ワーカーホリック古倉   作:ぴすこ

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第1話

 

 

 コンビニは私の全てだ。

 20年前のあの日から。

 

 私の身体はコンビニで形成されており、コンビニの一部(パーツ)になっている。

 

 優秀なパーツかは分からないが、私が誰よりもコンビニのために尽くしているという自負がある。

 

「いらっしゃいませー」

 

 私は無神論者だ。神様を信じてはいない。

 信じようと思った事もない。

 よく家に振興宗教の勧誘が来るが、断っている。

 

 神様などという目に見えないものの教えに対して、よくそんなに忠実でいられるな、と、家に訪問してくる熱心な信者を見る度につくづく思う。

 

 しかし、お客様には忠実だ。

 お客様は神様とは違い、目に見える存在なのだ。要求も私からすれば単純で分かりやすい。

 

 周りから見たらコンビニ教にハマる、気狂いな信者なのかもしれない。

 たしかに宗教に置き換えると、かなりののめり込みっぷりだろう。

 

 業務マニュアルという名の聖書を読み込み、それに書かれている行為を完璧にこなす。

 

 コンビニは私の癒しだ。

 

 お客様が入店した際の電子音⋯、パンを手に取った際に鳴る袋の乾いた音、冷蔵ケースの吸盤を想わせる開閉音、レジトレイが勢いよく飛び出すガチャガチャとした音⋯。この音たちは私の脳裏にこびりついているため、家にいる時も絶えず頭の中で鳴り響いている。店内から出る全ての音は、ヒーリングミュージックと言ってもいいだろう。

 

 コンビニは私の栄養だ。

 

 コンビニの食品は、美味しさを重視して作っているようなので、消費期限がかなり短い。なのでどうしても廃棄される弁当が一定数出てくる。なるべく店の損害にならないように、その弁当は必ず買う。少し前まで商品だった物が、表示された日時を1分でも過ぎるだけでゴミになる。

 

 勿体ないな、とよく思うが、マニュアルにルールとして書いてあるので、廃棄するという行動に躊躇はない。

 

 ちなみに廃棄が増えようと、商品を発注した時点で、料金はオーナー負担であるため、本社は儲かることが確定している。送った商品が売れようが、廃棄されようが、知ったことではないのだ。

 

 

 以前勤めていた店舗では18年間アルバイトスタッフとして勤務していた。

 しかし、辞める直前の思い出は、あまりいいものではない。

 

 他の人間が私のプライベートにズカズカと踏み込んで来たからだ。

 

 それまで周囲は「人間」ではなく「人間味のある店員」だった。

 その雰囲気も、コンビニという空間が居やすかった理由のひとつだ。

 人間がする雑談や柔軟さといった高度かつ面倒なコミュニケーションは、私にとって無駄でしかなかったからだ。

 

 しかしその店の店員たちも、私が異性と同居している、というプライベートな事を知ってから、店員ではなくなったのだ。業務中にも関わらず、一瞬で人間になり、コンビニを汚した。

 バックヤード以外のコンビニ内では「客」と「店員」という2つの役割以外は存在してはならないはずなのに。

 

「店員の皮を被った人間」が「生まれながらにしての店員」の内面を、薄汚い手でまさぐってきた。

 それが嫌で嫌でしょうがなかった。

 私にとってコンビニは、この世界で唯一の居場所だった。

 宗教風に言うのならば、聖地(メッカ)といったところか。

 ただでさえコンビニ外のコミュニティでは、異物扱いされてしまっていたのだから。

 

 考えてみれば、コンビニでしか生きられない店員が、学校や合コンなどの、人間が過ごすコミュニティに適応できるわけがないのだ。

 

 コンビニだけが私を肯定してくれる場所だった。

 

 しかし私が人間のような部分をさらけ出した瞬間、コンビニという聖域が、聖域ではなくなったのだった。

 それが辞めた直接の理由という訳でもないのだが、どのみちそのような状態になれば、長くはいられなかっただろう。

 

 なので新しい店に入ってからは、プライベートな行動は極力話さないようにしている。話したとしても嘘だ。

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