒が居る事に気が付いた。

それと同時に向こうも私に気付いたようで、私に視線を飛ばしてくると、彼女のポケットの中から石が何個か漏れて下に落ちた。

彼女は慌ててそれを拾い、気まずそうに立ち上がる。

 

「…石集めか。私も小さい頃、よくやっては親に怒られたな」

「えっ…?」

「邪魔をしてしまってすまないね。…それじゃ」

 

私はさっさと警備室に戻り、デスクにドッと腰を下ろすと、溜息を吐く。

実行までにまだ時間がある。それまで英気を養っておかなければ。

 

「…菊、19時になったら起こしてくれ。それまでここで寝る」

 

私は同僚の男にそう伝え、両腕を枕にしてうつ伏せで眠りにつく。

 




編集記録
9月19日2:40
「…まぁ、それが親、なんだろ。俺も良く分からないけどな」→「…まぁ、それが幼馴染を持つ親、なんだろ。俺も良く分からないけどな」
1月7日22:25
38行目会話文中
君→お前
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