座っている女性。
彼女はこの店のマスターの娘だという。年齢は二十代前半だろうか、髪をポニーテールにしている。
「さあ、見ておけ」
男は突如立ち上がると、その姿をスティングレイ・オルフェノクとしての怪人態に変えた。驚き声を上げようとする娘だったが、それが喉から飛び出す前にスティングレイ・オルフェノクの肩から伸びた触手が口の中へ飛び込む。外からは見えていなかったが彼女の体内では侵入した触手が心臓へと突き刺さり、オルフェノクのエネルギーを注入し燃焼させていたのだった。
やがてオルフェノク態を解除した男は元に戻り、何事もなかったかのように腰を下ろしてコーヒーを飲み始める。倒れた女性は死んだかのように見えたが、その目を青く光らせたかと思うと跳ね起き、全身から灰を吹き出すようにして崩壊する。
「これが…」
「これが俺達の仕事だ。このとおりほとんどがハズレで死んでしまうがな」
「でも、もし成功した場合は?」
「上手くいけば相手を新たな仲間――オルフェノクとして再生させることができる」
「僕も……?」
「ああ。やらなければ裏切り者として処分される。気を付けろ」
そのとき、キッチンの方から50代ほどの男が現れた。確かこの店の店主――先ほどの女性の父親だったはずだ。
「ちょうど良い。やれ!」
これまでにない怒声に、反射的に立ち上がってしまう。しかし自分がどうやるべきかは不思議と理解出来ていた。思い出すのは数日前の覚醒の日。
あの時と同じように身体が作り替えられていくのが分かった。
肌は彫像のような灰色へ。
頭部は翼竜のような突起が額と頭頂部から前後に伸び。
手にはいつの間にか古い時代のものに似たピストルを持っていた。
「な、なんだ!お前は!」
狼然とした表情の男に銃を向ける。だが引き金を引くことはできなかった。僕は自分の意思に反して変身解除するとその場に座り込んでしまった。
「まあ、すぐには難しいか」
男はそう言うと再び怪人態になり、逃げだそうとした男の足首へ毒針らしきものを飛ばし動けなくさせた。
「だが、これは俺達の義務だ。こうしなければ仲間は増やせん。…さあ、もう一度だ!」
どうしようもないことは嫌と言うほど分かった。覚悟を決めるとケツァルコアトルス・オルフェノクに再度変身し、銃口を這いずる店主の胸元――心臓へ向ける。引き金を引くと、青いエネルギー弾が標的へ突き刺さり…先ほどの再現のように灰の山がもう一つつくられた。
「よくやった。これで君は正式に我々の一員となった。歓迎するよ、新入りくん」
男の声を聞きながら、僕は目の前の女性の死体を見つめるのだった。
スティングレイ・オルフェノク
初登場:「教育係」。 新人オルフェノクの指導を担当している。
赤鱏型オルフェノク。毒針を射出し動きを麻痺させる。