帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第拾壱話

秩父奥地にある狼八代家本邸に戻って来た冬歌の目的は本邸近くの神社の神楽殿で神楽をする為にあった。

今年で一六になった冬歌は去年から神楽の手伝いをしており、数え年で一八になった時に冬歌が本格的に神楽を継ぐ事になっている。

 

基本的に日本の獣人公爵家と海外で呼ばれる五つの家は基本的にその本邸が何処にあるかを明かしていない。

あの虎寺家でさえ本邸は新潟のどこかにあると言うだけで詳しい場所は分からなかった。

 

 

 

 

 

第二次世界大戦、日本はアメリカ寄りの中立を保っていた事で、国内は和洋折衷が加速していた。

新聞の書き方も変わり、難しい漢字は一部簡単に書けるようになり。教育制度も欧州の西側を倣って改正されていた。

 

ソヴィエト率いる社会主義陣営

アメリカ率いる資本主義陣営

日本率いる中立陣営

 

この三色に色分けされていた世界は今でも色濃く残り、特に軍事分野に至っては顕著に現れていた。

資本主義陣営は北大西洋条約機構、通称NATOの設定した規格の弾薬を使用し。

社会主義陣営はワルシャワ条約機構、通称WPOの設定した弾薬を使用していた。

 

そして中立陣営は大亜細亜連合、通称AU規格と言われる弾薬を使用していた。

AU規格の弾丸は幾つかあり、三八式実包である6.5×50mmAU弾や、十四年式実包である8×22mmAU弾など第二次世界大戦中に日本が占領した東南亜細亜地域で大量にばら撒いた弾薬が主に選定されていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

実を言うと、日本へのアメリカからの最後通告であるハル・ノートに当時日本の傀儡国であった満州国に関する記述はなく。中国からの撤兵をすれば後は良いと言ったアメリカの意思に気づいた当時のご先祖様が政府に働きかけて日中戦争をとっとと終わらせる為に関東軍の幹部全員を逮捕、連行し。中国にいた親日派の政治家などを日本領であった釜山に移動させ、中国に戦後補償をすると約束して満州国国境まで撤兵をしていた。

 

そもそも本部の言うことを聞かない遠征軍なんてヤバすぎると言うことで関東軍は解散。後の事は釜山に連れて来た政治家達に任せ、事実上満州国は独立を果たしていた。

但し、国内にある鉱山などは殆ど日本の企業が保有しており、経済面ではまだまだ日本の傀儡国であった。

 

そして日本は第二次世界大戦に突入するとまずはアメリカを撃つべきと言う意見があったが、そこでもご先祖様が当時仲の良かったと言う虎寺家の者と共謀し、対米開戦派の連中や新聞記者をスキャンダルで落とし込めてその意見を封殺していた。アメリカを叩くよりも東南亜細亜地域の植民地支配からの解放と言って参戦した方が『植民地解放をする亜細亜の列強国』と言う良い印象を世界中に与えられる事から味方が増えると言う事で時の政治家達もその方がいいと言う事で次第に反対米開戦派が増えていた。

 

そして実際、東南亜細亜地域全体を()()した日本は正義の国家としてアフリカやインドなどの植民地支配に喘いでいた国家から非常に好意的に受け取られていた。

これは日露戦争に続く世界革命の年と言われ、これ以降世界中で独立運動が盛んに行われる事になった。

 

そして独立した東南亜細亜の各国は自国の態勢が整うまで日本に守ってもらい、日本の提唱する亜細亜共栄圏に参画し、国内経済を盛り上げていた。

そして日本から供与された武器はその国の正式装備となり、後の冷戦期で結成した亜細亜連合は軍事同盟の側面もあり、そこで潤滑な武器共有のためにNATOなどを見習い、各国で協議が行われた。

 

なお、その年に日本は鍋底景気と呼ばれる大不況が起こってしまい、AU内でも発言力が衰えてしまっており、始めは九九式にしようとしていたが、AU加盟国の反対を押しきれず結果として三八式実包がAU規格の弾薬として採用されていた。

 

 

 

 

但し、加盟国のうち中華民国のみは当時起こっていた国共内戦で、アメリカなどが支援をしていた影響で中華民国のみNATO規格を使用していた。

まぁ、あそこの国は常に北に敵を抱えているからな……でも、インドや日本などから支援を受けられる事から最近はAU規格の弾薬を採用していた。

 

満州共和国

中華人民共和国

中華民国

 

の三つに分かれている中国は世界の三陣営を見事に色分けしていた。既に五回起こっている国共内戦の停戦は大体満州国で行われていた。

そして満州国はこの三国の中では最も高いGDP値であり、中華人民共和国からの亡命者で度々ニュースになっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ダンッ!!カチッ!!ダンッ!!カチッ!!

 

狼八代家の地下の射撃場では、心陽がゴーグルやヘッドホンを付けて手にレミントンMSRの.338ラプア・マグナム仕様を持って射撃練習をしていた。

五発の弾倉を撃った後、心陽はゴーグルを外すとそのまま銃を片付けるとそこで息を吐いた。

 

 

 

自分が冬歌に仕えてから十年以上になるが、冬歌の危なっかしさにはいつもヒヤヒヤさせられる。もう少し淑女らしく過ごしてほしいが、当主の雪の教育方針から特に口出しする事なく冬歌と接して来た。

実際、冬歌は教養も高く、術師としての技術も磨いていた。学校に行かずとも高い教養を持っており、時々家から抜け出す事はあっても常識もマナーも身につけていた。

 

自分は冬歌に仕えるメイドであり、同時に護衛でもある。いざとなれば自分が身を守らなければならない事もあると想定しながら心陽は銃をしまうと、そこで湊斗が心陽を眺めていた。

 

「腕は落ちていないようだな」

「ありがとうございます」

 

そう言うと湊斗は心陽の狙撃の腕を見て感心した様子で見ていた。

あの学業院の占拠事件の際、心陽は離れたところのビルでこのMSRを構えていつでも打てる準備を整えていた。ただ、肝心の冬歌の姿が完全に見えなくされており、術を使って冬歌を見た時は既に行動を起こしており、出番がなかった。

腕を褒められ、頭を下げる心陽に湊斗は言う。

 

「そろそろ時間だ。お嬢様の所に行って来なさい」

「はい、畏まりました」

 

そう言うと、心陽は銃をしまってそのまま射撃場を後にして行った。

いつでも冬歌の護衛として意識を持っている真面目な娘を見ながら湊斗はそのまま雪の元に向かっていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『居たぞ!追いかけろ!!』

 

建物の間を縫うように逃げ回る子供を複数の警官が追いかけていた。

しかし、子供は軽々と警官達を避けて逃げるとそのまま消えてしまった。

 

「くそっ、見失った……!!」

「探せ!周辺は封鎖してある!!」

「お前の鼻はどうなんだ?」

「駄目だ、雨でかき消されている」

 

そう言うと警官は走り去って行くと、その子供は地面の排水溝の柵から顔を覗かせた。

いつも頭に被り物をして居なさいと言われたからその通りにしているが、今日はどうも様子が違った。

 

いつもみんなと暮らしていた孤児院で慌てて寮母さんが走って来て逃げるように言ったから、皆んなバラバラになってしまった。

ここら辺はよくみんなで遊んでいたから、どこに隠れて置けば見つかりにくいとかもみんな知っていた。

だからここに多くの人たちが自分たちを探し回っていた。時々銃声も聞こえ、それが怖かった。

 

「あっ……!!」

 

排水溝から顔を出した時。強い風が吹いて被っていた布が吹き飛ばされてしまった。

すると、その下から雪色の髪が現れ、その髪は咄嗟に被っていた布でやや薄汚れたようにも見えた。

顔は頬の部分がさっきは暮れた排水溝に引っかかって軽く擦れてしまっていた。

 

「みんな大丈夫かな……?」

 

今日は珍しく豪雨で少し先が見えなくなりそうな程強い雨が降っていた。雨が降る中、私は住んでいた孤児院に向かうとそこには大量の装甲車や警官が集まっており、その中には短機関銃を装備した人もおり、それを遠くから見た自分は思わず怖くなって逃げ出していた。

するとその時、私はふと腕を掴まれその方を見るとそこには一人のスーツを着た一人の男性が立っていた。

思わず叫びたくなってしまったが、その男の人は私を見てこう言った。

 

「あぁ、ここに居たのか……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーお嬢様」

「……んぁ?」

 

そこで目が覚めると、視界の端には心陽が映っており、その様子を見るに私を起こしに来たようだった。

 

「心陽……」

 

すると心陽は私の部屋で脱ぎ捨てられていた制服を綺麗に畳みながら言った。

 

「かなりうなされておりましたが、ご気分はいかがでしょうか?」

「ん?あぁ、私は大丈夫。ちょっと懐かしい夢を見ていただけだから……」

 

そう言うと、冬歌は時間を見て、そろそろ夕食の時間であると確認するとそのまま部屋を出て行った。

その様子を見届けながら心陽は制服を畳おえると、冬歌の出て行った扉を見て少しだけ悲しげな表情を見せた。

 

「やはり、まだ過去の恐怖からは逃れられないと言うことですか……」

 

普段は強かな印象を出している冬歌であるが、彼女を幼い頃から共に過ごして来たからこそ分かる彼女の内面の弱さと言う物があった。

心陽はそんな冬歌を思い返しながら、彼女の制服を洗濯する為に部屋を出て行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

冬歌が家に帰った頃、帝都臨海のとあるマンションの一室である一人の女性がパソコンの画面を眺めながら電話をしていた。

その女性は日本人離れをした顔をしており、一目で外人であることは明確であった。」

 

「うん、分かった……ありがとう。…ふぅ……」

 

連絡を終え、その女性は携帯を置くとそのまま大きく息を吐いて腕を伸ばしていた。

風呂上がりのようでタオル一枚を体に巻いて部屋の椅子に座っていた。その女性はパソコンを軽く触るとそのまま天井を仰ぐ。

 

「あれから、もう二ヶ月以上経ってしまうのね……」

 

そう呟くと、その女性は再びパソコンの画面の目を通す。

 

「上社冬歌……か」

 

パソコンの画面に映る芋女のような格好をする一人の女学生を見る。それは学業院の時の冬歌の姿であり、その女性は彼女を見ると興味深く色々と調べていた。

 

「住所は目黒なのね……」

 

女性はあの社会主義者によるテロ事件の時に冬歌に助けられた一人だった。

報道では全て虎寺沙耶香嬢の勇気ある行動でテロリストがやられたと言われているが、それは半分正解で、半分間違いであると彼女は知っていた。

そして、あそこまで銃器の扱いに慣れて居ることに違和感を感じ、独自に調べさせていた。

 

「今度、出校日の日に会ってみようかしら」

 

そう呟くと、その女性はパソコンの画面を閉じていた。




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