ハティノ村落に辿り着いたミナギは、
「やぁ、リオーラ。いい夜だね」
「村はどうだ? 中々悪くねぇとこだろ」
「そうさね、
一言一句、違わない。全ては脚本通りだからだ。星守りのミナギの全ては、アレカの思い通りに動いている。
微かに風を切る音が聞こえる。注意深く嗅ぎ分ければ、ほのかに潮の香りが沸き立つ。全て脚本通りだ。
「……やっぱり、今日も嫌に星が綺麗だね」
空には怪しく光る星がひとつ。それは凶星。それはダイダンガを殺せる星。それはヒジリが落とす星。アレカが、筋書きに落とした星だ。
「おや?」
風切り音は次第に大きくなり、空にはひとつの大きな影が見える。それこそがダイダンガ。地平における頂点種、
ソライソが示し、アレカが拵え、メナイサが導いた脚本に従い、ダイダンガがハティノへ到来する。
「あれは……竜、だね。流石のオレも、竜と相見えることはそうないよ」
「そうない、ってこたぁ何度かはあるってのか?」
「片手で数えられる程だがね」
重ね葉のリオーラの言葉に軽く答えるミナギ。死ぬとは思っていない。死なないからだ。ミナギの豪運は、ミナギを死から遠ざける。どんな窮地に至ったとしても、ミナギが命を落とすことは無い。それも、アレカの脚本通りだ。
「時にリオーラ、キミは他の村人のように慌てたりしないのかい? キミのその佇まいは……そう、落ち着き過ぎている。オレでも分かるほどにね」
「お前さんが居るってのに、心配する必要が……いや、もう隠し通す必要なんてないか?」
リオーラの口調が、それどころか声色までが、明らかにこれまでとは違うものとなる。
アレカは逸脱の脚本家でありながら、優秀な
「君は、何者だい?」
当然のように、ミナギは問いかける。ミナギが疑問に思ったのであれば、それは何かがあるということだ。当てずっぽうという言葉は、ミナギにとって正解をなぞることと何ら変わらない。
リオーラと名乗っていた男が、自身の顔の輪郭を掴む。ペリペリ、と小気味いい音が鳴り、顔が剥がれる。
骨格すら変わったように見えるそれは、血鬼、捲りのユーテライによる変装術だ。ユーテライは配下の従鬼全てに同様の変装を施すことが出来る。
「俺はアレカ。二度目のアレカだ。まぁ最後まで付き合ってくれよ、俺の描く夢幻劇ってやつをさ」
ミナギが驚く様子は無い、どころかくつくつと笑みを浮かべ、その非日常を楽しんでいる様だった。その過程すらもアレカの脚本に刻まれている通りだ。
「いやぁ、気づかなかったな。人を見る目はあると思っていたんだけどね」
そして竜がハティノへと降り立つ。丁度ミナギとアレカの目の前だ。
竜とはすなわち、巨星、ダイダンガである。
全身に纏った鎖帷子の様な鎧が、硬質の翼に擦れてギャリギャリと音を発する。
「貴様の身体から、我の嫌いな潮の香りがする。丁度、あっちにいる
ダイダンガは鍛冶師だ。錆を嫌う彼は、微細な潮の香りすらも嗅ぎ分けることができる。メナイサと長い時間を共にしたアレカには、潮の香りが染み付いている。常人には分からないだろう。だが、ダイダンガには分かる。
「貴様が、モナドだな?」
「アレカだよ。今はな」
「ふざけた事を。が、いい。ソライソのお墨付きだ、簡単には死なんのだろう?」
「違うさ、違う」
アレカは唇の端に笑みを浮かべながら、挑発的にダイダンガを指差した。
「死ぬのはお前だよ、巨星」
「くは、只人が、吼えるなぁ」
アレカの挑発に、楽しそうに喉を鳴らすダイダンガ。全て脚本通りだ。あと数秒でヒジリの詠唱が完了する。凶星が落ちるのだ。
そうすれば、どうなるだろうか。凶星が落ちれば、辺りは焼け野原となるだろう。家は焦げ崩れ、人は皆死ぬ。それは、どういうことか。
それはミナギにとって、
ミナギの泊まる宿が無くなる。ミナギの話を聞いてくれる人達が亡くなる。それはミナギの看過できるものではない。
ならば、それは起きない。だが、凶星は落ちる。どうすれば、ミナギの納得する結末へと至るのか。
この場にあるもうひとつの脅威、ダイダンガがそれを受け止めれば? 凶星が落ちれば、村は焼け野原だ。ダイダンガとて、当たり所が悪ければひとたまりもないだろう。
当たり所が悪ければいい。ならば、当たり所が悪くなる。それが、ミナギの逸脱たる豪運の力だ。アレカはそれを利用している。
それこそが、アレカの拵えた脚本。
星を堕とし、竜を殺す。夢幻にも思えるノクターン。
ヒジリが詠唱を終える。アレカはその正確な時間を把握している。
凶星が落ちる。
全てアレカの脚本通り。
これをもってして、単身での竜の討伐を成し遂げたことにする。
──そのはず、だった。
凶星は、ダイダンガに着弾し、諸共を終わらせる。それを持って夢幻劇の終幕となる。そのはずだったのだ。
全てを台無しにする魔の手が、アレカの
「──キヲの手」
文字通り、
「……うん、使いやすい」
その
これがやりたかっただけだったりして