キヴォトスライダー・アマゾンズ   作:聖成 家康

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アマゾン。それは、因縁の思い出。


ep5『日常の断片』

 ヘリに乗り、アビドスの町へと再び戻っていた悠たち。玉置豪という、心強いのかどうなのか、未だ不解明な仲間も連れて、砂に塗れた大地へと足をつける。

 

 アビドスの町は、しん、としていた。

 元よりこの地域は砂嵐の影響で、次々に人が出ていっているらしいが、それにしても、である。

 

「ホシノ。その子の家は?」

「学校からそう遠くは無いよ。私が案内するから、早く行こう」

 

 アビドス高等学校の校舎を目印に、ホシノは道案内を開始した。

 銃を構える二人を見て、豪は大袈裟に驚く。

 悠は、もう慣れてしまった。

 

(この子達にとって、それ()は日常なんだ)

 

 自らの日常を守るための武器。それは最早、日常の一部と言っても過言ではない。

 この都市の常識を、今までの常識に当てはめてはいけない。彼女らには、彼女らなりの日常があるのだ。

 

 

 閑散としたアビドスの街を歩く。時折砂の混じった風が吹いて、悠の視界を妨害してきた。

 

「ね、ねぇ。君たちは、どうしてそんなに戦えるの? 俺たちに任せてくれれば――」

「私たちにやれる事があるのに、やらないのはおかしいでしょ」

 

 豪の問いに、ホシノは強気に答えた。

 銃を構え、人食いの化け物に立ち向かうなど、正気の沙汰では無い。それでも彼女らは、自分にやれる事を探して、こうして着いてきている。

 

「……私たちは、いつも通りの日常を過ごせればそれでいい」

 

 シロコがぽつりと呟く。

 

 

 その瞬間、進行方向から人影が近づいてきた。

 二人は銃口を一斉にそちらへ構えるも、すぐに地面へと狙いを変えた。

 

 

「やぁ、ここは随分と物騒な世界だね」

 

 

 ようやく全貌が見えてきたその人間。

 横に流した茶髪に、白いロングコートを羽織った華奢な男。その手には角張ったシアン色の拳銃が握られている。

 

「……そんなに警戒しないでくれよ。僕は“お宝”を探しに来ただけなんだ」

 

 男は余裕を見せながら、両手を上に上げる。

 

「お宝……?」

「僕は海東大樹。お宝を求めて何処へでも行く、通りすがりの仮面ライダーさ」

「か、仮面ライダー? あなたもですか?」

 

 大樹の言葉に、豪が反応を示した。

 

「……この世界にも仮面ライダーがいるのか。通じるとは思わなかった」

「良かったぁ。同じライダー仲間に出会えるなんて、少し寂しかったんです」

「勝手に仲間にしないでくれ」

 

 馴れ馴れしく接そうとする豪を、大樹は鬱陶しそうに追い払おうとした。

 彼は同じ生徒ではない豪や悠と違い、どこか冷静さに満ち溢れていた。まるで、元からこの都市の住民かのような。

 

「あなたは、この都市の人ですか?」

「いいや。僕はよそ者だよ。この辺りにお宝があるって話を聞いて、何日も前から彷徨っているんだが、全く見つからなくてね」

 

 やはりか、と悠は思う。そして更に、恒例の質問を投げかけた。

 

「――先生、ってご存知ですか」

「誰だいそれは。僕は誰かに物を教わるのは嫌いなんだ」

 

 大樹は余計な一言を加えながらそう言った。

 

 豪と同じく、先生を介さずこの都市にやってきた人物――。

 キヴォトスについて詳しくは無いが、これは滅多に無いことではないだろうか。

 

「君、駄目だよ。アビドスは私達の自治区なんだから、お宝勝手に狙われたら困るよ」

「子供が僕に口出しするんじゃない。何より自治区とはなんだ。君のような子供が自治できるわけないだろう」

「キヴォトスの外とこことでは勝手が違うんだよ」

 

 ホシノの声に耳を傾けようとしない。何というか、嫌な印象を受ける男であった。

 

「まぁいい。僕は誰の協力も受けずお宝を手に入れてみせるさ」

「だから駄目だって言ってるじゃん」

 

 大樹はホシノの忠告も聞かずに何処かへと走り去っていった。

 

(僕は、先生に誘われてここに来た……)

 

 けれど彼は違う様子だ。それは豪も同じ。キヴォトスの外から人が来ることは、ヒナの反応を見るに当たり前の事では無い。

 

 溶原性細胞の他に、懸念すべき点が増えなければ良いのだが。

 

 悠はそう思いながら、砂の混じった風を浴びた。

 

 

 

 ホシノに案内され、平凡な住宅街の一画に佇むマンションに辿り着く。

 黒見セリカの住んでいた部屋は、このマンションにあるらしい。

 

「……セリカ……」

 

 シロコはマンションを見上げながら、青い瞳を細める。

 感傷に浸っている暇は無い、と言う代わりに、彼は無言でマンションに足を踏み入れていく。

 

 階段を上がる度に、昔の記憶が鮮明に思い浮かんでくる。

 皆、今何をしているのか、そもそも生きているのか。

 

 ――あの決闘以来、人里に姿を現していない悠には分からなかった。腰に巻いている“これ”を、母親から直接渡されたのが最後だ。

 

 アマゾンとして生きることを決意した自分が、こうして普通の人間と行動を共にするのは、とても懐かしさを覚えるものだった。

 

「ここだよ。セリカちゃんの部屋」

 

 ホシノがドアノブに手をかけ、四人は部屋に入っていく。

 

 ――ああ、また。

 

 こんな風に大勢で扉から入る光景。よく見てきた。

 

 悠は思わず立ち止まってしまう。

 

「……? どうしたの」

「いいや。何でもない」

 

 ホシノに勘づかれないよう、急いで取り繕う。彼女は、まるで鳥みたいに勘が鋭い。

 

 女子高生らしい部屋。生活感が溢れながらも、可愛げのある装飾が所々に施されている。荒らされていないのが幸運だった。

 ホシノとシロコが目を光らせて、辺りを見渡す。この手の類は、彼女らに任せたほうが良さそうだから、悠はあえて何もしなかった。

 

「ん。先輩、これ」

「レシートかな。……セリカちゃんは真面目だなぁ」

 

 テーブルに上で山積みになったレシートをシロコが発見する。その隣には小さなノートが広げられていた。

 山積みになったそれの一番上を取り、ホシノは目を細めた。

 

「昨日……セリカちゃん、コンビニでジュース買ってるね」

「……!」

 

 ――まさか、と悠は思わず踵を返した。

 

「ジュースって、これでしょうか?」

 

 キッチン辺りにいた豪が、台所に立てかけられた空のペットボトルを見せてくる。まだラベルが貼られていて、幸いにも製品名がはっきりとわかる。

 

 悠は豪から受け取ったそれを、くるくると回しながら眺めた。

 製品名はどうでも良く、悠は真っ先に製造元の特定を急ぐ。

 

「カイザーコンビニ限定品……」

 

 ぽつりと呟いた悠の言葉に、ホシノとシロコが威圧的な反応を見せた。

 

「カイザー……」

「……またか」

「え、どうかしたんですか?」

 

 困惑する豪が二人に尋ねる。

 もう少し気を遣え、と思いながら悠は顔を顰めた。

 

「いや、ちょっと色々あって」

 

 二人はどこか悔しそうな顔をしていた。

 まだこの製品が原因と決まったわけではない。しかし、キヴォトスの広い範囲にあっという間に広まった事を考えると、ウォーターサーバーのように限られた利用者しかいない物ではないだろう。

 

「ホシノ、風紀委員長に連絡はとれる?」

「ん? うん」

 

 ホシノに頼んで、ヒナとの情報共有を測った。

 

 その瞬間、玄関から何者かが侵入してくる音を聞き、シロコが真っ先に銃を向ける。

 

 部屋にやってきたのは、ヘルメットを被った生徒。

 制服には返り血が付着しており、たった今、食事を終えてきたと推測できる。

 

「お前ら、アビドスかぁ? 覚悟、しろよぉ」

 

 彼女の全身から煙が吹き出て、あっという間にアマゾン化する。

 ヘルメットが割れ、ゾウアマゾンの顔が出てきた瞬間、シロコのアサルトライフルが敵の顔を蜂の巣にした。

 

「悠! 今!」

「アマゾ――」

 

 悠が変身しようとした時、ゾウアマゾンの背後から飛んできた青い弾丸が、蜂の巣になった敵の頭部を更に歪める。

 

 

「お宝を追ってきたんだが、厄介な事に巻き込まれたね」

 

 

 拳銃を向ける大樹が、部屋の中に入ってくる。

 そして彼は一枚のカードを取り出して、拳銃――ディエンドライバーの中へ差し込んだ。

 

『カメンライド』

 

 ドライバーを上に掲げて

 

「変身」

 

と呟き、引き金を引く。

 

『ディエンド!』

 

 カラフルなビジョンが駆け巡り、空中で青いプレートが舞い踊った。

 彼を包んだ黒いスーツが、突き刺さっていく青のプレートにより装甲で覆われる。

 

 眩い光と共に、バーコードを体現するかのような蒼き戦士――仮面ライダーディエンドが誕生した。

 

 飛びかかったゾウアマゾンを左腕で抑えながら、彼はテーブルの上に飛び乗りつつ、部屋の中心に立つ。

 悠たちはリビングの入口まで追い込まれた。

 

「君は何の動物かな? ……分からない。数が多ければ、きっと当たるだろう」

 

 独り言を呟くディエンドは、また一枚、カードをドライバーへと装填する。

 

『カメンライド』

『ジュウガ!』

 

 引き金を引けば、人型のビジョンがアマゾンの前で駆け巡ってから、やがて実体化する。

 

 すると、もう一人の黄金の戦士――ジュウガが突如、その姿を現す。

 

「か、狩崎さん?!」

「早く行きたまえ。巻き込まれても知らないよ」

「おー、ありがとね」

 

 ホシノが礼を言い、四人は颯爽と部屋から脱出した。

 

 ゾウアマゾンの鼻に巻き付かれ、放り投げられたジュウガ。壁に激突し、無様にも狭い部屋の中で攻め込まれてしまっていた。

 

「……外れだったかな」

 

 しかしジュウガは、華麗な回し蹴りを見せながら、凄まじい身体能力で体勢を立て直した。

 

「いや、当たりか」

 

 

 ◇

 

 

 外に出て、安全を確認してからヒナに電話した。

 

『もしもし』

「委員長? そっちはどう? こっちは手がかりらしきもの掴めたんだけど」

 

 空のペットボトルを持ち、ホシノはヒナの通話する。

 

『……アコの調べによれば、アマゾン化した生徒は、昨日から今日にかけて、全員コンビニや自販機で飲み物を購入している事がわかったわ』

「おぉ〜凄い。ゲヘナって怖いねぇ。こっちも調べてみたんだけどね……セリカちゃんもコンビニでジュース飲んでた事が分かったんだ」

 

 二人の通話が終わるまで、悠は立ち尽くしながら考え事をしていた。

 高く聳え立つ、少し騒々しいマンションを見上げながら。いつしかその視線は、少し薄暗い青空へと向けられる。

 

(キヴォトスの外。僕の知らない、他の“水槽”……)

 

 悠は長らく外の世界を知らなかった。

 

 けれど、仮面ライダーなどという単語は、あの町で普通に生きている頃には聞いたことがない。

 

(何かが起きているのか? 溶原性細胞の他に……)

 

 

 




もう遅いかもですが、この悠は映画後の悠です。
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