「ただいま戻りました!母様!」
そんな声とともに家の窓が揺れる
相変わらず大きな声だ、だがその声を聞く度に心が穏やかになる
「おかえり、シャル」
「はい!」
家の扉を開けるとこの国では珍しい黒髪黒目の女の子が元気よく返事をした
…これで3000歳を超えているのだからよく精神が持つ物だと毎回会う度に感心する
「母様、また魔王と勇者が同時誕生しました、やはりこのサイクルは止められそうにありませんね……と言っても20年前ですが」
「これで私が知っているだけでも50を超えたか…はぁ」
「今回は魔王の方が優勢ですね、勇者の方は稀にあるアレです」
「あぁ…可哀想に」
アレを説明する前にこのサイクルを説明しなければならない
この魔王と勇者が同時誕生し、人魔大戦がこの世界ができてから続いている
私は5000年ほど生きてきたが100年周期で行われている
勇者が魔王に勝つと次の周期までは勇者…人族が繁栄する
魔王が勇者に勝つと次の周期までは魔王…魔族が繁栄する
そして次の周期が来るとそれぞれの繁栄し、広がった領地は元に戻り、そこにいた生命は負けた方の種族に作り替えられ、全ての生命の記憶が改竄される
私達はそれにあてはまらないいわば…そうだな、観測者みたいなものだ
かく言う私も魔王で彼女も勇者だ
ただ私や彼女は例外すぎたためにその枠から外れたに過ぎない
勇者と魔王、100年周期で同時誕生するこの2つの命はある共通点がある、それは1度死を経験して文化的な生活を送っていたという共通点だ
死を経験して文化的な生活を送っていたならば誰でもいい、それはつまり勇者に犯罪者が選ばれることもあれば、魔王にそれこそ聖人君子が選ばれることもある
私?私は日本という国で生まれ育った一般市民だったよ、彼女もそうだ
さて、ではアレについて説明するがここまで来るとわかった人もいるかもしれない
バッサリ言うとアレとは平和な国で育ってきたが故にある命を奪うという行為への恐怖、罪悪感
もちろんそんなものがあれば殺しなんてできるはずもなく、環境に順応した方が優勢になるのは当たり前
一体誰がこんなサイクルを作ったのかは分からないが、性格が悪いのは予想が着く
それか神々の娯楽でしかないのか
「母様?」
「ん?ああなんでもない…それで今回は変わったことなどはなかったか?」
「今回も特には…本当に私達は例外なんですね」
「そうだな、自分以外の生命を全て滅ぼす…なんてことをするのは滅多に居ないって訳だ」
「私の中では既に黒歴史ですよぅ…」
例外、自分以外の全ての生命を滅ぼす
これに観測者は含まれない
いやはやなんでこんなものがあるかは分からない
だけれど私と彼女はそれをなしとげ、今ここにいる
「では再び何か変わったことがあるまで適当にブラブラしてきます」
「今回はすぐに行くんだね?」
「身分を偽造できるものを作りますから…では、お元気で母様」
「気をつけて」
そうして彼女は飛び去って行った
…いつまで観測者として生きていけるのかは分からない、唐突に終わりが来ることもあるだろう
ならこの不毛すぎるサイクルにも終わりが来ることを願いながら今日も生きていく