キヴォトスライダー・アマゾンズ   作:聖成 家康

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アマゾン。それは恐怖の権化。


ep1『アマゾン』

 

“久しぶりだね、悠”

 

 先生は、シャーレ特有の真っ白なソファに腰を掛けながら、眼の前の青年に視線をやった。

 

「ご無沙汰してます。――先生。まさか、高校教師に転任されていたとは、思いませんでした」

 

“悠は変わらないね”

 

 その青年は、やつれていた。茶髪の質は良く、顔色も良いものの、どこか何日もろくに食べていないような、げっそりとした印象を与える風貌だ。遠目で見れば、青いストライプのシャツにジーンズを纏った、ただの好青年であるのだが。

 

「ここは……凄い場所ですね。こんな都市があるなんて、知りませんでした」

 

“私もまだ慣れていなくてね”

 

 先生は悠にコーヒーを注ぎながら、微かな笑みを浮かべた。

 

「――それで、状況はどういった感じですか?」

 

 悠の問いで、先生の顔から笑顔が消えた。

 その様子を見て、悠は察した。――状況は最悪であると。

 

“怪物の影響は、キヴォトスの各地で起こっているよ“

 

”幾ら武力を保有してると言えど、君の言う怪物の力は、それでは到底太刀打ちできない”

 

 先生の声は、震えていた。それは怪物への――“アマゾン”への恐怖によるものか、それとも別の何かか。

 

 悠はコーヒーを啜り、暫く沈黙する。

 

 そして、ハイライトのない瞳を彼に向けながら答える。

 

「”アマゾン“は、たんぱく質を求めてヒトを喰らう化け物です。本来は造られた分しかいない存在でしたが、ある源から次々に増殖し、人々に感染してゆく溶原性アマゾン細胞が生まれてからは、無尽蔵に産まれる存在になりました」

 

 そう言って、膝に置いた拳を握る。

 

「その源を断ち切ったはずだった……そうなのに……」

 

 悠の脳裏に、嫌な記憶が蘇る。

 あの経験、あの記憶。あれだけ壮絶な戦いが繰り広げられた。なのに、まだ脅威の芽を拾えていなかったとは。

 

 ――彼は一体。何のために。

 

“悠が落ち込む必要はない”

 

“その細胞に源があるということは、このキヴォトスの何処かに、それがあるってことだ”

 

 先生は落ち着いた声音で答えた。

 

「――先生は、お強いですね」

 

“この街で過ごしたら、嫌でも強くなれるよ”

 

 先生はまた、微かな笑みを溢す。その笑みは、この学園都市での生活がどれだけ楽しいのかを物語っていた。

 ――先生の日常が、アマゾンによって壊されて良いはずがない。

 

(また……またこんな事が)

 

 今はとにかく“眼の前のもの”を守らなければ。

 何年も前にそう決めて、幾多もの障害を葬ってきたのだから。

 

(仁さんだったら、どうするのかな)

 

 ふと、あの男の事を考え、すぐにその疑問が消えた。

 

 ◇

 

 

 アビドスの砂嵐が止んだ。

 昨晩から吹き荒れ続けていた砂嵐だったが、今朝ようやくその歯止めを見せて、昼時に完全に消え去った。道路や家屋に、大量の砂だけを残して。

 

「うへぇ、ようやく止んだねぇ」

「今回のは特に激しかったですね」

 

 対策委員会の小鳥遊ホシノと奥空アヤネが、数時間ぶりに顔を見せた太陽を見据えながら、窓から外の様子を伺った。

 

「みんな来れるのかなぁ。今日は休みにしても良いような気がするけど」

「ホシノ先輩。休んでる暇なんてありませんよ。私達の借金はまだまだ沢山あるんですから」

「うへぇ、厳しいねぇ。アヤネちゃんは」

 

 アビドス高等学校は、多額の借金を抱えている。

 こんな砂嵐明けの日でも、その事を考えないといけない程には多額であった。

 

 それでも少女達は、その小さな手を取り合いながら、ひたむきに頑張り続けている。

 

「アヤネちゃん、校門周り掃除しよっか」

「え? ホシノ先輩、熱でもあるんですか……?」

「おじさんを何だと思ってるのさ」

 

 ホシノとアヤネは笑い合いながら対策委員会の部屋を出て、校門辺りを掃除するべく、用具を持って外へ向かった。

 

 

 

 外は案の定砂だらけで、せっかく綺麗にした校舎が、薄汚く見えてしまっていた。

 

「こりゃあ校門だけじゃなくて、全体が必要かもねぇ」

「ホシノ先輩……本当に大丈夫ですか? 自分から掃除を提案するなんて」

 

 アヤネの心配に、ホシノは「ん〜」と喉を唸らせた。

 

「いつ学校に行けなくなるか、わからないじゃん? だから、できる時にこうやって掃除しておかないと、いつでも気持ち良くお別れできないでしょ」

「……そうですね」

 

 二人の少女は、暫くの瞑想の後、笑いながら頷きあった。

 

 きっと、他の対策委員会のみんなが来たら驚くだろうな。

 

 そう思っていた頃だった。

 

 

「あ、セリカちゃん。おはようございます」

 

 校門の前をホウキで掃いていたアヤネの後ろに、いつの間にか立っていた少女に、彼女は笑顔で挨拶をした。

 

 黒見セリカは、特に驚く様子もなく、その場にただ突っ立っていた。

 

「どうだいセリカちゃん。おじさんもたまにはやるだろう?」

 

 ホシノが自慢げに言うと、不気味なまでの静寂が訪れ、そこに水を差すよう乾いた風が吹き荒れた。

 

 

 セリカの口が、にぃ、と釣り上がり、艶の良い唇から健康的な白い歯がぎょろりと覗いた。

 

 

「こんな学校、早く潰れちゃえばいいのよ」

 

 

 いつしか聞いた彼女の台詞。

 それが本望でないことは対策委員会の誰もが理解していたが、今回ばかりはなぜだか、その言葉に真意を感じた。

 

 

「セリカちゃん……?」

 

 

 セリカの首筋から頬にかけて浮かび上がる、青紫色の異様な筋。

 

 彼女から煙が吹き出して、瞬く間に全身を包み込んでしまった。

 

 煙が晴れる頃には、もう、黒見セリカの姿はなかった。

 

 

 ヒョウ――を模した人型の化物が、そこに立っていた。

 

 

 アヤネの悲鳴も虚しく、ヒョウの怪物は彼女を一瞬にして押し倒し、耳元まで裂けた鋭い歯の並ぶ口を開き、アヤネの首筋に押し当てた。

 

「ぅっ……!! あぁぁ"ぁ"ァ"ァ"ァ"ッ!!!!」

 

 砂に塗れた地面を上書きする、赤いモノ。そこへ飛び散る生のモノ。

 

 ホシノは、その状況を理解できずにいた。

 

 その為、一手、遅れてしまった。

 

 

 ようやく武器を手に取った彼女は、ショットガンの銃口をセリカだった物へと向け、迷わず引き金を引いた。

 

 射出されたペレット弾が、怪物の頭を穿ち、アヤネから引き剥がすことに成功する。

 

「ア、アヤネちゃん……!!」

 

 アヤネの襟を掴み、少し強引だったが、怪物から距離を置くことができた。

 

 傷の痛みに藻搔くソレへ、ホシノは目をやった。

 

 

(セリカちゃん……なの?)

 

 

 口に血がいっぱい付着した、ヒョウの化け物。彼女の赤い、元気いっぱいのヘイローは、何処にも見当たらない。

 

 

(何なの……これ……?)

 

 

 悪い夢なら覚めてほしかった。

 

 

 覚めろ、覚めろ、覚めろ。

 

 

 

 ショットガンをカタカタと震わせていると、何者かに肩を掴まれ、全身を強張らせる。

 

 

「下がってて」

 

 

 見上げるとそこには、目に光のない青年が立っていた。腰には、まるで血に染まったかのように赤い、ベルト型のデバイスを巻いていた。

 

「何する気……?」

 

 彼女の問いかけに、青年は答えなかった。

 

 ホシノを一瞥してから、鬼のような形相になり、バックルの窪みへ注射器型のアイテムを挿し込んだ。

 

 

『ニューオメガ』

 

 

 青年は深く息を吸った。

 

 

「アマゾンッッッ……!!!」

 

 

 ドス黒い一言を皮切りに、青年を真緑の熱気が覆い尽くす。

 

 青年の身体は変貌した。

 

 黒き装甲により強化された緑の戦士――仮面ライダーアマゾンニューオメガへと。

 

 

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