魔導霊柩送還士ー私が死霊騎士になった事情   作:三人天人

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⬛︎王立騎士団の或る日

鍛錬の最中になんの相談事だ
これは団長殿
申し訳ございません
良い 佳き鍛錬には佳き休養と精神が不可欠だ
恐れ入ります
それでなんの話だったんだ
ああ 団長におかれましては下らない話ではございますが
どうも最近近隣の村々で不気味な噂が立っておりまして
噂とな
はい
なんでも 戦場で屍を漁る不届き者とか
なんとそれは許せんな
えぇ
ふむ
それもその遺骸を持ち帰ってなんぞ妖しい術を使っていると
やはり禁断の死霊魔術なんじゃないか かつての大清伐で冒涜的な教えは一掃されたはず
だがその生き残りとか
うむ ああいや所詮噂話なのですが
いや 昨今は隣国との情勢も不穏だ 気味の悪い噂も民が不安に思っている証拠だろう
仰る通りですね 我々がしっかりせねば民は余計な不安を与えますね
だが 実際に街道から外れた丘を 夕刻に死者が列を成して歩いていたのを見たという物見の報告もあります
魔物の群れではないのか
どうでしょう ですが 警戒は必要かもしれませんね
うむ 相分かった この事は心に留めておく 必要ならば討伐隊の編成も検討した方がいいだろう
おお
団長がそう仰ってくださるなら千の味方に神の加護まで受けた心地です
骸を暴くなど神への冒涜 与え賜うたこの身体と魂を穢れさせるような真似は断じて許せませんからね
ああ
だからお前たちは両方に備えなければならない 息は整ったな では西郊外詰め所
まで新兵を率いて夕刻までに往復急げよ
うげえ
こら 承知いたしました ただちに
うむ 斯様な悪行は捨て置けん その神への冒涜 見咎め次第私が直々に裁いてくれよう
遭うのが楽しみだな


或る騎士の手記④

彼の業いを、 私は勝手に魔導霊柩送還と名付けた。

彼は唸る声しか上げなかったが、拒否はされなかった。

 

馬の蹄の音がした。

戦場から帰る折、遠くの丘で何かが閃くのに気付いたが、 気のせいではなかった。

彼の許しを得て都付近の詰め所を幾つか見て回ることにする。

見習いの頃を思い出す。

 

まずいことになった。

大戦を終えて王族は暇を持て余したか。

既に彼の拠点は数箇所、騎士団に抑えられている様子だ。

討伐隊の編成もじきに済むだろう。

騎士団が動き出したらなら、 如何に彼が魔導に長じていようとも助かるまい。

騎士団の精強さは、それを率いた私自身が佳く知る所なのだから。

 

彼に頼んで何人か言葉の通じる死者を貸してもらい、 周辺の哨戒に当たった。

二度、斥候らしき兵を見かけたが、 我々を見止めるとすぐに引き返した。

こちらの動向を探っているのだろう。 周到だ。 空恐ろしさを感じる。

 

彼が気を利かせて獣の死骸で馬を用意してくれた。 元々物見をしていた死者も率先して見張りをしてくれていて、これで撃退も楽になる。

 

洞穴から撤退した。

この周辺の拠点はもう使えまい。

幸い、私たちは野宿でも消耗せず糧食も必要ない。

彼が本当に悪心を抱いているなら、 この屈強にして疲れも傷も厭わない兵をより悪辣に用いただろうに。 騎士団はただ死者を起こして回るだけの怪異の何をそこまで恐れて

 

 

我々はいい。

我々は再び家族と会えるかもしれない、無かったはずの機会を彼に与えられたにすぎない。

だが彼は違う。 我々と違い、食事も必要なら睡眠も。

今日二人潰された。

若い騎士見習いだった者と、 我々が下した敵国の兵だった。

いずれも元はたくましき戦士だったが、やはり死人になって足取りの重さが枷となってしまった。

今後はそれも加味して采配せねば。

 

これを最後の記録にする。

私の提案に彼は首を振ったが、 私はこの第二の生に死に場所を見出した。

直前の襲撃で戦えない死者が七名犠牲になった。 これ以上、 彼らの希望ある死出の餞を失ってほしくない。

王都付近の河川を防衛線として、 私は彼を逃がす。

隣国までの案内を買って出てくれた異国の死者に感謝の意を述べ、 先ほど彼を送り出した。

異国の戦士達には彼の護衛を頼んだが、 元騎士団や諸国の兵だけでは足りぬと、戦えぬ死者を除いて皆が残ってくれた。

まさかかつて互いの喉元に刃を向け合った者達とこうして爪先を揃えることになるとは夢にも思わなんだ。

第二の試練、 その数奇なる定めに私の心は満たされている。

死なずの我々で彼の逃げる時間を稼ぐ。

恐らくは魔性と化した死者を屠る為の措置も済んでいる事だろう。

此処が間違いなく死地と成る。

神は私を見放しただろう。

この後は、無辺の荒野を永久に彷徨う定めが待ち受けるのだろう。

それでも今の私は、それを第三の試練の生として受け入れる覚悟がある。

彼には生きてもらわねばならない。

生きて、 出来るだけ多くの魔導霊柩送還を成してほしい。

連れて行った異国の戦士を、 家族の下に帰してやってほしい。

そして、 我妻よ。

これより先はどうか、新しい住き夫を迎え、私とは成せなかった子をなして立派に育ててほしい。

君に神の

君に世界の祝福が在らん事を




■ある家に金子と共に返送された手紙より

魔導霊柩送還士殿

蒼天に太陽神の加護満ち、緑花隆盛ますます豊かなこの時、如何御過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
先日は、私共の下へ娘を連れ戻してくださり誠にありがとうございました。
その節は碌なもてなしも出来ず大変失礼をいたしました。
妻は娘の誉逝の報以来長らく塞ぎ込み、一時は後を追いかねない程に憔悴しておりました
が、 先日娘と最期の語らいの時間を持てた事が佳かったようで、今では随分と顔色も良くなってきております。
良い踏ん切りがついた様子で、ようやく夫婦揃って娘の墓前に立つことができました。 やはり亡骸が其処に在るのと無いのとでは、私としても心持ちが大きく違い、 以前よりも前向きに娘の事を受け止める事ができるようになったと思います。
もう百年より以前にあったという王国の侵攻の折には多くの戦死者が戦場から帰らなかっ
たと聞きました。
今でも彼の国が指定する聖域への進入は侵犯とされている為、彼の国との衝突の際には本
当の意味で帰らざる者となる現在でも、こうして私達が最期の別れをすることができるの
は、全て貴公の粉骨の働きに因る処。 感謝の念に堪えません。
僅かばかりではございますが、 礼を包ませていただきました。
今後の助けになれば幸甚でございます。
どうか、 貴公の働きが今後も多くの人々の心を救う事を願っております。

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