コウマが討つ!   作:兜割り

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新年あけましておめでとうございます!!

年末の休みを使って最新話を書くことができました!
今回は、構成が複雑なため戸惑うかもしれません。

『コウマが討つ!』をよろしくお願いします。


第十五話

走る。走る。走る。

街を走る。広野を走る。樹海を走る。雪原を走る。砂漠を走る。

自分の背中を太陽と月が照らしながらも走る。

雨、風、雪、雹が身体を叩いても走る。

川、岩、崖、門、要塞が道を塞ごうとも走る。

ただ、ただ走り続ける。

その先に自分の求めているものがあるはずだ―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……長、……い長、……隊長!」

 

自分を呼ぶ声に女は夢の世界から引き戻された。

目をかっと開き、立ち上がったのは、女性的な肢体をぴったりとした黒い軍服に包んだ金髪の女性だ。

自分を呼んだであろう部下が心配そうに見つめている。

 

「大丈夫ですか……隊長?もしかして身体になにか不調がありましたか?」

 

目に心配と興味の混じった色を見て、隊長は落ち着いた低い声で答えた。

 

「……大丈夫だ。いつもの夢を見ていただけだ」

「夢……隊長がずっと同じ夢を見ているとは聞いていますが……どんな夢を見ているんですか?」

「なに、ただ走る夢だよ。ここに来てから眠るたび、ずっとな。不思議と飽きることはない変わった夢だ」

「……あのもし宜しければ、私が診ましょうか?原因がわかるかもしれません」

 

自分の身体を診察できることによる興奮で顔を紅潮させている。

この身体は組織の長、『局長』が調整したもので、それ以外の者には注射針を打つことも禁止されている。

それを理解して自分に言っているのか、心臓の鼓動の激しさから緊張しているのが分かり、隊長は笑みを浮かべた。

その表情で部下の顔が怯えたものに変わる。

 

「ああ、そこまで怯えなくてもいい。君の状態がおかしくてな」

「そ、そうですか……」

「それにこの夢の相談は既に局長にしている。彼女も『夢は肉体よりも精神的要因が強い。私にはお手上げだ』とな……。それより私になにか用があったのではないか?」

 

隊長にそう言われて部下は思い出したようにピクリと震えた。

鼓動がより激しくなり、汗をかき始めた。

 

「は、はい。局長がお呼びです」

「実験体の管理、及びアクシデントに対する処理、なにか問題が発生したのか?」

「はい。実験体の脱走……と、聞いております」

「……そうか。わかった。すぐに行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

この基地が建設されたのは数十年前に遡る。

かつてこの地まで勢力を拡大させた危険種『ブレイドホーネット』。

その脅威はかつてこの地に住んでいた人々を震撼させた。多くは自分たちの行く末に絶望し、あるものは静かに、またあるものは享楽的な日々を過ごした。だが、彼らの中に戦おうと考える者がいた。

その者は志を同じくする者たち、そして領主の手を借りて要塞建造の計画を進めようとした。人手が足りない状況の中、それでも集まった仲間たちにより森に工事が続いた。

しかし、彼らの予想よりもずっと早く、ブレイドホーネットは全滅した。工事は地下を完成させるも、途中で放棄され、要塞化計画は歴史の闇に消えた。

ところが、闇の中に埋もれながらも、その要塞は、決して死んではいなかった。『ある集団』が目をつけ、工事を引き継いだ。そして、彼らの活動拠点として完成させたのである。

 

 

 

 

 

 

 

森の地下、その部屋は自然を感じさせるものはなく、近代的な材質、設計されているその場所は要塞化計画に目をつけた集団により、増築されたものだ。

あらゆるところを太いパイプが這い回り、天井と床、一部を除いた壁面をみっしりと覆い尽くしている。広さの割には異常な圧迫感に包まれている。

だが、部屋の中央だけ、ぽっかりと空いた箇所がある。

その部屋に一つだけしかない扉が重い音を出して開き、恐る恐る一人の男が出てくる。

きょろきょろと周りを見渡し、恐怖のため身体を震わせている。

 

『1719号、中央まで向かいなさい』

「ひっ……」

 

部屋に響く声に男は小さな悲鳴を上げるが、命令に従わない者の末路を知っているため、中央まで走る。

すると、中央から台が上がる。

台の上にはいくつかの鋭角の角を持つ黒い兜―――いや、仮面が置いてあった。

明確に『顔』がついた造形の仮面は鋼のような鈍い光を持っていた。

男からすればその顔は地獄の悪鬼のような形をしていた。

 

『その仮面を被りなさい。結果次第では貴方を自由にします』

「……」

 

響く声を聞きながら、仮面を見つめる。

仮面の細い双眸を見るだけで自分の生命を吸い取られてしまいそうだった。

触れると冷たい氷のような感触が伝わってきた。

 

『……早くしてください。それともせっかくのチャンスを無駄にするつもりですか?まぁ、別に構いません。貴方の代わりなどいくらでもいるんですから』

「っ!」

 

声の持ち主から苛立ちの感情を感じて、急いで仮面を被った。

仮面はすっぽりと頭を収めると―――

 

「っっっっっっ!!!!!」

 

仮面を被った男の頭部から幾億の針が突き刺さったような痛み、或いは、脳をじわじわと削られるかのような痛みが広がる。

しばらくすると、仮面と男の間から血があふれる。

その姿をガラスの向こう側から見ながら、メモを取っている白衣の女性がいる。

この組織のナンバー1と言える女性、通称『局長』だ。

彼女は今、己を悩ませている問題を一刻も早く解決するために実験をしていた。

 

「……分からない。何が足りないんですか?」

 

呟き、メモから目を離すと仮面を被った男が血だまりの上で息絶えていた。

仮面を外そうとしたのか、指が血で染まっていた。

 

「1719号は強化の効果を発揮せずに死亡―――と。あー、聞こえますか?失敗のため片付けをお願いします」

 

後片付けを部下に命令する。

扉から部下たちが現れて、後処理を始め、外された仮面を台におく。

血を浴びた仮面を忌々しそうに睨み、白衣のポケットからタバコの入ったケースを取り出すと扉の開く音が聞こえた。

 

「失礼する」

 

いつものように黒い軍服を着用した女性、『隊長』が入室した。

 

「大変なことになりましたよ、隊長」

「必要な報告は途中、聞いてきた。いくつか、理解できない点がある。そこから確認したいのだが」

 

タバコに火をつけた局長が大きく頷いた。

 

「まず、潜り込んだネズミがアタックしてきた。こちらも被害を受けたが処理に成功……でいいな?」

「ええ。その被害が問題でしてね。すでに修復はしていますが、ネズミどもが破壊した区域が収容所でして……」

「おい、まさか」

「ご想像の通り、実験体のいくつかが逃げ出しましてね。その処理を貴方にお願いしたいんですよ」

「……了解した。逃げたのはどんなタイプだ?」

 

局長から机にあった資料を渡され、隊長は目を通した。

 

「肉体強化型が十二体か……確かにこれは私にしかできんな」

「ここの所、デスクワークしかしてないでしょう。運動がてらにどうぞ」

「……助かる」

 

隊長が資料を脇に挟み、退室しようとするが扉の前で止まる。

 

「ああ、そういえば」

「なにか?」

 

タバコを吸おうとした局長の手からフィルター部分を残してタバコが消えた。

 

「こういうのは止めろ。ただでさえ、不健康な生活をしてるんだ」

 

隊長が指に吸い掛けのタバコをひらひらと揺らし、握り潰した。

 

「それは私のこと?それとも貴女のこと?」

「さぁ、どっちだろうな……」

 

隊長が退室するのを見て、軽くため息をつき、ポケットから新しいタバコをとり出そうとする。

 

「え……?」

 

タバコのケースがないことに気付く。よく見るとポケットが引きちぎられていた。

 

「……ちっくしょう、ストレスが!」

 

局長はメモ用紙を床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

森に足を踏み入れると、身体が疼くのを感じる。逃げた実験体が近くに潜んでいることを教えてくれる。

木々の隙間から、仮面をつけた実験体がのそのそと姿を現してくる。

 

「精々、抵抗らしい抵抗をしてくれ……」

 

呟くと、隊長は逃げ出した実験体の目の前にいた。

突然、目の前に現れた隊長に固まった実験体の脚を掴み、振り回すようにして、もう一体の実験体にぶつけると、二体の実験体は激突の衝撃に肉体がバラバラに砕け散った。

すると、背後から既に飛び掛かった実験体がいる。

隊長は慌てず振り返り、下から上へ右腕で掬うように実験体の胴体を掴む。

掴まれた実験体が束縛から逃れようと必死にもがくが、五指はしっかりと喰い込んで逃がすようなことはなかった。

 

「ふんっ!」

 

そのまま実験体の身体を地面に叩きつけると、頭が砕け、同時に、血が噴き出る。

 

「呆気ない……」

 

残った実験体が隊長の姿を見ると襲い掛かってくる。

拳を構えることもなく、ただ突撃をして腕を振るうだけの単純な攻撃。

組織の最高戦力である隊長からすれば、子供のじゃれつきに等しい。

技というものを使うまでもなく、拳の一発をぶち込めば、それでこと足りる。

 

「……歯ごたえが無さ過ぎる」

 

胸に鬱屈としたものを抱えながら頭を握り潰した。

 

「あと八体か……」

 

血で汚れた拳を払うと、残りの掃除に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

背後からの攻撃に反応できたのは、ひとえにコウマの桁外れの運動神経のおかげだった。

頭で考えるよりも先に身体が動いた。

ガンッ!!

重い響きを背中に聞きながら、地面に転がった。

立ち上がったコウマは先ほどまで自分がいた場所に腕が突き刺さっているのを目にした。

転がっていた首も潰れていた。

そして、その前に立っていたのは……。

 

「……馬鹿な」

 

ついさっき壊れたはずの仮面をつけた……男がいた。

同一人物に見えるが服装と大柄なラインの身体を見て、別人であることが分かる。

身体にはぼろ布ではなく、ぴったりとした黒い服を着込んでいる。

仮面の隙間から見える目は先ほどの男と同じ知性というものを感じさせなかった。

男の仲間か、と言葉が頭を過ぎった。

 

「うっ……」

 

威嚇。

感情が込められた耳を刺す金属音が響き、コウマは顔を歪め、怯んだ。

その隙に新たな仮面の男はコウマに向かって、口からなにか赤いものを吐き出した。

舌だ。鞭のようなしなやかさを持って右手に絡みつく。

服を越して肌に食い込む舌を爪で切り落とそうとする。

コウマの視界がぐるりと回転した。

男は踊るように大きく上体を振り回した。

男の動きにつられて、コウマはふわりと浮き上がると、地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

その戦いを見ていた観客が一人いた。

森が作り出す影の中から隊長はその戦いに見入っていた。

実験体が残り二体になり、気配を感じた方向に足を進めていると強化された視覚が刎ねられた首を捉えた。

普通ではあり得ない光景に思わず、混乱したが、次に首を刎ね飛ばした者の姿を見て、強い興味が胸を支配した。

 

(あの実験体を倒したのは何者だ!どんな男だ!いや、女か!得物はなんだ!どうやって強化された肉体を持つ実験体の首を刎ねた!)

 

顔が隠れていたため体格で男だと、腕から生えた稲妻を模した二連の鉄の爪が得物だと知った。

 

(あの爪で倒したのか!相当の業物だ!武器の質を見れば、持ち主の実力が分かるとはよく言ったものだ!強い!修練を積んだ実力者だ!)

 

抱いていた鬱屈としたものなど吹き飛び、興奮が胸を焦がしていた。

自分にまだこのような感情が残っていることに驚きながら、最後の実験体と男の戦いを見守りながら、心中で叫ぶ。

 

(さぁ、見せろ!お前の力を!速さを!技術を!磨き上げた強さを!)

 

 

 

 

 

 

 

「かっ……!」

 

間一髪、受け身をとって衝撃を和らげるが、空気が漏れる。

 

「こなくそっ……!」

 

舌を斬り、拘束から逃れることに成功する。

 

(無様だっ!)

 

一瞬とはいえ、相手にいいようにされた自分に憤りながら、意識の底から湧きあがった怒りに引かれ、すぐさま立ち上がる。

胸を焼く怒りを身体を奮わせる燃料にした。

男は舌を斬られながらも平然としており、歯をカチカチと鳴らしている。

 

「俺を笑っているのか……!」

 

その瞬間、コウマは吠えた。

心の奥底に封じた黒いなにか、それが暴れ出した。

両の手甲の爪をぶつけ合わせて、火花が散る。

叫び声を上げながら、男に突進していく。

コウマの様子にただならないものを感じたのか、男はとっさに横に逃れようとした。

だが、コウマのほうが一枚上手だった。

男の動きを事前に察知し、右に跳び、その勢いのまま、無駄な力を込めず、けれど膂力を惜しみなく注ぎ込んだ一撃で右手を狙う。

一撃は人の肉を削るだけの軽い威力ではなく、相手がどれほどの固さがあろうとも、肉も骨も一緒に叩き斬る攻撃だ。

怯む隙を与えずに胸に爪をねじ込む。

その口から舌が吐き出され、コウマの腕に絡みついた。

それでも、彼は怯まない。

爪で再生しようとする傷口を深く深くかき回す。

その勢いに、流石の男も仰向けに引っくり返った。

さらに舌が伸ばされ両腕を手錠のように縛られながらも、追い打ちをかける。

倒れている男の顔めがけて、爪を振り下ろす。

一瞬の抵抗の後、仮面が砕けた。

再び爪を振り上げると―――

 

「ぎゃああああああああっっっ!!!」

 

叫び、男ががむしゃらに暴れた。

腕を拘束していた舌も緩み、一旦距離をとる。

男はコウマのことを気にせずに自らの顔を叩く。

顔に手をやりながら、腹につけるというエビのような体勢でのたうち回る。

次第に、叫び声も小さくなり男の動きも止まった。

死んだ―――

その事実を認識したコウマは体力の消費よりも精神的な疲れにより、爪を仕舞いながらふらふらと尻持ちをついた。

 

 

 

 

 

 

 

戦いを見終わった隊長は余韻に浸る中、自分に与えられた制限を反芻していた。

 

『見られるな。干渉するな。貴女の存在を知られるな』

 

この制限は他ならぬ局長との約束であり、守らないわけにはいかない。

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仕事はすでに終わったのだ。後は帰り、報告するだけ。

男の実力はすでに理解した。

血の滲むような鍛錬の末に、若いながらも確かな実力を得ている。

とはいえ、大した問題ではない。

まだ発展途上なのが残念だが、あの実力ならば、目も、耳も、鼻も、腕も、脚も、全てにおいて自分のほうが勝っている。

だから、相手に察知されずにこのまま引き返せばいい。

 

(そうだ。帰って今まで通りに……)

 

組織に入って以来、心に変化はなかった。

組織最強の存在としてあるが故に、誰かに脅かされる不安も恐怖もない。

そう今までの自分の心に変化は―――

 

 

 

 

無さ過ぎたのだ。

 

 

 

 

自分は今、目の前にある希望に心が熱くなっている。

 

 

 

 

その耐え難い熱は、彼女の心を溶かし、不安定にさせた。

我慢できない。

隊長は目に映っている希望に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

コウマの発動させた『心眼』が高速で接近する存在を捉えた。

その方向へ向いた時に最初に目にしたのは両脚を揃えたブーツの底だった。

手甲で顔を隠すようにして防いだが、衝撃で、身体が一気に投げ出される。

 

「かっ!」

 

蹴りを放った存在が未だ空中にいる自分に複数の石を投げてくるのを察知する。

僅かに痺れた腕で石を弾くが想像よりも遥かに重かった。

一発一発が弾丸の威力に匹敵していたため、石が命中した腕は威力に押し負けてさらに後方に投げ出された。

 

「く……そっ!」

 

『心眼』で背後に大木があるのを確認し、叩きつけられる事を防ぐため手甲からの爪を刺し、どうにか堪えた。

爪を引き抜いて地面に着地するとパチパチと拍手が聞こえた。

 

「見事だ。普通なら避けようとする石を迷うことなく手甲で防ぐ。その思考からも、君が相当の実力を積んでいることが分かる。素晴らしいな……少年」

 

コウマは黒い軍服を着た金髪の女性を睨んだ。

 

「あんたこそいきなり蹴りをかますなんて大した軍人だよ。上官の顔が見てみたい。さぞ、酷いやつなんだろうな」

「ああ、私の上官ははっきり言って外道だ。三人目なんだが前の二人も外道だったな

懐かしむように目を細める隊長にコウマは警戒心を強くしながら考えた。

 

(軍服からして帝国軍か?いや、あんなデザインは見たことがない。特殊部隊に所属しているのか?)

「おっと自己紹介が遅れたな。私は『隊長』という名前を持っている。君にもそう呼んで欲しい」

「……『隊長』?」

「そうだ。ある組織のナンバー2といったところだ」

「……その組織の隊長がどうしてこんなところにいるんだ?」

 

その言葉に隊長は笑みを深めた。肉食獣のような笑みだった。

 

「仕事でね。逃げ出した実験体を始末するんだが……歯ごたえが無さ過ぎてうんざりしていたんだ。そんな中、私は希望を見つけたんだ」

「希望……?」

 

ああ、と隊長が陶酔するように呟くと―――

 

「君は組織の……私の希望なんだ」

 

まずい……とコウマは刹那に思った時には、胸にドン!と掌底が打ち込まれていた。

胸を打たれたのではなく、胸骨を打たれ、その衝撃が身体を通して心臓に達し―――

 

 

 

たったの一撃でコウマの心臓は停止した。

 

 

 

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