あとタグミスってました!!!!!
どうして!!!!!
私が警備室に入るなり菊はジト目で私を見る。
「遅刻した上に女子高生と仲良く登校か。良い度胸してるな」
「…誤解だ。私はそんなつもりはない」
先輩は私に背を向けたまま身体を震わせている。
「…先輩も。笑うとこじゃないです」
彼は吹き出すと「悪いな」と表情を緩めながら言う。
私は溜息を吐きながらタイムカードを切る。
「…大体、私は大人で彼女は子供。それで仕舞いです」
自分のデスクに腰を下ろし、昨日と同じように引き出しの中で黒く光るトカレフを一瞥する。
「昨日も言ったが、調整はここでやるなよ」
「しないさ。これの危険性はある程度把握しているつもりだ」
「…じゃあなんでそれを見てる」
鋭い眼光を私に向ける。
「別に、大したことじゃないさ。ただ故郷が懐かしくなったんだ」
そう言って引き出しを戻す。あれが引き出しにある間は視界に写っても自分の罪を思い出す事は無い。
「…故郷はもうないからね。少し寂しくなった」
溜息を吐き、デスクの上にある便箋を一枚とボールペンを手にして屋上に向かう。
まだ朝礼も始まっておらず、玄関口には沢山の女子生徒がいる。
視線を逸らし、職員室の方に向けるとそこには昨日見かけたピンクの髪の女子生徒がいた。
転校生だったのか。なんとも奇妙な時期なものだ。
「おや、そんなにあの子を見つめてどうかしたのですか?」
背後で校長から声をかけられる。視線を転校生に向けたまま振り返らずに「いえ、特には」とだけ言う。
「それより、彼女を待たせているのではないですか」
彼女の元に向かうのを校長に催促し、階段を上る。
屋上に着くと床に腰を下ろし、鉄格子に寄り掛かる。
ここは良い風が吹く。だからといって何があるという訳でもない。
ただ「いい所」であるだけだ。
「おや、ここにいらしたのですか」
それが一転。最悪な場所に変わった。
何の予兆も無く現れ、正面に立っている声の主に嫌悪感を込めた視線を送ると、それは笑い声を漏らす。
黒い靄で身体を成しており、スーツを身に纏っているその姿は男とも女とも思えない。
かれこれ長い付き合いだが、それの性別などの個人情報はほぼ知り得ない。
知っているのは「ヘイズ」という名前だけだ。
「そんな目をしないでください」
視線を便箋に移し、ペン回しをして考え事をしているような雰囲気を出す。
「何の用だ」
「彼らからの伝言です。…政府と言った方が良いでしょうか」
ペンを止め、視線だけを正面に飛ばす。
「彼らから?」
「ええ。今年中は休んで良いと」
「…そうか」
視線を便箋に戻すとヘイズは胸ポケットから煙草の箱を取り出す。
「要りますか?」
一本だけ取り出し口から出しながらこちらに差し出す。
「私はいい。…第一、学校で煙草を吸うな」
「そんな堅苦しい事を言わないでください。長年の付き合いでしょう?」
ヘイズは軽薄な言葉を吐くとライターを出さずに煙草に火をつける。
「…その技、下手な事に使うなよ」
「私はそのような事に興味は無いですよ」
私の横で鉄格子に寄り掛かりながら空を仰ぐ。
「貴方のように、他人のため、あるいは自分のために力を振るう気は一切無いです」
煙草を燃やし尽くし、灰を風に乗せると鉄格子から離れる。
「では、失礼します。もし心持ちが変わりましたらいつでもご連絡ください」
ヘイズはそう言うと現れた時と同じように霧散する。
「相も変わらず、特殊な構造だな」
片方の太腿の上に便箋を乗せる。肉体を机代わりにすると不思議と安定するのだ。
「それは私も大概だな」
溜息を吐き、一息置いて心構えをしてから『愛している』という五文字の為に筆を走らせる。
間違えぬように、されど自然に。彼の想いを乗せたこの言葉が彼女に届くように。
たとえこれが呪いだったとしても、それが彼女を生かすのであればそれでいい。
ボールペンの芯を仕舞い、便箋を二つ折りにして警備室に戻る。
真っ白な封筒を引き出しから取り出し、便箋をそれに入れる。
「…出来たんだな」
菊が視線をスクリーンに向けたままキーボードを叩きながら問う。
「ああ。…そっちは頼んだ」
私は羽丘を後にし、湊家に向かう。
憂鬱な気分とは正反対の晴天を仰ぎ、煙草を貰えば良かったと溜息を吐く。
その気分のまま目的地まで歩くと湊家のインターホンを鳴らすと黒いスーツに身を包んだ湊友希那の父が出てきた。
「…どうぞ」
顔色は昨日よりかは幾分かマシになっているようで、少なくとも悪くはなかった。
私は遠慮なく玄関に入ると「どうぞ中へ」と言われたが断りを入れる。
「ここで大丈夫です。では、代金を」
湊友希那の父は札束の入った封筒をリビングから持ってくると中身を確認してから私に渡す。
それを受け取り、念のため自分の目でも確かめるとポケットにしまう。
「…確かに受け取りました。では」
扉に手をかける。
「しっかり睡眠がとれてるようで安心しました」
背中越しに一方的にそう伝えると足早に羽丘に戻る。
彼の顔をなるべく見たくなかった。彼の顔は決して笑ってなどいなかった。でも、あの目が示したのは間違いなく『安堵』だ。
その事実は、まるで武力でしか守れない私が肯定されている様な気がして嫌だった。
肯定された気になるな。そう思ってはならない。決して。
罪はその有り様を変えない。
弱音が零れそうになるのを何とか防ぐ。
「背負うと決めた筈だ」
溜息を吐き、警備室には戻らずに部室棟に向かう。
あそこは静かで居心地がよく、落ち込んだ気分を戻すのに丁度良い。
ゆったり瞑想でもしながら暇を潰そうかと思ったが、そこに向かっていく人影が一つ。
見覚えがあるような気がして、目を凝らしてみる。
「…おや、燈さんか」
その手に弁当を持っているのを見るに、部室で昼食を取るのだろうか。
ふと、彼女が何の部活に入っているのかという好奇心が湧き上がる。
どうせ私も向かうのだ。そのついでだと思えばいい。
彼女の後を追って、急ぎつつかつバレないように足音を殺しながら部室棟に入る。
階段を上ると燈さんが天文部の部室に入っていくのが見えた。
彼女は天文部なのか。
天文部には部員が最近まで全くいなかった覚えがある。
扉のガラス越しに覗いてみるとそこには彼女一人で黙々とご飯を食べている姿が目に入った。
1人でいるのが好きなのかもしれない。そっとしておこう。
と離れようとすると彼女が私の視線に気づき、視線がぶつかる。
やってしまった。
私は溜息を吐き、扉を開ける。
「食事時に邪魔をしてしまって申し訳ない」
部室には入らず、その場で謝罪の言葉を紡ぐ。
「あ、えと、いえ…」
今朝と同じように彼女はどもったままだ。
やはり、今朝の一件で怖がらせてしまっている。
「…その、改めて申し訳ない」
「…?」
彼女は首を傾げている。
「こんな醜いものを見せてしまって、怖がらせただろう」
私はそう言いながら彼女から貰った絆創膏を貼ったところを指さす。
「そんなこと、ないです」
「…本当か?」
彼女はコクリと頷くとこちらをまっすぐ見据える。
私はその場にしゃがみ込み、安堵の息を漏らす。
「よかった…。怖がらせていたらどうしようかと…」
彼女の控えめな笑い声が耳に入り、ハッとして顔を上げると彼女もハッとして口元を抑えながら視線を逸らす。
「あ、その…」
「…いや、笑ってくれていい」
私は彼女が気に病まないよう微笑むと、立ち上がり、「それじゃ、また」と言って扉を閉める。
「さて、どこで暇を潰そうか」
と廊下を歩きながら言うといつの間にかついて来ていた燈さんが背中越しに「えっと…部室なら、空いてます」と提案する。
私は内心驚きながら燈さんに向き直る。
「…いいのか?」
彼女はコクリと頷く。
「それじゃ、遠慮なくお邪魔させていただこう」
迷子してなかったね。
許して