「準備は!」
「全員完了しています!」
「では転移を開始! 信号の発信地点は6層! 十分に注意すること!」
「「「「はい!」」」」
協会の職員……つまり私達が緊急救援信号を受け取ってから2分。緊急時用マニュアルに従って準備を整えた5名はすぐさまに6層へ転移した。
「うお」
「うるさっ、警報か!?」
「戦闘音は後方からですね」
「救援信号は右前方だが」
「……警報が発生しており戦闘が続行中なら、少ない人数での救援はあまり得策とは言えない。まずは全員で戦闘音の方を確認する」
「了解です」
転移した私達にまず入ってきたのは、けたたましい「警報」音。ついで、少し遠くから何かを叩きつけるような轟音。これを聞いた私はまず、「警報」を踏んだ探索者が救難信号を発信し、まだ戦闘が続いていると解釈した。
しかし端末によって発信元を辿ってみると、入り口から見て戦闘音とは違う方向にあることがわかる。端末を落としたか、警報を踏んだ者と発信者が別か。
「ラストっ!」
『ゴォォ……!』
「お疲れー……あ、協会の」
【罠感知】【戦闘感知】を展開しながら戦闘音の元へと移動した私たちの目に映ったのは、部屋内にちらほらと転がった魔石、大剣を振り抜いた少年、そして魔石を拾う優男。救援信号を発するほどのピンチに陥っている状況には見えなかった。
「緊急救援信号を受諾し救援に来た探索者協会の者です。事情をお聞きしても?」
「ああそれ俺らじゃないですよ、彼が救援信号に合わせてエネミーを引き剥がす為に押しました。俺は少し前の階層で偶然出会って一緒に行動してまして、せっかくなので協力してるだけです」
へらりと笑う優男が、こちらへ向かって軽く頭を下げ警戒を続ける学生を指差す。あれは確か他の職員が話のネタにしていた、レベルが異常に高い学生探索者。さっきプロフィール写真をを少しだけ見せられたから覚えている。
「それは……ありがとうございます。応援はいりますか?」
「いやあ俺もそこそこやれますけど彼がめっちゃ強いんで、大丈夫ですよ」
「なるほど、救助への協力に感謝します。それではこれで」
「お疲れ様でーす」
学生が通路から現れたゴーレムを一刀両断しているのを見てならば確かにこちらは心配いらないと判断し、信号の発信者の下へ全員で向かう。そう伝え場を離れた。顔も見たこと無いはずの他の探索者を助けるために警報で敵を引き受ける……世の中には実力に加えて人助け精神に溢れるいい探索者もきちんといるものだ。
「信号はそろそろか……敵は?」
「【敵感知】は周辺に敵の反応を示していません、先ほどの警報の方へ向かっていく姿が確認できます」
「警報さまさまだな、さっきの学生はすげぇ度胸だわ」
「こ、声……救助ですか!?」
「! データ確認!」
「照合完了、発信者の双葉 舞衣さんではありませんが、それと同時にダンジョンへ侵入した双葉 愛衣さんに間違いありません」
「無事だったか、よかった!」
「意識を失っている怪我人がいる! 治癒魔法準備!」
「了解しました!」
発信者の反応は少し距離があったが、小部屋や遮蔽物、わかりにくい分岐路が少ないこのダンジョンでは探すのに苦労することはあまり無く、今回もすぐに見つけることが出来た。
岩陰に身を隠していたのは顔がそっくりな女子学生二人組。汗や土、細かい出血でどろどろになっており、地面に寝かされていた方は脚から大きく出血し意識を失っている。
長袖の布を切り裂いて傷口に巻き付けてあったからかとりあえず命の危険は無いと判断し、治療を任せて警戒に当たる。
……床の血痕。放り捨てられた「石矢」。罠を踏んでしまい足を射抜かれて逃げられなくなったが、警報の罠で敵が他所へ行ったことで一命を取り留めたというところか。恐らく彼らがいなければ間に合っていなかった公算が高い。この娘たちは運が良かった。
ダンジョンでの犠牲者というものは毎年必ず出てしまう。可能な限り0に近づけたいとは思うものの……現行のシステムではどうしても後手後手になってしまう。信号を受けて急行した先で探索者の死体に出会ったことは一度や二度では無い。
協会職員よりも一般探索者の方が人気が高いこともあって、年々人手が足りなくなっている。何か抜本的な対策を打たねばならないとは思うのだが……平職員の自分じゃ何も変えられない。歯痒いものだ。
「うっ……」
「舞衣姉ぇっ!」
「大丈夫です、消毒は済みましたし傷も塞がりました。少し経てば目を覚ましますよ」
「よかった……!」
「あなたも怪我があります、治療しますから動かないで……」
そうこうしているうちに重体の治療は終わったようだ。とはいえあくまで傷を塞いだだけだから一度地上に戻って検査等が必要なのは変わらない、親御さんにも連絡しないといけないし。
とりあえず二人を連れて脱出……ああ、警報が鳴り止んでいない。緊急救援信号は地上に出れば止まるからこのまま帰還すれば救援活動が完了したことは伝わるが……何も言わないで帰るのもな。俺から改めて礼を言いに行くべきか。
「俺は単独で行動し、さっきの警報を踏んだ人に警報を解除して問題無いと伝えてから帰還する。4人は2人を地上へ護送してくれ。鈴木、舞衣さんを背負ってくれ」
「了解しました」
「警報……今鳴っている物のことですか? もう駄目って時にちょうど鳴り出して、そうしたら敵が別のところに行ったんです!」
指示を出している途中に愛衣さんが口を挟んでくる。救助に成功したと言ってもまだダンジョンの中であることには変わらないから早く地上に戻りたいんだが、助かったという安堵感が口数を増やすことはよくあることだ。これにつっけんどんにするのは印象が悪いか。
「ああ……君たちの発した緊急救援信号に合わせて、警報をわざと発動させて敵を引き付けてくれた探索者がいたんだ」
「そんな……! その人たちは無事なんですか!?」
「とても強い人だったから問題は無いだろうと思うが」
「それなら、もしよければでいいので、同行して直接お礼を言いにいってもいいですか? 命の恩人だから……迷惑なら自重しますから!」
ううん……まあ気持ちは理解できる、そりゃ礼は言いたいか。幸いなことに6層だから地上までの直通帰還ができる扉もある。ここでもめても面倒が勝るし幸い警報のお陰で戦闘に入る心配もいらない。仕方ない。
「よし、田中と鈴木、加藤は気を失っている舞衣さんを地上へ送り届けてくれ。俺と三嶋は愛衣さんを連れて警報の発生場所に行く」
「「「了解です!」」」
「あ、ありがとうございます!」