凶星夢幻劇   作:七草青菜

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転章

 水底に竜が沈む。

 ダイダンガは、死の間際にあって尚、己自身を鍛え続けていた。

 

 ──まだだ、まだ我は強くなれる。我の作りし最高傑作は、我自身だ。

 

 体内に向けた(ブレス)であれば、いつものように扱える。そこはダイダンガの領域であり、メナイサの海ではないからだ。極限の熱が付与され、鋼がうねる。水が染み出すように、傷が鋼で継ぎ接がれていく。

 もはや、臓器も脳も、急所と呼ばれる全ての部位は、必要がないのだ。

 なぜならダイダンガはここで死ぬから。

 

 守るべきものが無い今、ダイダンガは、真に完成された武具にして、防具となる。

 

 紡がれる詞術は、ダイダンガにとって初めてのものであった。

 だが、ダイダンガは一度見ている。稀代の魔王自称者による、魔的な工術の真髄を。どこにどう声を届ければ()()が成されるのか、その全て理解している。

 

 詞術が、竜の身体に浸透していく。命潰える身体に、命が吹き込まれていっているのだ。

 

 メナイサと同じだ。ダイダンガは、自身の半生をこの身体と共に過ごし、鋼を鍛え続けてきたのだ。故に、必然として、それは成る。

 

 ダイダンガの体内に、命の刻印が刻まれていく。大事に守るように、刻印の上から鋼を固め、誰にも破れ得ぬ堅牢を誇示するように。

 (ドラゴン)にして、機魔(ゴーレム)。ダイダンガは、最後の最期に、己の全てを投げ打って、己が竜の生の終着点を完成させた。

 

 ただし、奇跡は起こらない。

 それは幾千もの試行錯誤を超えていない、ただ一度の()()だ。結論として、それには自我が無かった。言葉を発せず、詞術を使うこともできない。それはただの心を持たない魔族に過ぎなかった。

 

 故に、最後の最後。ダイダンガの命が消える最後に、彼に出来ることは、祈ることだけだった。

 

 ──今一度、この身体を用いて戦いたい。我でなくてもいい。誰か、だれか。

 

 果たして。

 

 今、この場には、祈りを持って望みを叶える、願望器が存在している。

 

 その()()は届いた。

 

「うけたまわった。だいしょうは、おまえのすべてだ」

 

 その言葉が誰かの耳に届くことはなかった。最後の最期、ダイダンガは虚仮の一念を通したのだ。

 宙に浮いていた神籬のヒジリの身体が、糸が切れたように地面に落ちる。

 

 そして、ゆっくりと、ダイダンガが起き上がる。メナイサは驚かない。

 

「すまない、とは言わない。それがこの者の願いだからだ」

「ふわぁ、なんかいやったっておなじ。わたしはまけな──」

 

 敢えて断言しよう。湧き出るメナイサは、竜にして機魔となったダイダンガに、それを装備する神籬のヒジリには勝てない。

 

 そしてそれは、()()()にも分かっている事だった。

 

「アレカが、よんでる。いかなきゃ」

 

 既に、脚本通りの世界(ものがたり)は存在しない。

 しかして、盤上(せかい)は未だ、脚本家の手の内にある。

 

 

 

 

 

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