凶星夢幻劇   作:七草青菜

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破章:凶星

 ハティノ村落に辿り着いたミナギは、()()()()()()()()()()()一日を過ごした。

 

「やぁ、リオーラ。いい夜だね」

「村はどうだ? 中々悪くねぇとこだろ」

「そうさね、()()()()()()()()()()()()()()……ああ、こんなところで湯浴みが出来るとは思ってなかったかな」

 

 一言一句、違わない。全ては脚本通りだからだ。星守りのミナギの全ては、アレカの思い通りに動いている。

 

 微かに風を切る音が聞こえる。注意深く嗅ぎ分ければ、ほのかに潮の香りが沸き立つ。全て脚本通りだ。

 

「……やっぱり、今日も嫌に星が綺麗だね」

 

 空には怪しく光る星がひとつ。それは凶星。それはダイダンガを殺せる星。それはヒジリが落とす星。アレカが、筋書きに落とした星だ。

 

「おや?」

 

 風切り音は次第に大きくなり、空にはひとつの大きな影が見える。それこそがダイダンガ。地平における頂点種、(ドラゴン)たる、巨星、ダイダンガである。

 ソライソが示し、アレカが拵え、メナイサが導いた脚本に従い、ダイダンガがハティノへ到来する。

 

 ()()()はにわかにざわめき始める。無理もない。竜など、通常の人生では一度とてお目にかかれるものでも無い。否、一度目に入れたなら、その行き着く先は死である。それが竜。アレカはそれを殺す。そういう脚本だ。

 

「あれは……竜、だね。流石のオレも、竜と相見えることはそうないよ」

「そうない、ってこたぁ何度かはあるってのか?」

「片手で数えられる程だがね」

 

 重ね葉のリオーラの言葉に軽く答えるミナギ。死ぬとは思っていない。死なないからだ。ミナギの豪運は、ミナギを死から遠ざける。どんな窮地に至ったとしても、ミナギが命を落とすことは無い。それも、アレカの脚本通りだ。

 

「時にリオーラ、キミは他の村人のように慌てたりしないのかい? キミのその佇まいは……そう、落ち着き過ぎている。オレでも分かるほどにね」

「お前さんが居るってのに、心配する必要が……いや、もう隠し通す必要なんてないか?」

 

 リオーラの口調が、それどころか声色までが、明らかにこれまでとは違うものとなる。

 アレカは逸脱の脚本家でありながら、優秀な演者(キャスト)でもある。

 

「君は、何者だい?」

 

 当然のように、ミナギは問いかける。ミナギが疑問に思ったのであれば、それは何かがあるということだ。当てずっぽうという言葉は、ミナギにとって正解をなぞることと何ら変わらない。

 リオーラと名乗っていた男が、自身の顔の輪郭を掴む。ペリペリ、と小気味いい音が鳴り、顔が剥がれる。

 骨格すら変わったように見えるそれは、血鬼、捲りのユーテライによる変装術だ。ユーテライは配下の従鬼全てに同様の変装を施すことが出来る。

 

「俺はアレカ。二度目のアレカだ。まぁ最後まで付き合ってくれよ、俺の描く夢幻劇ってやつをさ」

 

 ミナギが驚く様子は無い、どころかくつくつと笑みを浮かべ、その非日常を楽しんでいる様だった。その過程すらもアレカの脚本に刻まれている通りだ。

 

「いやぁ、気づかなかったな。人を見る目はあると思っていたんだけどね」

 

 そして竜がハティノへと降り立つ。丁度ミナギとアレカの目の前だ。

 竜とはすなわち、巨星、ダイダンガである。

 全身に纏った鎖帷子の様な鎧が、硬質の翼に擦れてギャリギャリと音を発する。

 

「貴様の身体から、我の嫌いな潮の香りがする。丁度、あっちにいる海魔(ウンディーネ)と同じ匂いだ。我の鼻は誤魔化せん」

 

 ダイダンガは鍛冶師だ。錆を嫌う彼は、微細な潮の香りすらも嗅ぎ分けることができる。メナイサと長い時間を共にしたアレカには、潮の香りが染み付いている。常人には分からないだろう。だが、ダイダンガには分かる。

 

「貴様が、モナドだな?」

「アレカだよ。今はな」

「ふざけた事を。が、いい。ソライソのお墨付きだ、簡単には死なんのだろう?」

「違うさ、違う」

 

 アレカは唇の端に笑みを浮かべながら、挑発的にダイダンガを指差した。

 

「死ぬのはお前だよ、巨星」

「くは、只人が、吼えるなぁ」

 

 アレカの挑発に、楽しそうに喉を鳴らすダイダンガ。全て脚本通りだ。あと数秒でヒジリの詠唱が完了する。凶星が落ちるのだ。

 そうすれば、どうなるだろうか。凶星が落ちれば、辺りは焼け野原となるだろう。家は焦げ崩れ、人は皆死ぬ。それは、どういうことか。

 

 それはミナギにとって、()()()()()のだ。

 

 ミナギの泊まる宿が無くなる。ミナギの話を聞いてくれる人達が亡くなる。それはミナギの看過できるものではない。

 ならば、それは起きない。だが、凶星は落ちる。どうすれば、ミナギの納得する結末へと至るのか。

 

 この場にあるもうひとつの脅威、ダイダンガがそれを受け止めれば? 凶星が落ちれば、村は焼け野原だ。ダイダンガとて、当たり所が悪ければひとたまりもないだろう。

 当たり所が悪ければいい。ならば、当たり所が悪くなる。それが、ミナギの逸脱たる豪運の力だ。アレカはそれを利用している。

 

 それこそが、アレカの拵えた脚本。

 星を堕とし、竜を殺す。夢幻にも思えるノクターン。

 

 ヒジリが詠唱を終える。アレカはその正確な時間を把握している。

 

 凶星が落ちる。

 

 全てアレカの脚本通り。

 

 これをもってして、単身での竜の討伐を成し遂げたことにする。

 

 ──そのはず、だった。

 

 凶星は、ダイダンガに着弾し、諸共を終わらせる。それを持って夢幻劇の終幕となる。そのはずだったのだ。

 全てを台無しにする魔の手が、アレカの認知出来ない(・・・・・・)距離より迫る。

 

「──キヲの手」

 

 文字通り、星を馳せる(・・・・・)一撃だった。

 

「……うん、使いやすい」

 

 その鳥竜(ワイバーン)には、三本の腕がある。




これがやりたかっただけだったりして
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