凶星夢幻劇   作:七草青菜

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破章:夢幻

 ラロウドは詞術の影響下にある。

 

 竜がその体躯を一対の翼のみで支え、空を飛べる理由。巨大な単細胞生物である粘獣が、動く植物である根獣が生命活動を十全に行えている理由。

 宇宙でしか生きられないはずの存在、宇宙生物であるラロウドが地上に適応することが出来ているのもまた、それと同じ理屈である。

 

 “彼方”より逸脱した宇宙生物である「星獣(エイリアン)」。それは、地上に適応するという逸脱性を持つラロウドを祖とする、この世界に新しく定着すべき詞術生物となるはずだった。

 

 そして、それに加えてラロウドは、それを一切取り除いた上で、ただ翻訳者としての逸脱性を持っていた。

 詞術を理解し、逸脱の言語体系に適応する程の高い言語学習能力の前には、分からない言葉など存在しない。

 

 狼の遠吠えも、鳥のさえずりも、その全てが意味を持っていた。

 ラロウドは、それらを理解することができていた。

 縄張りを示す唸り声も、獲物を追う足音も、恐怖に震える吐息も、怒りに満ちた叫びも。

 

 言葉とは音ではない。

 そこに込められた意思である。

 そして、ラロウドは意思を読むことにかけて、誰よりも優れていた。それこそが逸脱の翻訳家であったのだ。

 

 しかして、そのどれもが、機能を発揮しない。

 

 世界から「意味」が抜け落ちていく。

 

 ラロウドの口にあたる器官が、はくはくと開閉を繰り返す。吐き出されるそれは、金切り声にも近い、奇怪な音の羅列に聞こえた。

 それこそが、ラロウド本来の言語能力だ。それを誰かと共有することは出来ない。

 

 赤いゴム生物だったはずのその体表が、色が抜け落ちる様に白くなっていく。白磁のようなその肌とは対照的に、地面に大量に零れるのは赤い血液だ。

 ラロウドが赤かったのは、地球、あるいはこの世界の重力や酸素に適応する為に、血液とヘモグロビンを生成した結果だった。

 

 それも、もはや機能を果たすことはない。

 

 ラロウドはもう、世界に存在することを許されていないのだ。

 

 目の前には、アレカと、巨大な生物が一体。

 それがなんなのか、ラロウドが知ることは無い。そして、アレカがそれについて語ることもない。

 なぜなら、アレカの言葉をラロウドが理解することもまた、できないからだ。

 

 故にこそ、それは消失の間際にただひとつ、疑問を口にした。

 

(きみ)は、言葉(ことば)を持たないのか?』

 

 ラロウドから発された言葉。その意味を理解出来るものは、この世界には存在しなかった。

 

 夢幻に消える。

 

 敗者、飛来せしラロウド。

 

 

 




アリモですからね。
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