ヘリに乗り、アビドスの町へと再び戻っていた悠たち。玉置豪という、心強いのかどうなのか、未だ不解明な仲間も連れて、砂に塗れた大地へと足をつける。
アビドスの町は、しん、としていた。
元よりこの地域は砂嵐の影響で、次々に人が出ていっているらしいが、それにしても、である。
「ホシノ。その子の家は?」
「学校からそう遠くは無いよ。私が案内するから、早く行こう」
アビドス高等学校の校舎を目印に、ホシノは道案内を開始した。
銃を構える二人を見て、豪は大袈裟に驚く。
悠は、もう慣れてしまった。
(この子達にとって、
自らの日常を守るための武器。それは最早、日常の一部と言っても過言ではない。
この都市の常識を、今までの常識に当てはめてはいけない。彼女らには、彼女らなりの日常があるのだ。
閑散としたアビドスの街を歩く。時折砂の混じった風が吹いて、悠の視界を妨害してきた。
「ね、ねぇ。君たちは、どうしてそんなに戦えるの? 俺たちに任せてくれれば――」
「私たちにやれる事があるのに、やらないのはおかしいでしょ」
豪の問いに、ホシノは強気に答えた。
銃を構え、人食いの化け物に立ち向かうなど、正気の沙汰では無い。それでも彼女らは、自分にやれる事を探して、こうして着いてきている。
「……私たちは、いつも通りの日常を過ごせればそれでいい」
シロコがぽつりと呟く。
その瞬間、進行方向から人影が近づいてきた。
二人は銃口を一斉にそちらへ構えるも、すぐに地面へと狙いを変えた。
「やぁ、ここは随分と物騒な世界だね」
ようやく全貌が見えてきたその人間。
横に流した茶髪に、白いロングコートを羽織った華奢な男。その手には角張ったシアン色の拳銃が握られている。
「……そんなに警戒しないでくれよ。僕は“お宝”を探しに来ただけなんだ」
男は余裕を見せながら、両手を上に上げる。
「お宝……?」
「僕は海東大樹。お宝を求めて何処へでも行く、通りすがりの仮面ライダーさ」
「か、仮面ライダー? あなたもですか?」
大樹の言葉に、豪が反応を示した。
「……この世界にも仮面ライダーがいるのか。通じるとは思わなかった」
「良かったぁ。同じライダー仲間に出会えるなんて、少し寂しかったんです」
「勝手に仲間にしないでくれ」
馴れ馴れしく接そうとする豪を、大樹は鬱陶しそうに追い払おうとした。
彼は同じ生徒ではない豪や悠と違い、どこか冷静さに満ち溢れていた。まるで、元からこの都市の住民かのような。
「あなたは、この都市の人ですか?」
「いいや。僕はよそ者だよ。この辺りにお宝があるって話を聞いて、何日も前から彷徨っているんだが、全く見つからなくてね」
やはりか、と悠は思う。そして更に、恒例の質問を投げかけた。
「――先生、ってご存知ですか」
「誰だいそれは。僕は誰かに物を教わるのは嫌いなんだ」
大樹は余計な一言を加えながらそう言った。
豪と同じく、先生を介さずこの都市にやってきた人物――。
キヴォトスについて詳しくは無いが、これは滅多に無いことではないだろうか。
「君、駄目だよ。アビドスは私達の自治区なんだから、お宝勝手に狙われたら困るよ」
「子供が僕に口出しするんじゃない。何より自治区とはなんだ。君のような子供が自治できるわけないだろう」
「キヴォトスの外とこことでは勝手が違うんだよ」
ホシノの声に耳を傾けようとしない。何というか、嫌な印象を受ける男であった。
「まぁいい。僕は誰の協力も受けずお宝を手に入れてみせるさ」
「だから駄目だって言ってるじゃん」
大樹はホシノの忠告も聞かずに何処かへと走り去っていった。
(僕は、先生に誘われてここに来た……)
けれど彼は違う様子だ。それは豪も同じ。キヴォトスの外から人が来ることは、ヒナの反応を見るに当たり前の事では無い。
溶原性細胞の他に、懸念すべき点が増えなければ良いのだが。
悠はそう思いながら、砂の混じった風を浴びた。
ホシノに案内され、平凡な住宅街の一画に佇むマンションに辿り着く。
黒見セリカの住んでいた部屋は、このマンションにあるらしい。
「……セリカ……」
シロコはマンションを見上げながら、青い瞳を細める。
感傷に浸っている暇は無い、と言う代わりに、彼は無言でマンションに足を踏み入れていく。
階段を上がる度に、昔の記憶が鮮明に思い浮かんでくる。
皆、今何をしているのか、そもそも生きているのか。
――あの決闘以来、人里に姿を現していない悠には分からなかった。腰に巻いている“これ”を、母親から直接渡されたのが最後だ。
アマゾンとして生きることを決意した自分が、こうして普通の人間と行動を共にするのは、とても懐かしさを覚えるものだった。
「ここだよ。セリカちゃんの部屋」
ホシノがドアノブに手をかけ、四人は部屋に入っていく。
――ああ、また。
こんな風に大勢で扉から入る光景。よく見てきた。
悠は思わず立ち止まってしまう。
「……? どうしたの」
「いいや。何でもない」
ホシノに勘づかれないよう、急いで取り繕う。彼女は、まるで鳥みたいに勘が鋭い。
女子高生らしい部屋。生活感が溢れながらも、可愛げのある装飾が所々に施されている。荒らされていないのが幸運だった。
ホシノとシロコが目を光らせて、辺りを見渡す。この手の類は、彼女らに任せたほうが良さそうだから、悠はあえて何もしなかった。
「ん。先輩、これ」
「レシートかな。……セリカちゃんは真面目だなぁ」
テーブルに上で山積みになったレシートをシロコが発見する。その隣には小さなノートが広げられていた。
山積みになったそれの一番上を取り、ホシノは目を細めた。
「昨日……セリカちゃん、コンビニでジュース買ってるね」
「……!」
――まさか、と悠は思わず踵を返した。
「ジュースって、これでしょうか?」
キッチン辺りにいた豪が、台所に立てかけられた空のペットボトルを見せてくる。まだラベルが貼られていて、幸いにも製品名がはっきりとわかる。
悠は豪から受け取ったそれを、くるくると回しながら眺めた。
製品名はどうでも良く、悠は真っ先に製造元の特定を急ぐ。
「カイザーコンビニ限定品……」
ぽつりと呟いた悠の言葉に、ホシノとシロコが威圧的な反応を見せた。
「カイザー……」
「……またか」
「え、どうかしたんですか?」
困惑する豪が二人に尋ねる。
もう少し気を遣え、と思いながら悠は顔を顰めた。
「いや、ちょっと色々あって」
二人はどこか悔しそうな顔をしていた。
まだこの製品が原因と決まったわけではない。しかし、キヴォトスの広い範囲にあっという間に広まった事を考えると、ウォーターサーバーのように限られた利用者しかいない物ではないだろう。
「ホシノ、風紀委員長に連絡はとれる?」
「ん? うん」
ホシノに頼んで、ヒナとの情報共有を測った。
その瞬間、玄関から何者かが侵入してくる音を聞き、シロコが真っ先に銃を向ける。
部屋にやってきたのは、ヘルメットを被った生徒。
制服には返り血が付着しており、たった今、食事を終えてきたと推測できる。
「お前ら、アビドスかぁ? 覚悟、しろよぉ」
彼女の全身から煙が吹き出て、あっという間にアマゾン化する。
ヘルメットが割れ、ゾウアマゾンの顔が出てきた瞬間、シロコのアサルトライフルが敵の顔を蜂の巣にした。
「悠! 今!」
「アマゾ――」
悠が変身しようとした時、ゾウアマゾンの背後から飛んできた青い弾丸が、蜂の巣になった敵の頭部を更に歪める。
「お宝を追ってきたんだが、厄介な事に巻き込まれたね」
拳銃を向ける大樹が、部屋の中に入ってくる。
そして彼は一枚のカードを取り出して、拳銃――ディエンドライバーの中へ差し込んだ。
『カメンライド』
ドライバーを上に掲げて
「変身」
と呟き、引き金を引く。
『ディエンド!』
カラフルなビジョンが駆け巡り、空中で青いプレートが舞い踊った。
彼を包んだ黒いスーツが、突き刺さっていく青のプレートにより装甲で覆われる。
眩い光と共に、バーコードを体現するかのような蒼き戦士――仮面ライダーディエンドが誕生した。
飛びかかったゾウアマゾンを左腕で抑えながら、彼はテーブルの上に飛び乗りつつ、部屋の中心に立つ。
悠たちはリビングの入口まで追い込まれた。
「君は何の動物かな? ……分からない。数が多ければ、きっと当たるだろう」
独り言を呟くディエンドは、また一枚、カードをドライバーへと装填する。
『カメンライド』
『ジュウガ!』
引き金を引けば、人型のビジョンがアマゾンの前で駆け巡ってから、やがて実体化する。
すると、もう一人の黄金の戦士――ジュウガが突如、その姿を現す。
「か、狩崎さん?!」
「早く行きたまえ。巻き込まれても知らないよ」
「おー、ありがとね」
ホシノが礼を言い、四人は颯爽と部屋から脱出した。
ゾウアマゾンの鼻に巻き付かれ、放り投げられたジュウガ。壁に激突し、無様にも狭い部屋の中で攻め込まれてしまっていた。
「……外れだったかな」
しかしジュウガは、華麗な回し蹴りを見せながら、凄まじい身体能力で体勢を立て直した。
「いや、当たりか」
◇
外に出て、安全を確認してからヒナに電話した。
『もしもし』
「委員長? そっちはどう? こっちは手がかりらしきもの掴めたんだけど」
空のペットボトルを持ち、ホシノはヒナの通話する。
『……アコの調べによれば、アマゾン化した生徒は、昨日から今日にかけて、全員コンビニや自販機で飲み物を購入している事がわかったわ』
「おぉ〜凄い。ゲヘナって怖いねぇ。こっちも調べてみたんだけどね……セリカちゃんもコンビニでジュース飲んでた事が分かったんだ」
二人の通話が終わるまで、悠は立ち尽くしながら考え事をしていた。
高く聳え立つ、少し騒々しいマンションを見上げながら。いつしかその視線は、少し薄暗い青空へと向けられる。
(キヴォトスの外。僕の知らない、他の“水槽”……)
悠は長らく外の世界を知らなかった。
けれど、仮面ライダーなどという単語は、あの町で普通に生きている頃には聞いたことがない。
(何かが起きているのか? 溶原性細胞の他に……)
もう遅いかもですが、この悠は映画後の悠です。