本日、三日月はえらく緊張していた。
プロデュエリストとなって初めて公の場でデュエルしたときと同じぐらい心臓が高鳴っているだろう。
理由は簡単だ。
「えー、それじゃあ講義を始めます。その……よろしくお願いしますね?」
自分が授業をするからである。
三日月は貴重なプロデュエリストとして、授業を受けるだけでなく講義もすることになっている。
今日は記念すべき初講義ということで、とても緊張しているのだった。
一応補佐にクロノス先生が横で立っているものの、彼も内容は三日月にまかせっきりだ。
プロだしブルー生だし経験もあるから、なんとかなるノーネとはクロノス先生のお言葉。
「僕が講義するのは、デッキビルドについてだね」
そう話すと、生徒たちはみんなおお、と声を出す。
プロデュエリストアヌビスのデッキビルドガイドは有名である。それは、デュエル雑誌に載っているコラムの1つ。
強力なカードだけで作るデッキや、様々なカードのシナジーを意識したデッキ、はたまたエースカードを輝かせるためのデッキなど、多岐にわたって指導しているのだ。
その上で、デッキごとに気をつけるプレイングも説明してくれるとあって、とても人気となっていた。
「このカードが使いたい! っていう気持ちでみんなデッキを作ると思うんだけど、使いたいカードを活躍させるのって大変なんだ。きっとみんなも身に沁みてると思う」
そう話すと、どの生徒もうんうんと頷く。
好きなカードは必ずしも強いとは限らない。KC社長である海馬瀬戸が使う《青眼の白龍》のような最強のモンスターと言われるカードであったり、決闘王武藤遊戯が好んで使っていた星1のモンスター《クリボー》であったり。
人それぞれのドラマがあり、デッキがあるのだ。
「というわけで、今日は自分の好きなカードを使うにはどうしたらいいのかを考える講義をしていくよ。最初は基本的なところからだね。まずは……」
多少のぎこちなさはあるものの、丁寧に話をしようと一生懸命だ。
クロノス先生はそれを見て、すばらしい生徒が入ってくれたノーネと喜ぶ。
横目でワクワクした様子のオシリスレッド生を見ながら。
(フィールド魔法の説明もできずに、よく入学できたものデスーノ!)
フン、と鼻息荒く腕を組む。
しかし口元はニヤけている。今日こそあの憎きオシリスレッド生、遊城十代を……。
よくない計画の成熟を考えつつ、教え子の講義を見守るのだった。
◆ ◆ ◆
講義を終えて、お風呂にて疲れを癒した三日月。
自分のデッキを広げながらカードの選定をしていると、何やらバタバタと外がやかましい。
何だろうかと思っていると、扉がバン! と開かれた。
「三日月様! 手伝ってくださいまし!」
「三日月、手伝って!」
大きな声を出して入ってきたのは浜口ももえと枕田ジュンコ。
明日香と仲のいい友人であり、よく一緒にいる2人だ。
「どうしたの、そんな大声で。しかも夜だよ?」
「どうしたもありませんわ!」
「覗き! 覗き魔がいたの!」
覗きぃ? と思わず首を傾げる。
確かに今はどの寮もお風呂に入る時間だ。覗きがいたとしたら今だろう。
でも孤島であるデュエルアカデミアでそんなのいるの、というのが三日月の感想だ。
「誰かはわかってるの?」
「もう捕まえましたわ」
「え、捕まってるの?」
解決してるじゃん。思わず聞き返してしまう。
捕まえたから解決。そうは問屋が卸さないというのがデュエルアカデミア。
「明日香さんが遊城十代を呼び出してデュエルするって」
「は? どういうこと? 十代が捕まってるわけじゃないんでしょう?」
もう何が何だかさっぱりだ。
覗きをしていない十代が呼び出されるのもわからないし、デュエルするのもわからない。
詳しく聞いていくと、どうやら覗きをしたらしき犯人は翔だったようだ。
それを捕まえた明日香は十代を呼び出して、デュエルで勝てば無罪放免とするつもりらしい。
そもそも翔が覗きをするタイプじゃないし、そんな勇気もないだろうということで、多分何かしら誤解があるのだろう。
でもデュエルって……。
「……ああ、なるほど。明日香が十代とデュエルする口実ってことね」
「うーん……そうなるかな。なんであんなオシリスレッドと」
「お顔はちょっぴりよろしいと思いますわ」
2人ともなんとなく不満というか、なんだかなぁという感じらしい。
ももえは何か評価がおかしい気もするが。
「つまり、女の子だけだから僕もいてほしいってことかな」
「そうですわ」
「なるほどね。うん、いいよ。早速行こうか」
テーブルに広げていたデッキを整えてケースへしまうと、ももえたちと共に寮の外へ。
女子寮の裏手、海近くに行くと明日香が立っていた。デュエル用の青いグローブもつけてやる気満々だ。
そして翔が縛られて転がされている。南無南無。
「あら、こんばんは圭」
「三日月くん! ひどいっす!」
「だって、今回は自業自得と言うかなんというか」
「違うんすよ! 誤解っす!」
翔が言うには明日香からラブレターをもらったとかなんとか。
いやぁ……。
「いやぁ……ナイナイ」
「ありませんわね~」
「ないわね」
「ひどいっす!?」
だって知り合ってから少ししか経ってないのにラブレターなんて送るわけないじゃん。
しかもあの明日香が。
「ちょっと、それどういう意味かしら」
「恋よりデュエルとか言いそうなモンでしょう?」
「……否定できないわ」
ほら、と腕を組むとなによと脇腹をつねられる三日月。
しばらく話をしていると、十代が息を切らせて走ってきた。
「翔! 大丈夫か!」
「アニキィ~!」
「なんで覗きしたんだ!」
「アニキィー!?」
真っ先に翔を気にする十代。優しいね。でもいけないことをしたという話は聞いているようだ。
しかしももえとジュンコは冷たい視線を向けている。まあね、覗きはダメだからね。
明日香は覗き自体が誤解だとわかっている様子だ。やっぱりデュエルしたいだけである。
「十代。私とデュエルしましょう。もし勝てば無罪よ。負けたら裸で寒中水泳でもしてもらうわ」
「おう! 受けて立つぜ!」
あまりにもスムーズすぎる流れでデュエルが始まろうとしている……!
元々三日月経由で十代と翔は知り合いだったからか、とりあえず翔は大丈夫だしデュエルで話の決着つけるかという認識が既にできている。
2人とも立派なデュエルバカである。思わず苦笑いだ。
「いくぜ! 明日香!」
「いくわよ十代!」
「「デュエル!」」
明日香 LP4000 VS 十代 LP4000
「まずは私の先行! ドロー!」
明日香が先手を取ると、速やかにカードをデュエルディスクへと叩きつける。
「私は《エトワール・サイバー》を攻撃表示で召喚!」
現れたのは華やかな女性のモンスター。
腰のフリルがひらりと揺れ、ロングヘアーと両腕のリボンが美しくたなびく。
《エトワール・サイバー》
星4/地属性/戦士族
攻1200/守1600
「サイバーモンスター!?」
「カードを1枚伏せてターンエンドよ」
先行1ターン目は攻撃できない。
カードを伏せることで攻撃に対応しようと準備を整えた。
ところで翔は何を驚いているのだろうか。
「いくぜ! 俺のターンドロー!」
十代は勢いよくカードをドローすると、手札を見てニヤリと笑う。
「俺は《
現れたのはヒーローたちの特攻隊長ことスパークマン。
凛々しく登場し、すぐさま戦闘に構える。
《
星4/光属性/戦士族
攻1600/守1200
「バトルだ! スパークマンで《エトワール・サイバー》に攻撃! スパークフラッシュ!」
スパークマンが手に光を溜めて、そのまま放出。
紫電が《エトワール・サイバー》へと向かっていく。
「リバースカードオープン! 罠発動、《ドゥーブルパッセ》! 私の攻撃表示モンスターが攻撃された時発動できるわ! 攻撃されたモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、その後攻撃モンスターは私にダイレクトアタックする!」
「なにっ! つまり……」
「《エトワール・サイバー》の攻撃力分のダメージを、十代! 貴方に与えるわ!」
《エトワール・サイバー》がスパークマンの稲妻をひらりと躱すと、そのままの勢いで十代へと近づき蹴りを一撃。
稲妻は代わりに明日香が受け止めた。
十代 LP4000 → 2800
明日香 LP4000 → 2400
「いてて……やるな、明日香!」
「まだまだ序の口よ。《ドゥーブルパッセ》の効果を受けた《エトワール・サイバー》は、次のターンモンスターがいたとしてもダイレクトアタックすることができるわ。そして、《エトワール・サイバー》はダイレクトアタックする時、攻撃力が500ポイントアップする効果を持っているの」
「げえっ、マジか! でも、俺はターンエンドだ!」
困った様子でターンを渡す十代。
手札が5枚あるのにターンを渡すということは、随分と融合召喚にシフトしてある手札なんだなぁと顎に手を当てる。
おおよそ融合と何かなんだろうが、素材が1枚足りないとかそんな感じなのだろうと三日月は頷く。
「明日香さんの優勢ですわ!」
「オシリスレッドなんかやっちゃってよね、明日香さん!」
ももえとジュンコの声援を受け、笑みを浮かべながらデッキに指を置く明日香。
「私のターン、ドロー! 手札から《融合》を発動するわ! 手札の《ブレード・スケーター》と、フィールド上の《エトワール・サイバー》で融合召喚! 来て、《サイバーブレイダー》!」
スケート選手のような女性のモンスターと《エトワール・サイバー》が融合され、現れたのは青いロングヘアーをたなびかせたスケート選手。
美しく跳びあがって登場し、スパークマンと対峙する。
《サイバー・ブレイダー》
星6/地属性/戦士族・融合
攻2100/守800
「来ましたわ! 明日香様のエースモンスター!」
「《サイバー・ブレイダー》……強力な効果を持つ融合モンスターだね」
《エトワール・サイバー》でダイレクトアタックすることでライフを詰める選択をするかと思ったが、明日香のプレイは《融合》。
おそらくスパークマンを融合素材にされるのを防ぐ狙いなのだろうと当たりをつける。
《ブレード・スケーター》の攻撃力では、スパークマンは倒せないからだ。三日月はなるほどと感心していた。
《ブレード・スケーター》
星4/地属性/戦士族
攻1400/守1500
「まずはバトル! 《サイバー・ブレイダー》でスパークマンを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」
滑るように進む《サイバー・ブレイダー》がスパークマンと肉薄、目にも止まらぬ速さでスパークマンに切れ味鋭い攻撃を放って破壊する。
十代 LP2800 → 2300
「くぅ! スパークマン!」
「私はこれでターンエンドよ」
融合モンスターを先に出された上、既にライフポイントは半分。
劣勢になってしまったが、十代はワクワクしている様子でカードをドローする。
「俺のターン、ドロー! よし! 俺はフィールド魔法《フュージョン・ゲート》を発動するぜ!」
「あっ、フィールド魔法! フィールド魔法ゾーンに出せるカード!」
十代が発動した魔法カードに翔が声を上げる。
クロノス先生にフィールド魔法のカード説明をするようにと差されたのは今日の話だ。
翔は今覚えたようだ。これで忘れることはないだろう。
「《フュージョン・ゲート》はいつでも融合することができるようになる! ただ、融合に使ったモンスターは除外されるけどな」
そう言って十代は手札のモンスターを2枚明日香に見せる。
カード2枚を見て、明日香は思わずハッとする。
「手札の《
フェザーマンとバーストレディが異次元へと送り出され、十代のフェイバリットカード、フレイム・ウィングマンが登場した。
エースの登場に、明日香は思わず好戦的な笑みを浮かべる。
《
星3/風属性/戦士族
攻1000/守1000
《
星3/火属性/戦士族
攻1200/守800
《
星6/風属性/戦士族
攻2100/守1200
「さらに手札から永続魔法《騎士道精神》を発動! 俺のモンスターは攻撃力が同じモンスターとの戦闘じゃあ破壊されないぜ!」
「すごい! これで明日香さんの《サイバー・ブレイダー》を倒せるっす!」
フレイム・ウィングマンと《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は共に2100ポイント。
《騎士道精神》の効果で破壊されるのは《サイバー・ブレイダー》のみだ。
そして、戦闘破壊すれば、攻撃力分のダメージを与えることができる。
「バトルだ! 行け、フレイム・ウィングマン! 《サイバー・ブレイダー》に攻撃! フレイムシュート!」
跳びあがったフレイム・ウィングマンは、勢いそのままに《サイバー・ブレイダー》へと突貫。
燃える右手を振り上げて攻撃する、が。
「《サイバー・ブレイダー》の効果よ! 相手フィールドのモンスターが1体だけの時、《サイバー・ブレイダー》は戦闘では破壊されない! パ・ド・ドゥ!」
「なんだって!?」
振り下ろされた手は蹴り上げて弾かれる。スケートブレードがフレイム・ウィングマンに叩きこまれ、互いに距離をとった。
十代もうまいコンボだったが、明日香の融合召喚もいい選択だったようだ。
「くっ、俺はこれでターンエンド!」
「私のターンドロー!」
十代は苦い状況だ。
明日香は余裕たっぷりにカードをドローすると、ニッと笑ってカードを発動する。
「装備魔法《フュージョン・ウェポン》を発動! レベル6以下の融合モンスターに装備できるわ! 装備モンスターの攻撃力は1500ポイントアップする!」
「1500ポイントっす!?」
「やべえッ!」
《サイバー・ブレイダー》の体が淡く光ると、力が一気に湧き起こる。
その力はフレイム・ウィングマンを容易に超えるものだ。
《サイバー・ブレイダー》
攻2100 → 3600
「バトルよ! 《サイバー・ブレイダー》でフレイム・ウィングマンに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」
先ほどよりも鋭く速い攻撃はフレイム・ウィングマンでは反応できない。
一閃。スケートブレードがフレイム・ウィングマンを切り裂き、その余波は十代へと向かう。
十代 LP2300 → 800
「ぐっ、フレイム・ウィングマンが!」
「これで貴方のフェイバリットカードは倒したわ! 次はどうするのかしら。私はターンエンド」
しっかりと攻撃力を上げた上でターンを終了する明日香。
先日の十代や万丈目たちとの感想戦で、何やら考えたようだ。いいプレイングである。
だが、融合を主体とするデュエリストならわかるだろう。これでは終わらないということが。
明日香もよくわかっているようで、余裕を見せてはいるが警戒は怠らない。
「へへっ、ワクワクしてきたな! いくぜ、俺のターンドロー!」
十代はカードをドローすると、満面の笑みを浮かべた。
「来たぁー! 俺は手札から魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地の《
墓地から甦るのはスパークマン。
《フュージョン・ゲート》で除外されていない唯一のヒーローだ。
「俺は《フュージョン・ゲート》の効果を使うぜ! フィールドの《
手札から異次元へと向かうのは守備力の高い大地の戦士クレイマン。
《
星4/地属性/戦士族
攻800/守2000
「現れろ! 《
融合により出てきたのは、がっしりとしたガタイの黄色い戦士。
バチバチの稲妻をまとった巨大なヒーローだ。
《
星6/光属性/戦士族
攻2400/守1500
「サンダー・ジャイアント……!」
「いくぜ! 《
「なんですって!?」
両手の間に電気のスフィアが生まれると、そこから放たれた一撃で《サイバー・ブレイダー》は感電。
バリバリと焼け焦げて破壊されてしまった。
「そんな!?」
「明日香さんの《サイバー・ブレイダー》が!」
ももえたちから悲鳴が上がる。
明日香のフィールドはがら空きだ!
「これで終わりだ! 《
「きゃあああああっ!」
サンダー・ジャイアントが新たにスフィアを作り出し、雷撃。
明日香に直撃した稲妻は、そのライフポイントを全て焼き尽くした。
明日香 LP2400 → 0
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
「やったっす! 兄貴の勝ちっす!」
縛られた状態で器用に跳ねる翔。
明日香の負けを見たももえとジュンコはぐぬぬと不機嫌そうにして翔へと詰め寄る。
「アタシは認めないからね! そもそもアンタが覗いてたのが悪いっ!」
「そうですわ!」
「ええ!? そんなぁ~!?」
まあ確かにという話ではある。
そもそもデュエルで勝てばいいよっていう話でもないし。三日月は苦笑いだ。
「いいのよももえ、ジュンコ。そもそも勘違いなんだもの」
「勘違い?」
「ええ。私、ラブレターなんて渡していないもの」
「ええー!?」
ももえとジュンコはまあ、と軽い驚きだったが翔は叫んでいる。
この期に及んで本物だと思っていたようだ。
「というかさ、筆跡ちがうよね。明日香の字って綺麗だし」
「確かにそうですわね」
「むむ……それはそうね」
「ちょっと、やめてくれるかしら……?」
ラブレターを見て漏れた一言に思わず照れている明日香。
ももえとジュンコも渋々納得したようで、不満そうにしながらも引き下がった。
「これで解決! 翔も無罪放免! 遅くなっちゃったし、帰ろうか」
「ええ、そうね」
「おう! 楽しいデュエルだったぜ!」
十代は笑顔で手を振り、翔と一緒に帰っていった。
明日香はそれを見ながら、ふっと笑顔を見せる。
「遊城十代……おもしろいわね」
ぽつりと呟いた一言に、ももえとジュンコは目を見合わせる。
これはしばらく話題になりそうなネタだなぁと思う三日月なのであった。
今日の最強カードは、《
《
星6/光属性/戦士族
攻2400/守1500
スパークマン+クレイマン
手札を1枚捨てて、元々の攻撃力がサンダー・ジャイアントより低いモンスターを破壊する
手札を捨てれば、元々がサンダー・ジャイアントよりも弱いモンスターを破壊できるんだ!
相手モンスターを破壊して一気に攻撃することができるぜ!