――アヌビス。
プロデュエリストであれば、新進気鋭の新人であると言う。
一般のデュエリストであれば、デッキビルドの解説をしてくれるプロだと言う。
同級生であれば、デュエルモンスターズに対して真摯だと言う。
総じて言えるのは、本気のデュエルバカということである。
「あれがデュエルアカデミアかぁ」
船の上で遠目に見える島を眺めているのはアヌビスこと三日月。
手帳を片手に頬杖をつきながらリラックスしている。ここだけ見ればプロデュエリストとは思われないだろう。
「うーん、時間が無いな。まあ、いつも通りにやればいいんだろうけど。でもアカデミア生はレベル高いだろうしなぁ」
「あー! いたいた!」
「うん?」
声をかけられて振り返ると、そこにいたのは元気そうな少年と影が薄くなりそうな少年、そして小さい水色の髪をした少年。
少年3人衆だ。全員知らない顔である。
「……どなたかな?」
「ああ、ワリぃ! 俺は遊城十代!」
「ボクは丸藤翔っす!」
「三沢大地だ」
同じくアカデミアに入学する生徒たちだ。
みんな元気そうでワクワクしているという様子。三日月はプロ入りたてを思い出すなぁとしみじみとしている。
「俺は三日月圭。よろしく」
「よろしくっす! 三日月くんオベリスクブルーなんすね。さすがはプロっす!」
「ああ、これね……」
そう言って三日月は自分の服装を見る。
青い学生服に身を包む彼は、アカデミアのクラスでオベリスクブルーというクラスに属する。
十代と翔は赤い服装のためオシリスレッド、三沢は黄色なのでラーイエロー。
成績優秀者から順に青黄赤の順で所属するため、三日月は一番上だ。十代たちは一番下となる。
「本当はラーイエローからでもいいんだけど、色々あってさ」
「さっき悩んでいたことと関係があるのか?」
「うん。実はアカデミアで臨時講師を頼まれててね」
そう話すと驚きを隠せない十代と翔。
しかし、三沢は納得していた。
「ああ。アヌビスプロとして講師をやっているからな」
「へえ! プロそんなのもやるんだな!」
「いやあ、趣味と実益を兼ねてるだけなんだけどね」
「だからオベリスクブルーなんすね……」
頭をかいて照れる三日月。
元々デッキ構築の講師としてよくテレビや講演をしていたためか、アカデミアから時々やってほしいとオファーが来ていた。
しかし、生徒が生徒に教える上、クラスで上下ができてしまっている都合上、オベリスクブルーで入学しなければいけなかったようで。
三日月としてはクラス分けはどうでもいいのだが。大人はいつも大変だなぁと思うのであった。
「ま、クラスとかあまり気にしないでよろしくしようよ」
「おう! よろしくな! アカデミアに行ったらデュエルしようぜ!」
「あ! ぼ、ボクも!」
「俺も頼むよ。プロとデュエルできるなんで光栄だ」
「はいはい。機会があれば是非」
にこやかに笑いながらデュエルの約束をする。
たくさんデュエルできる機会がありそうだとみんなで笑うのだった。
◆ ◆ ◆
アカデミアに到着してからしばらくして。
オベリスクブルー寮内でプロデュエリストということで、ハチャメチャに声をかけられつつ歓迎されていた。
メディア対応のごとくにこやかに話しをしていたが、いつもと違って逃げ場がないため一苦労である。
初日からこれかーと思いながら部屋へと逃げ込み一息ついていたところでノック音。
またしてもと思いつつ扉を開けると、そこにいたのはロングヘア―の女の子。
「お休みのところごめんなさい。部屋に向かっているのを見て、挨拶していなかったと思って」
「ああ、はい。初めまして、三日月圭です」
「天上院明日香です。よろしく」
手を差し出されたため握手する。
そこまで話し込む気も無いらしく、本当に挨拶だけのようだ。
先ほどまでのオベリスクブルー生徒たちとはちょっと違うのかなと思い、今後の授業や生活のために少し交友を深めようと頷いた。
「少し話さない? 他の人たちは悪気はないんだろうけど、みんなハングリーでね。キミはそんなことなさそうだから」
「ふふ、あなた相手ならそうもなるわよ。いいわ、少し歩きましょう」
へぇ、デートかよ。急に誰かから語り掛けられたような気がした。
既に夜のため、門限になる前にはと言いながら外へ繰り出す。
散策があまりできていないと話すと、明日香は丁寧に説明してくれる。
こっちの道は灯台。こっちは校舎。他愛のない話をしつつ、歩いていると。
「この道を進むとデュエルフィールドよ。今は使用時間外……なんだけど」
「……ついてるね」
遠目にも明かりが見えていた。
誰かが初日から悪さをしているらしい。とはいえここはデュエルアカデミア。
そういうこともあるだろうと思っていたが、明日香はズンズンと明かりの方へ進んでいく。
「おーい、天上院明日香ー?」
「何かしら。私は不正している人を止めに行くわ」
強い正義感を感じる瞳に思わず苦笑いである。
なんだか妙な流れになってきたぞと思いながら、自分のデッキを持ってきているかどうかを確認した。
デュエルフィールドまで進んでいくと、そこにはオシリスレッドとオベリスクブルーの生徒の姿が。
フィールドに立っているのは先ほど会っていた十代。もう1人は誰だかわからないがオベリスクブルーだ。
それ以外には十代と一緒にいた翔と、取り巻きらしきブルー生が2人いる。
「あなたたち、何しているの!?」
「天上院くんと……アヌビスプロ、か。なに、ドロップアウトたちに現実を教えてやっているところだよ」
そう語るブルー生のフィールドにはおどろおどろしいゾンビが1体とリバースカードが1枚。
どうやら序盤も序盤のようだ。
《リボーン・ゾンビ》
星4/闇属性/アンデット族
攻1000/守1600
初手で《リボーン・ゾンビ》かぁと顎に手を当てていると、十代が勢いよくドローする。
どうやらデュエルをやめるつもりはないらしい。
「俺は手札から魔法カード《融合》を発動! 手札の《
手札から十代の相棒たるHEROたちが登場し、融合される。
現れたのは緑と赤の意匠がカッコいいHERO、フレイム・ウィングマンだ。
《
星3/風属性/戦士族
攻1000/守1000
《
星3/火属性/戦士族
攻1200/守800
《
星6/風属性/戦士族
攻2100/守1200
「あれは、実技試験でクロノス先生を倒したカード……!」
「ほぉー?」
明日香が隣で驚いている。
三日月も受験でのデュエルを実際に見ていたが、またもや見れるとは。そして、難しい融合召喚を上手く使っているなぁと感心していた。
「フッ、だからドロップアウトだと言うんだよ! 罠カード発動! 《ヘル・ポリマー》!」
「えぇ?」
三日月が驚きを隠せずに、思わずブルー生を見つめる。
すると、《リボーン・ゾンビ》が生贄になって消え去り、代わりにブルー生のフィールドにはフレイム・ウィングマンが現れた。
「え!? フレイム・ウィングマン!?」
「《ヘル・ポリマー》は俺のモンスター1体を生贄にすることで、融合モンスターのコントロールを得る罠カード! ドロップアウト、貴様のモンスターはもらったぞ!」
「エースモンスターを奪われるなんて!」
周りが驚いている中、随分とピンポイントなカードを入れているんだなぁと顎をさする三日月。
自分ならもっと広い範囲で使えるカードをと思いながらも、今現在強烈に刺さっているため、これもまた正解だよねと頷いていた。
「感心してる場合じゃないわ! 万丈目くんが提示してるのはアンティルールなのよ!」
頷いていたところを明日香に怒られてしまう。
アンティルールとは、お互いにカードを賭けてデュエルするもの。
普通に校則違反だし、学校外でも中々のものである。
フレイム・ウィングマンなんかもらって、HEROデッキ作るつもりなのかなと考えてしまうのはプロの職業病だろうかと首を傾げた。
「くっ! 俺は《
十代が新たに土くれのHEROを召喚する。
守備力が高くがっしりした戦士だが、フレイム・ウィングマンに対しては心もとない。
《
星4/地属性/戦士族
攻800/守2000
「俺のターンドロー! 俺は《
ブルー生、万丈目が召喚したのは幅広の剣を持ったいかつい戦士。
ガラの悪そうな見た目のわりに、その動きはクレバーだ。
《
星4/闇属性/戦士族
攻1200/守1400
「バトル! 《
「クレイマン!」
「フレイム・ウィングマンが戦闘でモンスターを破壊したとき、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える……くらえ!」
炎を纏ったフレイム・ウィングマンがクレイマンに突撃し、撃破。
風が巻き起こったところで、十代にフレイム・ウィングマンから炎が放たれる。
「うわぁ!?」
「続けて《
「うっ!!」
息をつかせぬままにダイレクトアタック。
大振りの斬撃だが、十代が防ぐ術はない。
十代 LP4000 → 3200 → 2000
「見たか! これがエリートの戦術だ!」
「ドロップアウトじゃあ勝てないぜ!」
取り巻きの2人がデュエルしているブルー生、万丈目を讃える。
三日月も腕を組み、センスはいいかもと神妙に頷いた。
「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ。ククッ、サレンダーしてもいいぞ、ドロップアウト!」
「へへっ! こんなにワクワクするデュエルやめられるか! 俺のターン!」
十代は楽しそうにカードを1枚ドローすると、モンスターを1体召喚する。
「《
現れたのは稲妻のようなイエローカラーを見にまとった細身の戦士。
今までのヒーロー以上に戦闘が得意そうなクレバーさを見せている。
《
星4/光属性/戦士族
攻1600/守1200
「バトル! スパークマンで、《
スパークマンは手に電気を溜めると、《
稲妻をうけた《
三日月はふぅむと声を漏らす。
「どうしたの?」
「《
「え? じゃあ、今の攻撃で……」
「フッ、流石はアヌビスプロ。そう! 《
《
スパークマンは拳で剣を破壊するが、その破片が十代へと降りかかった。
万丈目 LP4000 → 3600
十代 LP2000 → 1600
「攻撃力は低いけど、その分ダメージも増える。いいモンスターだね」
「ちょっと三日月くん! どっちの応援してるんすか!」
翔が腕をブンブン振りながら怒っている。
うーん、別にどっちも応援してないんだけどなと苦笑いだ。
「やるな! 俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」
十代はカードを1枚伏せてターンを回す。
万丈目はフィールドもライフポイントも上回っている状況。余裕をもってデッキに指を置く。
「俺のターン、ドロー! そのままバトルフェイズだ! フレイム・ウィングマンで、スパークマンを攻撃!」
勢いそのままに攻撃を選択。
フレイム・ウィングマンがスパークマンへと突貫していくと、十代はニヤリと笑った。
「かかったな! リバースカードオープン! 《異次元トンネルーミラーゲートー》!」
「なにッ!?」
十代がカードを発動すると、2人のヒーローに突然の鏡らしきものが発生。
万丈目が驚いていると、鏡がきらりと光る。するとそこには十代のフィールドに立つフレイム・ウィングマンの姿が。
万丈目のフィールドにいるのは、腕を組んでいるスパークマンだ。
「な、これは!」
「俺のヒーローが攻撃された時、お互いのモンスターを入れ替えて戦闘するぜ! 行け! フレイム・ウィングマン! フレイムシュートッ!」
コントロールを入れ替えて戦闘を行う罠カード!
フレイム・ウィングマンは先ほどと同様にスパークマンへ突貫。火をまとった体当たりでスパークマンを蹴散らし、万丈目へと右手を向ける。
「フレイム・ウィングマンが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」
「ぐぅ!」
火を放たれた万丈目は腕を交差してダメージを受ける。
1枚のカードで形勢が逆転してしまった。
万丈目 LP3600 → 3100 → 1500
しかし、ブルー生たる彼もただではやられない。
苛立ちを隠せない顔つきのまま、伏せたカードを発動する。
「罠発動! 《ヘル・ブラスト》! モンスターが破壊されたターンに発動できる! フィールドの表側表示モンスターの中で最も攻撃力の低いモンスターを選択して破壊する! そして、破壊したモンスターの攻撃力の半分、互いにダメージを受ける!」
「え!? うわあー!?」
罠カードにより、フレイム・ウィングマンが爆発。十代と万丈目は大ダメージを受けることになる。
万丈目 LP1500 → 450
十代 LP1600 → 550
「フレイム・ウィングマンが!? アニキ!」
「さらに俺は手札より魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地の《
畳みかけるように墓地から《
このターンは戦闘できないが、また攻撃してやるぜと舌なめずり。
「そして《
えっと顔をしたまま生贄にされ、現れたのは馬に乗った将軍。
右手に持つ大きな斧は、命を刈りとらんと不気味な存在感を放っている。
《
星5/闇属性/戦士族
攻1800/守1700
「俺はターンエンド! 次のターン貴様の敗北は決定する!」
「本当にそうか? いくぜ、俺のターンドロー!」
十代がカードを引いたところで、ここに走ってくる足音が。
明日香がハッとした顔になり、焦りながら視線を右往左往。
「ガードマンよ! ここで見つかったら退学になるかもしれないわ!」
「……チッ! 覚えていろよ、ドロップアウト!」
「あ、待て! まだ俺のターンだ!」
万丈目は明日香を見て舌打ち。取り巻きたちと一緒にどこかへと走って行った。
一方十代は翔に引っ張られているがデュエルの中断が気に入らないようで怒っている。
ため息を吐きながら協力してデュエルスペースから引きずり、見つからないように出ていった。
しばらく走って遠ざかってから一息つくと、明日香がたしなめるように十代にお説教。
ぶーぶー言いながらも校則違反なのはわかっているのか頷いて聞いていた。
「ふぅ。でもよかったじゃない。あのままじゃ、あなた負けていたわ」
「それはどうかな。ほら」
そう言って十代が見せてきたのは《死者蘇生》。
先ほどのドローカードはそれだったらしい。
「《死者蘇生》! じゃあアニキ!」
「おう! これでフレイム・ウィングマンを出して、俺の勝ちだぜ!」
やいのやいのと盛り上がる2人。
明日香も驚いていたが、感心したのかおもしろい子ね、と笑っていた。
しばらく談笑してから分かれて寮へと戻る。
帰りは先ほどのデュエルについて話をしていたが、三日月はうーんと顎に手をやって考え込んでいた。
「どうかした?」
「いや、さっきのデュエルでちょっとねぇ」
そういう三日月は、アカデミアでの通信ソフトを取り出して、十代へとメールを送るのだった。
今日の最強カードは《異次元トンネルーミラーゲートー》!
《異次元トンネルーミラーゲートー》
通常罠カード
ヒーローが攻撃された時、攻撃したモンスターとヒーローを入れ替えてバトルする
ヒーローが攻撃されたら、相手モンスターと入れ替えてバトルできるんだ!
ピンチをチャンスに変えられる、ヒーローのカードだぜ!