『ぐああっ……!』
突然背中を襲い、なかなか引かない激痛に、僕は思わず膝をつく。見れば、そこにいたのはやはりブラックウィドゥ・オルフェノク。ただしその下半身は巨大な蜘蛛のような形状に変わっており、神話の怪物、アラクネのような姿となっていた。そしてソレは再び僕の身体を加え上げ振り回すと、勢い良く壁に叩きつけた。
『ぐあっ……!』
「灰村!」
『あなたは後で相手してあげるわよ!』
フライトラップの声を無視し、ブラックウィドゥはそう言い放つ。そしてこちらに向き直り、その鋭い蜘蛛の脚を再び振り上げた。
(まずい……)
僕はなんとか立ち上がり、銃を撃つことで突撃を止めようとする。しかし頑強な下半身はもちろんのこと、上半身を狙った弾も持ち上げられた脚に防がれ効果が見られなかった。フライトラップの顎触手による噛み砕きも同様のように見える。
『この野郎!!』
それでも諦めず、ならばと拳で迎え撃とうとしたがやはり無謀な抵抗だった。数秒持たず重い一撃が僕の胸元を打ち据える。
『うわっ……!?』
僕はそのまま後方に吹き飛ばされ、廃工場の壁を突き破って土の上に倒れた。起き上がろうとしても、すぐにまたあの脚での攻撃が来ると思うと恐怖心から動けなくなる。
『灰村! おい! 大丈夫か!』
『……』
フライトラップの声が聞こえる。しかし泉は無言のまま何かを思考するように僕を見下ろしていた。
やがて彼女は口を開く。
『やっぱり……ダメね。貴方達は見逃せない…!』
「人間として」救おうとしていたオルフェノク仲間を倒した僕を、彼女は見逃すつもりは無いようだった。このままでは少なくとも僕は殺される。
『灰村!』
フライトラップの声を聞き、慌てて立ち上がって走り出そうとする僕。
『逃がさない!』
蜘蛛の足が、僕の身体を捕らえようと迫る。
『──!!』
だがその瞬間、僕の身体は宙に浮いていた。
また吹き飛ばされたのではない。単に跳躍したのでもない。飛んでいた。
両腕は膜が張った大きく広い翼となっており、ブラックウィドゥ・オルフェノクの脚が届かない高さまで飛翔していたのだ。
『なっ……!?』
驚愕するブラックウィドゥ・オルフェノクに、フライトラップもつぶやく。
『まさか…飛翔態に進化したのか……!?』
『……くっ!』
手の出しようがなくなったブラックウィドゥ・オルフェノク【突進態】へ向けて、僕は加速しながら急降下する。
防御も迎撃も間に合わないブラックウィドゥは、僕が何度も急降下攻撃を繰り返す度に次々と傷を増やしていった。そしてついに突進態を維持できなくなった標的へ──急降下の勢いのままの僕の飛び蹴りが突き刺さったのだった。
「あ…私は…。ここまで、なの…?」
青い炎を上げながら人間態となって崩れ落ちる泉。それを見て、フライトラップ──山上は安堵のため息を漏らす。
「ふう……助かったぜ、灰村」
「いえ……」
僕もまた変身を解き、というより怪人態を維持できなくなりながら応えた。土壇場で飛翔態に目覚めたのは幸運だったが、かなり体力を消耗した。やはり上手いことばかりとは行かないようだった。
☆ケツァルコアトルス・オルフェノク
大型翼竜型オルフェノク。両腕を翼に変えて空を飛ぶ、『飛翔態』に変身可能。
ブラックウィドゥ・オルフェノク。
黒後家蜘蛛型オルフェノク。下半身が巨大な蜘蛛となった突進態にも変身可能。