『B小町』の販促イベントのミニライブ。本来ならファンクラブの抽選で当たらなければ入る事の出来ない場所だが、ファンクラブ会員じゃないタイガは
「……高木にバレたら殺されるな……」
ファンクラブ会員で今回の抽選を外した友人にもし、会員でもない自分がこのミニライブに来ている事がバレたら面倒くさい事になりそうだと思いながら、物販売り場で今日のライブに出る3人のグッズを一つづつ買う。
今回のミニライブは人気投票で上位3位以内を勝ち取った3人がライブを行う事になっており、アイ以外は初期メンバーは今回のライブに参加していない。
(しょうがないとは言え、あいつ等にも出て欲しかったんだがなぁ)
後から入ったメンバー達よりもまだ初期メンバーの方に情があるタイガは最初期から居る彼女達にも今回のようなファンだけのライブに出て欲しいと思うが、アイドル業は
タイガが購入したグッズをとってもそうだ。物販も一つでも売れ残れば赤字。所属アイドルだけではなく、他の社員の生活も支えなければいけない会社としても赤字は避けたい。
「……世の中結局金かぁ〜っと」
「っ……すいません」
「こちらこそぼーとしちゃてすいません」
分かり切っている筈の事を小さくボヤくタイガは一人の男性にぶつかってしまい、相手に謝るが、相手側は一口だけ謝罪の言葉を掛けてからそそくさと会場の方に入って行った。
ぶつかった相手は黒いパーカーを着込んだ少し陰気臭い大学生くらいの青年だったが、初対面である筈の彼の声に何処か聞き覚えがあった。
『おい‼大変だ!!マズい事になった!!』
「……あの声、確かヒカルの……」
アイが双子を出産した日、電話越しに聞いた慌てふためいていたヒカルの親戚の声と同じ声だった。
ヒカルから親戚がB小町のファンという話は聞いた事が無かったし、もしかしたら声が似ているだけの別人かもしれないが、もし本当にあの時の親戚ならこんな所で会うのはすごい偶然だ。
メールでヒカルに確認しようか一瞬考えるが親戚自身がアイドルのファンである事を隠しているかも知れないので思い留まる。
ライブステージに入るとそれなりに観客は入っております、タイガは観客サイドの真ん中くらいの位置でライブ開始を待っている中、最前列に身に覚えのある人物がベビーカーを横に置き立っていた。
マナー違反なのは分かっているがタイガは観客の間を静かに進み、その人物の横に立って小声で声を掛ける。
「ミヤコさん」
「タイガッ……⁉びっくりするじゃない……!」
いきなり耳元で声を掛けられたミヤコは驚いた表情を浮かべるが、ミヤコがライブ会場に、しかも双子を連れて来ている事の方がタイガとしては驚きである。
「……びっくりなのは俺の方ですよ。まさかチビ達を連れてくるなんて……」
「……まぁ色々とね。この子達にもいいかと思って……」
客の入りも多くなって来たので他の客には聞き取れないくらいの小さな声でやり取りするタイガとミヤコ。赤ん坊の教育については何も分からないが、ミヤコが考え無しにアクアとルビーを連れてくるとは思えないので彼女の言葉を信じる事にする。
「……アー坊、ルー子、今からアイやお姉ちゃん達が踊って歌うから静かにしてろよ……」
ベビーカーを覗き込んで小声で双子に教えるように言い聞かせるが、『ルー子』と呼ばれて若干ルビーが顔をしかめたが赤ん坊だから言葉は分からないだろうし、ご飯やオムツの交換で泣かれるかと思ったが、ルビーはすぐに表情を元に戻した。
アクアにだけ愛称を付けるのは可哀想だと思って、ルビーに付けた『ルー子』という愛称だが、アイ達三人だけでなくまだ赤ん坊のルビーからも不評のようだ。
『本日はB小町のお三方にお越し頂きました〜!』
司会の声と同時にアイを含めた三人が出て来て、観客達に手を振る。アイの顔はやっはり完璧で綺麗に整った爽やかな
(普段通りの笑顔……いくらアイでも一朝一夕では出来ないか……)
振りに合わせた表情、盛り上がりが高まってき始めた時に場を盛り上げて、魅せる
所作の一つ一つが、ライブに、アイに熱中しながらサイリウムを振るファン達をさらに熱狂させるパフォーマンス。運営やファンが望む
『アイの笑顔って良くも悪くもプロの笑顔なんだよな。なんか人間味がないっていうか。。。イマイチ推しきれない』
笑顔を振りまきながら歌って踊る、アイドルという上辺だけのアイが好きなファンは騙せても、目の肥えた人間には分かるのだろう。
テレビに張り付いて、色んなアイドルの笑顔を見て鏡の前で何度も練習していたアイ。
『私、普通の笑い方って知らないし』
普通の環境で育った人間からは絶対に出て来ない言葉、親に捨てられ、施設でもグループにも馴染めなかったアイでも人並みの笑顔を浮かべてた時はあった。
『タイガもヒカルもほんとに頭おかしいね』
三人で一緒にいた時は年相応の少女の笑顔をしていた。あの時のような笑顔が出来ればと、タイガが考えていると横から『バブ!バブ!』と可愛らしい謎の声が聞こえてくる。タイガが何事かと横を向くと何処から取り出したか分からない赤いサイリウムを両手に持って、ベビーカーの中でキレッキレのヲタ芸を打っている
「えぇぇぇ!ちょ、ナニこれ⁉」
タイガは赤ん坊がヲタ芸を打つという、あり得ない光景に思わず声を上げてしまい、他の観客もこちらに視線を向けてこのあり得ない光景に声を上げる。
「なんだあの赤ん坊!!ヲタ芸打ってるぞ‼」
「乳児とは思えないキレだ‼」
他の観客達もステージのアイ達よりも見事なヲタ芸を打つ双子に注目を向け、ステージの三人も踊るの止めてこちらを見ている。
タイガはダンスを止めてしまったB小町の方を見ると、アイはアクアとルビーのヲタ芸に他の者達が驚く中、一人、今まで見たことがない程のときめいた満面の笑顔をしていた。
◇◇◇◇
アイの部屋で壱護、タイガ、ミヤコがスマホで見ている件の動画を青い顔で観ている。大人達が青い顔をしているのを察してなのか、真似てなのかアクアとルビーも青い顔し、アイはどこか嬉しそうに動画を観る。
『バブ!バブ!バブ!バブ!』
『双子の赤ちゃんがヲタ芸を打つという異常事態に思わず個レスしてしまうアイドル』と題打たれた、アクアとルビーのヲタ芸動画。誰かが動画をネットに流して、世間に隠さないといけない双子の動画があっと言う間に拡散されてしまったのだ。
「21万リツイート、転載動画も既に200万再生……赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえ……これはさすがに……」
「ちょっと来い……」
壱護に引き摺られていくミヤコを見送った後、アクアとルビーの方に視線を向ける。
「……いつかは何かやらかすとは思っていたが……」
アイとヒカルの血を引くから将来絶対何かするとタイガは薄々思ってはいたが、こんなに早くやらかすとは流石に思っていなかった。
「……ヲタ芸なんてどこで覚えたんだお前ら……」
こちらを見てくる双子の頭を優しく撫でるタイガの表情は柔らかく微笑む。アイは自身のスマホで今回のライブでエゴサをしているとある投稿を見つけた。
『この子名前は?』
『アイってこんな風に笑う子だっけ。ちょっと印象変わった』
『この赤ん坊から厄介オタの資質しか感じない』
我が子達の可愛らしさにときめいた時の画像と共に投稿されたファン達のスレ、一部双子たちの事について書いてある中、アイはツイッターの方でもエゴサをし、前に人間味が無いと投稿していた投稿主のツイートを見つけると
『これだよ!!!!!これ!!!!!!』
今までの作り物の笑顔ではない本心からくる笑顔が多くのファンに刺さったらしく、アイの笑顔は大好評だった。
「なるほど……コレが
アイは画面の画像を参考にした自然で可愛らしい笑顔を向けながら聞いてくる。
「お〜デキてるデキてる。今までのよりも自然な笑顔だぞ」
「やったね。いや〜まさか二人がヲタ芸をするなんて思いもしなかったよ。すっごく可愛かったよ二人共!」
作り物の自然な笑顔ではなく本当の笑顔で二人に微笑みかける。
◇◇◇◇
双子がライブでヲタ芸を披露した翌日、ライブに行っていた事が高木にバレて、ライブを生で見ていた事の羨ましさあまりに襲いかかってきた彼を薙ぎ倒した日から数日後、タイガは
2ストバイクのけたたましい排気音を出しながら、目的のカラオケ店に着くとバイク駐車場に待ち合わせしていた人物が近づいて来た。
「久しぶりタイガ」
「おう。久しぶりだなヒカル」
近づいて来たのはタイガの友人で弱冠15歳で劇団ララライで実力屈指の才覚を持ち、アクアとルビーの父親でもある少年、カミキヒカルである。
「悪いな遅くなって。待ったか?」
「うん待ったよ。暑いから早く来てほしかった」
「ワルイワルイ。渋滞に捕まったんだよ。なんか冷たいの奢ってやるからそれで許してくれ」
手で扇ぐヒカルに笑いながら謝るタイガはヘルメットを持ってヒカルを連れカラオケ店に入る。
個室に入ったタイガは席に座ると、端末で歌を選択し始める。
「カラオケ来るのも久しぶりだわ。ヒカルなに歌う?いつも通り最初は長渕か?」
「機械持ってるなら自分のから入れてよ。いつもの『め組の人』歌えば?」
「いや今日は『天体観測』から歌おうと思ってる。前、部活の奴らと行った時に歌うの忘れてたし」
タイガはカラオケに来たら最初とシメは鈴木雅之をよく選ぶが今回はバンプから始めようと考えていた。ちなみにヒカルは最初は長渕剛、アイはシメに和田アキ子の『古い日記』を良く歌っていた。
「そう言えばタイガの部活ってどんな部活なの?……あ、マルゲリータ美味しそう」
今日はタイガの奢りなのでフードメニューを見ながら、遠慮なく値段の高い商品に目を付けるヒカルはふと疑問に思っていた事を聞いてみた。
「『
「なにイレブンって?」
ヒカルは意味が分からないっと言った顔をしながら聞いてくるがタイガの所属する部活は部活内容が特殊で大っぴらにその活動内容を話せないのだ。
「気になるなら、うちの高校受けたらいいだろ。案外楽しいぞ」
「いや偏差値77の超難関校なんて受かる気がしないよ。タイガが受かったのすら信じられないのに」
「お兄さんこう見えて頭は良いんだ。この前の中間テスト学年3位だぞ」
「ドヤ顔するならせめて1位取ってからしてよ。腹立つなぁ……ねぇ……アイ、どうしてる?」
タイガのドヤ顔に呆れるヒカルはメニューから目を離し、ずっと気がかりだった事を聞く。
「……元気だよ。双子のすることやること何もかも可愛くてしょうがないって感じだな」
この前などアクアとルビーがソファーを支えに少し立っただけで大はしゃぎしていた。ヒカルは少し複雑そうな顔で「……そっか……」と答え黙ってしまった。
『ヒカルがどんな感じか様子見といて』
カラオケに向かう前、アイが寝ている子供達から目を離してまで頼んできた言葉を思い出しながらタイガも考え込む。
「……アイの事、気になるか?」
「……まぁ……そりゃあ気になるよ……女々しい奴って思ったでしょ……」
「そんなもんいつも思っとるわ」
端末の履歴にアンダーグラフの『ツバサ』を発見しながらヒカルに対して普段から思っていることを口にするとヒカルは不服そうな顔をする。
「……そういうタイガは彼女さんとどうなのさ?ヒナさんだっけ?」
「あ〜それなぁ……ヒナとは昨日別れる事になった」
「え?なんで?なにか喧嘩したの?」
気まずそうに彼女と別れた事を教えるタイガにヒカルは驚く。
タイガはイケメン俳優の中でも顔はかなり良い方で面倒見も良く、頭もいい。悲惨な生い立ちの経験から浮気などを嫌悪する性格で女性には誠実で、俳優としてはまだ駆け出しだが一般高校生のバイトでは得られないような収入もある。ヒカルはタイガのような高物件男子と別れる理由が分からなかった。
「その〜なんだ?俺の身体の事と、俺の
仕方ないと笑顔でタイガはこの話を終えるが、その笑顔はヒカルにはとてもツラそうな物にしか見えなかった