灰村和樹。それが僕の名前だ。高校二年生。特に部活には熱心ではない。成績は上の下くらい。顔はまあ悪くはないと思うけど普通だろう。
そんな普通の高校生であるはずの自分が今いる場所はどこかというと、学校でも家でもない場所。そこはまるでSF映画に出てくるような部屋。壁や床は全てメタリックな銀色。窓はなくドアが一つだけある。部屋の中には机と向かい合った椅子が二脚あり、片方には僕自身。もう一方には中年の男が座っていた。彼はスーツを着ていて、眼鏡をかけたいかつい顔をしている。
「さて、では始めようか。オルフェノクのことは知っているか?」
男に聞かれ僕は首を横に振った。男は説明を続ける。
「オルフェノクは人間の進化した姿だ。人類にとっては悪い面ばかりじゃない。例えば君は最近、何かに頭をぶつけたりしなかったか? それでも特に傷はついていなかっただろう。重いものも苦にはしないのでは? 人間態ですらそれだ。本来はそんなものではない」
そういうと、男は立ち上がり両腕を広げた。と、その顔に黒い紋様が浮かび、直後全身が灰色の怪人へと変化した。
「これが私の本来の姿だ」
そういって笑う男の身体からは威圧感を感じた。
その姿はどこかエイを連想するものだった。男――『スティングレイ・オルフェノク』の姿はまさしく人外のもの。
だが不思議と恐怖はなかった。それは彼がオルフェノクとしての先輩だからなのか、それとも単に僕が鈍いのか、あるいは両方かもしれない。
その後、人間態に戻った彼からオルフェノクに関する講義を受けた。オルフェノクとは何か、その進化の過程、オルフェノクの能力、そしてオルフェノクの『王』と呼ばれる存在のこと……。
一通り聞いたところで僕は質問した。
「あの、オルフェノクというのはどうやってなるんですか?」
「簡単だよ。死ぬこと、つまり命を失うことだ。君の場合は轢き逃げ事故によって命を落としたが、同時にオルフェノクとしての素質が開花したというわけだ」
「死んだら誰でもオルフェノクになるっていう訳ですか?」
「まさか。そうならオルフェノクはこんな窮屈な暮らしはしていない。これは生存競争だが、数の差で我々が圧倒的に不利な状態だ」
「じゃあ、どうすれば……」
「それが我々の仕事だ。お前のように自力で覚醒するものもいないではないが、普通は『使徒再生』と呼ばれる方法で他者を覚醒させる。では行くぞ。見せてやろう」
そうして連れて来られたのは近所の小さな喫茶店だった。店内は薄暗く、カウンター席しかない。そこに一人の女性が座っている。