「ここか……」
翌日、僕はとある廃工場に来ていた。ここが先日会った男──山上に指定されていた場所だった。
「ここに泉理奈さんがいるんですね……」
「正確には奴がもうすぐ来る予定、だ。さっさと終わらせようぜ」
隣に現れたのは、その山上。すでに殺気が溢れかけている。
(僕にはまだ分からないな…。オルフェノクの社会…か…)
「来たな」
言うなり、顔に植物の紋章を浮かべる山上。ふと気がついてみれば遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。人間時代ならば聞こえるはずもない距離の音でも、今では少し集中すればすぐに聞き取ることができた。
しばらくして。
廃工場の前に到着したのは白い自動車だった。ドアが開くと中から二十代前半らしきスーツの女性が現れる。
「泉理奈! ここまでだ!」
叫びながら駆け寄ろうとする山上だったが、女性──泉理奈が右手を上げると、何か見えない壁に阻まれたように彼は後ろに弾き飛ばされてしまう。
「ぐあっ!」
「!!」
驚く僕の前で、女性はゆっくりと歩いてくる。そして僕の方へ視線を向けると口を開いた。
「あら? あなたが新しい子?」
僕は慌てて答える。
「あ、はい! よろしく…とはいかないんですよね…」
すると、彼女の表情が急に曇った。
「……ねえ、あなた、私と一緒に来ない?」
「え?」
「オルフェノクとして生きるんじゃない。人間として生きていけないかって聞いているの」
「……どういうことですか?」
「私はあなたのように、オルフェノクになったけどそれを受け入れられずに人間として生きようとする人達を保護しているの。……あなた、まだ若いでしょう? 人間に戻りたいなら私が力になってあげるわ。今はまだ無理だけど……」
」
そう言いつつ、彼女はこちらに手を差し伸べる。僕は迷った。
(人間に戻れる……)
「あいにくだが、てめえみたいな裏切り者の言葉なんぞ聞く気はねえよ!」
立ち上がった山上はその力を解放する。山上──フライトラップ・オルフェノクの変身を見て慌てて僕もケツァルコアトルス・オルフェノクへと姿を変える。
それを見て泉もやむを得ない、といった様子でその顔に蜘蛛の紋章を浮かべ姿を変貌させる。
泉が変身したオルフェノクの姿は、三つの単眼と四対の脚が頭部に生えている蜘蛛のオルフェノクだった。さらに胸部の中央に蜘蛛型のチェストプレートが装着されている。
『行くぞ! 灰村!』
『はいっ!』
二人の異形の怪物がブラックウィドゥ・オルフェノクへと立ち向かった。
ブラックウィドゥ・オルフェノク
スマートブレインに追われている、オリジナルのオルフェノク。
黒後家蜘蛛型オルフェノク。