嘘つき2人   作:ヤエルマーク3

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第3話 それぞれの考え

 アイの妊娠が発覚した翌日、学生であるタイガは学食で携帯電話片手にカレーを食べていた。昨日の夕方、壱護に連れられて大阪行きの新幹線に乗って行ったアイからメールが来ていないか確認しているが朝送られてきた『ホテルの朝ご飯おいしかったよ☆』と呑気なメールが来たきりで連絡が無い。

 

 (……壱護さんからも来てないしな……ヒカルからも来てない……)

 「……あのクソガキ」

 

 今朝、壱護にもメールを送ったが『新幹線で移動中』というメールが来てから新しいメールが来てなく今どこにいるのかも、どこの病院なのかも分からない。アイを妊娠させた相手であるヒカルにも『アイの事で話がある』とメールを送ったが連絡が返ってこない。

 アイは昨日ヒカルに事情を説明したと電話で言っていたがタイガも一応ヒカルに事の事情の説明と後の事を一緒に考えようと思いメールを送ったのだが、未だに返信が無いことに苛立ち、カレーを一口食べながら悪態をつくが苛立ちと共に心配もしていた。

 

 (事が事だし、思い詰めてなきゃいいだが……最悪……)

 

 一瞬、『自責の念で自殺』などと恐ろしい言葉が思い浮かぶが彼の無事を確認しようにもタイガは彼の実家の住所も神奈川にある事しか知らず、彼の所属するララライに事情を説明してヒカルの住所を聞くわけにもいかないのでどうにも出来ず不安が募る。

 

 「おい四宮!!これどういう事だ⁉」

 「んだよ。うるせぇぞ高木」

 「これだよこれ!!」

 

 クラスメイトで友人である高木がタイガの本来の苗字で叫び、周囲の視線を集めながら食堂に入ってきて、最近買い替えたと自慢していたスマートフォンに写っている記事を見せる。

 

 「『B小町・アイ、体調不良で活動休止』ってどういう事だよ⁉」

 「あぁそのことか……」

 

 事務所が公表した記事、『アイは体調不良ということでしばらく活動休止にする』と出発する前に壱護が言っていた事をミヤコが事務所のホームページからネットに上げたのだと納得したタイガは残りのカレーを食べながら説明する。

 

 「俺も今朝うちの社長から聞かされてな、知らなかったんだ」

 「アイは大丈夫なのか?なんかヤバい病気だったりするのか?」

 「分からん。アイも特に何も言ってこなかったし……」

 「四宮でも知らないのかよ。もしかして今まで誰にも言えなかったとかか?」

 

 『B小町』特にアイのファンである高木は血相を変えて聞いて来るので何も知らなかった体ではぐらかす。タイガの演技に騙された高木はスマホを操作しながら納得する。

 

 「誰にも言えなかったか……」

 

 高木の言葉にタイガはカレーを食べる手を止める。

 

 (……あんなに腹を膨らんで来てたのに気付いてなかったワケ無いよな)

 

 急に腹が膨らんできて、例え妊娠じゃなくても何か危ない病気が自分を蝕んでいるのではないかと異変に気付かなかった筈がない。壱護にもヒカルにも相談していなかった事を考えると一人でずっと悩んでいたのではないのか。身近にいたのに気付いてやれなかったと今更遅い事を考える。

 このままではいけないと思い、気持ちを切り替えようと思い高木の方に視線を移すと彼が操作しているスマホに視線が向く。

 

 「スマホって操作が難しそうだよな」

 「最初は難しかったけど慣れると簡単だぞ。携帯と違ってネットで色々調べられるし。ゲームも出来るぞ」

 

 画面を指でなぞる高木は画面でアイの情報を探しながら言うとタイガの携帯に視線を向ける。

 

 「そんな折りたたみの携帯なんてガラパゴス携帯なんて呼ばれてもう時代遅れだぞ。四宮もスマホに替えればいいじゃん」

 「俺これバッテリー新しいのに換えたばっかだし。スマホって高いじゃん」

 

 壱護やミヤコ、アイ、彼女や友人達のスマホを羨ましく思いつつも壱護に拾われて最初に買い与えられた携帯に愛着があるし、彼女や学校の友人達のように経済的に余裕のある家庭ではないタイガにとってはスマホなど高嶺の花であった。

 

 「高木、俺昼はフケるわ」

 「仕事か?」

 「サボりという名の早退。先生には昼から休むって言ってるし」

 

 カレーを食べ終え、トレーを食器返却口に置いたタイガは高木にそれだけ告げて食堂を後にした。アイの事が気掛かりなので物事に集中が出来ずにいたので今日はもう学校をサボる事にしたのだ。

 教室で帰り支度をしたタイガは昼休みのクラスメイト数人と少し話してから駐輪所に停めてあるバイク(RZ350)を始動させる。4月生まれのタイガは高校入学後すぐに普通二輪の免許を取り、壱護の『青春の思い出』であるこのバイクを譲り受け、バイク通学に利用している。

 

 (バイク通学禁止だけはマジで止めてくれよ)

 

 最近生徒会の方で『原付、バイク通学の禁止』にするかもという話が出ていると聞いてタイガは戦々恐々としている。由緒正しき歴史ある富裕層子息の学校である当校に原付、バイク通学は危険と言うなら最初からバイク通学を認めるなと内心毒づきながら自身のアパートに向けながらバイクを走らせる。

 

 

◇◇◇◇

 

 学校をサボって帰って来たタイガはソファーに寝転びながら気をまぎわらせる為に昼のバラエティやニュースを見たり、部屋の掃除をしながら時間を潰し、夕方頃ミドルジャンプを読んでいると机に置いてた携帯から着信音を鳴らしながら振動を始めるとタイガは携帯に飛びついた。電話の相手は壱護だった。

 

 「もしもし壱護さん」

 『……タイガ、今、学校か?』

 

 電話から聞こえてきた声の主である壱護の声は覇気が無く、何処か疲れたような声だった。

 

 「学校はサボりました。今、家です。壱護さん達は今どこですか?」

 『サボんなよ……俺達は今、宮崎の病院だ』

 「宮崎、九州ですか。また遠いところに行きましたね」

 

 ファンや記者からの目を逃れる為という目的とはいえ、随分と遠い場所を選んだものだと内心感心していると壱護はあることを口にする。

 

 『それより、ミヤコにもさっき伝えたがアイはやっぱり妊娠だった。それも双子(・・)らしい』

 「双子……ですか」

 

 『双子』という単語にタイガは口曇る。アイの華奢な身体に、二つの命が宿っている事にタイガは頭を抱えてしまう。

 

 「アイが成人済みの既婚タレントだったら子宝に恵まれたって言えるですけどね……」

 

 タイガはアイが子供を産む事に協力すると言ったが双子というのは予想外だった。ただでさえアイドルという仕事は基本薄給。ドラマ出演やCMなどのイメージキャラクター等をこなすタレント業と平行しない限り金銭的に余裕など無い。

 アイは給料の大半は貯金はしているがそれでも働き詰めてやっと一人頑張って高校まで行かせられるかといったところであり、二人を産んで育てるなど現実的では無い。

 

 『俺は堕ろすように言ったんだがアイのヤツ、子供を産むつもりらしい。医者は決めるのはアイの意思って言ってるしよ』

 「出産や中絶は本人の同意が必要って言いますもんね」

 「ああ……タイガ、中絶なんて言って気分のいい物じゃないのは俺も承知してるがお前からもアイを説得してくれ。アイツはお前の事誰よりも信頼してるから、お前の言葉なら聞くかもしれない」

 「信頼ですか……」

 

 信頼されているのなら相談の一つくらいされたかったと内心思うが、昨日のアイの言葉を思い出す。

 

 『この子なら私は本当に誰かを愛せるかもって思ったんだ。そんな打算まみれで産んだらこの子は悲しむかな……』

 『タイガ、ありがとう』

 

 壱護の言葉に昨日アイの部屋で話した時、アイが見せた悲しそうな顔と礼を言った時の微笑んだ顔がその言葉と共に頭を過る。

 

 「壱護さん……その事なんですけど……俺は、アイが子供を産む事に賛成したいんです」

 『なっ!?おまっ!?……何考えてんだ。もしアイツに子供を産ませてその事がバレたら事務所もアイも終わるんだぞ。それこそアイドルとしてじゃなくて、アイ自身の人生だって……』

 

 言い辛そうに言うタイガに壱護は驚きの声を上げそうになるが周囲に人が居るのか、声を潜めながら話す。

 

 「昨日アイが言ったんです。産んでやりたい、もしお腹の子を堕ろしたら自分を捨てた母親と同じになってしまうって。俺も同じです。どんな事であれ母親と同じになりたくない」

 『……俺はお前やアイを施設から引き取る時にお前達がされて来た事は聞かされてるから知ってる。けどお前達はお前達の母親達みたいなクズとは違う』

 

タイガやアイを施設から引き取る際に壱護がそれぞれの施設の職員達から二人の事情を聞き、施設に入る理由と入る前に親からどのような仕打ちを受けてきたか書かれた書類を受け取っている。

 書類書かれていた内容は二人からもある程度聞いてが、その内容は壱護も顔を顰め、二人には同情し、まだ幼い子供を虐待した顔も知らない二人の母親達に怒りを覚える物だった。

 

 「ありがとうございます。壱護さんの事は恩人だと思ってます。アイの今後や事務所の事を考えれば堕ろした方が良いのも分かります。けど、それでもなんです」

 『……このクソガキ、じゃあ俺だけで説得する』

 

 壱護はタイガが退かない事を察し苦々しく毒を吐きながら電話を切った。

 

 「すいません壱護さん……」

 

 恩を仇で返すような真似をして、タイガは重々しくタメ息を吐きながら携帯を机に置こうとするとまた携帯に着信が入った。

 

 「もしもし」

 『タイガ、僕だよ』

 「ヒカルお前……なんで今まで電話出なかった?」

 

 電話の声の主はアイを妊娠させた相手であるヒカルだった。タイガは今まで電話に出なかった事や、壱護に歯向かってしまった事が合わさって苛立ち気味に聞く。

 

 『僕の学校、携帯禁止で家に置いてたんだ。タイガからのメールも今見たんだよ……アイの妊娠の事だよね』

 「……そうだよ。アイからはどこまで聞いてる?」

 

 校則なんて一々守るなと言ってやりたかったが彼の声音は重々しく、ヒカルもアイの妊娠に対して責任を感じているのだと思い、今どこまで把握しているのか聞いてみる。

 

 『昨日、妊娠したことを聞いたよ。お金は僕がどうにかするから堕ろすように言ったんだけどアイは……』

 「産むって言って聞かなかったか?」

 『うん。僕には迷惑を掛けないって言ってたよ。そう言う事じゃないって言ったんだけど……』

 

 ヒカルはどうしたらいいと言ったように重々しく答える。

 

 「俺はアイに協力するけど、俺も出来るだけアイツの子育てに協力するし、お前に迷惑は掛けない」

 『アイから聞いてるよ……僕に協力して、説得してほしんだけど……』

 「俺も育ちが育ちだからな。お前やうちの社長の言い分も分かるけどアイツの気持ちも分かるんだよ。ヒカル、責任は感じ無くていいなんて言わないけど一人で抱え込みすぎるなよ」

 『ははっ……励ましてるつもりなのそれ?タイガ、ありがとう』

 「昨日アイにもおんなじ感じで言われたぞそれ」

 

 少し声色が明るくなったヒカルは笑いながら礼を言ってくる。ヒカルは堕胎出来るまでアイを説得してみると言って電話を切った。アイの性格上無駄な徒労に終わるだろうと思いながら電話を置こうとすると今度はアイから電話が掛かってきた。

 

 『あ、タイガ。やっと出た。学校だった?』

 

 電話に出るといつも通りの能天気な声で話しかけてくるアイの声を聞くと少し落ち着く。

 

 「いや学校はサボった。壱護さんにも同じ事言ったけど一緒に居ないのか?」

 『うん、ここ女子トイレだから居ないよ。社長が女子トイレにいたらキショいでしょ』

 「ああ、うんそうだけどお前の事本気で心配してくれてるだからキショいとか言うなよ。さっきヒカルからも電話あった」

 『ヒカルか〜』

 

 ヒカルの名前を出すとアイは嫌そうな反応を返して来た。

 

 『ヒカルに昨日言ったら、堕ろせって言われたんだよね』

 「アイツの言い分も正しいからな。そう言われても仕方ないだろ」

 『むぅ〜タイガはヒカルの味方なの?』

 

 ヒカルの肩を持つような事を言うタイガにアイはむくれながら聞いてくるがタイガはその問いを一蹴する。

 

 「昨日言っただろ、お前に協力するって。で、実際どうする?双子なんだろ?」

 『産むよ。そりゃあ社長達の言い分も分かるし、双子ならお金も苦労も一人の二倍掛かるけど、二人も産んだら賑やかな家庭になりそうじゃん』

 

 能天気にだが、嬉しそうに語るアイの言葉に思わず微笑んでしまう。

 

 「世の中がお前くらい能天気だったらいいだがな。そろそろ戻らないと壱護さんにまた『糞アイドル』って言われるぞ」

 『そうだね。それじゃまた後でメールするよ』

 

 アイはそれだけ言って電話を切ってしまった。翌日タイガは苺プロの事務所でアイの所属するアイドルグループ『B小町』のメンバー達、特にタイガやアイの同期とも言える初期メンバーの二人からアイの体調不良の原因を聞かれたが知らぬ存ぜぬを貫き通しながらミヤコと共にドラマの撮影現場に向かった。その2日後に一度帰ってきた壱護にゲンコツを食らった。

 

◇◇◇◇

 

 アイが宮崎の病院に入院してから15週間目、妊娠35週目が経ち、壱護が折れてアイの出産に同意した。

 

 『いやー社長なかなか頑固だったねぇ』

 「そうだな。俺は宮崎から帰ってくる度にゲンコツ貰ったがな」

 

 社長業やタイガやB小町達の売り込みもある壱護はアイの病院がある宮崎と東京を行き来し、帰ってくる度に壱護を説得するタイガにゲンコツをしていた。

 

 『あははゴメンゴメン。けど、ヒカルは入院して二週間目に諦めたのにね』

 「入院した時点で20週目だったからな。中絶が出来るのが21週目までらしいし、むしろ壱護さんが遅いくらいだ」

 

 病院で検査するタイミングが遅くて、時間が無かったのもあるがヒカルがすぐに諦めたのがタイガには意外だった。

 

 『そう言えばこの前ヒカルから、どこの病院に入院してるのかって聞かれたんだよね』

 「俺も聞かれたな。俺は宮崎って事しか知らないから知らないって言ったんだけど」

 『あれ社長から聞いて無いの?高千穂の病院だよ』

 

 タイガが病院の場所をまだ知らなかった事を今知ったアイは意外そうな声を上げながら場所を教える。

 

 「高千穂か、空気がおいしいとか夜空がキレイとか言ってたな」

 

 旅番組などや登山のドキュメント番組で高千穂の景色を見た事があるが自然豊かな田舎といった印象を受けた。

 

 「そう言えば芸能の神様が祀ってる神社があるって聞いたな」

 

 以前共演した役者が毎年、その神を祀ってる高千穂の神社に御参り行くと言う話をしたことを思い出しながら話す。

 

 『その神様って安産のご利益ってないかな?あ、そうだ安産のお守りありがとうね』

 「ああ壱護さんからもらったか」

 

 この間ツーリングをして神社に立ち寄った際に自分の交通安全のお守りと一緒にアイの助けになると良いと思い買った。安産祈願のお守り。壱護が宮崎にまた行く際にアイに渡すように頼んだ物は無事にアイの元に届いたらしい。

 

 「気休めにしかならんかもだけどもうすぐだろ。頑張れよ」

 『うん。ありがとうタイガ。あ、せんせ。タイガちょっと待ってて』 

 

 嬉しそうに礼を言うアイは誰かが気づいたらしく一端電話を離して何かを喋ってるとすぐに電話に戻ってきた。

 

 『タイガ、私の担当の先生と変わるね』  

 「は?」

 

 アイのいきなりの発言にタイガは意味が分からず間抜けな声を出すとアイは誰かに携帯を渡したらしく、電話から聞こえて来たのは若い男の声だった。

 

 『もしもし。担当医の雨宮です』

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

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