魔導霊柩送還士ー私が死霊騎士になった事情   作:三人天人

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死霊魔術師討伐作戦後に綴られた騎士の手記

壮絶を極める死闘は三日三晩続いた。

元来王国最大の盾であり最強の剣でもあった彼の騎士は、凄烈の剣技と機百とも云うべき千変万化の戦術を駆使して我らの攻撃を刎ね退け続けた。

未だ傷癒えぬ大戦の爪痕深く疲弊しているとはいえ、精強なる我らが影響の騎士団は、なけなしの戦力であった師団規模の軍勢を投じて漸く禍醜なる怨嗟の鬼を調伏せしめるに至る。

彼に付き従った敵味方入り混じる兵たちもまた死人。噂に聞く死霊魔術師に安息の冥府より摘まみ上げた哀れなる魂を詰め込まれた酷薄なる肉人形共、あれらもまた屈強であった。

もしも在りし日のままに生き永らえていたなら、いずれも一騎当千の戦士として栄光の日々を送ったであろうことを思うとやりきれない物がある。

それもこれも例の死霊魔術師の謀と思うと憤懣遣る方無いとはこのことであろう。

彼奴め、大戦の終わりにふらりと現れたかと思えば、万々の戦場を訪れては偉大なる英霊の遺骸を物色し持ち帰っているというではないか。

戦を終えた戦場はその土地自体が霊廟である。

その神聖な地に薄汚い泥足で踏み入っては屍を凌辱し、気に入った遺体を持ち帰っては冒流の悦に耽っているそうではないか。

断じて許されざる業い。悍ましや死霊魔術師。

人は人として生き、神にその命を返さねばならん。死者を蘇らせるなど有ってはならないのだ。

我々が英霊の尊厳の為にとこうして傷つき疲れた身体に鞭打って討伐を断行したのを察知し逃げ出すような臆病者。あまつさえ、その逃走の殿に王国において比類なしと謳われた誉高き騎士殿を死霊騎士へと変じて操り、ぶつけてくるとは、なんという当て擦りか。

いやしかし、やはり最高の騎士と呼ばれるだけの事はあった。

腕やら足やら、中には首のもげた兵までおったが、そんな手勢僅か三十余名で栄えある騎士団の勢力四百を一時は押し返す程の抵抗を見せたのは瞠目に値した。

兵の采配は勿論、地勢の扱い方から伏兵の配置まで悉く我らの采配に掣肘を加えては退けるその軍才。誠に惜しい物だった。

死霊兵は易々とは死なせられるものではないと承知で、随伴させた祈祷師や神徒にもかなり無理を強いる羽目になった。皆無事ではあるが、彼らがここまで疲弊させてしまっては当分死霊魔術師への追撃は難しいだろう。

森、川、橋。これだけの条件で、やつばらめらは我々を押しとどめてしまった。

恐るべき死霊騎士。

おいたわしや騎士殿。

死霊魔導士に呪いあれ。

さて。

これよりは後始末。

屍の兵はいつまた起き上がり刃を向けるか分からぬ故、遺骸は聖別の後焼却、この地も司教殿に清めてもらわねばならない。

大きな戦の後というのはこうも忙しい物か。

戦とは終わりが無いものなのだな。

 

追記

細君にはこの件は伏せる事となった。

彼の誇り高き騎士は戦場に眠り、魂は安息の冥府にて新たなる試練の為に穏やかなる揺籃の時を過ごしていると、これまで通り語る事となった。

愛する夫が禍々しき魔性と成り果てたなどとは語れまいて。

おお我が親愛なる神よ。

どうか穢れし彼の騎士殿の魂を掬い上げ、 御許にて洗い梳きくださいますよう。

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