大学が始まり、いろいろと忙しかったので遅れてしまいました。
キバはコウマに言われた通りに森を走り、子供を狩るブレイドホーネットを爪や牙で駆逐していた。倒した数を二桁に入る時、近くに強大な気配を感じた。臭いで存在を確認するが、ブレイドホーネットに似ているが『何か』が違っていた。
その存在を確かめるために気配を消して近づいていく。その存在を視界に収めた時は僅かに驚愕した。ブレイドホーネットに似て非なるものである『新種』が少女の首を押さえていたのだ。キバは姿を隠していた林から飛び出して、その頭に噛みつき、そのままの勢いで首を引きちぎり砕く。
頭を噛み砕いた時、キバの脳裏に『少し硬い』という感想が浮かんだが、その感想にキバは驚愕した。自分の牙は絶対の自信を持った武器であり、鉄ですら易々と噛み砕ける。その牙で噛み砕いて『少し硬い』という感想を抱かせた相手の硬さに驚愕している。
次にキバの頭にコウマとサキが浮かぶ。二人は鉄以上の硬さを持つ『新種』に勝てるのだろうか?二人の実力は里の同世代と比べるのも馬鹿らしいほどに上だ。だが、相手はブレイドホーネットを超える『新種』、もしかしたら苦戦してしまうのではないか、最悪の場合、やられてしまうのではないかと想像してしまう。
キバは、急いでブレイドホーネットを全滅させ、コウマたちの援護に向かおうとするが、再び『新種』の臭いが風に乗ってこちらに近づいてきていることを伝える。それも一体ではなく、三体。苛立たしげに唸り、先ほど助けた黒髪の少女をみる。キバは少女を包んでいる布きれを咥え、持ち上げる。
「なっ、何をするっ!離せ!私は妹を……くっ!」
少女は叫ぶが、痛みによるものか顔を歪ませて言葉を途中で区切った。キバはこれから始まる戦いに少女は邪魔だと判断して、森の外から匂う人間の集団のところに力いっぱい投げた。後のことは集団の人間に任せる。
キバが振り向くと、三体の『新種』が地面に飛び降りて、威嚇するように身をかがめている。そんな三体に対して、キバはいつでも飛び掛かれるように、闘いの構えをとり、グルルと低く唸った。
『新種』の内の一体が棘のある太い脚を広げ、鉤爪のある腕をあげて、尖った尻尾を振るった。まるで戦いの場から障害物をどかすように、頭部のない『新種』の死体を蹴り飛ばした。無残な死体は転がって木の影の中で止まった。『新種』たちは不気味な口元から粘液をしたたらせながら、しゃーしゃーと威嚇音を出して大顎をガチガチと鳴らした。
キバは鋭い牙のならんだ口を開いて、『新種』たちに吠えた。
ここにこのジフノラ樹海にとってイレギュラーといえる危険種たちが激突した。
「コウマ様、気付いていますか……?」
「ああ、追いかけてるな」
『女王』のいる巣へ向かっているコウマたちは木の上を跳んでいた。こうやって跳ぶことで相手との接触を少しでも下げるためにだ。
ブレイドホーネットたちは、コウマたちが女王の巣に近づいていることに気が付いたようで、自分たちの母を守るために追ってきている。数は音から察するに十は超えている。このまま巣まで来られたら、最悪、女王と合流し激しい戦いになるので、コウマは迎え撃とうとすると。
「コウマ様はこのまま巣へ向かってください。追手は私が倒します」
「!?」
サキの言葉に木から足を滑らしそうになる。
何とか体勢を立て直すと問いただした。
「……正気か?戦いの疲れも完全に癒えてないのに……十を超えるブレイドホーネットを退治できるのか?」
「そのつもりで言っているんです」
サキの力強い声と覚悟を決めた目を見たことで、コウマは思い出した。
サキが稽古をつけてくれといった時、森で訓練に向かう際ともに行くといった時、危険種の退治についていくといった時もサキはその真っ直ぐな目で自分の意見を曲げなかった。
共に里で暮らし、共に戦ってきたからこそ分かる。サキは捨て石になるつもりはない、必ず生き延びると語っているのだ。
「……絶対に死ぬなよ。死んだら、父さん、母さんだけじゃない里のみんなが悲しむからな」
「はい!!」
満面の笑みを浮かべたサキを見て、つられて笑い、コウマは進んだ。
コウマを見送ったサキはブレイドホーネットを迎え撃つため準備をした。背負った小太刀とナイフを抜き、痺れ薬を塗る。
この薬は今朝、アサカに教えて貰い、作った物だ。その威力は強力で、本来は危険種を捕獲するために使うものであり、人間に使えば恐ろしい後遺症を残すほどだ。 耳を澄ませる。足音が近くなっており、こちらに向かってくるのが分かる。音は大きくなり、しばらくすると止まった。
ブレイドホーネットの一団はサキの存在を確認し、木の影に隠れた。息を潜める中、三匹が木に登り始める。体節のある身体は木の影にみごとに溶け込んで、視覚では容易には気付かないだろう。
ブレイドホーネットは木を登りきると、攻撃の態勢をとった。
だが、サキの行動の方が早かった。サキの投げた円盤手裏剣は空気を切り裂いてブレイドホーネットの三匹の内、二匹の首や顔を手裏剣の刃によって二つに切り裂かれ、絶命し、残った一匹は飛び掛かったが、背中から抜いた小太刀が振られたことで、ブレイドホーネットの肩に深くめり込み、片腕を切り落とした。
地面に落ちたブレイドホーネットは痛みにもがき、斬られた腕の付け根から粘着性の血を振りまき、やがて痙攣をし始めた。
小太刀を背中に収め、弧を描いて戻ってきた手裏剣を腰にしまう。
鉄扇を構えて、木によじ登ってくるブレイドホーネットを感情が込もっていない目で見る。
「さぁ……来なさい。有象無象ども……」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
走るブレイドホーネットの腕の中でクロメは姉の名を呟きながら泣いていた。
樹海の出口が遠くなる、いつも一緒にいた姉から離されている、自分がこれから迎えるだろう未来を考えただけで心が潰れそうになる。
今、自分がいる状況は、最悪を超えていることは、幼い自分にもよく分かっていた。
自分を抱えている危険種、こいつらは蟻だ。親に捨てられる前に、自分より大きい昆虫を大群で襲ってバラバラに分解し、巣へ持っていくのを見たことがある。バラバラにされた昆虫は餌になるというその残酷な真実を知った時は恐怖した。
自分もこいつらの餌になる。再び、自分の未来を考えたことでクロメは思わず、叫んだ。
「誰か……誰か助けてっ!!」
子供の自分が無力でなにも出来ないのは理解している。頼れる姉がすでに遠く離れているのは分かっている。この樹海に人がいないのも分かっている。自分を救ってくれる人など存在しないのも分かっている。
だが、このまま理不尽に死ぬことが嫌だった。
クロメの叫びが樹海に響いた瞬間、ザシュッという音を耳にした。
大きな鏃を持った槍が自分を抱える危険種の頭頂部を後ろから突いていた。高速で投げられたそれは、蜂を思わせる頭蓋を貫いて地面に突き刺さった。
「あっ……!」
絶命した危険種の腕から力が抜けたことでクロメは転がる。
何が起きたのかよく分からなかったが、自分が助かったことは理解できた。
「だ、誰か……いるの?」
危険種の頭に突き刺さった槍は、間違いなく人が使う道具。この樹海の深くに自分以外の人間がいることで希望を見つけたことで、その人物を探す。
すると、木々の影から黒い塊が飛び出してきた。そちらの方を向くがそれは自分が望んでいた存在ではなく、蟻を思わせる形の危険種だった。
「ひぃっ……!」
クロメの心から助かったという安心感が吹き飛び、再び死の絶望が心を埋め尽くす。
恐怖により身体が動かない。
そんなクロメに危険種は向かってきた。
その時、危険種が現れた影の反対側からヒュンッと音を持った円盤が飛び出して危険種の片腕を切り裂いた。
突然腕を切り裂かれたことで危険種が叫ぶと、円盤が出た影から小柄な影が現れ、獣のように飛び掛かり、危険種を叩きのめした。胸の硬そうな外殻を腕から生えた鋼鉄の爪で砕いていく。危険種の腕の切り口からは体液が噴き出し続けている。
影は素早い仕種で、腕の爪を危険種の頭めがけて荒々しく振り下ろし、切り裂いた。傷口から粘着性の血液が噴き出し、影を汚していく。危険種の身体は一度痙攣して、動かなくなった。
(最悪だ……こんな殺り方、僕らしくない……)
コウマは倒したブレイドホーネットのズタズタな姿を見て、自己嫌悪に陥っていた。
サキと別れて『女王』がいるであろう巣に向かう最中に、子供たちの死体を見続けてしまった。危険種にバラバラにされた者、生きたまま喰われた者、ブレイドホーネットに寄生され腹が空洞になった者、全ての顔が絶望に染まっていた。
その顔を見るたびに心がどんどん冷えていく。
なぜこんな樹海に子供がいるのか考えていた時、『助けて』という声を聞き、少女を抱えたブレイドホーネットを見つけた。
すかさず槍を伸ばしてブレイドホーネットの頭に投げ、少女を助けた。
無事を確認しホッとしたのも束の間、新たなブレイドホーネットが襲い掛かろうとしたのを見て、怒りがこみ上げてきた。
結果、そのブレイドホーネットを自分は怒りのまま惨殺した。
その行為が今までの自分とかけ離れていたものでコウマを苦しめる。
(そうだ……あの子は……)
助けた女の子は地面に座りながら、コウマを恐ろしい何かを見る目で見つめ震えていた。
その目を見てコウマは気付いた。顔の半分を隠す仮面をしていることと、自分の姿がブレイドホーネットの体液で汚れていること、自分より巨大な危険種を惨殺した存在であることは、少女にとって新しい恐怖であるだろう。
一歩近づくと少女がビクッと震えて、後退る。
その行動を見て、少し傷つきながらコウマは声を絞り出した。
「君を……驚かせて、怯えさせてすまない。きっと、この姿……これも警戒させている原因だろう。この恐ろしい危険種を倒した僕が怖いだろう」
コウマは自分の顔に付けられた仮面を外した。
少女が息を呑んだ。
「だけど……君を助けたいんだ。君と話がしたい」
慎重に言葉を選んで続けた。
「話してくれ。君の名前、なんでこの樹海にいるのかを教えてくれ」
コウマは少女に頭を下げた。
「お願いだ……。僕に、君を守らせてくれ」
頭を下げたまま、少しの時間が経つと……。
「……クロメ」
少女の声にコウマは頭を上げた。
「私の名前は……クロメ」
クロメの言葉に、コウマは固く拳を握りしめた。
彼女に投げかけた言葉が……祈りが届いたのだ。
ブレイドホーネットたちは樹海のあちこちから一匹で、二匹で、あるいは群れをなして、続々と集まっていた。カチカチ、シューシューとざわめきながら、『女王』の招集に今戦っているのを除いて本能的に応じてやってきたのだ。
ブレイドホーネットたちは津波となって、『女王』が住処としている巣に押し寄せ集まった。
群れは巣になだれ込んできて、騒々しく鳴き交わした。やがて、すべてのブレイドホーネットが動きを止め、『女王』の前にうやうやしく頭を下げた。彼らはそのまま長い間、鳴き声も発せずに、敬意をこめてじっとしていた。
『女王』は顎を鳴らして、きしるような声で長々と叫んだ。その声を聞いて、一匹のブレイドホーネットが前に出た。
そのまま大顎と爪を構えた『女王』はブレイドホーネットに襲い掛り、その肉に食らいつく。
襲われたブレイドホーネットは悲鳴を上げるが抵抗らしい行動はしない。まるで、その行動が正しいといわんばかりに。
『女王』はそのまま肉をすべて喰い終わると新たなブレイドホーネットが前に出た。
自らが生んだ子を母が食らうという光景は狂気を思わせる行動であるが、『女王』も『兵士』たちもこの意味を理解していた。
現在、自分たちを滅ぼそうとする脅威が接近していることを、繭となる人間や危険種が離れていることで『兵士』を増やしにくくなっていることを。
『兵士』たちは強い。
新たに誕生した『強化体』に比べれば劣るが、そこは数の力で補えばよい。だが、その戦い方も難しくなっている。自分たちを滅ぼしにきた脅威によって兄弟たちが急激に減少してしまった。
兄弟たちの死はブレイドホーネットと『女王』に危機と恐怖を覚えさせた。
『兵士』にとって女王は母であり、守らなければならない存在だ。自分たちの力では『女王』を守りきることは出来ない。
そこで『兵士』たちは禁断の方法を思いついた。
自らの身を『女王』に捧げて母を強くすればよい。
『兵士』である自分たちは強い切っ掛けがなければ進化をすることは出来ないが、特殊な環境の中で成長し、進化した『女王』ならば自分たちの血肉で更なる進化で、これからの先、生きていける可能性が大きい。
『兵士』たちの案をもちろん『女王』は拒否した。
例え『女王』の自分が死んでも子供たちが生きていれば、一匹が新たな女王となり種の復活を成し遂げてくれる。
だが、『女王』の意見は否定された。
相手は自分たちを逃がしてくれるほど甘くない。
全滅させられるのも時間の問題であると全員が気付いているのだ。
故に『女王』は子供である『兵士』たちの願いを聞き、その禁断の行動に出た。
母が子供の肉を喰い、血を飲む狂気の祭に『強化体』は参加していない。
『強化体』は時間稼ぎのために外に出ている。
自分たちより強力な危険種が現れたことで、その相手をしている。
『女王』は我が子の血に濡れたまま限界まで頭をそらし、顎をいっぱいに開いて、耳をつんざくような怒りと憤懣と絶望の恐るべき絶叫をあげた。
その叫びは洞窟中に響きわたった。
「ちょっとごめんよ。怪我を見るから」
「う、うん。……っ」
コウマはクロメに怪我がないか調べるために触診をしていた。もちろん、手袋と手甲はブレイドホーネットの体液でひどい状態になっていたので外してある。
足を強く捻っただけのようで、足に触れると顔を歪めたが、それ以上の目立った傷はなく、骨も無事だった。
そのことにホッとした時、耳にギューというやたらと可愛らしい音が響く。
一瞬、危険種の鳴き声かと想像したが、目の前のクロメが顔を真っ赤にしていたことで、クロメの腹の虫が鳴ったのだと理解した。
「……お腹が空いたのか?」
コウマの問いにクロメは真っ赤になった顔で首を縦にブンブンと振る。
その行動につい微笑ましい気分になり、懐のポケットを探ると板状の、木の葉に包まれた携帯食糧をとり出した。
「どうぞ」
包みから出すと、中から白い板が顔を覗かせた。
「見た目もおいしそうだろ?高機能食品ってやつで、食感はお菓子みたいなもんだよ。人間の体に必要な栄養がたっぷり入ってる。まぁ、一口食べてみなよ」
渡されたクロメは、携帯食糧とコウマの顔を交互に見て、携帯食糧を口にする。齧る前に、吸うように舐めた。
「……!」
携帯食糧の味に驚いたのか、目を大きく開いてそのまま齧りついた。一気に齧りついていたので、自分の指すらも食べてしまいそうな勢いだ。
「………!!」
するとクロメ再びカッと目を見開いて体を震わせる。
「それ自家製なんだ。大豆なんかを砕いたのを練乳で固めた簡単な物だけど……聞いちゃいないか」
コウマの説明を他所にしてクロメは携帯食糧を齧る。
携帯食糧を食べ終わるとクロメは物欲しそうな顔をして見つめてきた。
その姿につい笑みが出て、再び懐から携帯食糧を取り出した。
「まだあるよ」
クロメの黒い眼がこれ以上ないくらいに輝いた。
クロメがコウマの持つ携帯食糧を全て食べ終わるのに時間はかからなかった。
腹が満たされて満足気な息をつくクロメにコウマは自己紹介をする。
「さて、クロメ。僕の名前はコウマだ。とある危険種の親玉を倒すために家族とこの樹海に入ってきたんだ」
「うん!コウマはいい人!」
(……なんか動物に餌付けしたみたいだな)
笑顔で答えるクロメにそんな考えが浮かぶが、そのままクロメに質問した。
「クロメ、聞きたいことがあるんだ。なぜ君はこの樹海にいるんだ?それと、君以外の子供がこの樹海で多くいることについて知っていることを教えてくれないか?」
「……うん。それはね……」
クロメの口から答えが出た。
両親によって姉と一緒に帝国の組織に売られたこと、選定として装備というにはお粗末すぎる物でこの樹海を抜け出そうとした時、ブレイドホーネットによって離れ離れになってしまったことを。
話を聞き終える時にはコウマの心中は嵐のように荒れ狂っていた。
(そんな……!そんなことが……っ!!)
今の帝国の腐敗は父から聞かされたことがあるが、今、目の前で行われてる惨状を見たことで怒りが膨れ上がる。
だが、胸の怒りを鎮めてこれからの行動について考えた。
この先にはブレイドホーネットの『女王』がいるは確かであり、残った炸裂弾を使って巣ごと吹き飛ばすという策を使う予定だった
。
しかし、クロメという存在によって巣にたどり着くというのが難しくなった。単独で巣まで行くことはできるが、それではクロメをここで置いていってしまう。クロメを連れていくという考えは、今のコウマの実力では護衛をしながら戦うというのは至難だ。確実にクロメを守る方法としてサキやキバと合流するという案が浮かんだが、それではキバに任せた兵士狩りの放棄とサキに任されたことを捨てることになる。
(……けど、守るっていったんだ)
コウマのように『影』という特殊な一族から生まれて育ったのならともかく、普通の女の子のクロメにとってこの樹海にいることは生きている心地はないだろう。
サキたちと合流しようと立ち上がった時。
恐ろしい勢いで放たれた『何か』がコウマたちを襲った。
間一髪だった。
立ち上がった瞬間、直感で『動かないと死ぬ』と感じたコウマはクロメを抱えて勢いのまま下がった。急に抱きしめられて、跳んだためクロメが目を白黒させるが、構う暇などなかった。
さっきまでコウマたちがいた場所には先が剣を思わせる尻尾が地面に突き刺さっていた。
尻尾の持ち主をコウマは確認すると目を見開いた。
「ブレイドホーネット……いや、女王か!」
尻尾の持ち主の顔は蜂を思わせる形をしていたが、その首から下が今まで見たブレイドホーネットとは違っていた。
ブレイドホーネットを上回る巨体、人の頭を鷲掴みできる太い腕、肩や胸を覆う筋肉、尻尾の幅はコウマより太く、鋭い先端とギザギザを持っていた。
体全体の印象は太く優雅で、凶悪だった。この生物は信じられないほど、凶悪でブレイドホーネットに欠けていた力強さを持っており、それでいて速さと敏捷さを持ち合わせているように見えた。
毒霧のような吐息を漏らし、大顎をガチガチと鳴らす。
今まで見てきたブレイドホーネットとは違う姿に驚愕するが、すぐに頭を冷やして相手を冷静に分析する。
(相手はブレイドホーネットの上位種。身体が筋肉で覆われているから耐久力と腕力も上がっているな。尻尾も巨大化してるし、尻尾の縁がノコギリのようになってる。触れられたらアウトだな……)
だが、それでも構わない。元々、自分の戦い方は回避重視、相手の攻撃など当たらなければどうということはない。
不安要素は、今腕の中にいるクロメの存在と外していた手甲がブレイドホーネットの足元にあることだ。
「……クロメ、悪いけど少しの間だけ下がってくれる?」
「!」
コウマの声に震えていたクロメは涙のたまった目を向けるが、その目を見ることが出来なかった。
今、コウマが相手から目を外したらすぐに襲ってくるからだ。
「お願いだ、このままじゃ……守れない」
「……」
力強い言葉にクロメはこくりと頷くと、後退りしながら木の影に隠れた。
クロメが隠れるのを確認して、コウマが手裏剣を両手に素早く手にすると―――
「グギャァァァァァァァァァァァァァ!!!」
絶対に許せない敵に吠えるように、砲弾のようにブレイドホーネットは突撃を行った。