「くそっ!」
僕は一人、大学から少し移動した先、路地裏で悪態をつく。
あの後、一応二人の居場所を探ろうとしたものの結局見つからず、やむなく引き上げることにした。それは良いのだが──。
「くそ、まだ頭がガンガンする……」
ジェリーフィッシュ・オルフェノクの毒は意外に後を引いていた。ここ最近負傷する機会が多かったからだろうか。だがせっかくここまで来たというのにターゲットに接触できなければ意味がない。
(このあたり……。あの男、宮田士郎は毎日この辺りの駐車場から発車する……)
宮田は通勤に車を使っていることは分かった。つまり、ここにいれば、帰りの際に確実に会えるはずなのだ。
だが、その考えはすぐに打ち消される。なぜなら──。
「お、君。ちょっといいかな?」
突然声をかけられ振り向く。そこには若い警官が立っていた。
「何でしょうか? 急いでるんですけど……」
なるべく不機嫌な感じを出すように言い放つが、
「いやね、怪しい……とは言わないけど君、ふらふらしてたからさ。大丈夫? 具合、悪いのかい?」
「……」
悪意は伝わってこない。だが今は余計な手間をかけている暇はなかった。おまけに機嫌もあまりよくない。
「もし必要なら救急車を……。がっ!」
警官は胸を押さえながら後ずさり、その先で灰となって崩れ落ちた。だが、そうさせた僕の方もまた、変わらぬ頭痛に視線を動かし──その先で、目を見開いている宮田と目が合った。僕が何の用で来たのかはすでに見当がついているらしい。
『宮田士郎だな……、見つけたぞ……!』
「ま、待ってくれ! 頼む、見逃してくれ! 俺にはもう無理なんだ!!」
『何だと……?』
「本当だ! 話を聞いてくれ!」
変身を解くと、 宮田はいくらか安心した様子で話し始めた。
*
「俺は……あんた達会社に言われたとおり、オルフェノクとしての人生を生きていこうとはしたんだ」
彼は会社員らしかったが、スマートブレインの人間ではないらしい。元の会社に勤め続けながら人間を時々襲って生きていくはずだったようだ。だが。
「あるとき、身体が変になった。背中からヒビができたみたいで、そこからさらに新しい自分が生まれ直した……ように思った。だが、実際にはあれこれと調子が悪くなっただけだった。使徒再生のための触手も、エネルギー生成もまるで上手くいかない。それどころか人間の姿並にもろくなる始末なんだ」
「それで最近サボることになってたわけか」
彼は頷く。
「元々他人を襲うのは気が引けていたから……。そのせいなのかと思ってた。でもこのままじゃ……」
口をつぐんだ彼の後を、僕が続ける。
「裏切り者として処分される。実際僕が来た」
話を聞き、少し考えて提案する。
「まずは診せてみろ。事情があるだけっていうのなら解決策を考えてやる」
僕は彼の車に乗せて貰い、ちょうど良さそうな獲物がいないか探すために夜道へ繰り出したのだった。