車が停まり、僕と宮田が降りる。場所は住宅街の端、一軒の家の前だ。路上には人がいなかったので、仕方なく手ごろな家を襲うことにしたのだ。
「ほ、本当にここにするんですか...? 何人も一気に..」
少々大胆な計画に、震えながら宮田は確認してくる。
「ああ。どうせ試していくためには数人狙う必要があると思っていたんだ。ちょうどいい」
「でも……」
「……今更何を言う。まずは気にせずやってみろ」
「……分かりましたよ……」
宮田は渋々といった表情で、オルフェノクへと姿を変えた。それはあまりにも白い、純白といってもいい体色だった。いくらオルフェノクとはいえここまで白い者はまずいない。
その体には縮こまったような形状の翅と短い口吻、そして節が全身のあちこちに見られた。
宮田──シケーダオルフェノクは扉を開けようとノブに手をかけガチャガチャと何度も引いたが、オルフェノクにもかかわらずロックを引きちぎることができないようだ。
僕がため息を吐いていると、物音を不審に思ったのかドアは内から開き住人が誰何の声をかけてきた。
「もし? 何かご用ですか...? ...うわあ!」
中年の男だ。父親だろう。それよりも彼がとっさに腕を突き出すと、それだけでシケーダオルフェノクの身体は体勢を崩し倒れこんできた。
『...想定以上だな』
騒ぎが起こるとまずいので、やむを得ず僕がケツァルコアトル・オルフェノクとなって使徒再生を行った。幸いにもあれ以上大声があがることはなかったが、これでは残りを襲うどころではない。確かに聞いた通りの虚弱っぷりだった。
『こ、こういう訳なんです...。元々好きじゃなかったこともあって全く成功しなくなって..』
『だがこれ以上手伝うわけにもいかないぞ。こっちにも...今はちょっとした事情がある』
他の住人が不審に思い始めるまでのわずかな猶予時間の間に取るべき行動を考える。
本人の意志ではなく、オルフェノクとしての体質にある問題。本来は本社の研究所に通報し改善してもらうべきなのだろう。だが...幸いにも自分にはぴったりの力があった。前回使ったときとは少し状況が違うが、実験と思えば問題ない。
『荒療治だ。覚悟しろよ』
体内のエネルギーの流れをコントロールし、少し調整する。これから行うのは処刑ではない。加減を誤って灰化させてしまうわけにはいかないのだ。
『う、うわあああっ!?』
シケーダオルフェノクの悲鳴があがる。
『我慢しろ』
僕は彼の背中に見えるヒビのような亀裂に触れ、エネルギーを送り込む。使徒再生に用いるものとは違う、僕だけの特殊なエネルギー。シケーダオルフェノクは小さな声を漏らし続けていたが、改造が終わるや否や、すぐに僕の身体をはねのけた。
『ど、どうなった? 一体……』
彼は僕の質問には答えずに、無言でうずくまり背を丸めた。すると僕もすぐに彼の身体に起きた異変に気付いた。
『……これは……!?』
シケーダオルフェノクの体が、青白く輝いていたのだ。いや、そうではない。元が白かった身体、その丸まった背中から青い光が飛び出そうとしている。
『う、うわあっ……!』
シケーダオルフェノクは、再び悲鳴をあげてその場から飛び立った。だがそれはそれまでの怯えただけのものではなく、まさに飛翔──新たな階梯を駆け上がっていくような、勇猛な響きの混じったものだった。
『おおお、おおおおお!!!!!』
シケーダオルフェノクが降り立つ。その身に纏うのは戦国時代の武士のような具足。背には一対の大型の翅。
叫びと着地音に屋内からは足音が鳴り始めていたが、僕は何も慌てはしなかった。
荒々しく中へ踏み入っていくシケーダ。小さな悲鳴がいくつか聞こえたが、すぐにそれらは消えていった。