文章を書く際、『こうすればいい』、『こうした方がいい』と考え、書いては消してを繰り返してしまいました。
原作キャラの登場も無理矢理かもしれません。
では、最新話どうぞ。
空が橙色に入り始めた頃、シナモ村は騒がしかった。
人が動いて作られる音、作業によって響く音、物音に興味や驚きをもって応じる大人や子供、牛や馬、鳥や犬猫の音が混じり、辺境の村を明るくしていた。
そんな喧噪を、間近に、しかし距離を取って見られる場所で二人の人影が眺めていた。
その内の一つが、
「クロメ、いくら貰ったからといって、今食べるのはやめましょう。
まだ夕飯前、我慢することは出来ませんか?」
という言葉の飛ぶ先、隣にて、袋に入ったクッキーを次から次へと食っているクロメにサキは注意した。
クロメは袋を空にすると、振り向く。
「折角貰ったお菓子なんだから、早く食べてあげるのがせめてものお礼になる。
それにほら、『お菓子は別腹』って名言があるし、大丈夫だよ」
「ええ、私もその名言は好きです。
けど……貴女の場合、そのお菓子いくつめですか?」
「四つ目」
「食べ過ぎです!」
ロウレンモンキーを討伐し、後片付けをしていた際に、突如きた帝国軍。
招かれざる客の彼らに当然サキとクロメは警戒した。
最近の帝国軍ははっきり言って、村を滅ぼしにきたということを考えさせるほどに酷い。
だが、警戒は杞憂に終わった。
彼らは良識派と言える者たちであり、辺境の村に対して食糧を渡し回っているようだ。
ロウレンモンキーの被害を受けたシナモ村の住人からしたら、受け入れない理由もなく彼らを歓迎した。
「それにしても、コウマ遅いなぁ。森で迷ったってことはあり得ないし……」
「コウがいれば探せれるのですが、下がらせたのは失敗でしたね」
金剛餓狼のコウは現在、村から離れている。
超級危険種のコウが帝国軍に見つかれば、彼らとそれをまとめる帝具持ちの将軍との激戦は免れないためだ。
菓子がなくなったクロメは時間を潰すためサキに話しかけた。
「ねぇ、サキ」
「ん?」
「サキが強くなろうと決心したのはいつ?」
「へ?」
「サキはさ、私と会う前からとても強かったじゃん。
だから、どうして強くなろうとしたのかなと思って」
その言葉にサキは驚くが、すぐに笑みを浮かべた。
「なら、コウマ様の印象について教えてください。
そしたら、教えてあげます」
「え、んー、……コウマってさぁ。何というか、真面目過ぎるよね。
それでいてなんかこう……真っ直ぐな感じ」
そうですね、とサキが続く。
「コウマ様はとても優しい方です。
他人のために頑張ろうと考えることができる極上のお人好し。
けど、他人のことを考え過ぎて自分のことを疎かにしてしまう人」
「……それって褒めているの?」
「褒めていますよ」
サキはコウマがいるであろう森に視線を向ける。
「私の両親が生きていた頃、一度コウマ様を見たことがあります。
雰囲気からして、あの頃から当主の息子としての自覚があったのでしょう。
当主の息子として、守るべき者を守るために、様々なものを取り組んで強くなることに努力を続けてきました」
サキが話しながら目を細める。
「金剛餓狼が里を襲撃し、キバたちの親になった後から強くなることにもっと貪欲になりましたね。本当に……自分に厳しく、人に優しい方です」
サキがクロメを真っ直ぐな瞳で見つめた。
その目にクロメは思わず、息を呑んだ。
「クロメ……コウマ様が甘えを見せているところを見たことがありますか?」
「え?……あ」
唐突な質問に声が出たが、しばらくしてクロメは気付いた。
コウマは自分が負傷した時など、気兼ねなく甘えが要求できる立場になった時しか、甘えを見せない。
「自分に厳しく、強くなろうと思っているコウマ様にとって、守るべき人たちに甘えるということは理由を付けなければ、難しいのかもしません」
だから、とサキは加えた。
「けれど甘えは、それこそ人それぞれ。だからこそ……誰でも持っていると私は思います。
そのために私は強くなることを決めたんです。守られる存在ではなく、あの人の隣に立てるようにと。私も対等な人間になれば、あの人は自由に甘えることができると」
告げて、すぐに小さな息を吐く。
その顔はどこか憂いを帯びていたが、すぐに消えた。
「まぁ、今の言葉は当事者のいない推測のもの。気にしないでください」
「……」
サキの言葉を聞きながら、クロメはあることを思い出していた。
コウマはかつて自分を助けるた時、危険種に対して過剰な攻撃をした。
敵対した存在に容赦がなくなる。
コウマにはそんな一面があるのだ。
いや、もしかしたら―――
嫌な考えを頭を軽く振ることで追い出し、クロメは立ち上がった。
「どうしました?」
「ちょっと……動いてくる。私も頑張らなきゃと思って」
「ふふ。夕飯には戻ってきてくださいね」
クロメは首肯で答え、駆けていった。
クロメの背を見送ってサキは森に目を向けた。
「コウマ様、私たち……今、どうですか」
つぶやいた瞬間、気配を感じた。
「!」
慌てて背後に振り向く。
コウマのことに想いを取られていた結果だ。
サキにはコウマが習得している『心眼』のような感知能力はもっていない。
出てくるであろう相手に警戒して、一歩下がる。
危険種ならば携帯している武器を叩き込むつもりだった。
そして、現れたのは、自分より年上の若い女性だった。
長身で、銀髪を後ろに三つ編みで結び、背には大型のライフルを背負っていた。
現れた意外過ぎる人物の名前をサキは呆然と呟いた。
「ナジェンダ……将軍」
今、シナモ村にいる軍人をまとめる将軍が現れたことにサキは固まってしまった。
これなら危険種が飛び出してくる方が断然マシだった。
自分は帝国によって滅ぼされた一族の一人、もし素性が知られたりしたらかなり不味い。
自らに対する追及は何としても避けねばならない。
「君はここの人か?」
「は、はい。あの将軍なんて立派な方がどうしてここに?」
「なに、一服できるところを探していてね。折角だからいい場所をとね」
ナジェンダはコートのポケットからひしゃげたタバコ箱を取り出した。
「吸っていいか?」
「どうぞ」
そして、もう一度コートに手を突っ込み、今度は別のポケットから形の歪んだライターを取り出した。
「ふぅー」
一息吸い、吹かれた煙が風に飛ばされ消えていく。
「ああ、ここはいい場所だ。いい場所で吸えばタバコの味も増すな」
「そ、そうですか。ここお気に入りの場所なんです」
サキはなるべく笑顔で答えるが、その顔が堅いことを感じた。
そんなサキの姿を見て、女将軍は薄く笑った。
「……ほう」
「え?」
「いや、何でもない。それよりも気を付けた方がいい。ロウレンモンキーは確かに退治されたが、全滅した訳ではない。残った奴が怒りを抱いて復讐してくる可能性もある。しばらく単独行動は控えた方がいい」
「あ、ありがとうございます」
とサキは自分の正体を隠すことに決めて、感謝の言葉を述べた。
ナジェンダはそんなサキに軽く頷き、爆弾を落とした。
「まぁ、君のような者には心配無用かな」
「―――!」
反射的に、サキは身構えた。
草を踏み、右足を引く。
背に汗が流れ、風と共に身体を冷やしていく。
「そんなに警戒しないでくれ。別にとって喰うわけじゃない」
「……では何故この村に?」
「言っただろう。村に食糧を渡しにきただけなんだが」
「それは……表向きの話ですよね。兵の数、武器が多すぎます。まるで戦いに備えているようにしか見えません」
問いにナジェンダはタバコをもみ消してサキに向き合った。
顔には笑みを持ったまま―――
「この村の村長といい、君といい、辺境には隠れた戦士がいることを教えられるよ。それに悪人にも見えない。まぁ、君には教えておこう。私たちが来た目的は―――」
女将軍の顔から笑みが消える。
目には怒りの炎を轟々と燃やしており、その目にサキは一瞬、気圧されてしまった。
「民を動物と扱う外道の殲滅だ」
世界が暗黒に包まれていた。
何も見えない。何も聞こえない。何の気配も感じられない。
自分が宙に浮いているようだった。
頭を働かせようとするが、あらゆることが同時に発生し、消滅していった。
幼いころ父にナイフをプレゼントされた。母に度が過ぎた練習をして注意された。里を襲った危険種から少女を救った。父の危機に駆けつけ、共に危険種を討伐した。危険種から三匹の子供を託された。三匹を立派に育てるために四苦八苦した。成長した三匹の背に乗って感動を覚えた。樹海の悲劇から少女を助けた。強大な危険種を独力で倒した。それから―――。
最後は腰まで届く金髪の女性の姿が映ったところで終わった。
思い出す過去には痛く辛いこともあったが、とにかく懐かしく感じた。
だが、一つ気になるのは、ずっと、自分のことを遠くから見つめている二人の少女の姿だった。
心配そうな顔をして見つめてくる二人を見て、なにか大切なことを忘れていることに気が付き、再び、頭を働かせようとすると、空間に何かが響いた。
それは最初、薄ぼんやりとわななく波動のようにも感じた。
意識を波動に集中すると、次第にそれが音だと認識することが出来るようになる。
音の元に向かおうとすると、人の足音であることが理解できた。
「おはようございます、少年」
すぐ近くで声がしたため、まだ覚めない意識のまま、コウマは周囲を見渡すが、闇しか存在せず、姿を見ることはできなかった。
混濁した記憶を遡る。
森に潜った後、仮面をつけた謎の人物二人を倒した。
そして突如現れた軍服の女性に襲撃され―――
「っ」
顛末を思い出したため身体を動かそうとするが、手足がまったく動いてくれなかった。
「っ……っ!」
当惑に襲われて身悶えするが、身体がまったく動いてくれない。
寝台の上で仰向けにされたままの状態。
自分を戒めるものは何も身についていないはずなのに、起き上がることも、両手足を動かすこともできないのだ。
「ご機嫌はいかが?よく帰ってきました。私の処置があったとはいえ、君は自らの力でこの世界に戻ってきました。素晴らしいです。まことに素晴らしいことです。隊長がドアをぶち抜いてきた時は驚きましたが、君という逸材を診察できたのは喜ばしい」
「待て……お前は……誰、だ?」
それだけの短い言葉を吐き出すのに、コウマは酷く苦労した。
口の中がからからに乾いていて、舌が満足に動いてくれなかった。
「ええ、私は『局長』。君の心臓を止めた『隊長』の上司でこの組織のトップです」
「……」
「君はあの隊長が連れてきた大切な客人です。だから、君の身体……徹底的に調べさせてもらいましたよ。大丈夫、どこもいじってません。身体が動かないのは、薬を打った……ああ、後遺症のない安全なやつです。さて、私たちもお客様の準備ができていないので、また眠ってもらいますね……」
その声と共にコウマの意識は再び闇の中に落ちた。
目が覚めた。
どれだけの時間が経ったのか分からない。
五分かもしれないし、一時間以上経ったかもしれなかったが、本能がじっとしているわけにも場合ではないと教えてくれた。
だが、身体は動かない。苦心の末、指先を僅かに曲げるのが限界だった。全身が痺れ、眼球を動かすことさえ、苦痛を伴った。
……身体はまだ動かないが、感覚は戻っているな。
コウマは目を閉じて、『心眼』を使った。
万全の状態では無いため範囲は狭いが、菅を通っていく空気、工事による鉄と鉄のぶつかりあい、複数の人を察知することができた。
……ん?
人が一人こちらに禍々しい気配を伴って近づいてくる。近づくにつれてその姿が解り、頭が警報を鳴らす。
がらがらと喧しい音を立てて、金属製の大扉が開いた。
眩しい光を背にして、入ってきたのは黒い軍服を着た金髪の女性、『隊長』だった。
「やぁ、少年。お目覚めの気分はどうだ?
ま、ぐっすりと寝ていたんだ。
まだ寝たりないなんて言ったら、罰が当たるだろうがな」
「お前は……!」
「ほぉ、もう声を出せるまでに回復したのか。やはり薬に対しても強い抵抗力を持っているんだな」
隊長の笑顔を見て、コウマは背に冷たいものを感じた。その笑みは親愛のものではなく、好物の料理に向けるような笑みだった。
「お前は……何だ?タイミングがよすぎる。
どうして、俺が目を覚ましたとわかった?
どこかに監視でもつけているのか?」
「ほう、よく頭が回るな。名推理だ」
隊長は軽く手を叩いた。
「本来なら薬でちゃらんぽらんなはずなんだがな。
それにこんな状況でも取り乱したりしない胆力。そして疑り深さなのもいい。
外側だけでなく、内側もとは、才能だけではないな」
すたすたと歩いてくると、隊長はコウマが横になっている寝台に腰を下ろした。
コウマはそんな隊長から視線を外さないまま、身体の回復を待った。
「そうカリカリするな、少年。残念ながら君は厄介なことに巻き込まれた。この肥溜めで腐ったような組織にな」
隊長は、組織について説明した。
「とある流浪の民族がいた。『強靭な肉体と健全な精神を得るには過酷な試練を克服し生きてぬくこと』が思想だった。砂漠、密林、雪山、一族の人間はそんな場所を暮して生き抜いていき、結果としては、多少マシな強さを得ることができたようだな」
「だが、先祖を超えるためにある代が毒沼を住処として選んだ。過去の者たちが住んだところでは意味がないと思ったからだろうな。沼からあふれてくる瘴気は殆どの者の身体を蝕んでいき、ダメにした」
「民族の全滅を避けるために毒沼から離れたのはいいんだがな……既に手遅れだった。毒は民族の身体奥深くにまで強い傷を残していた。現世代の者は短命、次世代の子供たちは奇形や障害を持っていた。強さも常人の半分程度という」
「ぬるま湯のような環境でしか生きていくことが出来ない。民族の全てがその結果に嘆いた。先祖が積み重ねた歴史をぶち壊してしまったようなものだ。そして、ここから民族は歪んでいった」
「再び、身体を強くするために薬と、身体を切り刻むことに手を出し始めたんだ。薬を『毒』、手術を『環境』と強引に解釈することで受け入れた。まぁ、やってみたのはいいが、民族の技術では限界があってバッタバッタと死ぬだけだった」
「行き詰った民族は外部からの協力を得ることにした。帝国の技術者……といってもはぐれ者の集団だけどな。彼らはとある帝具を所有していた。謎が多いが分かるのは、帝具の能力はインクルシオやバルザックのような……おっと知らないか。簡単に言えば装着者のあらゆる能力を増幅させるものだ」
「インクルシオは竜の筋肉によるアシスト、バルザックは潜在能力を全開まで引き出してくれる。あの帝具も似たようなものだが、装着者の能力を上げると共に、バルザックには出来ない限界以上の力を与えてくれる。その能力を解析すれば、強さを取り戻せると同時に強くなれるとして民族を犠牲にしながら研究をしていき、今がある」
話を終えた隊長はふぅと息をついた。
「ま、こんなところだ。君が倒した仮面の二人、彼らも実験の被験者でね。つけている仮面が帝具の能力を解析してできたものだ。あの仮面は本来、人が持っている能力を刺激して、強化するんだが……劣化品の仮面でも、その刺激が強烈なために最悪、死ぬ。良くても、理性が崩壊して獣も同然になってしまう」
「……待て」
隊長は振り向いた。寝転んでいる彼が目に怒りを灯しながらこちらを睨んでいた。
「つまり、お前たちは帝国の軍人なのか?」
「いや、帝国とはすでに縁を切っている。恐らく、私たちのことも知らないだろう」
「……被験者はどうやって集めた?」
「民族が減少した後は、適当に拉致した……んだろうな」
答えた瞬間に、拳が隊長に直撃した。
隊長が説明を終えた時には、コウマの身体は回復していた。
自分が横になっていると油断させたまま、腹筋の力だけで思いっきり起き上がり、勢いをつけ顔を殴る。
女性の顔面を殴るとてもアレな行動をコウマは、相手が非公式な組織の人間、人を実験動物扱いする外道と判断し、自身の心臓を止めれるほどの技量の存在に手加減は無用として行った。
狙うは人中。
神経が交差する部分であり、強い衝撃を受ければ即死の可能性がある急所。
そんな場所をコウマは顔を砕く勢いで殴った。
突き出ている中指が直撃した。
……岩!?
拳から伝わる相手の感触に、コウマは目を見開いた。
顔にある薄い皮膚の下の感触が岩……いや、もっと高密度な硬いなにかを連想させた。
「……ははっ」
のけぞった体勢のままの隊長の笑い声が聞こえる。
「腹筋なら私も負けてないぞ」
隊長は背を弓のように反り返った体勢から腹筋を使った頭突きが放たれる。
「……っ!!」
頭にうけた衝撃で何度目かになる気絶を味わった。