三つ巴の追撃戦
飛翔態へと覚醒し、激闘を制してからほぼ一週間。僕は今、都心部からやや離れた山道にいた。わざわざこんなところでガードレールに腰掛けじっと待っているもの。それは──。
「遅いな……」
ぼそりと呟いた声が静かな山中に響き渡る。腕時計を見ると、予定時間からすでに十分ほど過ぎていた。
だが待った甲斐あってエンジン音が聞こえてくる。ただし自動車のものではない。目立たず、そして多くの標的を用意するためにこの場所を探したのだ。
僕は大きく深呼吸すると、立ち上がり、崖下へと飛び降りた。落下しながら姿をケツァルコアトルス・オルフェノク──そして飛翔態へと一気に変化させ、上昇して『標的』の姿を捉えた。
『大量、大量…!』
そこを走っていたのは一台のバスである。運転手を含めても乗客数は二十人弱といったところか。バスはゆっくりとカーブに差し掛かり減速する。そして車体がカーブを曲がりきった直後を狙って僕は襲いかかった。
「うわっ!?」
バスの車内に驚愕の声が上がる。突如窓の外に現れた僕の姿を見たのなら当然の反応だろう。だがもう遅い。両腕は今翼となっていて銃が使えないため、額から伸びているクチバシで窓ガラスを突き破るとそのまま客の体内に侵入させ、まずは一人に使徒再生エネルギーを注入した。
「ぐあっ!」
「お、おい! 今度はどうしたんだ!?」
運転席の男が異変に気付き振り返る。だが、
(こいつら…すでに怯えている?)
恐怖に歪む男達の顔を見てそう判断する。少なくとも僕が開けたもの以外に穴は無いが、今も何かから逃げているように思える。まあいい。とにかく二人目の使徒再生を行うべく次に狙いを定めた時だった。
『待ちやがれ!』
バスを追うように一騎の馬が駆けてくる。ただし上半身はヒトガタをしており、よく見れば灰色の馬体には濃淡の斑紋が見られた。ギラファ・オルフェノク──その疾走態と呼ばれる進化形態の一種だった。
(被ったな)
舌打ちしながらもこの展開に内心ほくそ笑んでいた。ちょうどいい。元々今回は飛翔態の訓練が目的である以上、競争相手の存在は都合が良い。さあ、どこまでついてこれるか見せてもらおう。
「何だあいつは!?」
「誰かなんとかしろ!!」
バスが蛇行運転し他の乗客達が悲鳴を上げる中、僕は加速して距離を詰め、一気に数人の心臓へ使徒再生を行った。
『横取りすんじゃねえ!』
ギラファ・オルフェノクが叫びながら並走してくる。その速度は明らかに僕の飛行を上回っており、瞬く間に距離が縮まる。
『ハァッ!!』
間合いに入ると拳が繰り出されるが、紙一重で回避に成功する。僕が距離を取ると、間に割り込みもう一方の手に持っていた槍を車内へ突き立てた。たったの一突きでしかないというのに、それだけで三人が串刺しとなり灰となっている。やはりその力は凄まじい。
しかも今度はもう一本出現させて両手に持ち、二本同時に突き出してきた。
『くっ!』
こちらへ突き出された槍は急上昇することで難を逃れたものの、バスへ向けられた槍はバスの天井までをも貫き、そこにいた乗客を灰にする。
それを目の当たりにして、車内にパニックが巻き起こった。
そしてその後の僕たちの攻撃により、すぐに運転手含めた人間はこの場にいなくなり崖へ転落していったが、それでもギラファ・オルフェノクは攻撃を止めようとしない。
『くそっ、ちょこまかと……!』
執念深く追ってくるが、こちらももう付き合うつもりはない。空中で反転すると、僕は谷の方へと飛び去った。
『あ、逃げんな、てめえ!』
叫んでいるが、疾走する向こうと空を飛べるこちらの差だ。怒声を無視し、僕は自宅へとまっすぐに向かったのだった。
ギラファ・オルフェノク
麒麟型オルフェノク。疾走態への変身が可能。