OVERLORD ハワード戦記   作:寝武多

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4話 宴

 村でのゴブリン討伐から4日、分隊はガテンバーグに存在する都市の一つであるフロイトに居た。都市フロイトには砦が併設して築かれ、都市の半分は城壁、残る半分は河川と水堀で覆われている。ガテンバーグの首都と物流で繋がる都市フロイトは、モンスターや亜人に対する備えの為の物資の集積場、兵員の補充を行う場所に最適の位置にあり、常時一個大隊がこの地に張り付く

 

 城門を潜り、ハワードが市内に入ると夜にも関わらず大通りには《光》の付与させたマジックアイテムにより照らされる商店や民家が所狭しと並んでいる。露天で売買されている物は、防衛都市という面が強いことから農民などがいない為ガテンバーグ首都よりも割高な物が多く、特に食料品は余り満足に買えないだろう。

 

 道を行き来する市民達も痩せ型が多く、日頃から満足のいく食事を取れていないことが伺える。例外は防衛の要であるガテンバーグ兵ぐらいだった。フロイト砦まで辿り着き、練兵場で待機していたハワードを待っていたのは、意外な言葉だった。

 

「任務を終えたお前たちに嬉しい知らせがある。喜べ、今日の仕事は終わり、明日は休暇だ!今からラグーン分隊で飲みに行くぞ!」

 

「明日自由とか最高じゃん」

 

「先に酒か。明日はどうする?」

 

「酒も女もどっちも頂けばいいだろう。時間はたっぷりあるんだから」

 

 ディルック、ガラン、テスタークの3人はラグーン分隊長から酒場の場所を聞き出し先に向かってしまった。ラグーン分隊長はこめかみを手で押さえながらぼやいた。

 

「はぁー、アイツらの勝手な行動には手を焼かされる」

 

 己の欲望に忠実、限られた時間を考えれば彼らこそが正しいのかもしれない。何せ、いつどの国と戦争になるかも分からず、毎月モンスターや亜人達と大小の衝突を繰り返す我が国である。

 

「よし、お前らも飲みに行くぞ。」

 

 分隊の皆んなと雑談をしながら歩いて行くと目的の酒場に着いた。二階建てで一階が酒場、二階が宿泊宿であった。外壁は調理の際に出たであろう煤で汚れ、入口のドアも乱雑に叩かれてきたであろう細かい傷が刻まれている。

 

 ドアを押して入ると、入店を知らせる真鍮製のドアベルが控えめに店内に響く。カウンター近くのテーブルには同軍のガテンバーグの兵士が5人、奥では常連であろうか、小綺麗に飾り付けた装飾品と仕立ての良い服を纏う男達が居た。身なりから判断すると街の商人だろう。防衛都市という役目から武器や防具の供給を行っている商人は羽振りがいい。ラグーン分隊長に誘われるまま、二つのグループと距離を空け、テーブルに腰掛ける。

 

 「今日は奢ってやる。久々にハワード以外の新人が二人も生き残ったからな」

 

 嬉しそうに口笛を吹くテスタークに合わせ、ハワードもニンマリと笑みを溢した。分隊長が手を上げながら視線を向けると、亭主がカウンターの奥から注文の確認に来た。

 

「エール9つとワインをボトルで2本、直ぐに出来る料理はあるか?」

 

 亭主は一瞬、考え込む素振りをみせ、答えた。

 

「固焼きのパンと牛肉と玉ねぎと豆入りのスープが温めれば直ぐに、後はニシンも人数分あります」

 

「どちらも人数分くれ。ニシンはフライがいい」

 

 亭主は頷くと厨房に消えていった。他の客に料理の提供は終わっていたのだろう、ハワードが想定していたよりも早く、エールと共にスープとパンが運ばれて来る。

 

「遅くなったが停戦と任務達成を祝って」

 

 分隊長がジョッキを掲げる。ハワードは遠慮しないで勢い良くジョッキをぶつける。ゴキャンと軽快な音の後に、一気に中身を飲み干した。慣しのようなものであったが、戦を生業とする兵士にとっては、酒を飲むときは大袈裟に乾杯しなければいけない。慎ましく乾杯をする兵士など頼りにならないとハワードは教えられた。

 

 気を利かせた亭主が追加の有無を確認するとジョッキにエールが注がれていく。ハワードはパンを一口大に千切り、スープにつけて口に放り込む。牛の身から溢れた旨味、玉ねぎと豆のコクが口に広がる。スープに沈んだ具をフォークで刺して、口に運ぶ。牛の硬い身も煮込まれ、柔らかくなっていた。豆も程よく煮崩れを起こし、軽く噛むだけで身が割れてアクセントが楽しめる。

 

「道中で豆のスープは飽き飽きだと思っていましたが、具材と料理人の腕で化けますね」

 

 実に文化的な食事にハワードは感嘆の言葉を漏らす。シオンが賛同する形で頷いた。

 

「生焼けや生煮えが多かったからなぁ」

 

 スープを食べ終えるタイミングでニシンのフライがテーブルに並ぶ。三枚におろされ、切り身になっているが一人3匹分の為、随分と食べ応えがありそうだと、ハワードは手を伸ばす。フォークで口腔に放り込む。衣の歯触りの良い食感の後に、舌の上でニシンの旨味が広がる。白身で淡白な味わいの為、衣を纏っていてもしつこくなく幾らでも食べ続けられそうだった。

 

「フライ、最高ですね」

 

 焼くか煮るだけの食生活は、裕福な家庭で育ったハワードには辛いものだった。それが夜襲も朝駆けも考えなくて良い環境で味わえるのだ。

 

「うめぇ」

 

 ご機嫌の分隊長がエールを早速飲み干すのを見逃さずにハワードは話しかけてからワインを注いだ。

 

「注ぎますよ、分隊長」

 

「お、気がきくじゃねーかハワード。ほら、お前も食って飲め」

 

 促されるがままにハワードは残っていたエールを飲み干すと、空のジョッキにワインが注がれていく。酸味は強いが、フライの油をリセットするには適していた。日はまだ沈んでもいなかったが、酒盛りを止めるものなど存在しない。全てを忘れて、目の前の料理と酒に舌鼓をうち続けた。




今回短めです。すみません
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