翌日。
昨晩の失敗について考え、自分なりに反省点をまとめていた。
「やはり、もっと早く仕留める必要があったな……」
そうすれば目撃者を出さずに済んだはずだ。次こそは、確実に……! 決意を新たにし、ぶらりと街を歩く。すると、
(ん?)
前方に一人の男が歩いているのが見えた。三十代半ばといったところだろうか。スーツ姿で、どこか疲れ切ったような印象を受ける。
「あの人は…」
今度こそ、と思いながらその背中をじっと見つめていると、突然彼が足を止める。そして振り返った。
(そうだ、あの人は…。しまった!)
気付かれたか? 内心焦りながら僕は平静を装って歩き続け、男の脇を通り過ぎようとした。
「君、ちょっといいかな」
すれ違いざまに声をかけられる。まさか話しかけてくるとは思わなかったため驚いたが、ここで動揺を見せてはいけない。あくまで自然体で、
「はい、何でしょうか?」
笑顔で応じる。
「君、確かうちの高校の生徒だったはず。名前は?」
「えっと……灰村です」
咄嵯に答える。
彼は隣のクラスの担任教師だ。しかし先月から急に姿を見せなくなっており、行方不明になったという噂まで聞いていた。
「ああ、やっぱり。実は最近…数か月前から変なことがあってね。夜中に一人で外出してたはずの私がいつの間にか家に戻っていたり、逆に外に出たつもりが何故か家の中に入っていたりするんだよ。おかしいとは思うんだけど、怖くて病院にも行けなくてねぇ……」
先生が溜息交じりに話す。
「それは怖いですね。大丈夫ですか?」
「うん、まあなんとか。それで、ここ最近はずっと寝不足気味なんだ。今もこうして、フラつきながら歩いていたところで……ん?」
話の途中で、先生が僕の顔をジッと見る。
「どうかしました?」
「ああいや、何でもないよ。じゃあ私はこれで失礼するよ」
「はい、お大事になさってください」
挨拶を交わして別れる。
「……ふうっ」
先生の姿が見えなくなった途端、僕は大きな溜め息をついた。
(勘づかれたか…? いや、オルフェノクと出会っていたにしても、まさか逃げられたわけもない…)
そういえば、彼が欠勤するようになった理由もはっきりしていないのだ。何か関係があるのかもしれない。
とはいえ、今はそれよりも優先すべきことがある。再びターゲットを探し始めることにした。
その後も何人かの獲物を見つけたが、いずれも人通りのある場所であり、襲いにくいことこの上なかった。結局、昼日中では戦うのを諦め、夜を待つことにする。
夜になり、人気の少なくなった頃。
僕はまた飛翔態となり、空を飛んで街へ向かった。やがて見覚えのある場所へと到着し、眼下に目的の場所を見つける。そこは昼間、獲物を探していた場所だった。
『よし……』
僕はゆっくりと下降していき、地上へ降り立った。
辺りを見回すと、ちょうど近くに公園があるのが見える。昼間に見た場所だ。そこへ向かい、公園内へ入るとベンチに腰掛ける。
『……』
ちょうどそこへ何者かがやってくる。こんな時間に不思議ではあったが、逃す手はなかった。立ち上がり、近付いてくる人物へ向かって駆け出す。
『! おい、お前は!』
声をかけると、その人物がビクリとして立ち止まる。表情のないその顔を見て、僕は一瞬戸惑ってしまった。そこに立っていたのは見覚えのある男で、しかも会ったばかりの人物でもあったからだ。
『先生……!』
そう、現れたのは昼間出会った隣クラスの担任であった。僕は驚きながらもすぐに気を取り直し、彼に襲い掛かる。だがそのとき。
「がっ!」
彼は一瞬ぴくりと痙攣すると、その口から小さな虫のようなものの集団を吐き出した。その虫は一直線にこちらへ飛びついてきたが、少し僕の周りを飛び回ると興味を失ったかのように離れ、青い炎を上げて形状崩壊していった。
(これは…やはりオルフェノクの…使徒再生攻撃か? だが彼はオルフェノクではない! いったい…?)
疑問を抱きつつも、僕は彼に向かって引き金を引いた。
「うぐぅ!」
彼は断末魔の悲鳴を上げ、そして倒れた。
使徒再生エネルギーの注入により、彼の身体が灰となって崩れていく。しかしその直前、その姿が昼間に見かけたときとはまるで別人のように衰弱していたように見えた。