一九四一年より始まった太平洋戦争。
大日本帝国は『欧州各国から東南亜細亜地域の植民地の開放』と世界中で宣言し、一二月八日よりマレー作戦を展開。瞬く間に東南亜細亜地域一帯を確保する。
事前に日中戦争の支那戦線を撤退させており、余剰兵力を丸ごと南方戦線に向けていた。
満州国の工業化を前より推し進めていた日本は満州を重要な後方拠点として活動し、武器の生産を行っていた。
又、支那戦線を完全撤退する際に中国と講和条約を締結し、その際の条件で関東軍を本国の軍と入れ替える形で将校含めて全て撤退さると言う大胆な行動を行った。
又、樺太をユダヤ人が買い取ったと言う形で樺太に『イェルサレム共和国』を建国。これにより、ナチス・ドイツとの関係を極端に悪化させていた。
そして、東南亜細亜共栄圏を構築した日本は参戦名目から各国の軍隊の創設のための訓練を開始。各国家に軍隊を創設させて独立援助を行なった。
この際、独立した国家群は後に『大亜細亜連合』となる『東南亜細亜相互通商条約』を締結。世界中に『米国・欧州は亜細亜を侵略する国家』『日本は亜細亜解放を目指す正義の国』と言うキャンペーンを世界中で行い、更に黒人差別に反対する団体を資金援助し、国内で混乱を起させて米国人の戦意を挫かせた。
更に正義の国家を掲げる日本はインド独立を支援。イギリスの戦意はマレー沖海戦で戦艦と巡洋戦艦を失い、更にこのインド独立運動とバトル・オブ・ブリテンの影響もあって完全に挫く事となった。
そして講和条約の準備を行う際。日本は英国に日独伊三国同盟を脱退する旨を伝え、その内容は米国にも伝えられた。
そして、一九四三年 八月一五日。
英国や米国との講和条約であるパラオ条約締結と同時に日本は三国同盟脱退を表明。その数ヶ月後にナチス・ドイツから宣戦布告をされると言う奇妙な事態になっていた。しかし、遠く離れた日本にできる事は無いに等しく、実質的に戦争から一抜けした形となっていた。
戦後、ソ連とアメリカによる冷戦が始まると日本は社会主義の防波堤としてアメリカ寄りの中立の立場を示す。
そしてアメリカ寄りになった為、英米の支援を受けて高度経済成長を成し遂げていた。
更に、一九五〇年に起こった中国戦争において、アメリカの中継地点として日本に大量の物資や破損兵器の修理を依頼。そこで得た利益と技術は後の日本に大きな影響を与えていた。
「ーーーでは、今日の授業はここまでとする」
教科書を開き、教室で歴史の授業を受けていた私はそこで授業を終えた。
車内で火災事故に見舞われてから一週間。ようやく学校側も落ち着きを取り戻していた。
最近、帝都をざわつかせている焼死体事件。一部では中国進駐に反対する者や、社会主義者の起こした暴動では無いかと言われている中。冬歌は出火した直前に発火術式が使われた感覚を覚えていた。
「(通常、術先を遠距離で使うには媒介が必要……それに、発火術式は術者であれば誰でも使用可能…しかし、一体誰が……)」
授業が終わり、教室の机に座ったまま目を閉じて考えているとさくらが声をかけた。
「冬歌、大丈夫?」
「え?」
「最近よく考え事しているからさ」
「あ、あぁ……私は大丈夫よ」
そう言い、席を立つと冬歌はさくらと共に教室を出る。
一週間前に連続事件に巻き込まれたことを受けてさくらは迎えを受ける様になった。私も近くの駅まで送ってもらっているのだが、少しありがたかった。
いずれはお互いの家にも遊びに行きたいなどと話し、さくらも最近は肉も食べれる様になってきていた。
昼の時間となり、教室の椅子に座って冬歌は鞄から風呂敷に包まれた弁当箱を出す。
「うわぁ、相変わらず綺麗なお弁当ね〜…」
その中身を見たさくらはそんな風に溢す。弁当の中身は昔からの日本を表した様な鮮やかな弁当だった。
「いつも、作ってくれる人がいるから……有難いよ」
「本当、私もこんな弁当作ってもらおうかな?」
「よかったらさくらの分も作ってこようか?」
「え!良いの?!」
少し前のめりになりながらさくらが聞くと、冬歌は頷いた。
「いつも送ってもらっている御礼にどうかな?って思ったんだけど」
「全然そんな事ないのに。送迎するくらいで……」
そんな風に話していると、冬歌達の間に知らない声が入って来た。
「あら、美しいお弁当ですわね」
「あの…貴方は?」
「ああ、私。狐山愛結と申します。どうぞ御贔屓に」
すると顔を見たさくらが明らかに敵を見る目をしていた。
現れたのは狐色の髪を持ち。さくらの実家とライバル関係にある会社の御令嬢、狐山愛結だった。いきなり何の様だと言いたげな様子のさくらだったが、彼女の興味は冬歌のみにあった。
「このお弁当は貴方がお作りになられたのですか?」
「あ、いえ……家族に作って貰いましたの」
「成程成程……あ、申し訳ありません。いきなりお声をお掛けしてしまって」
「あ、いえ。そんな事はありません……」
そう冬歌は答えると、愛結は冬歌をそのまま見て、さくらを一瞥するとそのまま教室の外に向かって歩き出した。
「そうでしたか……では、また時間があればお話でも……」
「なっ…!!」
「それでは〜……」
そう言い、狐山は頭を下げるとそのまま教室から出て行った。
その一連の行動に、愛結が見えなくなると、さくらは冬歌の両肩をガッチリと掴んで冬歌の目を見ながら聞く。
「冬歌、あんな狐の言うこと聞くんじゃないよ!分かったね!!」
「あ、お、うん…分かった……」
その目の凄みに驚かされる冬歌なのであった。まるで狐と狸の化かし合いと言ったほうがいいのだろうかと言う光景に目を丸くするのであった。
昼休憩が終わり、午後の授業が始まる。内容は道徳で人類史に関する授業だった。
私は教科書に書かれた欄を読んでいた。
獣人、又の名を亜人と呼ぶ種族は太古より存在していた。
自然界に存在する動物の耳を持ち。人と動物の間に存在する曖昧な種族であり、神が産み落とした奇跡とも言われている。
古代より日本や中国などの極東地域では獣人を神格化する風潮があり、一部の者は魔法と呼ばれる非科学的な技が使えると言われている。
魔法とは一部の神職者や獣人に使える技であり、日本ではもっぱら術式と呼ぶことが多数である。
しかし、欧州や米国などでは獣人は亜人と呼び、魔法を使えると言うことや人と違う外見から差別の対象となって迫害をされて来たこともあった。
獣人は身体的特徴から幾つかの種族に分けられ、最も多い割合を占めているのが犬族や猫族などである。そのほかにも種族は存在するがほぼ把握不可能と言われている。
「この教室にも、獣人は大勢います。しかし、海外では獣人は差別の対象とされ、その根深さは今でも残っています。なので、もし今後海外に行く様なことがあれば不当な暴力、強姦をされる可能性があることを常に意識しておいてください」
先生の最後の脅しの様な言葉に全員が緊張していた。
放課後、帰宅途中のさくらと冬歌は目的地である池袋駅に到着する。
「今日も送ってくれてありがとう」
「良いよ良いよ、寧ろ家まで送ってあげたいくらいなんだし」
冬歌が車を降りるとさくらがそう言い、二人が話していると運転席から男性の声が聞こえてた。
「冬歌ちゃん、いつかウチにも来てくれよ」
その男性はさくらと同じ狸耳を持ち、少しビール腹が目立つ四〇代ほどに見える男性だった。
彼はさくらの父であり狸道家具の七代目社長である狸道芹一である。社長自らの送迎に驚いていると、すかさずさくらが言った。
「まさか親父が来るなんて思わなくってね……ごめん、臭かったでしょ?」
「おいおい、俺はいつでも清潔だぞ。そりゃ言い方ってもんがあんだろう」
そう言い愉快げに話す芹一に少しだけ微笑ましく思った冬歌は芹一を見ながら頭を下げた。
「いえいえ、ここに来るまでとても楽しかったです。送ってくださって有り難うございました」
「こちらこそ、さくらの友人に会えて嬉しかったよ」
そう言うと芹一はハンドルを握った。
「じゃあ、また明日ね〜!」
「ええ、また明日」
そう言うと車は走り出し、冬歌はそれを見送る。そして、車が見えなくなるとそのまま冬歌は目の前に止まった黒塗りの車に乗り込むと、そのまま目黒にある家まで戻った。
目黒に立つ一軒の煉瓦作りの屋敷に冬歌は帰る。
車を降りると、冬歌はそこで出迎えを受けた。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
その女性は前に冬歌の車を運転した女性であり。黒髪に紫色の目をし、今はメイド服を身に纏っていた。
「ただいま、心陽」
「お嬢様、軽食の御用意が出来ております」
「わ〜、やった〜!」
冬歌はそう言いながらウキウキになって屋敷に向かって走る。その様子を眺め、冬歌の専属執事である瀬戸
家に入ると、そこでは冬歌は机に置かれていたクッキーを口に入れていた。
「お嬢様、もう少しお淑やかにお食事をなさっては如何でしょう?」
「え〜、良いじゃん。誰も見れないんだし」
「お嬢様、そう言った行動が癖になりますと外でも出てしまいます」
「心陽は心配性だなぁ〜。今までに間違ったことある?」
二人はお互いに問答をしながら話す。今までの長い付き合いだからこそできる話であり、通常はあり得ないと言うべき光景だった。
少しばかりの問答を終えた後、心陽は冬歌の目の前にタブレットを出した。
「これは……」
「先日、お嬢様が対処いたしました者の身辺情報です」
「……」
写真付きのデータを見て冬歌は先ほどのゆるい表情とは打って変わって鋭い目となる。そしてタブレットのデータを読む。
「被害者は瀬端健一、三三歳。東京都青梅市在住の会社員。しかし、副業として中国進軍を訴える記事を作成……ですか」
報告書を読むと心陽が追加情報を伝える。
「警察も被害者の身辺から連続焼死事件として追跡を行っていますが……」
「相手が発火術式を使っているんじゃあ、難しいでしょうね……」
基本的に術師には術師をぶつけるしか方法は無い。一部例外的に術師を非術師が抑えられる方法があるが、それは超秘匿技術の為一般的に流通はしていない。
「ええ、その為。陸軍の術師部隊が協力すると言う事になっています」
「陸軍の?よく警察なんかに協力するわね」
「被害者の一人に陸軍少将が含まれている事からだそうです」
「なるほど……」
眼鏡と髪留めを置きながらそう呟くと、冬歌は納得した。しかし、それでは事件解決のための警察と、敵討の為の陸軍で絶対衝突する事は目に見えていた。だからこそ……
「我が家で捉える必要が出てくると?」
「仰る通りです。お嬢様」
「はぁ……あんまり好かないなぁ、こう言うのは」
「仕方ありません。政府も警察と軍の衝突など望んでいないと言う事ですから……」
「あの事勿れ主義者めが……」
そう冬歌は愚痴った後、気持ちを整えると心陽に伝えた。
「心陽、準備は?」
その問いかけに心陽はスッと目を閉じて答えた。
「既に出来ております」
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