ありふれた闇に呑まれゆく   作:6LD

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治安

「あれーちょっと前ぶりじゃん、どうしたの?」

「お疲れ様です、まあちょっと」

 

 

 こっちに向けて手を振ってきたのは弥勒さんだった。

 

 

「……知り合い?」

「日曜に探索してた時にダンジョンの中で知り合って、一緒にボス倒した人」

「ふぅん……」

 

 

 なんだか半目で見られた。まあ胡散臭いよな弥勒さん。

 

 

「そっちは彼女連れ? 邪魔しちゃってごめんねー」

「彼女じゃないですよ」

「あはは、ごめんごめん! え、てかよく見たら……もしかして?」

「あーっと、恵太は私のアカウント知らなくて……」

「え、マジ? そんなことある?」

「ごめん恵太ちょっと待ってて!」

 

 

 なんかちょっと離れて端末片手に初対面の2人で盛り上がってる。察するに、弥勒さんは瑞希の探索者としてのアカウント知ってるのか。てことは瑞希は結構有名人だったりするのか? 確かに学生でCランク行っている人は多くないはずだし、ノビシーカー好きなら知っててもおかしくないか。

 

 

「お待たせ! いやーこんなところでチャンネル登録してくれてる人に出会えるなんて思わなくってさ!」

「その眼鏡は? 変装?」

「そうそう、一応あった方がいいかなって持ってきてたの。いらないかなーとも思ったんだけど、一度バレたからには軽くはね」

 

 

 似合うー? と眼鏡をちょっと弄る瑞希。確かに、丸眼鏡一つかけるだけで活発な風貌から印象が変わる。人気配信者の嗜みってところだろうか。

 

 

「可愛いと思う、見慣れないから違和感あるけど似合ってるよ」

「へへー、ありがと。これお洒落でお気に入りなんだよねー。さ、行こ行こ」

「はー、いちゃいちゃしちゃって」

「そういうのじゃないので匿名で言いふらしたりしないでくださいねー」

「しないわ! 俺の事なんだと思ってんのよ……まあでも、気をつけなよ」

「身バレのことなら」

「そっちじゃなくて……えーと、ちょっと小声でいい?」

 

 

 ずいと顔を寄せてくるのでそれに合わせて道の端の邪魔にならないところに寄った。

 

 

「今警報出るほど魔力濃度が高くなってるから、その分だけ魔石とか高く買い取ってもらえるわけよ」

「まあそうですけど、それが?」

「俺もそれ目当てだからあんま言いたかないけどさぁ、買い取り相場が高い時ってなんというか……こう……探索者の治安が悪いんだよ、乱暴なのとか汚いやつもいるからさ」

「あー……」

 

 

 学生だと絡まれたりするかも、か?

 

 ふと周りを見渡してみると、確かに駅の近くで見たように騒いでいる……なんというか品の無い若者グループや、汚い笑みを浮かべた年配の者も見える。あれが探索者かどうかはわからないが、絡まれると面倒そうだ。

 

 

「なんかあったらすぐ職員に言いなね?」

「色々ありがとうございます」

「いいってことよ、じゃあねー」

 

 

 そう言い残して弥勒さんはひらひらと手を振って離れていった。なんだかんだで面倒見いい人だ。

 

 

「良い人だったねー」

「ダンジョンでも色々助けてくれたしありがたいよ。てかそろそろ行こう、夜遅くなるとまずい」

「だね、ごーごー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 探索者協会町田支部、その施設の会議室の一つ。アリエス・ケールは内線でかかってきた連絡を切ると溜息をついた。

 

 

「その反応は……」

「帰る様子は無い、って」

「やっぱり……」

 

 

 会議室に集ったSplashatterの面々は、アリエスに合わせるように大きく溜め息をつく。

 

 町田ダンジョンのスタンピード対策人員、及び避難指示のキャンペーンの為に町田ダンジョンに出向いていた彼女たちだったが、その彼女らを生で見ようと群衆が押し寄せてきたのは少しの誤算だった。正確には来ること自体は想像していたものの、その数が。

 

 現在は協会の職員や自衛隊員が沿道整理にあたっているが、「少しでいいから生で見たい」という声が強く、未だ進展は少ない状況となっている。

 

 一度でいいから顔を出してやれば、というのは昼から夕方にかけて既に三度行っており、その場に見に来れた人たちは大体解散したのだが、一度顔を出したなら今出てきてもいいだろうと集まる人も出始めたために効果は薄くなってしまっている。

 

 

「SNSは?」

「だめだな。最初に来なかったちゃんとしたファンは最初からきちんと避難してるし、そうでないファンはそもそも聞きやしない」

 

 

 やはりか、とアリエスは再び溜め息をついた。

 

 ダンジョンの危険性は、ダンジョンに潜らない人にとってはいまいち浸透していない。

 

 もちろん全国的にダンジョン内での死亡例は多いが、交通事故が減らないからといって車に乗るのをやめる人が減らないように、どこか他人事のように考えている者も多くいる。

 

 

「ここに来てる人たちに直接バーンと言えると楽なんだけどなぁ」

 

 

 リーダーのルディが思わず口に出した愚痴。普段から活発でファンとの仲の良い彼女でも辟易するほどの状況にアリエスの顔は渋くなる。

 

 担当マネージャーからはあくまでも強い口調での注意はSNSのみに留め、実際の声を上げるのは抑えてくれと伝えられている。影響力のある彼女らから直接の苦言を呈するのは、受けたファンが拗らせ暴走する危険があるためだ。

 

 

「その話も何度もしたでしょう、イメージ戦略的にまずいって」

「そうだけどさ!」

「はいはい、そこまでにしとけって」

「ご飯でも食べましょう、いい時間ですし」

「そうですね、ごめんなさいルディ」

「むぅ、いいよ……」

 

 

 少しだけ険悪な雰囲気になりかけたものをタンクとヒーラーの2人に諌められる。

 

 納得できないかのように頬を膨らませるルディを横目に、アリエスは職員に伝え食事を取ってきてもらうことにした。

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