コウマが討つ!   作:兜割り

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オリジナルストーリーを進むアニメ版、一体最後はどうなるのでしょう……


第十一話

コウマは里の実家の道場で座を組んでいた。

目を閉じて、感覚を背後に叩きつけるようにして飛ばす。

その背中を庭に座っている金剛餓狼の三兄弟、コウが尻尾をブンブンと振ってじっと見ていた。しばらくすると、器用に後足で立ち上がり、隣の樹木の葉にフッと強く短い息を吹き付ける。

コウマはカッと目を開いて叫ぶ。

 

「一枚!」

 

背後を振り返り、庭に立っている樹木から落ちる葉を見る。

落ちてくる葉は―――二枚。

ひらひらと舞う葉が地面に落ちていくのを見てコウマはがばっと頭を上げた。

 

「こんなの……できるわけないよ―――っ!!」

「アオ――――――ン!」

 

コウマの叫びと共にコウが面白そうに天に向かって吠えた。

 

 

 

 

 

キバの背に乗り、カルラの里に帰ったら、里のみんなが驚いて自分たちに怪我がないか確かめてきたのだ。すると、屋敷から母親のマイが走ってきて、サキと一緒に泣きながら抱きしめられた。

本来ならブレイドホーネット一体を退治して次の日帰ってくるはずだったのに、時間がかかり過ぎていたのを心配していたようだ。

おまけに先日、アサカから、『子供たちが退治したブレイドホーネットの死骸が何者かに奪われた。コウマたちは相手の馬車を追いかけていき、まだ帰ってこない。そちらに帰ってきてないか?』と手紙が来ていたためマイの不安を強める結果になった。

後から、自分たちを探すため完全武装したタイガに頭を思い切り撫でられ、無事に帰ってきた実感が湧いて、思わずサキと一緒に泣いてしまったほどだ。

その姿を目を白黒して見ていたクロメも印象的だった。

 

 

 

 

 

屋敷に集まり、今まで起きたことを両親に説明した。

キバで馬車を追ったこと、馬車が新たに生まれたブレイドホーネットによって全滅させられたこと、ジフノラ樹海で帝国の軍人が子供たちを放り出したこと、子供たちを使ってブレイドホーネットが増殖したこと、最後にクロメのことを。

コウマの話を聞いたタイガとマイは、まず驚愕し、子供たちのことを聞くと怒りに耐えるかのように拳を握りしめた。

 

「そこまでのことになってたとはな……。本当なら無茶なことはするな!って怒鳴りたいんだが……よく頑張ったな。マイ、サキとクロメちゃんを風呂に入れてやってくれ。激しい仕事の後は風呂が一番だ。」

「わかりました。サキ、クロメちゃん。お風呂の用意をするから一緒に来なさい」

「はい!クロメ、一緒に行こ」

「う、うん……」

 

マイの後をサキと手を繋いだクロメがついていく。

部屋にはコウマとタイガだけが残った。

 

「さて、コウマ。今回のことはよくやったって褒めてやる」

「は、はい」

 

タイガの雰囲気が固くなるのを感じて、姿勢を正す。

 

「だが、お前に聞いておきたいことがある」

「……クロメのこと?」

「違う。あの子と約束したんだろ?別れちまった姉と再会させるって。それについては俺も情報網を使って協力してやるから安心しな」

「そう、よかった……」

 

ホッと息をつく。クロメの件についてが一番不安だった分、父が協力してくれるのはとても心強い。

 

「で……何があったんだ?」

「え……?」

「お前……なんかピリピリしてるぞ」

 

コウマにはタイガの言っていることがよくわからなかった。ピリピリしていると言われても自分には異常といえるものは感じてないのだ。強いていうなら―――

 

「あ、俺って呼び方?」

「違うわ、アホ。十一になる男が俺って呼んでも不思議じゃねえよ」

「アホって……。じゃあ……なに?」

「なんて言うか……。まぁ、今からお前に殺気を飛ばすから堪えてみろ」

「う、うん」

 

暗殺家業から手を引いたとはいえ父は現『影』の当主。思わず身構える。

 

「――――――」

 

タイガから強烈な殺気が放たれる。すると―――

 

「……ッッッ!!!」

 

正座していたコウマは飛び上がり、勢いよく外に飛び出した。そのまま地面の石をいくつか拾い、タイガに目掛けて投げつけた。

飛んできた石に対してタイガは腕を一回振っただけだ。ハエを追い払うぐらいの軽い動作で、腕が振られると石は一瞬で全て消える。再び、手を振るうと先ほどとは比べものにならない速さで投げられた石がコウマに向かっていく。

帰ってきた石を避けることができず、コウマの身体―――急所の部分に的確に当たっていく。最後にタイガは一つだけ残しておいた石を親指で弾いて痛みで怯んでいるコウマの額に直撃する。

 

「ぎゃふっ!」

 

最後の一撃を受け、可愛らしい悲鳴を上げてコウマは倒れた。

 

 

 

 

 

 

「俺は堪えろよって言ったはずだが、なんで動いた?不意打ちに殺気を叩きつけられたら、動くのは分かるがな。それに、ここから庭までの距離を跳ぶなんてまだお前には出来ないはずだぞ」

 

自分で痛む額を撫でているとタイガが問う。

正直に言ってもコウマにも分からなかった。殺気が来ると分かっていたので構えていたら、感じた途端に身体が動いており、そのまま反撃をしてしまった。反射として跳ぶのならばともかく反撃するのはおかしい。

改めて庭までの距離を見ると確かにあそこまでの距離を跳べるとは思えなかった。

自分でもよくわからない行動にコウマは首を傾げるが、心当たりが一つあることを思い出した。

ブレイドホーネットの『女王』と戦った時の不思議な感覚だ。

あの身体が燃えるような熱さと異常に広がっていく感覚。あれは死にかけた際に出た火事場の馬鹿力のようなものと考えたが、それしか想像がつかない。

タイガから目線を外して膝の上の固く拳を作っている手を見つめる。

 

「何があったのか話してくれ。どんな些細なことでいい」

 

その言葉にコウマも覚悟を決める。顔を上げて、タイガを見た。

 

「父さん、お願いがあるんだ。これから俺が話すことは事実として受け止めてほしい。そして、知っていることがあるのなら教えてほしいんだ」

 

タイガはコウマの瞳にある真摯な光と真剣な口調を受け取り、頷くことでコウマに促した。

 

「俺がブレイドホーネットの『女王』と戦った時なんだけど……」

 

話し終えると、タイガはコウマをじっと見て、考えるように腕を組んで、顎に手を当てていた。その目には真面目な意思が感じ取れた。

 

「なるほどね……だいたい分かった。コウマ、少し上体を晒してうつ伏せになれ、少し調べたいことがある」

「調べたいことって……何?」

「調べて見れば解る。それまで我慢してくれ」

 

言われた通り上半身裸になると、タイガは神妙な手つきで身体を触っていく。

 

「父さん、なにかわかった?」

「ああ、次に反応があれば俺の知っているものだ」

 

自分の感覚が父の知っているものと安堵し、父の凄さに改めて尊敬の感情を抱くと―――

 

「ふんっ!」

 

ゴキリッ!!!と骨と骨が打ち鳴らす快音が響き、その凄まじい痛みによって意識が飛びそうになった。

 

「ちょっと、父さん!人生でうけてきた痛みで三番目くらいの痛みが身体中を駆け巡ったんだけど!!」

「うるせぇ、我慢しろ!俺だってこれあんまり得意じゃないんだ。うっかり、変なとこゴキってやったらしゃれにならんぞ」

「じゃあ、得意な人に変わって――――――っっ!!」

 

コウマの悲痛な叫びはタイガの荒々しい整体?によって届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、慣れねぇことすると肩がこるな……。おい、コウマ、生きてるか?」

「な……なんとか……」

 

快音が響くたびに意識が吹き飛びかけ、もういっそのこと気絶させてくれと何度思ったことか……。だが、怪しげな整体は絶妙な加減でギリギリ気絶しない程度の痛みを出し続けた。

まだ痛む身体を起き上がらせるとすぐに変化を感じた。

 

「あれ?」

 

僅かに身体が重く感じるのだ。

 

「どうだ?おかしなところはあるか?」

「なんか……身体が少し重い……」

「だろうな、それが本来のお前の身体だからな」

「……どういうこと?」

 

本来の自分の身体?どういうことだろうか……。

 

「お前の身体、人間が持っている人としての限界を超えた力、つまり火事場の馬鹿力が無意識の内に外せるようになってたんだ。だから、それを抑えるようにした」

「……それってもったいないと思うんだけど?」

「アホ、確かにお前は、里の子供たちに比べれば大抵の無茶が出来るぐらいには頑丈に育てたつもりだ。だが、限界を超えた力を出し続けてみろ。身体が悲鳴を上げてぶっ壊れるぞ……」

「う、うん」

 

限界を超えた力を振るう。言葉にすれば格好はいいが、その意味を理解していないというほど子供ではない。

 

「次にお前のいう感覚の広がり……それは『心眼』だと思う」

「―――『心眼』?」

「今、母さんたちがどこにいるか分かるか?」

「え、お風呂じゃないの……」

「違う。どこにいるのか感じることができるかっていう意味だ」

 

部屋の外に行ってしまった母を探す。耳を澄ましてみるが音も、気配を感じることは出来ない。

 

「……いや、感じない。気配も分からないよ」

「そうか。いいか、俺たち『影』の人間は暗殺を代々の皇帝から頼まれてきた。だが、皇帝が暗殺したいっていう相手になると警備レベルなどが跳ね上がる。そのためにご先祖様は感知能力を強化させ、技術として昇華させたのが『心眼』だ」

「どんなものなの?」

「ああ、こんな感じだな」

 

と言ったタイガは目をつむったまま黙ってしまった。

タイガは悠然と立ったまま、呟き始める。

 

「子供二人は風呂に入っているな。クロメちゃんが大きな風呂ではしゃいで……ああ、飛び込みやがった。母さんはクロメちゃんに着させる着物を選んでる……目の色に合わせた色にするか、逆に明るい色にするか悩むって言ってるな……」

「父さん、父さん!?後半はいいとして、前半はなに犯罪のようなこと呟いてるの!」

 

父親が性的倒錯者のような途轍もないことを急に喋りだしたので、ツッコミを入れてしまった。

コウマの言葉に目を開いたタイガは眉をしかめた。

 

「ちげぇよ。お前に教えてやろうと―――ああ、いいや。そこの樹に枯れ葉が四枚―――今、一枚落ちたな」

 

コウマは思わず父が指を指した樹を見た。今まさに落ちた葉を入れて確かに四枚の葉が見えた。

タイガは見てもいない、ただ指を指しただけだ!

 

「『心眼』は、感覚の融合だ。人間の持っている五感、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を上手く重ねることで完成する」

「……」

「お前の感覚は恐らくこの『心眼』と火事場の馬鹿力が合わさったんだろう」

「……」

 

コウマに『心眼』の素晴らしさが駆け巡った。この技を取得することが出来ればありとあらゆる戦いを有利にすることが可能だ。

 

「父さん!教えて!」

 

今、自分の眼が新しいおもちゃを手に入れたようにキラキラと輝いていることを自覚するが構わなかった。

 

「これの習得は難しい。付け焼刃はかえって危険だぞ?」

「なら、何度も練習すればいいよ」

「その通りだ。では早速―――と言いたいが今日は疲れてるだろ?ゆっくり休め」

「え~~~」

「え~~~、じゃねぇ。完全に回復させてからだ」

 

すぐに始めると思っていたので期待していたが、父親の困った様な顔を見て、まぁいいかという気になった。

 

 

 

 

 

サキとクロメが風呂から出てくるのを待ち、風呂で今までの疲れを癒すとすでに夕方になっていた。

温まった身体で廊下を歩くと―――

 

「あっ、コウマ」

 

明るい色の着物を着たクロメと出会った。

 

(へぇ、母さんは結局明るい色にしたんだ。うん、似合う)

「ん?どうしたの?」

「ああ、いや。その着物、母さんがくれたの?」

「う、うん。マイさんが私にくれたの……」

 

自分が着ている服を撫でながら、恥ずかしそうに顔を赤くしているが、嬉しさによるものか笑みを浮かべている。

 

「マイさんがご飯の準備が出来たって」

「む、それは速く行かなくちゃ。冷めたらもったいない」

 

クロメに手を掴まれ、食卓に連れていかれた。

 

 

 

 

 

夕餉はとても豪華であり、量も恐ろしく多かった。

タイガが今朝、捕まえたという獣の肉や魚、土地の野菜を使った料理が大量にあった。

料理から漂う香りはコウマとサキ、クロメの食欲を刺激し、三人はほとんど無言で、かきこむようにして食べた。

料理の旨みが臓腑に染み渡り、中からぽかぽかと温めてくれる。

父は『ゆっくり食べろ』と母は『行儀が悪い』と言ったがその顔には笑顔が浮かんでおり、

普段は注意するサキも勢いよくおかわりと言っている。

クロメは様々な料理を口に含むたび電流に打たれたように震えていた。

今、ここにいる人の顔を見ることができる。それはコウマにとって幸せだった。

 

「あー、食べた!」

「食べたー!」

 

食後、満たされた気分でクロメと転がると、いきなり全身に痛みが走った。意識に緩みが出たせいか、今までの身体に溜まっていた無茶が出てきたのだ。

母の片づけの手伝いをしていたサキが、気付いたのかこちらに近づいてきた。

 

「マッサージするので楽にしてください」

 

サキの指先が凝った部分をほぐしていく。

 

「おー、上手いな、サキ」

「マイ様から整体の技術を教わっているので」

 

肩胛骨のあたりを優しくもみほぐしながらサキが答える。

 

「ん?……ちょっと父さん!僕の整体って母さんに任せればよかったんじゃないの!?」

 

食後、何かの書類を見ている父に向かって叫ぶ。

 

「ああ、あれは勝手な行動をして俺たちを心配させたお前への罰だ。ちなみにマイは、この里で一番整体やマッサージが上手いぞ」

「なっ……それ酷くない!」

「はーい、コウマ様。怒らない、怒らない」

 

サキの細い指がうっすらとついた脂肪の層をかき分けるようにして、筋肉の一つ一つを解きほぐしていく。

 

「ああ……生き返る……」

 

ほどよい刺激でコウマはぞくぞくするような快感を覚えた。

 

「おやつ、用意しましたよー」

「おやつ!?」

 

寝転がっていたクロメが母の声でガバッと起き上がる。

その反応にみんなハハハと笑い、クロメは顔を真っ赤にした。

ジフノラ樹海にいた頃では、比べものにならない余裕があった。

何だかんだ生き延びることができ、新たな力を得る手段もついた。

何もかもが、いい方向に向かっていた。

 

 

 

 

 

翌日。父に『心眼』の指導を受けることになった。

場所は屋敷にある道場。技を教えてもらう際には、いつもここで教わっていた。

 

「さあ、父さん!早速、『心眼』を教えて!」

「がっつくな……。『心眼』には個人差があってな。戦いながら使用することができる奴がいれば、できない奴もいる。正直に言えばこれは必須ではないからな。お前は不完全ながら使えたんだ。時間をかければできるだろう」

 

タイガがじっと見つめてくる。

 

「それじゃ―――教えるぞ」

 

 

 

 

 

そして、現在―――。

眼をつむり、遠く離れている木から落ちる葉を五回連続で当ててみせろという試練に四苦八苦していた。

 

「背中に目があるわけじゃないんだし、この距離じゃ聞こえないよ」

 

葉は人間と違って、動くこともなければ、喋ることもない。存在を掴むことは難しかった。

 

「……どうすればいいんだ」

 

樹の根元には数十枚の葉の山が作られており、枚数を当てることが出来たのは、まぐれで当たった数回のみ。

 

「いやいや、父さんは枝にくっついている状態で葉の枚数を数えてた。葉が落ちてから反応しちゃダメなんだ」

 

ならばどうする?

 

「思い出せ、思い出せ。『女王』と戦った時はどんな感じだった。父さんもどんな感じだった」

 

前例である二つを記憶の中から掘り起こす。

『女王』との戦いでは、感覚が広がっていくようだと思った。

父は離れた場所にいる複数の存在を的確に理解していた。

 

(ん?広がる……複数……)

 

掘り出す記憶の中に引っかかる単語があった。

 

「もしかして……」

 

再び、庭に背を向けて目を閉じ、座を組む。

『女王』の戦いでは、『女王』の動きだけがゆっくりと止まっているわけではなかった。感覚が広がると同時に周りもゆっくりと感じられた。

父も風呂にいたサキたちと母、樹木の葉を同時に察知していた。

感覚を一方向に飛ばすのではなく、自分を中心にして広げていくのだ。

感覚を発散させて、広げる感じで行う。

……何も感じない。

 

(違う。広げることに集中し過ぎている!これじゃ、分からない!)

 

そこで父の言葉を思い出した

『『心眼』は、感覚の融合だ。人間の持っている五感、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を上手く重ねることで完成する』

 

そうだ。『心眼』は五感を全部使って会得するもの。背後の木を五感の全て使い、感じるのだ。

木が風によってゆさゆさと揺れるのを感じる。風を肌で感じる。風に運ばれてきた匂いを鼻で感じる。運ばれてきた匂いを舌に感じる。閉じた目には背後に立つ樹木とその隣に立つコウの存在が浮かんだ。

 

(ああ―――)

 

ちゃんとあるではないか。

感覚の融合。この言葉を思い出し、正しくその通りだと頷く。

だが、細かい存在は全く掴めない。葉の枚数なんて数えることはできなかった。

 

(どうやら……先は長そうだ)

 

だが、コツは理解できた。確かな実感を手にしたことでコウマは笑った。

 

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