アイが双子を出産した翌日の昼頃、休日を利用して通販サイトで出産祝い用のオムツや哺乳瓶の画面を眺めて品定めしている時、アイと双子が対面している頃合い頃に壱護から電話が掛かって来た。
『タイガ……子供達の名前が決まったぞ……』
「もう名付けたんですか。アイツどんな名前にしたんですか?」
出産報告の余韻がまだ残って少しうかれているタイガと違い電話越しの壱護は声に覇気が篭もってない。一人で出産に立ち会った疲れが今出て来ているのかとタイガは一瞬思ったが、壱護の言葉に覇気が無い理由があった。
『
「は?……壱護さん今なんて言いました?」
『ルビーとアクアマリンだ……』
生まれた子供の名前を聞いた筈なのに、何故自分達の養父は急に宝石の名前を口にするのだろうと意味が分からなかったタイガは少し考えてある結論に至った。
「あ!あーあはいはい!ポケモンのタイトルですね!壱護さん、ルビーはあるけどアクアマリンじゃなくてサファイアですし、今のやつは『ダイヤモンド・パール』ですよ」
壱護が急にポケモンのタイトルを口にしたのは驚きだったが『サファイア』と『アクアマリン』を間違えているし、今のポケモンの最新タイトルは『ダイヤモンド・パール』である事は壱護は知らないのだと考えたタイガは壱護にその事を教えると悲痛とも呼べるような叫びが返ってきた。
『ポケモンじゃねぇーよ!!兄貴が愛久しい愛の海で
「……マジですか?」
『マジだ……なぁ、最近の若い奴のネーミングセンスって皆こうなのか?』
電話の向こうで頭を抱えてる壱護の姿が容易に想像できる声音にタイガも頭を抱えていた。
「なんでよりにもよってそんな
『止めたけどアイのやつ『これがいい』って一点張りで聞かねぇんだよ!出生届にも書いちまってよぉ……』
産んだのはアイだから名前の事はどうこう言えんと壱護は嘆いている。
「……俺、『大河』って名付けてくれたあの親達に感謝しちゃてるんですけど……」
『お前の境遇知ってて言うのも何だが、名付けに関してはアイよりお前の親の方がマトモだ』
自分を虐待した母親と自分達を捨てたもう顔もほとんど朧気な父親に感謝してしまった事に項垂れてしまったタイガは、壱護からアイの退院後の予定を一通り聞いてから電話を切ると、アイからメールが届いていたのでその内容を確認する。
『子供達の名前が決まったよ☆男の子が
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
マタニティハイと言うのだろうか、写メで送られて来た呑気なメールの内容に気持ち良さそうに眠ってる可愛らしい双子の赤ん坊と一緒に満面のドヤ顔で写っている自撮り写真を送ってきたアイに人生で一番長いタメ息を付いた。
あまりの呑気さに呆れるを通り越して若干殺意すら湧くドヤ顔にタイガは机に突伏して、横目で写真に写っている双子を見てアイとヒカルに似ている箇所を探していた。
「髪色はヒカルで、顔立ちは二人共アイ似か……子供のうちは男でも女でも母親に似てるんだっけ?……」
男女の双子の友人達から聞いた話を思い出しながらボヤきながら子供達からアイの方に視線が移る。
「……アイも母親かぁ……」
最も身近に居る友達が二児の母親になったというのがまだ何処か実感が持てなかったが幸せそうなアイのドヤ顔に思わず笑みが溢れる。
『出産おめでとう。退院まで身体に気をつけろよ』
それだけメールを送り、出産祝いの品を決めようとパソコンを操作する。
◇◇◇◇
『タイガ、何とかならないかな?』
「いや無理だろ。気持ちは分かるけどあきらめろ」
アイから子供達の名前を聞かされたらしいヒカルからの深刻な声での電話の話題はやはり双子のキラキラネームについてだった。
『アクアマリンとルビーって……せめて藍玉と紅玉でしょ……なのに可愛くないって……』
「和名にすればいいってもんじゃないだろ。もう名前の事は諦めろ。あーそういえば親戚が落としたって物は見つかったか?」
出生届に書かれてしまった名前はもうどうする事も出来ないので話題を変えようと昨日電話から聞こえてきたヒカルの親戚の落とした物の事を聞いてみる。
『うん。けっこう
「出先なのに大変だったな。その親戚に言っとけ『大事な物なら落とすな』って」
『ホントにね。ものすごく慌てるし
「まぁ大事な物失くした時とかって慌てるもんな……そういえばヒカル、お前大丈夫か?」
『え?なにが?』
「いや、なんつうか……元気がないって言うか、なんか溜め込んでる感じがするって言うかな。そんな感じだからさ」
ヒカルと話していてその声音はいつもより陰りが感じられたので聞いてみると、本人も指摘されるまで気付いてなかったように意外そうな声で聞き返してくる。
『……そうかな……僕はあんまりそんな感じしないけど』
「意外にそういうのって自分だと分からないモンだぞ。今度カラオケでも行くか?気が晴れるかもしれないぞ」
中学生でありながら秘密裏に自分の子供が二人も生まれた状況だから知らず知らずの内に精神的に追い詰められているのかも
『ありがとうタイガ。日程があった時にね。タイガのヘタウマな歌聞かされるんだから奢ってよ』
「安心しろ中坊。お兄さんが奢ってやるし、お前より上手いわ音痴め」
生意気な言葉にお互いを笑いながら茶化しあって、ヒカルがこれから用事があるらしく電話を切った。
◇◇◇◇
「ただいま〜!いやぁ~長旅だったよ!」
「おかえり……」
所属タレントと職員が全員が帰った苺プロ事務所の居住区、壱護とミヤコの住宅に一人でアイや壱護、里帰り出産という体で東京を離れていたミヤコ、アイの産んだ双子達の帰りを待っていたタイガは双子の片割れを抱えながら一人テンションの高いアイに呆れながら5人の帰りを出迎えた。
「壱護さん、ミヤコさんもおかえりなさい。そのなんていうか大変でしたね」
「まったくだ、たくっ……これ土産だ」
壱護は宮崎土産のマンゴー焼き菓子の箱を渡すと椅子に座り込んだ。
「はぁ……疲れたわ。タイガ、私の荷物は持ってきてくれた?」
「持ってきてますよ。皆が帰っててくれて良かったです」
「ありがとう」
タイガはテーブルの上に置いてあるダンボール箱の方を見ながら説明する。
アイが宮崎の病院に入院してすぐに『妊娠が分かったから里帰り出産で地元に帰っている』という設定で東京を離れていたミヤコは、本当に妊娠しているわけでは無いので地元に帰るわけにもいかず他県に潜伏しており、地元に居たというアリバイの為、地元の土産を通販で買ってタイガの部屋に届くようにしていたのだ。
「明日みんなに配らないと……林さんにも仕事変わってもらってたしお礼言わないと……」
ミヤコは疲れきった顔でボヤきながら抱っこしている赤ん坊の位置を直す。
「あ~そういえばこの子らどっちが愛久愛海でどっちが瑠美衣?」
アイとミヤコが抱っこしているそれぞれの赤ん坊を見比べながら聞く。
「私が抱っこしてる子がアクアマリンでミヤコさんが抱っこしてるのがルビーだよ」
「お前の方がルビーでミヤコが抱いてんのがアクアだ……」
「あれ?そうだっけ?」
「マジかお前……」
自分が腹を痛めて産んだ我が子を間違えるアイに思わず引いてしまったタイガはミヤコがおぶっているアクアマリンを預かり、こちらを見つめる赤子の顔を見つめ返す。
「
「タイガ〜なんでそんな可哀想な物を見る目で私の愛息子を見つめるのかなぁ?」
「お前の狂気じみたネーミングセンスで苦労するだろうこの子達の将来を不安に思ってるだけだ」
我が子を見つめるタイガの憐れみ目が不服だったアイは張り付いた笑顔を向けてくる。アイに言い返すとアイは更に不服そうな顔をする。
「どこも変じゃないでしょ?むしろちょうハイセンスな名前じゃん。お友達からも羨ましがられるよ」
「斜め上にハイセンスすぎんだよ。お友達からもからかわれるわ」
「あう!あう!」
アクアマリンをミヤコに返しながら苦言を呈するとアイの抱いていたルビーがタイガの方を見ながら可愛らしい声を上げる。
「おっと?ほら、ルビーもお兄ちゃんの名前をバカにするなぁーだって」
「赤ん坊が理解してるワケないだろ」
立ち上がった壱護は冷蔵庫の中から缶ビールを取り出しながらアイに告げるが、ルビーの顔は赤ん坊特有の愛くるしい顔立ちだがその顔は眉間に皺を寄せ左手を上げている。まるでタイガの
「……本当に怒ってないよな……」
思わずそう洩らすタイガだったが、目の前にいる赤子達は
◇◇◇◇
タイガの用意していた食事を食べ終えた壱護とミヤコはこれまでの溜まった疲れと壱護が明日から仕事に復帰する為、夫婦の寝室で寝ている中、タイガは客間の和室で敷いた布団に座るアイと話していた。
「タイガありがとね。オムツや粉ミルクたくさん買ってくれて」
「いいよそれくらい。壱護さんとミヤコさんにもちゃんとお礼言えよ。隠し子なんて危ない橋渡らされてんだし」
「分かってるよそれくらい。社長やミヤコさん達が協力してくれなきゃこの子達を産んであげられなかったんだもん」
もう眠ってしまっているアクアの頭を優しく撫でながら、まだ起きてるルビーを抱っこするアイは口調は普段通りだがその顔つきは妊娠が発覚して東京を出発する時と纏っている雰囲気が違っていた。
アイに母親としての自覚が出ているのかもしれないと思ったタイガは気になっていた事を聞くことにした。
「で、どうするんだ父親の事?この子達には教えるのか?」
後見人である壱護にも頑なに教えなかった双子の父親であるヒカルの存在をアイは子供達に教えるのかとずっと疑問だったタイガはアイに聞くと彼女は難しい顔をする。
「この子達がパパの事を知りたいって言ったら教えないとだよね……難しいなぁ〜あ、そうだ」
アイは照明を眺めながら考えているとなにかを思いついたようにスマホを取り出して検索サイトを開いた。
「なにしてんのお前?」
「この辺りの病院調べてるの。もしこの子達が熱とかケガしたりした時にすぐ連れててあげたいし」
「隠し子なんだからそこは壱護さんかミヤコさんに……あれ?付き添いの保護者って代理人でいいんだっけ?」
最後に病院に行ったのが母親から引き離された時だったタイガは病院の保護者付き添いがいまいち分からずにいる。
「それにさ、もしこの子たちが何か大きなケガや病気をしたらすぐに駆けつけられるようにもしたいしさ」
真剣な表情でスマホをスクロールさせるアイにさっきまで彼女の胸に顔を押し当てていたルビーはアイを見上げる。
「私さ、まだお母さんと一緒に暮らしてた時にけっこう高めな熱出してさ、「このまま死んじゃうんじゃないか」って子供ながら思ったんだ」
「そうか……」
アイの境遇を知っているタイガは彼女の幼い頃の話に顔を強張らせる。アイも昔を思い出し、少し憂いげな表情になる。
「そんな時でもお母さん、男の人の所に行ってさ……その時そばに居てほしかったんだよね私。寂しかった……もしこの子達が大怪我とか難病になってもそばに居てあげたし、寂しい想いをさせたくないんだ」
「……もし、その子達の怪我や病気が近くの病院、東京以外の病院じゃ治せないって言われたならどうする?」
「その時はアイドル辞めて、その病院の近くで部屋とお仕事探すよ。お母さんだもん。子供が不安な時は支えてあげたし甘えさせてあげたいんだ」
強い意志の籠もったアイの表情にタイガは思わず面食らってしまい、それと同時にアイに抱かれていたルビーが突然大きな泣き声で泣き出した。
「ふぁぁぁ!ぁぁぁぁ!!」
「おっと⁉どーしたのルビー。おっぱい飲みたいの?おしっこかうんち?」
泣きながら胸にしがみつくルビーによしよしとあやすアイにタイガは思わず微笑んでしまう。
「お前の子供達に対する姿勢に心打たれたんじゃないか?嬉しかったんじゃないか?」
「そう?そうだったらいいなぁ」
茶化しながら客間を出るタイガに少し嬉しそうに洩らすアイはルビーの頭を優しく撫でる。
ただただ嬉しかったのだ。
(側に居てくるれるんだ!!甘えていいんだ……!!)
ルビーは味わった事の無いような幸福感に泣き疲れるまで泣き叫んだ。優しく自分をあやすアイの胸の中で