帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第弐拾話

学業院の運動会が行われるのは九月も終わりの三〇日。正直クッソ暑いからなんとかして欲しいと思ってしまうが、生徒は屋根付きテントの下でゆっくりと休めるので問題はないのだが、問題は保護者席であった。

偶に自分の娘の活躍を観に来る人がいるので、念の為観客を置かなければならなかった。

まぁ、今はそんなこと考えなくてもいいのだが……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二〇二五年 九月一五日 午後八時二〇分

帝都 新帝国ホテル

 

かの有名なライト館と呼ばれる明治時代から残る由緒正しい旧帝国ホテルは老朽化と毎年増えていく宿泊客に対応するのと、時代に追いつく為に新たな場所に近代化と高層化した新帝国ホテルが建築されていた。

ライト館のある旧帝国ホテルは今では宿泊業を終え、レストランに改装して営業を続けていた。

ホテルの広大な敷地を使用した旧帝国ホテルは人気を博し、よく政治家なども個々に会食に訪れ、母の帝都での数少ないお気に入りの場所だった。

 

新帝国ホテルは地上五〇階、地下五階まである高層ビルのような建物で、中には多くの客室や商業施設、宴会場も入っていた。

日本のホテル御三家と言われて居る帝国ホテルだが、新帝国ホテルの宴会場で今日はとあるパーティーが開かれていた。

 

「ふぅ……なんか緊張するね」

「えぇ、そうね」

 

向かい合って座るさくらは緊張した様子で息を整える。さくらはドレスを着用しており、頭には名前と同じ桜の髪飾りを付けていた。

対する冬歌も同じ様にドレスを着用し、頭には雪の結晶を模した髪飾りを付けていた。化粧もしており、絵になる程だった。

 

今日は、運動会運営委員で散々自分達をパシらせているカラニットからの招待でやって来たJMC主催のパーティーに参加していた。

軍需企業のパーティーに招待されるのも不思議な感覚ではあるが、軍服を着た人物も参加しており、場違い感がすごいと思いながらも冬歌は言う。

 

「じゃあ、そろそろ行く?」

「ええ、準備OKよ」

 

そう言うと、冬歌はドレスバッグを手に持ちながら乗っていたタクシーの扉を開ける。社交界ではないのでデビュタントと言うわけでも無いかもしれないが、こう言うパーティーは恐ろしく久しぶりだと思って居ると冬歌達はそのままエレベーターに乗る。

 

「会場は屋上の五〇階の大宴会場か……」

「どのくらいの人がるんだろうね」

「さぁ?でも、百人は降らなかったりしてね」

 

そんな事を言いながら二人の乗っていたエレベーターはグングン上がり、最上階に停車すると扉が開く。

エレベーターを降りると、そこには荷物を預ける係員の姿があり、金属探知機に一人ずつ参加者と思わしき人が並んでいた。

そして、冬歌は先に持って来た鞄を預けると、そのまま招待状を持って列に並んで中に入る。

今日はJMC社の創業記念パーティーで、自分達は社交が目的ではないのだが。カラニットがいると言う事でお世話になって居る先輩からのお誘いという事で冬歌達は主にパーティーの立食を楽しもうと思っていた。

 

「おぉ、凄い人だかりだね……」

 

そう呟き、思わずさくらはやや驚きながら会場を見ていた。

新帝国ホテルでも最も大きい宴会場なだけあって既に数百人の人が参加しており、テレビで見たことある様な著名人も居た。

軍需企業のパーティーだけに軍人らしき人物も参加しており、主なところで言えば日本、中華民国、ベトナム、シンガポールと言ったところだろう。

中華民国の軍人も来て居るのかと少し驚きながら冬歌は会場をさくらと歩いていた。未成年なので酒はダメだが、モクテルも用意されていたので二人は飲食も楽しめていた。

 

 

 

多種多様な国際料理が出される中、冬歌達はある人物に声をかけられる。

 

「やぁ、二人ともよく来たわね」

「あっ、先輩!」

 

声をかけたのは今回、このパーティーに招待したカラニットであった。彼女はワインレッドのドレスを身に付け、学校の時とは打って違って大人な雰囲気が溢れていた。そして同時に豊満な一対の果実が目の前に現れ、どこと無く負けを感じてしまった。

思わず二人して死んだ魚の様な目をしてしまいそうになるが、冬歌は取り敢えずこのパーティーに招待した事に頭を下げた。

 

「今日はお誘い、有難うございます」

「良いのよ。こっちも招待状余っていたし、こんな優秀な後輩を手放したく無いしね」

 

そう言い、損得勘定が表に滲み出て居る言葉が出ながらカラニットは言うと、冬歌はカラニットと少し話す。

 

「でも、凄い人ですね。テレビで見かけた人も居て……」

「そりゃそうよ。何せ、うちの会社の創業記念パーティーだからね。これでも絞った方らしいわ」

 

そう言いながら、カラニットはここに来て居る権力者達を眺めると冬歌達を観ながら言う。

 

「私も、変な大人を相手にするより。貴方達と居る方が気が楽なものよ」

 

そう言われ、冬歌達はなぜ自分達がここに招待されたのか理由が分かった。

 

 

 

 

 

JMC社の社長の御令嬢であるカラニットは日本人の感覚であれば半必然的に次のJMCの社長になると予想される。そこで、早めに恩やら関係やらを持っておくと言うのはごく自然な流れだろう。

そして関係を保つ為に多くの有力者はカラニットと駆け引き合いの話をする。あわよくば引きずり降ろせる……なんて考える輩もいるかもしれない。

そんな人物達と話し続けるのも疲れるし骨が折れる。そんな中、招待した友人や後輩と話して居るのであれば周りからも話しかけにくい状況を作り出せると言うもの。

 

関係を保つのも重要だが、適度に休憩したいと言うカラニットなりの逃げ道なのだろうと冬歌達は頭が回った。そこまで大変なのかと思いつつ、だくらがカラニットに言う。

 

「じゃあ、今日はいろんな事を話したいですね」

「えぇ、色々と話したいわね」

 

こっちの意図を汲んでくれたのかと内心喜びながらカラニットはさくらを見るとそのままクルリと回ると、去りながら私達に言った。

 

「じゃあ、今日は楽しんでね」

 

そう言うとカラニットはパーティー会場の人混みの中に消えていった。残った冬歌達はテーブルに置かれていた料理を嗜みながら立食を楽しむ事にしていた。元よりおまけ感覚で呼ばれた様なもの。人と話すつもりも無いし、さくらも食事を摂る気満々だった。

カラニットは多分、私達が運営委員にいる事をさこに把握しており、その過程で私達が名前ばかりの同好会に入って居ると知り。パシリにすると共に交流を深める事でこうしてパーティーでも気軽に話ができる相手を作っていたのだろう。普段は結構体育会系の様な印象だが、思慮深いと思ってしまっていた。良い経験だと思って居ると、冬歌達はパーティー会場を練り歩いていた。

 

「いやはや、色々とあって良いねぇ……」

 

ちまちまと少量を食べながら全部の料理を制覇しようとするさくらは、次にどのテーブルに行こうかと冬歌と話して居た。

 

「そうねぇ……あ!次は欧州系の料理とかで良いんじゃ無いかしら?」

「おぉ!!それ良いねぇ!」

 

そう言って、料理の置かれた場所に移動しようとした時。

 

「あっ……」

「えっ……?」

 

横から顔を覗かせた沙耶香と愛結が、冬歌とさくらを見て、バッチリと目があった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一瞬沈黙が場を支配した後、先に口を開いたのは沙耶香だった。

 

「……なんであんた達がここに居るのよ」

「それはこっちの台詞よ」

 

そんな沙耶香の問いに、さくらが答える。そしれ暫くまた沈黙が流れた後、冬歌が提案する。

 

「ちょ、ちょっと端に行きますか…一旦落ち着こう……」

「「「……」」」

 

と言うわけで、一旦出会した四人は会場の端に移動するとそこで一旦全員が落ち着くと、沙耶香が再び冬歌達に聞く。

 

「それで、なんでこんな場所にあんた達が居るのよ」

「誘われたのよ。カラニット・イェネル先輩にね」

「あぁ、なる程。そう言う事ですか……」

 

そう言い、愛結は一般人の冬歌がこんなパーティーに来ていた理由に納得すると、そこでさくらが沙耶香達に聞く。

 

「どうして、二人は此処に居るの?」

「私も招待状を受け取ったのよ。まぁ、家のお付き合いと言うべきか……」

「そうですか」

 

そう言い、四人はここに何故いたのかをお互いに理解すると、愛結がさくらに言う。

 

「その様子では随分と楽しまれて居るご様子ですが、如何ですか?」

 

そんな問い掛けにさくらは答えると。

 

「えぇ、少なくとも今日は顔を覚えてもらうつもりはないから忙しくなくて良いわ」

「なる程、それはお気楽で羨ましい限りですわ」

 

そう言い、両端に立つさくらと愛結は火花を散らし始めるとさくらが愛結に言う。

 

「じゃあ、勝負と行きます?」

「なんのです?」

 

そう言うと、さくらは愛結に宣戦布告をする。

 

「どっちがパーティー会場で印象を残せるか。…まぁ、初めての私と違って狐山の者であれば楽勝でしょう?」

「……良いでしょう、そのお誘い。受けて立ちますわ」

 

そう言い、二人は一瞬だけ見つめ合うと、そのままパーティー会場の人混みに飛んでいく。

元々話術は高いさくらだが、まさか愛結に喧嘩ふっかけるとは思わなんだ。

 

一連の行動に思わず困惑する冬歌と沙耶香であったが、片手にグラスに入ったモクテルを飲みながら壁に背を預けると、沙耶香が冬歌に聞く。

 

「まさかここに、狼八代の子がいるとは誰が思うだろうね」

「……」

 

沙耶香にそう言われ、一瞬だけ睨みつけてしまう。誰が聞いて居るかも分からないこの状況で、下手に話しかけられたらどうするつもりだ。

そう思ってしまうと、沙耶香は半分呆れる様に言う。

 

「問題ないわよ。ここに居る面々は皆立ち話に夢中で、こんな高校生の話なんか聞きやしないさ」

 

そう言うと、沙耶香は半分忌々しい目をしながら話して居る軍人やら政治家を見る。

 

「今の軍人は国防に対する関心よりも自分の昇進のための味方作りにお熱になって居る。そんな奴らがいちいち若造の話なんか聞くかよ」

「虎寺家の御息女なのに?」

 

思わず冬歌はそう聞き返すと、沙耶香はやや疲れた様子で冬歌に言う。

 

「ふっ……確かに私は末っ子の直系だ。だけどね、まだ高校生の私に胡麻を擦りに来るくらいなら上の兄姉達に行くだろうよ」

「博通氏のお気に入りではないの?」

「祖父のお気に入りだからだ。祖父は軍から完全に手を引いた。今、軍部内で虎寺家の実権を握って居るのは父だ。祖父も完全に隠居して軍部との関わりを絶った。だから、私に利用価値はないのさ」

 

そう言うと、沙耶香はモクテルを流し込む。沙耶香の実情を聞き、冬歌は一瞬だけ自分の価値というものを思い返して居ると、沙耶香は冬歌に言う。

 

「少なくとも、狼八代家の直系は国を動かす力がある。ここでもし貴方の正体が分かれば、こぞって貴方に話しかけるでしょうね……」

「……」

 

沙耶香の推測に、思わず内心ヒヤリとなってしまう冬歌であった。




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