キヴォトスライダー・アマゾンズ   作:聖成 家康

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アマゾン。それは、狩るべきもの。


ep3『風紀委員』

 溶原性細胞には必ず、それをばら撒く”オリジナル“と呼ばれる個体が存在する。

 以前悠が直面した事件では、オリジナルの腕が貯水タンクに紛れ込み、それを通じて多くのウォーターサーバーに細胞が混入した。

 溶原性細胞の生存には水が不可欠。だから今回も、水関連であることは確実だった。

 

 ひとまず、そのオリジナルの行方を捜索するべく、ホシノが信用しているゲヘナ学園の風紀委員会の所へ向かうことにした。

 

 

 対策委員会の保有するヘリに乗り込むシロコとホシノ。

 

 悠は愕然とする。

 

 自分よりも年下の少女たちが、銃火器やヘリを保持しているのだから。

 制服を身に纏った彼女らを、ある人物と自然に重ね合わせていたためか、その驚きは更に大きかった。やはりこの都市は、自分の常識を軽々と覆してくる、と改めて実感する。

 

「乗って」

 

 シロコの手を取り、離陸していくヘリに飛び乗る。

 アヤネの面倒は、ノノミが一任することになったらしい。見るからに母性の高そうな少女だったから大丈夫だろう、と悠は勝手に納得していた。

 

「燃料が勿体無いから、最短で行こう。先輩」

「おじさん運転下手なんだけどな〜」

 

 ヘリを運転するホシノの声音は、柔らかなものになり、一人称もがらりと変わっていた。これが本来の彼女なのか、それとも哀しみを取り繕っているだけなのか、初対面の悠には分からなかった。

 

 広大な砂漠の上空を駆け抜けていくヘリ。アビドスは、どこを見ても砂で覆い尽くされていた。

 キヴォトスは、悠の常識を悉く狂わせてくる。

 

 こんな所で勉強できるのは、楽しいのかな。

 

 悠には分からない。

 彼は人間でも生徒でも無く、”アマゾン“なのだから。

 

 

 ◇

 

 

 レンガが用いられた、王の宮殿を彷彿とさせる校舎。それを中心に広がる土地は広大で、高層ビルが立ち並ぶ豊かな場所であった。

 

 悠の目下に広がるそれこそ、ゲヘナ学園及び、ゲヘナの自治区。

 

 しかし、学園内には黒く濛々と昇っていく狼煙が見え、ヘリの音に紛れて、銃声や爆発音も聞こえてくる。

 

「ここもなのか……」

 

 悠は歯を食いしばりながら、拳を握った。

 彼の想定よりも、溶原性細胞の蔓延は早いらしい。

 

 

 広場にヘリを着陸させ、三人は一斉に飛び出た。

 

 銃声は激しくなる一方で、鼻の良い悠には血や硝煙の匂いが嫌でも臭ってきた。

 

「風紀委員長ってのは、どこにいるの」

「風紀委員の部屋にいればいいけど、この状況じゃ怪しいね」

 

 ホシノとシロコは、銃を構え戦闘態勢に入った。

 

 この都市の生徒に”死“という概念はない。

 その代わりに、彼女らの頭に浮かぶ天使の輪かのようなビジョン――ヘイロー。それが破壊される事は、悠の世界で言う”死“と同義だと、先生から聞いていた。

 

 悠はベルトを装着しながら、立ち昇る狼煙を見据える。

 

「あの変身ってさ、何か制限あるの?」

「……特には。でもできるだけ、戦いの時だけにしたい」

「そう」

 

 その言葉を皮切りに、三人は一斉に歩み出す。

 

 

 

 広い校庭だった。綺麗な景観ではあるが、まるで迷路のように広く、同じ場所を何回も歩いているような感覚に陥った。

 銃声は未だ鳴り止まない。どこで、誰が、何に対して撃っているのか。三人は、その目で実際に見たわけではないが、もう答えは分かりきっていた。

 

 ようやく見えてきた、見慣れない景色。

 

 ゲヘナの校舎が目の前に見えるその広場で、無数の人影が入り乱れていた。

 

 

「風紀委員……!」

 

 制服を見て、シロコが呟く。

 軍帽を被ったような高貴な制服。あれがゲヘナの風紀委員会の制服らしい。

 

「イオリ……!! イオリ、しっかりしてください!!」

「ぐっ……うぅ」

 

 高く反り立つ角を持つ、サイアマゾンを取り囲む風紀委員会の生徒たちから少し隔てたところで、耳の尖った少女が大怪我を負った褐色肌の少女の手当てをしていた。

 

「あれ、風紀委員長の側近じゃない?」

「チナツちゃんと、イオリちゃん……だっけ、酷い怪我だ」

 

 それを見て駆け出した三人に、涙目になった少女が存在に気づいた。

 

「あなた達は、アビドスの……!」

 

 チナツは立ち上がると、知人の中に紛れる、見知らぬ人物の存在に気がついた。

 

「あなたは?」

「……水澤悠。キヴォトスの外から来た」

 

 彼女の身体が少し強張った。そして、暫くした後に予想外の問いが返ってくる。

 

「この状況……もしかして何か知っているのですか」

「知ってる。けど、今はそれどころじゃない」

 

 悠は彼女らの前に立って、瞳を細めながら敵を見据えた。

 

「ま、待ってください! あれは我が校の生徒が急に――」

「ああなった人間は、もう元には戻らない。悪いけど僕は、狩るべきものは、狩る。そうやって生きてきたんだ」

 

 悠はポケットから取り出した注射器――インジェクターを、赤く染まったバックル ネオアマゾンズドライバーに挿し込んだ。

 

 インジェクターに搭載された液体を、力強く押し込むことで、ドライバー内へ流し込む。

 

 

『ニューオメガ』

 

 

「アマゾンッッッ!!!!」

 

 

 翡翠の熱気が彼を包みこんだ。

 

 その熱気が晴れる頃、そこに水澤悠はおらず、緑の戦士――仮面ライダーアマゾンニューオメガが立つばかりであった。

 

 ニューオメガは、腕を広げ、姿勢を低くし、唸り声を上げながら、バネで跳ねたかのように敵の元へと突撃した。

 

 彼の存在に気がついた他の風紀委員が、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 サイアマゾンの体皮を爪で切り裂き、傷口の爪を突き立て、僅かな切り傷を大きな損傷にするべく両手をぶち込んで広げていく。

 

 血が溢れ出ると共に、その傷は穴と呼ぶに相応しいものへ変貌。

 

 激昂した敵の反撃を受け、一度は交代するも、ニューオメガは怯まず、腕部の刃をギラつかせながら突撃する。

 

 再生の始まる穴を塞ぐよう、刃の先端を敵へ押し付けるニューオメガに、新たな影が迫りくる。

 

「っ!! 危ない!!」

 

 ホシノの掛け声で、何とか回避が間に合った。

 ニューオメガがいた所へ、一体のアマゾンが空から降ってくる。

 

 黒き体皮を持つヒョウアマゾン。こちらも、ゲヘナの制服を身に纏っていた。

 

「手伝うよ」

「……」

 

 息を荒げるニューオメガ。

 ホシノはそんな彼を一瞥してから、黒いヒョウアマゾンに銃口を向ける。

 

 ペレット弾がヒョウアマゾンの頭部を削り取る。ホシノは動きが止まった隙を狙い、奴の背後へと素早く回り込み、銃口を背部へ押し付けて、何発もショットガンを乱射した。

 

 リズミカルに飛び散る血。

 流石のアマゾンでも、心臓に直接弾丸を貰っては耐える事ができず、倒れ、塵となって消えていった。

 

(凄い……あの子……アマゾンを生身で)

 

 ――思い出した昔の記憶と、彼女の様が重なり合う。

 

 頭にへばりついた記憶を、掻き毟るようにして振り払い、再び敵へ立ち向かう。

 

 腕部カッターでサイアマゾンの側頭部を切り裂く。顔を捻らせ、隙ができた瞬間、もう一度強烈な斬撃を喰らわせる。

 何度も何度も血反吐を吐くサイアマゾン。されど、倒れる気配が全くない。

 

 しかし、着実に弱りつつあった。

 

 敵を蹴り倒し、踏みつけることで地面に固定させる。

 

 雄叫びを上げるニューオメガの振るった腕が、サイアマゾンの胸元に突き刺さる。

 

 響き渡る悲鳴にも構わず、ニューオメガは刺した腕をどんどん、どんどん奥へとねじ込んでいく。

 もう進まなくなった所で、サイアマゾンの角を握り、渾身の力で持ち上げ、胴体を浮かせた。

 

 その反動で、ニューオメガの腕は完全に敵の胴体を貫いた。

 

 力無く倒れるサイアマゾン。

 塵と化して消えた所で、ニューオメガの変身は解かれ、ふらつく悠が姿を現す。

 

「……あなたは……一体」

 

 放心状態のチナツに、シロコが声をかけた。

 

「ん。チナツ。風紀委員長に会わせてほしい」

「委員長に……ですか?」

 

 チナツは、暫く考えたあと、血だらけのイオリを抱きかかえて歩き出した。

 

「分かりました。どうぞ、こちらへ」

 

 

 

 

 ゲヘナ学園の校舎内でも、銃声が絶え間なく鳴り響いていた。

 

「ど、どうしたの!? わ、私が分から――うわぁぁぁっ!!」

 

 生徒の一人が、先程変貌したばかりであろうクワガタアマゾンに押し倒されて泣き叫ぶ。

 

 そのアマゾンを、廊下の先から飛んできた紫の弾丸が蜂の巣にしたことで、生徒は解放されて一目散に逃げていった。

 

「アコ。これは何?」

「こ、これは……私にも分かりかねます……」

 

 困惑するアコを差し置き、ヒナは持ち前のミニガンを構え、アマゾンに向けて射出し続けた。

 

 しかし、奴はあれだけの弾丸を諸に受けながら、砂埃の中から再びその姿を現す。

 

「まだ生きて……!」

 

 アコは驚愕する。その生命力の高さ――生きることへの異様な執着と、ヒナの攻撃を苦とも思っていないその様子に。

 

 万事休す、といった二人の元へ、とある人物が駆けつけた。

 

 

「俺にお任せください!!」

 

 

 その声と共にやってきたのは、生徒ではない、ただの人間。

 紺色のしましまシャツに、黄土色のズボンを纏った、何とも頼りなさそうな男だった。

 

 しかし、その腰にはまるで悪魔界の遺物かのような、不気味なデバイスが巻かれていた。

 

「誰……?」

「俺ですか? 俺は、困った人を助ける、お節介な“仮面ライダー”です!」

 

 

「「仮面ライダー……?」」

 

 

 唖然とするヒナとアコ。

 

 その男は、手に持ったオレンジ色のスタンプらしきユニットを意気揚々と前に構えた。

 

『ギラファ!!』

 

 きらりと光り輝いたそれを、腰のドライバーへと押し付ける。

 

『ディール……』

 

 突然、どこからともなく、クワガタのビジョンが飛び出てきて、ヒナとアコは思わず後退してしまった。

 

 

「変身!!」

 

 

 その掛け声と共に、スタンプをバックルの正面に押し付けた。

 

『デリートアップ……!!』

 

『アンノウン、アンレスト、アンリミテッド!!』

 

『カメンライダー! ゲット! オーバーデモンズ!』

 

 クワガタのビジョンが彼と重なり、無数の粒子が彼の表面で装甲を形成していった。

 

 赤と青を基調としたスーツを覆う勇ましき緋色の装甲に、蒼く輝く複眼。昆虫の翅を彷彿とさせるマント、所々にあしらわれた鋼のワイヤー。

 横に伸びた長きアギトが輪郭に沿って装着され、火花が散る。

 

 仮面ライダー ゲットオーバーデモンズ。

 

 受け継がれし、鍬形の戦士が彼女らの前に現れた。

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