魔導霊柩送還士ー私が死霊騎士になった事情   作:三人天人

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或る騎士の手記③

しばらく記録が途絶えてしまった。

死者になってから時間の感覚が薄れていて、 あれからどれくらい経ったか曖昧になりつつあるが、 一月は過ぎただろうか。

私は今、 彼の業いを助けている。

もし一月前の私がこれを読んだら卒倒するかもしれないが、 彼と語らい、 彼の業いを傍らで見る内、考えが少し変わってしまった。

断言するが、 死者を蘇らせることは禁忌だ。

だが、 彼のそれは余人が噂した物とは違っていた。

彼の業いは、謂わば死者を霊廟へ送る馬車、 霊柩車に相当する物だと考えている。

思えば、酷な話なのだ。

病や怪我で死に至る者、その全てではないが、彼らは多く場合家族や親しき人に看取られて逝く。 そしてその命尽きるまでを人の温もりに触れながら過ごすことができるのだ。

だが、 戦場で命を落とした者は、冷たい刃に抉られ灼熱に苦しみながら、独りで逝く。それこそが騎士の、 戦士の誉れであると信じてきたが、こうして死者となった今、私は妻が恋しい。

そう、私は死ぬまで気づかなかった。 遺した妻は今どうしているか、どうしても考えてしまうのだ。

妻は出来た女だ。 きっと私の名誉の死を誇りに、これからもたくましく生きると思っていたが、 実際はどうなのか。

彼について行って様々な家を訪れた。

会った家族の反応は似たり寄ったりだった。

皆泣くのだ。 悲しそうに、 嬉しそうに。

中には、出征前に語れなかった事を涙ながらに伝える者もいた。

家族ではなく、置いてきてしまった将来を誓った娘に別れを告げる若き死者もいた。

恐るべき冒涜の所業に因って生み出されていたのは、 どれもこれも、人の心を救うものばかりだった。

戦場になった荒れ野についていった。 本来、 戦場とならない限り踏み入れてはならない地であり躊躇いはあったが、 彼の行いは監視しなければならないと自分を納得させて向かったのだが、 どんな悍ましい事が行われるのかと思っていた分やや拍子抜けした。

彼は倒れ伏した兵を丁寧に起こすと、一人一人顔や身体を確かめ、首を振ったり頷いたりしていた。

頷いた時は、呪具を取り出してあの奇妙な歌のような声を上げた。

やがて自ずから立ち上がった者が、 また私たちの群れに加わる。

身体の欠損が少なく、最低で器具を使えば歩ける者、 魂がまだ其処に在る者、 魔性に齧られ、人を襲うような魔物に成り果てていない者など。 それらが条件だと彼は言った。

戦場で死体を漁ったら、 次は聞き取りをする。

私は拒否し、耳を塞いでしまったが、 彼は死者からその素性を聞き、 例の獣の死体を遣ってその死者所縁の人物を探すのだそうだ。

そして見つけたら、会わせる。

その後は決まって、 死者は只の躯になってしまう。

それを、この洞穴のように人気の無い場所に作ったいくつかの拠点に運び、 埋葬する。

それが彼の業いだ。

噂は、外面だけ見れば正しかった。

禁足地である戦場に踏み入り、 死体を漁り、蘇らせ、他所へ持っていってしまう。

だがその業いによって、たくさんの人が救われた表情を浮かべるのを見る度、 私はその決まり事が本当に人を健やかに人を導き、この試練の生を戦い抜く標となるのか、分からなくなっていった。

神は私を見放すだろうか。

だが、 私は彼らの悲しみに沈んだ瞳に明日を見つめる光が灯る光景を、もう少し見たいと思ってしまっている。

そして私も

 

 

 

 

神は私を見放すのだろう。

 

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