『なんだ、どういうことだ!? おまえら仲間じゃないのか!?!?』
困惑した声で僕とホエールを交互に見るハーミットクラブ・オルフェノクだったが、こちらはそれどころでは無かった。
(やばい……! 確かにいつかは元凶を潰しに行くつもりだったが、こんなところでとは……!)
オルフェノクとなってから大分経つが、特に強力な同族を相手にするには不安が残るままだ。まして今の自分はゲーム終盤で体力を消費している。
『だがもうやるしか……ぐっ!』
ホエールのふるう棍棒の先端が僕の胸をわずかに削り取る。身体を捻って躱そうとしたのだが、疲れもあって完全には躱しきれなかったのだ。
『……ふん、よく分からんが、つまり元締めがわざわざ出てきてくれたってことなんだろ? ならありがたく……ぐおっ!』
背後から襲いかかろうとしたハーミットクラブをあっさりと裏拳で吹き飛ばし、胸ぐらを掴み上げる。
『調子に乗るな。虫けらが。ちょうど良いハードルと思っていたがやり過ぎだ。おかげで一人も最終クリア者が出ていないんだぞ』
一方的な戦いが続く。その隙に僕は横たわるオーキッドマンティスの身体のそばへ駆け寄った。
(……だめか。もしかしたらと思ったが……)
小さな炎が吹き出すその身体は次第に灰化していく。オルフェノクの死は何度か見たことはあるが、彼女は自分が覚醒させた個体であるためかこれまで感じたことも無いような喪失感に襲われる。
『は!! 雑魚がいくらいきがっていても無駄だ!』
遂にハーミットクラブを壁に叩きつけると、ホエールは今度はその頭部を掴んで持ち上げる。
『わ……たしは、死ぬんですね……』
腕の中から虫のような声が聞こえた。もうその身体は半分以上灰となっている。しかしその胸……否、胸部を透過して背中の翅が微かな青い光を放ち始めていた。
『……! な、何を……!』
『私、結局……、オルフェノクとなって良かったのか、悪かったのか、分からないまま、でしたけど……。でも多分、貴方には、死んで欲しくは、ないんです……。だから……』
光は宙へ飛び出し、僕の体内へと入り込む。その瞬間、確かに何らかの力が目覚めたことを自覚した。
「がっ……!」
気付けばハーミットクラブは既に人間態に戻されており、あちこちから出血している様子だった。ホエールにいたぶる気が無ければここまですら保たなかっただろうが、結局はダメージが超過し灰となってしまった。
『さて、別れの挨拶は済みましたか? まあ、すぐに再会できるでしょうが』
その態度には余裕しかない。それも当然だろうが、こちらには切り札があるのだ。
ドンッ!
発砲。
僕の銃口から放たれたエネルギー弾は、しかしホエールに掠りすらせずに足下を穿つだけ。当てる力すらないのかと言いたげにこちらへ歩み出すホエール。しかしこれで良かったのだ。なぜならば──。
『おい、待てよ……!』
初めて見せる驚愕の様子だった。無理もないだろう。そこに立っていたのは自分の手によって息絶えたばかりのハーミットクラブ・オルフェノク。それがより頑強な殻を纏って立ち上がっていたのだから。
『なんだ、これは。あ、ありえない!』
『俺だって知らねえよ! だけど力が湧いてくる。もう負けるか!!』
『何度やったところで同じだ! もう一度砕いてあげましょう!』
両者が激突する。しかし僕は慌てる素振りもなく冷静に見ていた。先ほどは一方的だった戦況は、僕の手で強化復活したハーミットクラブによって食い下がる程度にまで変化している。
ホエール・オルフェノクの重い打撃もハーミットクラブの殻に受け止められ、いくら打ち込んでも有効打にはならない。
『何故だ!? なぜこんなことが……!?』
『こいつを舐めるからだ』
ホエールが慌てて振り返る。そこにいたのは僕──ケツァルコアトルス・オルフェノクと息絶えたはずの一条──オーキッドマンティス・オルフェノク。都合、三人のオルフェノクにより彼は囲まれる状態となっていた。
『バカな!? どうやって……』
『彼女の力が僕をさらに進化させた。彼女の意地がおまえを追い詰めたんだ。多くの同胞の命を遊びでもてあそんだお前をな……!』
『……なるほど。そういうことか……』
運命を悟ったかのように急激に戦意を消していくホエール。そこへ三方向から攻撃が撃ち込まれた。青い銃弾、鋭い鎌の斬撃、そして青く輝く双剣──。深い傷口から広がった炎は瞬く間に全身へ広がり、驚くほどにあっさりと灰へと変えていく。
「これで、こいつの『ゲーム』もおわりか」
呟き、こちらを無視して去って行くハーミットクラブ──の人間態。残された僕たちは互いに見つめ合った。
「思っていたのとは違うが、これでお前も自由だな。もう一度復活して答えは見つかったか?」
一条は自分の身体を不思議そうに見回しつつ。
「いいえ、まだです。でもおかげで時間はできましたから。ゆっくりと考えて行きます。──いずれにせよ、今回はありがとうございました」
そう応え、頭を下げてからその場を去って行ったのだった。