大敗を喫したウルーゼ王国は、自身が主張する国境線よりも大きく後退すると、防衛に適した河川で陣地の再構築を果たした。複数人の信仰系
そんな行き詰まる戦線で、ウルーゼ側からの働きかけにより先の戦争で捉えた貴族や隊長格の兵士、歩兵の身代金による捕虜解放は行われた。貴族や高位の兵士が解放されたのはハワードの想定通りだったが、平民の兵士までウルーゼ王国は買い取って行った。その様な訳で、ハワード所属するラグーン分隊共々、捕虜交換の場の警備に当たっていた。
年中戦争を繰り返す祖国の現状に原因はウルーゼ側にあると知りながらもハワードの口からは愚痴が漏れた。
「生まれる国、間違えたかな」
「いてぇっ」
ハワードがぼそりと呟くと、脇腹を小突かれる。そこにいたのは戦友であるシオンだった。彼女は兵団の中でも珍しい女性にも関わらず最前線で戦っている。彼女の他に前線で剣を振う女性は1人もいない。いるとすれば後衛で重症者を治癒する信仰系
「ねぇー、ラグーン分隊長ならまだしも、他の指揮官に聞かれると河に沈めらるわよ」
「中には連帯責任取らされた所もあるんだから気を付けてよね」
河には渡し舟が何隻も往復を重ね、捕虜達が河の向こうに運ばれていく。奇襲を警戒してウルーゼ王国は多くの弓兵や
ハワードの横を捕虜達が通過していく。整った服装と肌の状態を見れば、身代金を個人で支払うことのできる身分の高い者達、恐らく貴族に違いない。眼前で叱責される者や抱き合う者などのヒューマンドラマが繰り広げられていた。ウルーゼ王国では貴族達が幅を利かせ平民に対してやりたい放題していることを知っているハワードからすればつまらない三文芝居を延々と見せつけられ、嫌気と嫌悪で一杯だった。同僚であるシオンも欠伸を噛み締めるのに必死になっていた。
最後の兵を見送り、何事もなく捕虜交換は終わった。ようやく終わった。このまま緩やかな膠着状態が続く事を願いながらハワードは疲れ切った身体を休めようと眠りに着いた。
◆
眠りから覚め職務を全うする為にラグーン分隊の配置に就きウルーゼ王国軍の監視を続け数日、予期せぬ報告があった。それは終戦の報告であった。どうやらガテンバーグがウルーゼ王国に対して交渉を行なったようでウルーゼから奪った領土を返す代わりに今後5年間の不戦条約を結んだ。
ウルーゼ王国側からしても5年間戦争を仕掛けるのを耐えるだけで領土が返ってくるのはおいしいらしい。5年後温存した戦力でまた攻めてくるだろう。
「おい、ハワード何やってる」
「あ、分隊長」
ラグーン分隊に振り分けられた訓練場で胡座をかきながらボーッと空を見上げているハワードにラグーン分隊長が声をかけに来た。
「いえ、別に」
「ただ、俺が兵士になってから今まで碌な休暇もなく戦争続きでしたからこれから停戦でもし休暇ができた際に何をするべきかよく分からないんです」
そう、ハワードは分からなくなっていた。ハワードは今まで強くある様に育てられてきて、そして軍に入り戦争で生き延び強くなれた。俺ほど親の教育に忠実な奴もいないだろう。だけど、嫌だからこそ今は何をすれば良いのか分からない。特にプライベートの時間となると修行しか思いつかない。俺にとって戦争は余計なことを考えずに済むものだった。
「何言ってやがる。停戦したからって俺らの仕事が無くらるわけでもなし!それに4日後にはゴブリン討伐が待ってる。それまでに装備の最終点検やら書類作成やら訓練やらで休む暇なんてねぇーぞ!」
「はい」
「任務終わったら祝勝会だからな酒つげよw」
「はい!」
この日仲間や上司の存在が今までどれだけハワードにとって救いだったのかを改めて理解した。
〜4日後〜
今回の任務は水源近くに巣を張ったゴブリンの討伐だ。分隊長や先輩方はともかくハワードも人ほどでは無いが、魔物も殺し慣れている。戦場では魔物が好む死体が豊富だ。奴らにとってはバイキング形式の食事会に等しい。しつこくやってくる邪魔な客を何度も追い返すのは、ハワードにとっては手慣れた作業だ。
それに死体も放置すればアンデッド等に魔物化する。死体に寝込みを襲われたのは一度や二度ではない。殺した相手を再び殺す羽目にもなれば神経質にもなる。
つい最近まで戦争をしていた為現在国力以上の兵を抱えるガテンバーグは、停戦でこれまで過剰につぎ込んだ軍費を軍縮によって取り戻そうとする。そうなってくると兵士を遊ばせておく余裕は存在しない。お陰でハワードは本来モンスター討伐専門の部隊がするべき仕事をさせられている。暇なら鳥獣駆除してこいと言っている様なものである。高位の魔物に対しては専門の部隊が派遣されるらしいが、低脅威のゴブリンの群れならば周辺の分隊や小隊クラスで処理が可能だ。
中には自らの手で鍛えた村人や複数人の村人が、少数のゴブリンを討伐する事もある。ハワードのもう戦死してしまったかつての戦友の中にもゴブリンを討伐したのをキッカケに兵になった奴がいた。
到着した村での情報ではゴブリンは50匹以上で最初は少数が目撃され、村人により駆除されていたが、ある日、川で仕事をしていた男女が襲撃に遭い連れ去られた。それから味を占めたゴブリンが村周辺に出没する様になり、家畜の被害も増加。ゴブリンの母数が増えれば更なる被害が予想される事から、今回軍の派遣が決定。村を出発した分隊はラグーン分隊長を先頭に森を進んでいた。
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